第40話 削殺
時間は少し戻り――――、
―矢川視点―
いきなりお隣さん――俺が今寝泊まりしているネカフェの方ではなく本来住んでいるアパートのお隣さんである城野が再び俺のところを訪ねてきたのは3日前だった。
ネカフェから出て近くのカフェに入り込み、そこに二人でコーヒーを飲みつつ、話をすることになった。
城野との話は動き出したガゾプラの件だという事は予想ができる。問題はその中身だ。今日は一体何の話だと警戒をしていると、
「おそらく近いうちに君の家。アパート全体を巻き込んだ戦闘が始まる。血が流れるかもしれないし、最悪アパートが無くなるかもしれない」
最初にその話を聞いたとき、何事!? と、動揺するよりも、
「(敷金とかどうなるんだろうなー。全壊したら俺も金を払わなきゃいけないのか?)」
などと、現実世界とはかけ離れた話だったため、呑気にもそんなことを考えていた。
なぜ俺がこうも焦らず彼の話を聞き入れていたのかと言えば、彼の言う戦闘というのがきっとゾームとグイム――――火星連合と地球同盟の戦争によるものだと思ったからだ。
しかし詳しく聞けば、お隣さんの城野って奴はアパートに住んでいることが原因でその土地を狙う連中に命も狙われているんだそうだ。
だったら早く引っ越せばいいのにと思ったのだが、土地を狙う連中は関係者を全員殺すつもりらしい。
既に城野って人と城野が庇っている女性は知られてしまっている為逃げても追いかけられて殺される可能性が高いらしいが、俺はまだ連中の前に顔を出していないため一人で行動していても安全度は高いそうだ。
だけど、それはあのアパートが悪い連中の手に渡れば話は別で、もし乗っ取られたら俺も命が狙われるかもしれないって言われた。
「(ふざけんなよ!)」
と、言いたくなったのだが、教えてくれた城野が悪いわけではない。
悪いのは住んでいるだけで人を殺そうとする黒地子という連中なのだ。
というか、土地が欲しけりゃ、地主や大家に相談しろよ。と、言いたい。
なんで住民狙うんだよ。もうちょっとやり方があるんじゃないのか?
金があるなら自分達の素性は隠しつつ金を渡して穏便に話をつけるとかあるんじゃないのか?
俺の予想でしかないが、その黒地子という連中は頭が悪いのかもしれない。
いや、目の前にご馳走を並べられた待てができない駄犬と表現してもいいだろう。
今まで派手な悪さはしてこなかったが、目的のモノが手を伸ばせば直ぐに届く場所ではなりふり構わないといった感じだろうか。
「連中の言葉を信じるなら、襲撃は3日後だ。
矢川君は、このままネカフェで隠れていてくれ。もし、今のうちに欲しいものが家の中にあるならば早く持ってきた方がいい」
と、親切に助言してくれた城野。
「城野さん、あんたはどうするんだ? 逃げないのか?」
俺は気になって聞いてしまった。
殺されないために抵抗するにしても日本では限られたものしか武器として入手できない。
「俺の存在は知られてしまっているから、逃げてもすぐ追手が来るだろうから、家に留まる。家にはグイム達が居るからね。ガゾプラの連中はビームとかミサイルとか撃てるから自分の身を守るには最適かもしれない」
それを聞き、「嘘だろ……」と、またしばらく俺は頭の働きを止めてしまったが、なんとか持ち直し、
「じゃ、じゃぁアンタはガゾプラを使って戦うつもりなのか!?」
と、慌ててそう問う。
「もちろんそれだけじゃない。一緒に戦ってくれると申し出てくれた退魔士もいるし、なんというか……呪いの人形っぽい味方の日本人形やフランス人形も居る。それに守りたい人も居るんだ」
「えぇぇ……」
一瞬、ガゾプラを持って、「ビシューンビシューン」と、口で効果音を出してブンドドしている城野の姿を思い浮かべた。
それほど城野が言っている話はとても正気の沙汰とは思えなかったんだ。
人形達が味方になるという話じゃない。実際俺はプラモデルが動いている姿を見ているのでそこは信じる。
だけど、仲間になった術者ってのはどういう存在かいまいちわからないが、他の仲間が人形やプラモデルといったおもちゃだぞ?
人間相手に対抗できるとは思えない。
たとえガゾプラに鋭くとがった食器のフォークやナイフを持たせたとしても、戦力になるかと言われたらそうはならないだろ。
その大丈夫という根拠はわからないが、そんなことで対抗できる連中ならば金属バットでも持って戦った方がまだ有効だと思った。
「おもちゃなんか信用できるのか?」
俺はついそんな事を聞いてしまった。
「信用できるか……か。確かに俺は日本人形やフランス人形達には殺されそうになったさ。
だけど、話しているうちに、そして一緒に過ごしている中で、あいつらは形は違えど生きているんじゃないかって思えてきてさ。
俺の勘違いかもしれない。簡単に言えばプラグラム通りに動いているロボットのような存在なのかもしれない。
だけど、あいつらは俺の事を気遣い、守ってくれている。その気持ちだけでも信用できる要素なんじゃないかな?」
などと城野は言っていた。
だけどそれって根本的な解決になってないよな?
守るとか助けるとか言っても、そんな力ないよな?
一通り話したのちに、城野は帰っていった。
俺は一人残されたカフェのテーブルでこれから先の事を考えたけど、なにも浮かばなかった。
そして3日経った今日、
「で、なんで俺はこんなところに来たんだか……」
城野と話して3日後。
俺は自分が本来住んでいるアパートの付近まで来ていた。
付近と言ってもまだ数百メートル先だ。
本当なら来るつもりは無かった。
だけど、完全に信頼できるかはまだわからないが、俺の事を慕っているというゾーム達の事が心配だったかと言えばそうではない。
『あいつらは形は違えど生きているんじゃないかって思えてきてさ――――』
と、城野に聞かされて以来、俺はどうにも迷っていたのだ。
生きていると言っても、心臓が動いていたり血が通っていたり……そういった生物とは全く違うだろう。
だけど、意識がある時点で……どうなんだろうな。
「(家族にも恋人にも捨てられたゾーム。そのゾームをこのまま俺までもが見捨ててもいいのか?)」
そりゃぁ、命には代えられないだろう。災害だの火事などがあれば、後ろ髪を引かれながらも真っ先に置いて逃げる。
ゾームはただのプラモであり、おもちゃという範囲に収まるものであればそう簡単に割り切ることができた。
だけど同時に、捨てられた時の怒りや悲しみも思い出す。
あの時は、人殺しをしなかった俺を誰かに褒めてもらいたいくらいだった。
それはそれだけ俺がガゾプラの事を大切にしていた事を思い出させてくれるきっかけにもなった。
「(今のゾーム達は、生きている? はっ! バカバカしい。だけど、俺までもあいつらを見捨てるのは性に合わねぇ!)」
新たに作ったゾーム達も居るが、あの大災害――元カノに捨てられた事――を乗り越えたゾーム達もいる。
中にはプレゼントでもらったもの。初めて塗装したもの。そして、必死な思いで手に居てた限定品などあるのだ。
そう簡単に術者とかわけわからん連中に壊されてたまるか!
「俺は助太刀に行くわけじゃない。俺のゾーム達を助けるため」
俺の事を信じているかは知らないが、待っているゾーム達の所に――――、
ズチュゥウウウン!
バババッババババババッ!
ズドォオオオン!
「へ?」
決心を固めて一歩踏み入れた時、夜空は爆音を響かせながら、ビームの光が飛び交っていた。
よく見れば、対空砲火を行っているのだろうか。対空機関砲から出るような光の線が空へと上がっている。
先ほどまで見えたり聞こえなかったものが、はっきりと見聞きできていた。
「なに……これぇ」
いや、見ればわかるだろ! 戦闘してんだよ戦闘!
暗くてわからんが、たぶん俺の家のゾームじゃなく、城野家のグイムだろう。
え? 敵の術者って空飛んでんの? で、戦闘してるの?
というか、ガゾギアがビーム撃ってるぅぅぅううううう!!!
さっきまで何もなかったのにどうして!?
「こちら宮里、南部から偽装結界内に侵入完了。遅れてすまん。すごいなこりゃ。まるで戦争映画の中だ。これからそちらに合りゅ――――」
なんか高級車の近くに黒い陰陽師っぽい奴が居た。
俺は空の爆音に集中していて、前方に車や人が居るとは思わなかった。
そこには一人の黒い陰陽師っぽい男がスマホを片手に誰かと連絡を取っていたようで、俺が現れると気配を察して振り返り、そして目が合った。
「チッ、一般人か。問題が発生した。すぐに処理して向かう」
舌打ちをしたそいつは、スマホを懐にしまってから車の後部座席の扉を開け、中から大きな刀を取り出し――――。
「悪いが目撃者は全員殺さなきゃならないんだ。恨むんなら自分の不運を恨みな」
スッと刀を抜いて俺に近づいてきて、何をするのかと思えばなんと、何も躊躇った様子もなく振り下ろしてきたではないか。
え? なんでこいついきなり刀を抜いたの? なんで俺を殺そうとしているの? ヤバい奴なの?あぁ、もしかしてこいつらが城野が言っていた黒地子って奴か?
「死ねぇえ!」
動きがスローモーションのようにゆっくりと見える。
きっと本当ならばここで走馬灯が見えたりするんだろう。
そうした場合、きっと楽しい思い出とかが浮かぶんだろうか。
まだ両親に喜ばれながら楽しんでゾーム達を作っていた頃か?
『貴方の趣味なら私も大切にする』
と、俺の力作のゾーム達を前に彼女がそう約束してくれたことか?
あぁ、全部俺の大切な思い出だったさ。
嘘塗れだったが、あの時は確かに俺は世界一の幸せ者だと思っていたさ。
だけど、これは走馬灯ではない。
わざと思い出された俺の記憶。
だって、走馬灯を浮かべるほどの事ではない。
スローモーションに見えているこの男の動きだって、
「本当にあくびが出るほど遅いんだからな――――――」
「何!?」
俺は最小限の動きで宮里と言っていた男の攻撃を躱した。
何のことは無い。
喧嘩慣れした俺にとっては、この程度の暴力。どうってことも無いからだ。
「なっ! この! このっ!」
そして、何度も男は俺に向け刀を振り回すが、
「なぜだ! なぜ当たらん!! こいつも術者なのか!?」
などと、見当違いなことを言っている。
だから俺は"ヤスリを片手に"言ってやった。
「おい、おっさん。そんなトロい動きじゃ俺を切り殺せないぜ?
もっとも、その鈍らの刀で俺を殺せるとは思えないけどね」
そう言うと、宮里は、
「なっ! これはわが家に代々伝わる妖を切ったこともある由緒ある太刀だぞ!」
と、言い刀――ではなく太刀を見せつけてくる。
「へぇ、そうなんだ。
でも、"そんな状態"じゃぁ、切るっていうより叩き潰すって言った方が正しいんじゃない?」
そう言い返すと、宮里は、
「馬鹿を言うなよ。見よ、こいつの鋭く砥がれた刃はあらゆる物を――――あるぇぇえええええ!? 刃が無い! 刃が全部潰されてるぅううううう!?」
と、発狂していた。
まぁ、刃が無くなっていて当然だろう。というか、気付かなかったのか?
「わからなかったのか? 俺が全部ヤスリで削り潰したのが」
「!?」
どうやらこいつは本気で見えていなかったらしい。
なんだ……。どんなヤバい奴らが現れるかと思って怖がっていた自分が情けなくなってくるじゃないか。
「ま、そんなわけでおっさんと俺とでは実力の違いが桁違いって事だ。
そもそも素人剣士がアマチュアだとしても"モデラ―"に勝てると思ったのかよ?
だからさ――――、
削り殺されるにさっさとどけよ。おっさん――――」
そう言った後、俺はヤスリを構え、不敵な笑みを浮かべるのであった。
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次話は3日後の予定です。




