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第41話 不運な警官

 最終決戦より少し前。


―不良警官こと、せき まもる視点―


「ふわぁぁ」


 大きなあくびをしながら、俺『せき まもる』は先輩の出勤を待っていた。


「どうしたんだろうな。交代の時間はとっくに過ぎているのに……」


 そんな愚痴を呟いていると、ようやく先輩の姿が見えてきた。


「あ、塚村つかむら先輩。遅いっスよ」


 珍しく遅刻してきた塚村先輩に対し文句を言うが、当の本人である先輩は、


「悪かったな」


 と、言うだけでさっさと更衣室へと向かって行ってしまった。

 態度悪いな。機嫌でも悪いのか? などと考えていると、着替えを終えた塚村先輩が急いだ様子で外へと出て行こうとする。


「ちょちょっ!? 先輩!? 何してんですか! パトロールに行くにしたっていきなり過ぎですよ」


 俺はなぜか自転車に跨ってどこかへ行こうとする先輩に対し、止めようとしたのだが、


「悪いな関。ちょっと野暮用だ。しばらく留守にするからパトロール中の看板立てて帰ってくれ」


「えっ!?」


 来ていきなりそんなことを言われたものだから、俺は、


「もしかして事件ですか!? だったら俺も」


 と、慌てて自分の自転車を使おうとしたのだが、


「ダメだ」


 そう強い口調で止められてしまった。


「えっ、いや。事件なんですよね? なんで!?」


 塚村先輩は俺を睨みながら言うものだから、何があったのか余計に気になってしまう。

 本当に事件であれば複数人で行った方が都合がいい。むしろ他からも応援を呼んだ方がいいだろう。


「すでに応援は呼んだ。そもそも俺がこれから向かう場所は……。お前が以前住んでいたアパートだ」


「げっ!?」


 目的地が自分にとって最も行きたくないエリアだったため、自然と後ろへ一歩下がる。

 もし警官という職業でなければ恥も外聞も気にせずさっさと室内に逃げ込んでいた。それほどあの場所は忌避しているのだ。


「だから、俺に任せてお前は来るな。こう言いたくはないが、勇気を振り絞って来たとしてもお前は仕事ができるのか?」


 かつてあのアパート付近で起きた事件を調べに行ったことがある。その時は関先輩に醜態をさらす結果となってしまったことは記憶に新しい。

 それに、自分は何度かあのアパートの住民を裏切っている。助けを求めに来たというのにそれを無視して逃げ帰ったのだ。


「(警官として失格)」


 自分自身にそのようなレッテル貼っていた。


「先輩……。一言いいですか?」


「なんだ?」


 だから、せめてアドバイスすることだけは忘れない。


「あのアパートで動く人形を見ました。またいつもの空想だとか夢だとか先輩は言うんでしょうけど、俺は以前この目ではっきりと見たんです! 気を付けてください。あれは絶対危険な存在ですから」


「そうか……わかった」


 返事をした先輩の目はとても寂しそうなものだった。

 これは絶対に呆れられているか、可哀そうな人だと思っているからだろう。

 誠心誠意のアドバイスはどうやら無駄になってしまったようだった。











「うぅぅぅぅ。やっぱりだめだ! こんなところで待っていてもだめだ!」


 塚村先輩とのやり取りの後、まだ自分は交番内に残っていた。

 まだ帰るために制服や装備は脱いではおらず、ただひたすら机に向かってうじうじ悩んでいたのだ。


 事件があったというのに、何もせずこのままここから動かないなんて警官としてあるまじき行為。

 いや、すでに首の皮一枚繋がっている状態なんだろうが、だからといってこれからも同じように見て見ぬふりをしているだけではだめだと思う。




「行くか!」



 そう決心を固め、帽子をかぶり直す。

 交番の入り口には『ただいまパトロール中』と書かれた看板を設置し、先輩を追いかけるため自転車に跨り急いであのアパートへと向かったのだった。





---------------------------------------


 最終決戦開始数分後。


―城野のアパートより東側―


「こちら乙川おとかわ! 目標地点より東側より接近を試みたが、妖の抵抗激しく近づけません!」


 北から攻める本隊である黒地子家にそうスマホで報告する乙川という男。

 彼もまた黒地子家の術者であり、8人もの仲間を連れてアパート攻略の為向かっていた。

 しかし、それをグイムの部隊により進行を妨害され、たどり着くどころか一歩進むのも困難と言った状態だった。


 3台に分かれて乗ってきた車は前方1台が破壊され、仲間もすでに2人が死に、2人が重傷である。


「くひゅー、くひゅー。あ、あぁ」


「おい、死ぬな! 死ぬな山本やまもと! 山本ぉおおおおお」


 いや、今まさに死者が3人に増えた。


「畜生! なんだってんだあの小さいロボット共。俺達の式神を簡単に殺し回りやがって!」


 乙川はそう言って近場の車を殴る。

 彼らは式神のエキスパートであり、召喚した式神はどれも一級であると自負していた。

 さすがに黒地子家の当主には若干劣るが、それでも8人全員の式神は他の者に比べ非常に優秀だったのだ。



 だが、そんな彼らの式神を嘲笑うかのようにこの場を支配するグイムの部隊が存在していた。その名も、


『ウクライナ軍第113ガゾギア特殊機動部隊―通称【灰色の死神部隊】―』


 アニメで登場した架空の部隊である。

 灰色で塗装で統一された専用飛行バックパック装備タイプの高機動型グイムで地球のウクライナのキーウに降下してきた火星連合のゾーム部隊を一瞬で掃討してしまった伝説回の主役機である。

 その後、カザフスタン戦線、ヨーロッパ戦線、月面会戦でも大きく活躍した特殊部隊として描かれた。

 彼等は設定上未来の登場兵器である。その彼らは過去の壮絶な戦争を経験したことにより、自分達の領土を侵される事を絶対に許しはしない。

 戦後常に最新兵器と血反吐を吐くような地獄の訓練によって圧倒的な物量、技量で敵を叩き潰すエリート集団と化していたのだ。



「極東の魔術師達は混乱している。一気に片付けるぞ」


「「「了解」」」


 ウクライナ語で通信を行いながら、6機のグイムが黒地子家の術者達に襲い掛かる。


「やられてたまるか! ふぉぉおおおおお!!」


 乙川は家宝の聖武具の槍を高速で振り回すが、そんな彼のやり捌きをモノともせず、一機の灰色のガゾギアが乙川の横っ面にビームガンを構えて移動してきた。


「ふあっ――――」


 次の瞬間、乙川の脳は、こめかみから侵入してきたビームの熱で破壊され、やがて反対側からビームが出てきた頃には機能を停止していた。

 槍は手元から離れ、近くの民家へと吸い込まれるように向かって行き派手にガラスを割って消えていった。


「う、うわぁあああ」


「乙川さんがられた! 逃げろぉ」


 不利を悟った黒地子家の面々が慌ててその場から逃げようとした。

 当然、グイム達はそれを許すつもりは無い。



「ヒャッハー! 狩りの時間だぁ!」


「地球の蛆虫共を一匹たりとも逃がすなぁ!」


 そう言って灰色の死神部隊よりも先に逃げ出した黒地子家を追いかけ始めたのは新興国であるとある月面国家のグイム達であった。

 高機動スラスターユニットやホバーユニットにより空中戦はできないが、それなりの速さで浮きながら移動できるので、人が走る速さには追い付くことができる。



「隊長。よろしいので?」


「構わん。月面の連中にも手柄を分けてやらないと面子がどうのうるさいからな」


「設定だけなのに新興国という感覚が残っているようですからね。実績はのどから手が出るほど欲しいのでしょう。しかも彼らも想定していなかった地球上戦ですから」


 と、はしゃぐ月面グイムを冷めた目で見ていたウクライナ部隊。

 しかし、彼ら死神と名の付く部隊の傍にも死の影が迫っていた。



ズガァアアアン!!



 やがて、ホバータイプの月面グイムが放ったバズーカ砲により、足を負傷した黒地子の男が無様にも倒れる。


「うがっ! た、助けてくれぇええ」


 もう一人の仲間に助けを求めようとしたが、


「すまんな! お前の分まで生きるから―――ぎゃっ!?」


 と、見捨てられてしまう。

 しかし、その見捨てた本人はすぐに高機動スラスターユニットを装備したグイムのビームガンにより心臓を背後から撃ち抜かれて死んでしまった。



「ぎゃはははは、見捨てられた瞬間その見捨てたやつが死んでどう思った? 最高だろう!

 そして、今からお前は俺のバズーカで撃ち殺される。その気分はどうだぁ?」


 ホバータイプの月面グイムが、倒れた黒地子の男の頭に狙いを定め、発車しようとしていた。


「お前の気分は最悪だろうが、俺の気分は最高だぁあああ!!」


 そうホバータイプの月面グイムがバズーカを放とうとして、


「ぴやぁあああああああ!!!」


 狙われた黒地子の男が悲鳴を上げた瞬間、



パンパン!!



 二発の爆音。

 グイム達の誰かから放たれた攻撃の音ではない。

 なぜならば、その音が鳴ったと同時に地面に倒れた黒地子の男を狙っていたホバータイプのグイムと、その周囲を低空飛行していた高機動スラスターユニット装備のグイムが破裂したからだ。


「前方! 敵っ」


 灰色の死神部隊が真っ先にその存在に気付く。


「日本の警官?」


 そう、彼らが見たのはひとりの警察官だった。

 自転車で移動してきたのだろうか、直ぐ近くに自転車が一台置かれている。


「くそっ、騒ぎを聞きつけてやって来たのか?」


「いや、それはない。まだ結界の範囲内だ」


「おいおい、それじゃぁ人払いの結界とかいうやつは機能していないって事じゃないか!」


「偶然通りかかったんじゃないか?」


 灰色の死神部隊は目の前の警官の対処をどうするかと考える。

 一見すれば、一般人――には見えないが、自分達は人を襲っている小型ロボットだ。

 そりゃぁ、守ろうともするだろう。と、考える。



パンパンパン!



 だが、考えている暇はない。警官は灰色の死神部隊達にも拳銃で攻撃をし始めた。


「くっ。各員避けろ! あれに一発でも当たればただでは済まない」


 1/144サイズのグイム達にとって、拳銃の弾丸は巨砲の徹甲弾である。

 かすり傷でも重症になることは間違いない。

 一方、グイム達は警官を攻撃するわけにはいかない。一般人……という括りにしていいかは不明だが、悪徳術者を倒す目的で無関係の人を殺してはどっちが悪かわからなくなってしまう。


「各機、あの日本人警官を引きつけろ。本部より非殺傷能力を持つ対人グイムを要請する。こちら、ウクライナ軍第113ガゾギア特殊機動部隊。E-2地点にて警官に発見され交戦中。至急対人非殺傷制圧部隊を送って来てくれ」


 死神部隊の隊長は、そう通信で本部であるアパートの中央指令室に要請した。

 対人用のグイムというのは以前萌恵の実家で使用したグイムの事だ。

 聖人達はここまで本格的な戦闘にならなかった場合の黒地子家の制圧手段として、それなりの数を用意していたのだ。


「了解、至急確認する」


 と、オペレーターが通信を受けた十数秒後。



「――――第113部隊、対象の警官を映像で照合し確認した! そいつは敵だ! 副議長、萌恵殿を誘拐した警官だ! そもそも一般人の侵入は有り得ない! このフィールドに張られている結界はそもそも黒地子か可部和見、そしてこのアパートに関係している者限定で侵入可能なのだ!」


 そうオペレーターから報告を受け、


「チッ、各機攻撃体勢! 奴は敵だぁ!」


 死神部隊は逃げ回る動きから攻撃する動きへと変わろうとしていた。

 ちょうどその時、拳銃のリロードが終わった警官が拳銃をグイム達に向けようとした――――が、異変に気付いたグイムが声を上げる。


「こいつ! 二丁持ちだぁ!」


 ズボンから取り出されたもう一丁の拳銃。

 拳銃のタイプは一緒で、二丁拳銃持ちとなった警官は体をビームを躱すためグワングワンひねり、飛び跳ねながら拳銃を撃ちまくる。


 容赦なく周囲に弾痕を残しながら、撃ち終わった拳銃に素早くリロードする警官。


「ぐっ……」


 一体の死神部隊所属のグイムが苦しそうな声を出す。


「おい。イワノフ、お前!?」


 仲間が苦しそうな声を出した個体を確認すると、左腕が盾ごと消えていた。


「クソッタレ。掠っただけで持ってかれた!」


 と、言う負傷したグイム。


「あいつ。只者じゃない……。各機盾を捨てて機動力を優先させろ! どのみち奴が持つ武器は盾じゃ防ぎきれん」


 素早い判断で防御を捨て、速さを取る死神部隊隊長。


パパパパパパン!


「ちぃ、こうも早くリボルバーをリロードすんのかよ!」


 目にもとまらぬ速さで撃ってくる警官。そして、弾が切れたら流れるように銃弾を入れる。もはや曲芸と言えるほど、人類が到達したリロードの頂きであった。


「人間の動きじゃねぇ」


 そして警官の動きもおかしかった。

 体操選手もびっくりなほど柔軟に、更には脚力も強く、次々と攻撃を躱してグイム達に銃弾を飛ばす。

 そのやり取りが何度も行われた時、




「先輩!? 塚村先輩、何やってんすか!?」



 もう一人の警官がこの場に現れ、拳銃を撃ちまくっていた黒地子の仲間である警官――――塚村はハッとした表情で後輩の警官、関 守を見たのであった。



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次話は2日後の予定です。

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