第42話 二人のガンマン
「塚村先輩! なに拳銃ぶっ放しまくってるんすか!? こんなことして……始末書だけじゃ済みませんよ!」
聖人に不良警官と認定された関が住宅街で拳銃をあらゆる方向に撃ちまくっている姿を見て声を掛けてしまった。
自分とは違い問題行動を起こすことが無く、品行方正な堅物である塚村が、こんな暴挙を行うとは思いもしなかったので、関は困惑していた。
「ってか、その周りに浮いてるの。えっ、ロボットが浮いてる!?」
関は聖人の家で動くグイムは見たことがあっても、空を飛ぶグイムは見たことがなかった。
そのため、それが聖人の所有しているプラモデルだとは露程も思わない。
一方、死神部隊も新たに登場した警官に対し、どうすればいいかと判断に迷っていた。
「こちら第113ガゾギア特殊機動部隊。新たに警官が現れた。あれも敵か?」
「第113ガゾギア特殊機動部隊。こちら、中央指令室。 あれは敵ではない。繰り返す。あれは敵ではないから殺すな!」
中央指令室からは新たな登場人物は殺すなという指示を出す。
しかし、目の前で自分達が最初に現れた警官、塚村を排除しようとすれば、おそらく新たな警官は邪魔をしてくるだろう。最悪、庇って命を落とすかもしれない。
それに戦闘行動を無関係の人間に見られるのも避けたい。今はただ浮かんでいるロボット型のドローンだと、苦しいが言い訳が出来そうな状態だ。
そんな心配をしていた時、
「関……来るなと言っていただろう」
と、塚村が関を睨みながら言った。
「そんな……自分はただ、先輩が心配になって」
「そんな事だからお前は面倒ごとにいつも巻き込まれて痛い目を見るんだ!」
そう塚村が言った後、拳銃を関に向けた。
「へ!? い、いや。せ、先輩。なんの冗談っすか」
慌てる関であったが、
「悪いな。目撃者は消せと言われているんだ。いままであのアパート関連でいろいろ体験したようだったが、俺が何とか隠していたり言い訳して今までお前は消されなかったんだ。その苦労が今日のお前の行動で水の泡だよ……馬鹿が」
そう言って引き金を引いた。
「まずい!」
死神部隊は関を助けようとしたが間に合わなかった。
が、
ガキュイン!
空中で火花が散る。
「なっ!?」
これには塚村だけではなく死神部隊も驚いた。
「関……お前……」
関の手には拳銃が握られていた。
素早い動きでホルダーから抜き取られた拳銃を塚村に向け発砲したのだ。
「運よく俺が発射した銃弾に当たった……? いや、そうじゃない。お前、狙ったな!!」
そう。これは運ではなかった。
「は、ははは……は、早撃ちだけは得意でして……」
引きつった笑みを浮かべそう言う関。
だが、早撃ちだけではない。反射神経や命中精度も尋常ではなかった。
一方関は笑っていたが、内心笑える状況ではない。
なにせ信頼していた上司が警告射撃なしで、自分に向けて撃ってきたからだ。
「ちっ!」
再び塚村は拳銃を関に向け発射しようとしするが、関は一瞬の隙をつき、曲がり角へと逃げ込んでしまう。
「今だ!」
と、今度は死神部隊が一斉に塚村へと襲い掛かろうとしたが、
「なんだこいつら!?」
「どこから!?」
突然現れた小型式神数十体が、死神部隊の前に立ちはだかったのだった。
「へへへ……」
その式神の出どころは、まだ殺されていなかった足をホバータイプのグイムに撃ち抜かれた黒地子の男であった。
彼が自分に意識が向かれていないこの時がチャンスとばかりに式神を展開し、自分は這ってこの場から逃げようとしているのだ。
死神部隊は式神を倒しながら塚村を倒そうとするが、なかなかと邪魔をされてたどり着けない。
「ふっ。いい仕事をしてくれた」
塚村は式神を展開した術者に感謝しつつ、関の方へと意識を向ける。
「なぁ、関……。お前は手がかかる奴だが、悪い奴だとは俺は思っていない。ちょっと話をしないか?」
と、語り掛ける。
「お断りしますよ! と、言いたいところだけど、なんスか?
あ、そこから一歩でも近づいたらダメですよ?」
関はそう返して、塚村の様子を伺う。
「(なるほど。カーブミラーでこっちを見ているのか)」
丁字路になっている道にはカーブミラーが設置されており、塚村からも関の様子が見て取れた。
「ならそれでいい。いや、いきなり撃ってしまって悪かった。だが、仕方がなかったんだ」
「同僚をいきなり撃つほどの理由があると? そいつはいいっスね。俺にも教えてくださいよ。今度参考にしますから」
関の嫌味に苦笑いを浮かべつつ、塚村は、
「俺はなぁ、とある宗教団体に所属しているんだ。と言いても、連中の教義なんかこれっぽっちも信じちゃいない下っ端の中の下っ端。構成員としてこき使われる毎日だったんだ」
「そいつは初耳ですね。まさか、その宗教団体にテロをしろとでも指示されていたんですか?」
「まぁ、そんなようなもんかな」
「まじめな塚村先輩がやるとは思えないことですが、さすがにこの状況じゃぁ信じないわけにもいかないっスよねぇ」
関は塚村と過ごしてきた日々を思い出す。
交番に配属されてから警官としての心構え等様々なことを教えてもらった。
1年前には塚村の結婚式にも参加したし、子供が生まれた時にもお祝いをした。
「このこと……嫁さんは知ってるんですか?」
と、関は尋ねる。
「いいや、知らない。俺があんな宗教団体の手先だって事も知らないさ」
塚村が素っ気ない声でそう返したことにより、関は一つの可能性が浮かんだ。
「……人質に取られているんですね? 嫁さん、子供。従わなければその宗教団体の連中に命を狙われているでしょ」
そう関が言うと、
「……く、くはははは。あぁ~……。お前、昔からそういうのに鋭いよな。
あぁ、そうだよ。お前が言う通り、昔から俺は人質を取られていたのさ!
幼いころは従わなければ家族を殺すと言われ、大人になって警官になってそれなりに身を守れるかと思えば嫁さんが狙われる。
お前にはわかるか? 俺が連中の指示に従わなかったときに、弟を殺された時の無力感が!
嫁が子供を産む時、産婦人科で連中の手先が看護師の中に居ていつでも子供を殺せると言われた時の俺の気持ちがわかるか!?
わからないだろう! 連中の手下はどこにでもいるんだよ。俺みたいに警官だったり、看護師だったり、宅配業者の配達員だったりな!
ある日突然家に帰ったら、お前が指示に従わなかったから家族は死にましたと言われて家族の死体を突きつけられる恐怖に毎日怯えて苦しむ生活を後何年、何十年続ければいい?」
「先輩……」
「俺だって本当はこんなことしたくはなかった。警官になったのだって連中が勝手に俺の進路を決めただけだし、交番に配属されたのだって、素早く現場に行って連中の犯罪行為の証拠を消せ言うふざけた理由だったからだ!
俺にはこの道しかない! 家族を守る為には、この外道の線路を進み続けるしかないんだよ!」
塚村はそう言った後決着をつけるために拳銃を発砲した。
銃弾はカーブミラー越しに見えていた曲がり角の関へと向かうため、跳弾をしつつ関の頭をとらえようとしていた。
だが、
ガキュイン!
再び空中で火花が散る。
「(またか!)」
それは関が放った銃弾による妨害で関の命が救われたことを意味していた。
「ぐがっ!?」
しかし、今度は関の銃弾は命を守るだけのものではなかった。
塚村の右手に握られた拳銃が弾かれ、地面へと転がった。
「まさか!? 拳銃の銃弾同士を当てて、跳弾した銃弾を俺が持つ拳銃に当てたのか!?」
塚村の考えが正しければ、今のは常人離れした技である。
「(本当にあり得るのかそんな事!)」
焦った塚村は、つい目の前で起きた現象の事に気を取られてしまい、
パァアン!
「くっ!?」
再び鳴った銃声により、左手の拳銃も弾き飛ばされてしまった。
カーブミラーを見ても関はその場から動いていない。であれば、塚村と同様、関は跳弾を利用して攻撃をしたのだ。
「先輩……。先輩の実力をもってしても勝てない相手なんですね……。その連中は」
悲しそうな顔をして角から銃を構えて出てくる関。
「同情……してくれるなら、俺に撃たれてくれよ」
などと、当然聞いてはもらえないであろう要求をする塚村。
「無理ですよ。まだ死にたくないですから」
と言って関は塚村へ近づいてくる。
「ちっ!」
だが、塚村は諦めてはいなかった。
「先輩!」
関は叫ぶ。
塚村は一番近い最初に弾き飛ばされた拳銃に手を伸ばし、関に銃口を向け引き金を引こうとした。
パァアアアン!!
二つの銃声が重なる。
「……くそ」
倒れたのは塚村の方であった。
「あ、あれ。俺、銃弾狙おうとしたのに」
この関の一言で、塚村は今まで自分が撃った弾を関が銃弾で弾き飛ばしていたのが偶然じゃないことを確信する。
「これが報いか……」
右手に握られた拳銃を落とし、崩れるように倒れ関は慌てて彼の下へと駆け寄った。
「先輩! 塚村先輩、気を確かに! あぁぁ、そんな!」
塚村の左脇腹に銃弾が当たった形跡があった。
そこからジワジワと液体が流れだす。
街灯から少し離れたその場所からでは、はっきりとした状態がわからなかった。
「すみません。すみません。当てるつもりは無かったんです!」
と、ひたすら謝る関に対し、
「いい……んだ。銃身が落とした拍子に曲がっていたんだろ……。だから、お前が撃った弾は俺の……撃った弾に当たらなかったんだと思う」
そう言って関のせいじゃないと言う塚村。
「すんません、直ぐに救急車を――――っ!?」
無線に手を伸ばしかけた関の腕を塚村が掴み、妨害する。
「やめ……ろ。騒ぎにする……な」
「何言ってんですか! 先輩状況よく見てくださいよ! なんか空に対空砲火がされているんですよ? 銃声が聞こえまくってんですよ! なぜかこの一帯戦場になっているんですよ!? 先輩が騒ぎにしたくなくても、騒ぎしかないんですよ!」
「いいんだ……俺はいくつもの犯罪を見て見ぬふりをして……」
「うるさいんですよ先輩は! 今回ばかりは先輩の言う事は聞けないですからね!」
などとやり取りをしている関と塚村に、
「こちら、日本防衛隊第14人型機械化大隊所属202小隊。ウクライナ軍第113ガゾギア特殊機動部隊聞こえるか。状況を報告せよ」
「あぁ、聞こえる。こちら第113ガゾギア特殊機動部隊。状況は――――警官一人が重症。重傷者は黒地子の関係者で我々と敵対関係にある警官だ。もう一人は……巻き込まれた無関係の警官だ」
「了解。本部に確認する。――――確認が取れた。至急その警官を中央指令室があるアパートまで連れてくるように命令を受けた。直ちにもう一人の警官とコンタクトを取る」
突然現れ、話始める小型ロボットたちに呆気にとられる関に、日本所属という設定のグイムが話しかける。
「こちら、日本防衛隊……その警官を無力化させつつアパートまで連れて行けるか? そこで治療をさせる」
そんな事を突然言ってくる小型ロボットの驚いた関は、
「は? 日本防衛隊って自衛隊の事!? え? どこのアパート!?」
と、混乱していた。
「我らが議長から伝言だ。『あんたが前に住んでいた幽霊アパートまで連れてこい』だそうだ。わかるな?」
質問に答えたグイムに対し、ブンブンと首を振る関。
「先輩! 自衛隊が助けてくれるそうですよ! ちょっと我慢してください。自分が乗ってきた自転車に二人乗りで行きましょう」
「う……ぐ」
と、器用にも関と重症となった塚村は、自転車に乗ってその場を立ち去り、アパートまで向かって行った。
その護衛に日本防衛隊と名乗ったグイム達は一緒についていく。
その光景を見ていたウクライナ軍第113ガゾギア特殊機動部隊――死神部隊の隊長は、
「では、残りは片付けるか」
と、銃口をこの場の最後の黒地子の生き残りである男に銃口を向け、
「ひっ――――」
ビームガンを向けられ、顔を引きつらせる黒地子の男。必死に最後の抵抗なのか術を唱えようとしている。
そしてグイムの攻撃から逃げようと必死に足を動かそうとするが、ホバータイプのグイムのバズーカ砲によって負傷した足は思うように動かない。
バシュゥゥウウウン!
一発ビームガンを放って術者の魂をこの世から解き放ったのであった。
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