第4話 狩りの決まり
「――――おい、起きろ!」
「城野 聖人。起きなさい!」
「……んあ?」
誰かに呼ばれた気がした。
どうやら俺は眠っていたらしい。
呼ばれたからには起きないといけないだろう。そう思ってゆっくりと瞼を開く。
「おぉ、ようやく起きたか。まったく、こんなところで寝おって。ワシらが殺す前に風邪をひいて死んだとか洒落にならんぞ」
「そうよそうよ。寝るなら布団に入ってから寝なさい」
人形達が俺の顔を覗き込みながら愉快そうに話をしている。
「…………ほわぁあああああああああああああああああああ!!!!???」
「「うるさい!!」」
「ひぶっ!? ほぶっ!?」
今度は俺の声に2体同時で怒りだし、俺の頬を思いっきり殴りつけた。
人形の小さい手だというのにとても痛い。
「まったく、起きたかと思えばいきなり叫びおって」
「人の顔を見て叫ぶなんて失礼しちゃうわ! って、むしろ叫ばれた方が私たちにとってはご褒美?」
「時と場合によるじゃろ! 今はその時じゃないわい」
ガタガタと震えながら様子をうかがう俺をよそに、人形2体は俺の顔面の左右で話を続ける。
「おい、城野 聖人。おぬしに話しておかなくてはいけないことがあるから、具合が悪いわけじゃないなら居間に行って座るのじゃ」
「え? は、はひぃぃ」
状況についていけない俺は、カクカクと頷き、這いながら移動をする。
「なぁにあれ。ゴキブリみたい」
と、後ろで失礼な事をフランス人形から言われたが気にしている場合じゃない。
話があるというのであれば話そう。
なにせこの場から逃げられるような状態でないことは先ほど扉が開かなかったことで確認済みだ。
おそらく霊的ななんか不思議なパワーで邪魔をされたのだろう。大人しく言うことを聞いて、なんとかこちらに有意な話へと持っていきたい。
ふと、俺はどれくらい気絶をしていたのだろうかと気になって時計を見ると、時刻は12時を回っていたころだった。
夜ではないことは窓の光を見ればわかる。
まさか丸一日気絶していたなんてことはないよな?
「まったく、世話のかかる男じゃ」
と日本人形が発したなんとも理不尽な事を言われているが、何とか座布団の上に座る俺。
そして、人形達がテーブルの上に登って来た。浮いてではない、テーブルの脚を登って来たのだ。
「さて、何処から話したものか……」
そう日本人形が言うので、俺からまず話をすることにした。
「あの……」
「ん? なんじゃ?」
「どうしてお二人は俺の名前を知っているんでしょうか?」
呪いの力とかそういったものであれば、隠し事や嘘は見抜かれる可能性がある。
そうなった場合、もう惨劇を回避する難易度が急上昇してしまうと思われる。
「あぁ、それ? そこにあんたの名前が書いてあった免許証? ってものが落ちてたわよ」
俺の疑問にフランス人形が答えた。
あぁ、そういう事か。あの警官が乱暴に放り投げた免許証をこの人形達が見たのか。
というか、
「日本語読めるんですね……」
「へ? 私? あぁ、私はフランス生まれだけど、育ちはこの国だし」
育ちって……。文字を学習する機会はあったのだろうか。
なんとも頭に引っかかるというか、納得し難い答えをするフランス人形。
「ワシは日本生まれの日本育ちじゃ」
聞いてもいないが日本人形の方も答える。随分と丁寧な呪いの人形だ。
「ふむ。ではせっかくおぬしも落ち着いてきたようだし、おぬしから質問をしてくるのじゃ。その方が話は早いじゃろう」
落ち着いてねぇーよ。とは口が裂けても言い出せない。
「はい、わ、わかりました」
では、とせっかく機会をもらったので、相手を不快にさせないように質問をしていくようにする。
「お二人は……その、見た目がとっても人形のように可愛らしいお姿なのですが、お人形なのですか? 妖精とか精霊とかではなく?」
と、いきなりだが人形達の正体について質問をしてみた。
「あら。この男わかってるじゃない。私の事可愛いって言ったわよ」
「ふん。どうせ世辞だろうよ。この状況で誰を怒らせたら拙いかわかっているだけバカではないじゃろうがな」
俺の質問の言い方に対し、人形達はまんざらでもなさそうに照れているようだ。
「では、今度はワシから答えよう。ワシは【お菊】という名の日本人形じゃ」
「私は【カリーヌ=サルヴェール】よ。フランスで作られたお人形なの」
ヌルヌルと口を動かしながら人形達は答える。
なんだろう。怖い。とっても怖い。今すぐ逃げ出したい。
「で、ワシらなんだが、所謂魂が宿った人形と言えよう」
「喋ったり動くことができるようになったのはつい最近だけどね!」
「む? そうなのか?」
と、カリーヌと名乗った人形の説明にお菊は反応をした。
「そうよ。あんたは違うの?」
「ワシはかれこれ70年前だったか……。生まれたのはもっと前からじゃがな」
「うわっ、なにそれすっごいババアじゃん」
「なんじゃと貴様! やる気か!?」
「はぁ? ロートルが吠えんじゃないわよ!」
一気に険悪な雰囲気となり、一触即発となる人形達。
「あぁぁ、喧嘩しないでくれ! 争わないでくれぇ!」
何故俺が人形達の争いを止めなくてはいけないのだろうか。
人形達は言い争うのを止め、俺の方を再び向いた。
「お、おほん。そうじゃな。とりあえず停戦はしている事じゃし、今無駄な争いは控え、傷を癒すことに専念した方がいいじゃろう」
「そ、そうね」
人形達の争いが止まり、ほっとする俺がいる。
このままこいつらが争いを続けて共倒れしてくれるのがベストなのだろうが、争いの結果巻き添えにされる可能性だってある。こいつらの能力は未知数であり、俺単独で勝てるかわからないのだ。
人形が襲ってくるホラー映画があることは知っているが見たことはない。対処方法などそういったもので確認できればいいのだが、今は難しいだろう。
「えっと、それで……昨日俺を殺すとか言ってたけど、今はもう殺さないってことでいいのかな?」
気を取り直して質問を再開すると、人形達は首をかしげて、
「何を言っておるのじゃ?」
「殺すことは確定よ」
と、さも当たり前の事のように答えた。
「は!? なんで!」
俺は人形達に命を狙われているという危機的状況は変わらなかったらしい。
「そりゃぁ、使命だからのぉ」
「私はこの部屋に住もうとした時点で殺害対象よ」
と、理由を答えてくれるのだが、その理由があまりにも納得できない。
いや、フランス人形の方は何とかできそうか?
「だったら俺はこの家から出ていく! 一週間、いや、3日くれ! そうすれば出ていくように手続する!
そもそも顔を合わせたくないってことなら今からでも俺はホテルに行くから!」
そう言ったのだが、人形達は互いに顔を見合わせ、
「うむ。何か勘違いをしているようじゃな」
「うーん。これははっきり言っておいた方がいいかもね」
と、まるで困った奴が目の前に現れ、どうやって説明すれば理解してくれるのかという空気を出す人形達。
「最初から説明しよう。ワシらはおぬしを殺すという意思は変わらぬ。じゃが、おぬしを殺すのはワシかこの小娘のどちらかじゃ。
しかし、ワシがおぬしを殺そうとすれば当然小娘がわしを邪魔し、小娘がおぬしを殺そうとすればワシが邪魔をする。
早い者勝ちの競争で戦いながらおぬしの相手をするのは互いに大変だと気付いての。だったら初めからワシとこの小娘とで決着を付けた後、ゆっくりとおぬしを殺すことに決めたのじゃ」
「小娘小娘って、私はカリーヌって名前がちゃんとあるんだけど!
まぁ、それはボケババアに言っても覚えてくれないだろうからいいけど、私はあなたが引っ越しても命を狙い続けるから。
この部屋に住もうとした奴は全員抹殺対象なの」
「そ、そんな……」
俺は人形達の回答を聞いて絶望に染まる。
俺の命を賭けてこいつら争っているのか? しかも、どちらかが俺の命を救う方ではなく、どっちとも狙っているなんて……。
それにこの部屋に住もうとした奴は全員抹殺対象だと? まさか前に住んでいた住民は既に殺されているのか?
「ちなみにワシもおぬしが何処に行こうとも必ず追いかけよう。追いかけて追いかけて必ず殺す。
それよりも小娘。今、ワシに向かってボケババアとか言わなんだか?」
「あら? 聞こえていたの? 耳が遠いと思ったら案外聞こえているものね」
「小娘ぇええ!」
「何よババア!」
もはや俺の命とか関係なく争いが始まりそうだ。
「な、ならなんで俺が起きた時動かなかったんだよ! それに今から俺の命を賭けて戦おうってのか!?」
そう質問をすると、
「昼間は力が弱まるから停戦中なの!」
「そうじゃ。戦うのは夜限定じゃ! 昼間は体を癒す時間じゃ」
全然停戦中には見えないけど!? あと、まったく体を癒す気ないよね!?
「と、いう事はあれか!? 俺が寝ている間に勝負が決まったら寝ている間に俺の首を掻っ切るとか!?」
「ふはははは。そんなつまらん事せんわい。小娘を始末した後、ゆっくりと時間をかけておぬしを追い詰め殺してやる。それがワシの封印を解いたおぬしの罰じゃ」
「ふん。私も簡単に殺す気はないわ。このババアの首を転がしながらあんたを精神的に追い詰めて魂を恐怖に染めた後殺してあげる。せいぜいこの部屋に住もうとしたことを後悔するのね!」
と、なんとも恐ろしいことを宣言してくるではないか。
「ゆっくり眠れるのは今日の夜ぐらいじゃ。明日には小娘も居なくなるじゃろうからな! せいぜい安息を楽しんでおけっ」
「ふん。ババアが居なくなった後、どんな風にいじめてあげようかしら? 楽しいだろうなぁ。殺してくださいと自分から言いに来るくらい追い詰めてやろうかしら?」
「そ、そんな……」
俺はもうどうすればいいのかわからなくなった。
もう頭の中がパニック状態で、正しい行動をどうすればいいのかわからなくなったのだ。
よし、心を落ち着けよう。
今できることをすればいい。
今必要な事、それは……新しい職場へ行く準備だ!
この状況で会社の事なんて考えている俺は社畜なのだろうか?
人間、生きている限り腹は減る。
こんな時でも俺は夕食時には腹は減ったので、買い出しに出かけた。
とくに人形達から外出の制限はかけられていないので自由に外出はできた。
これは「お前が何処に行こうとも見つけ出すからな」という自身の現れからだろうか。
しかし、油断したな。人形共め。
俺を自由にさせたことが運の尽きだったな。
「ここか……」
というわけで、現在俺はとあるお寺の前に居る。
やはりこういう時は専門家に頼るに限るのだ。
「すみませーん」
時刻は昼を過ぎたあたり。
住職を探しながらお寺の敷地内を歩いていると、それらしき人がダッシュで俺の方へと向かってくる姿を確認できた。
商売魂が逞しいな。などと失礼な事を思いつつ、さてどこから話そうかと考えていると、
「あ、あんたなんだそれは! うちじゃ無理だから帰ってくれ!!」
と、出会い頭で言われてしまう。
「あのっ……。実はちょっと家で人形が暴れていまして……」
「そういうのはわかるけど、無理なんだって! ほんと無理!」
などと言われてしまい、半ば無理やり敷地の外にまで背中を押され追い出されてしまう。
「ちょっ! 困ったことが起きたんですって! 本当なんです信じてください!!」
いたずら目的の客だと思われたのか? いや、それよりもこの態度は……。
というか、背中から自身の手を離した住職は、汚いものでも触ったかのように両手を見て嫌な顔をした後、ぶんぶんと払うように動かしていた。
「信じてるからこんな対応になってしまうんだ! 君には申し訳ないと思うが、その規模は私には無理だ!! ただでさえも、最近になって何故か頻発している面倒ごとの鎮圧で忙しいんだ」
と、言われて門を閉められる。
「な、なんなんだよ……」
最近になって頻発している面倒ごと? 俺が体験している面倒ごとよりも厄介ごとなんか存在するのだろうか……。
「次はここか……」
続いて俺は神社へとやって来た。
ここなら何とかしてくれるだろうと、俺は境内へと入っていく。
「すみま――――」
神主を探そうと声を出そうとすると、奥からダッシュで神主らしき人が向かってきた。
商売魂が逞しいな。などと、失礼な事を考えていると、
「うちじゃ無理です!!!」
と、言われてしまった。
何故だ!
結局神社も駄目だった。
神様にお祈りするのも断られた。
いったいどうなっているんだ? 考えられる原因は……。
「もしかして……あの人形達とんでもない連中なんじゃ……」
専門家でも手に負えないヤバいばけもの。
そう考えると彼らが俺の相談を拒否するのもわかる気がする。
そして同時に今俺が抱えている問題が、俺の想像よりも深刻な状態だという事が嫌でも察することができた。
「はははっ……運が尽きたのは俺の方だったのか?」
この後、フランス人形の方であれば西洋系の宗教かな? と、依頼をチャレンジしに行ったが、やはり断られてしまうのであった。
今後俺はどうなってしまうのだろうか……。
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