第39話 最終決戦開始
―黒地子家車列―
彼ら黒地子家は、古くから呪術による攻撃にて人や妖を殺めることを得意とした一族であった。
遠く離れた人物へ呪いをかけて殺すことはもちろん、直接戦地へと赴き戦う術者としても活躍していた。
呪いや術の攻撃を防ぐ極端に防御に特化した可部和見一族に対し、黒地子家は極端に攻撃に特化した一族なのである。
そんな彼らは長い歴史の中で、共通の敵と戦う事もあれば、敵対することもあった。
しかしそれは戦場でのこと。戦争が終われば互いに恨みを抱き続けるのは無駄として、ある程度の距離を保って付き合ってきたのだが、今回の件で完全に決別することになった。
「青森の可部和見は駆逐しました」
「長崎の方は押されています。掃討が終わった周辺地域から増援を向かわせます」
「四国全域の戦闘は終了。可部和見残党は本州へと逃げたようです」
「大阪、京都、兵庫にて、別勢力の術者集団による介入を確認。一時戦闘は中断されましたが可部和見家の被害は甚大」
各地で行われる可部和見と黒地子の戦いは、黒地子が有利で進んでいた。
「よい。よいぞぉ」
くくっ。と笑いながら黒地子家の頭領の老人、黒地子 大佐武朗は、報告を聞いて満足そうに笑った。
「これであの土地さえ手に入れることさえできれば、我らが長年の望み、ようやく叶えることができる」
機嫌よく笑うその老人は、ついにここまで来たと満足そうにしていた。
まだ目的となる土地を手に入れてはいないが、自分達の戦力であれば間違いなく入手できると考えているようだ。
そして、いよいよ城野達が拠点としているアパートまで500m地点まで侵入すると、
「ほぅ」
老人、黒地子 大佐武朗は感心するかのように驚きの声を出す。
「如何されましたか」
側近が大佐武朗の様子を見て何かあったのかと聞くと、
「可部和見の小娘め、人払いの結界を張っておる。しかも結構な大きさのようだ……。
流石は可部和見直系と言ったところだが……。これでは我々も存分に暴れやすくなるだけだぞ?」
と、亜矢子が張った結界の出来を褒めつつも悪手だと笑った。
「しかし、ご当主様。目的地に居る連中は多くの小型の人型傀儡を操っているとのことです。大丈夫でしょうか?」
そう大佐武朗に尋ねる側近の男に、大佐武朗は、
「くくっ、安心せい。対策はちゃんと考えておる」
そう言うと、真っ黒に塗られた大量の紙の束を、走行中の車の窓からばら撒き、
「さぁ行けっ! 魔の使いよ。我らを守り、我らの障害を排除せよ!」
紙の束は上空に舞い、やがて黒い紙1枚1枚は鳥の形に変わっていく。
「「「「「カーッ」」」」」
そして完全に変化を終えた紙は漆黒のカラスとなって、200羽もの群れを成し聖人が住むアパートへ向け飛んでいく。
「ご当主様、もしやあれは?」
「おぉ、あれはな。お前が思っている通りの代物だ。我々とは系統が違う術者……所謂魔術師とか言う奴から買った使い魔とやらでな。連中から買ったものを使いやすいよう我らの術式で書き換えたものを展開したのだ」
それを聞いた側近は神妙そうに頷き、
「なるほど、さすがはご当主様。あれだけの数であれば、動く謎の人形共を瞬く間に処分してしまうでしょうな」
「うむ。そして、攻撃手段を無くし守りが薄くなった奴等ならば」
「攻略も容易いというわけ――――――」
ズドォォォン!!
大佐武朗とその側近が会話中、最前列を走っていた黒地子家の車が爆破炎上し、宙を舞う。
「な、何事じゃぁああ!?」
「くそっ。敵襲! 敵襲! 各自車から降り、応戦せよ!」
戦いのゴングは派手に鳴らされたのであった。
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―聖人視点―
モニターに黒地子家の連中が乗った車両がこちらに向かってきている様子が映し出されていた。
「敵、空中戦力投入! 数200!」
鳥――カラスのような何かが1台の車両から大量にばら撒かれ、空中へと飛び立った。
その様子を緊迫した様子で監視するグイムと俺達。
そして――――、
「敵車両、対陸上戦艦地雷原突入!」
ズドォォォン!!
グイム達の報告や映像は、まるで本物の戦争をしているかのようにテレビに流れた。
映像では車が1台吹き飛び、同時に外から爆発の音が聞こえてくる。
「「「~~~~……――――」」」
亜矢子達術者は隣の部屋で呪文を唱えている。
そして、居間はグイムの発着所、工場、中央指令室となり、俺を含めた萌恵さん、お菊、カリーヌ、グイム総司令官仕様、その他グイム達が集まる。
「オペレーション『spiderweb(蜘蛛の巣)』開始」
「戦闘開始、戦闘開始!」
「空軍部隊、第1から第6中隊、並びに、第1大隊出撃せよ!」
「敵は北部に集中している。南部部隊は一部を残し、北部へと迎え!」
「多連装ロケットシステム搭載グイム、発射開始!」
「陸軍部隊、攻撃開始! 奴らに本物の地獄というものを見せつけてやれ」
指示を受けたグイム達は次々と発進していく。
空軍部隊であり、家の前に待機していた大隊100機が一斉に飛行用バックパックを光らせ空の闇夜へと飛んでいく様子は圧感であった。
陸軍部隊は既に各民家に待機しており、一斉に敵の車列へと砲撃の為銃口を向ける。多連装ロケットシステムを搭載したグイム達が一斉に地対地ミサイルを発射する。
テレビやパソコンのモニターの向こうからは、慌てて車両から飛び出し応戦している人間たちの姿が映し出されていた。
亜矢子からの情報通り、黒地子の連中は3日経った夜俺達を殺しに攻めてきた。
周囲の住民たちは亜矢子の不思議な術によりこの地を離れている。
これにより一般市民への被害の心配は無くなるだろう。
3日間で作ったグイムは数百体となり、家の中だけでは基地として十分に役割を果たせなくなってしまっているため、アパートの敷地内全域を使い要塞化していた。
人間一人……いや、萌恵さんも含めれば2人が数日で用意できる数ではない。しかし、完成したグイム達が手伝ってくれるのであれば話は別だ。1時間で5体完成していたペースであったが、最終日には1時間45体まで増えていた。
そんな莫大な数のグイム達が一斉に襲い掛かる黒地子に立ち向かって行ったのだった。
「こちら、中央指令室。私は地球同盟……いや、城野家防衛隊総司令、アルティメットグイム総司令官仕様である」
総司令は多くのモニターの前に達、兵士達に向かって語り始めた。
「この場に居る兵士諸君が知っている通り、我々は皆玩具である。我等の親、城野 聖人議長閣下とこの地の謎の力によって命を授けられた存在である。
だが、命を授かってから僅かなこの時、我々は今存亡の危機に直面している」
黒地子達が映し出されたモニターを真っ直ぐ見据え、彼等を指差した総司令は言葉を続ける。
「身勝手な理由でこの地に住まう人々を殺し、手に入れようとする欲深さ。そして力によって支配しようとする傲慢さ。
全く持って愚かしき考えである。
我等の殆どの記憶、性格、思想は創造によって植え付けられたものであるが、我等の存在を否定する事は誰にできない。なぜならば偽物であってもそれらを含めた全てが我等を構成する一部であることは間違いないからだ。
しかしながら連中は我等を否定する存在と言っても過言ではないだろう。
彼等がそうであるように、我々にとって彼等は不必要な存在なのである!」
言葉を強め、拳を握りしめる。
「我々の行動理念はなんだ? 住まう土地、人、思想を守り、それらを破壊しようとする暴虐者を打ち倒す事である!!
作り物の設定ではあるが、これは間違いなく我々の意思である!
時代に取り残され、歪んだ思想の下過ぎた力を追い求める害獣共に思い知らせろ!」
「「「「「おぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」」」」」
戦場へと向かう数百のグイム。
出撃を待つグイム。
アパートを守るグイム。
全てのグイム達が鬨をつくる。
「我等玩具の本懐は来る敵を討ち滅ぼし、主を守る事である! 我等の正義は疑う余地は無い。示せ、我等の力を! これが玩具本来の力である!!」
「「「地球人万歳!」」」
「「「城野家に栄光を!!」」」
「「「殺せ! そして我等玩具の本来の使い方を教えてやれ!」」」
総司令の演説が終わり、士気旺盛となったグイム達が一斉に黒地子に襲い掛かった。
「なんだこのぉおおヘヴュー!?」
車から勢いよく飛び出し、炎の球をやたらと周囲に打ち出した男が、グイムのビームガンで脳天を貫かれ絶命する。
「死ねぇ、人形どヴォォオオオ!? お、俺の腕がぁあああ」
術による光の弾を何発か放った後、ようやく1機のグイムを討ち取ったかと思えば、別のグイムにエネルギーサーベルで腕を切り取られる術者。
「ふぉおおおおおおおおお!!!」
中には、なぜかマシンピストルを両手に攻撃してくる術者……おい、こいつ本当に術者か? と思う攻撃方法により、グイム達が派手に壊されるが、そいつもあらゆる方向から襲い掛かるビームガンのビームに貫かれ、倒れた拍子に仲間の術者をフレンドリーファイアーにてハチの巣にして死んだ。
「よし、いいぞ。この調子なら、行ける!」
俺はガッツポーズをしながら食い入るように画面を見つめる。
「第2砲兵隊、第4砲兵隊、第7砲兵隊。ポイントS-5に向け、攻撃を開始せよ。多連装ロケットシステム搭載機は空になった順から再装填を急がせろ。
続いて固定電磁速射榴弾砲1番から3番発射」
続いてグイム総司令官がそう指示を出すと、テレビ画面の映像は砲兵へと切り替わる。
「了解。ポイントS-5にデータ修正。一斉発射用意。第一発射ぁああ!!」
各地点より、黒地子家の車列に向け支援砲撃が開始される。
本来ならば180mm砲や最大でも250mm砲を持ていたり操作するグイムが砲弾を放つのだが、それでも彼らは1/144サイズ。
最大の250mm砲でも1.7mmしかないのだ。
当たってもせいぜい爆竹並みにしか威力が無いと思われがちだが、ガゾギア設定の未来の新型爆薬のおかげで――――、
ズドォオオオン!!
20発以上が一斉に当たれば車1台が中破、人が一人吹き飛ぶほどには威力があった。
この爆破の威力には電磁速射榴弾砲も一役を担っているだろう。
「命中! 命中! 次の目標値を転送する」
空中観測をしていたグイムが射撃観測と次の目標を示す。
「続ーけてー発射ぁあああ!!」
第2射を行い、今度は最後尾の黒地子家の車が破壊された。
「えぇい、何をしておる! 使い魔のカラス共は何をしておるのだ!」
なんだか妙に偉そうなじーさんが周囲の仲間に当たり散らしているが、空中ではどうなっているかというと、空中戦仕様の様々なグイム達がカラスのような生き物と対決をしていた。
最初は綺麗に隊列を成していた両者であったが、グイムの空対空ミサイル。そしてカラスたちの口から吐き出された炎の球によって両者の隊列はかき乱される。
「グガッ!」
「グゲェ」
空中戦仕様のグイム達が放ったミサイルは、次々とカラスたちに命中する。
フレアや電波妨害といった防衛機能を持っていないためか、ミサイルを放てば必ず倒せるといった感じだ。
ミサイルだけではなくビームガンなども積極的に使われ、更には頭部や脚部に装備されているバルカン砲も小動物のカラスには有効らしく空では次々と弾がばら撒かれていた。
また、通常の非可変タイプのグイムでも戦場にて圧倒的な存在であるため、可変タイプのグイム達の活躍も更に目覚ましい。
戦闘機形態にてミサイルや弾幕をばら撒きながら前方のカラスたちの部隊を消滅させ、通過後に人型へと変形。後方のばらつきが目立つカラスたちを逃さまいと、ビームや実体弾を発射し目先のカラスたちを殺しつくした。
ある程度間引きが完了出来たら次のカラスの密集地帯へと移動。これを繰り返し、急激に使い魔のカラスたちは個体数を減らしていた。
「ダメです! 敵の数が多すぎて使い魔だけでは対応できません!」
偉そうなじーさんの横で側近らしき男がじーさんにそう報告をする。
「調子にのりおって! 全員式神を出せ! 蚊トンボのように飛び回る妖共を叩き潰せ!」
そう言うと、偉そうなじーさんは追加で黒い紙からカラスを100匹追加し、更には人型に切り取られた紙を空中へとばら撒く。
ばら撒かれた小さな紙は、そのままの状態で空を飛ぶか、蝶や鷹になりグイム達に襲い掛かる。中にはグイム程のサイズで飛行する武者や神職の神主や巫女のような姿をしており、弓や刀、槍等を手に持っている式神も居た。
「新たに敵の空中戦力が出現! 数1900!」
中央指令室にてオペレーターをしていたグイムが叫ぶ。
1900……1900!? とんでもない数だ。
対応が可能なのか?
空戦対応が可能なグイムは今現在も生産が続けられているが、戦闘開始直前までに作られ、城野家に配備された数は400機ほどである。飛行支援用のバックパックを装着したタイプ、そして元から空中戦用に対応しているタイプを含めての数であり、平べったい航空機に乗るグイムは含まれていない。
既にいろいろと装備している為、飛行用の追加装備ができないグイムには、足元へアタッチメントで固定して飛行する航空機にて出撃できる機体が100機ほどある。
これだけのグイムがいても数では圧倒的に負けている。
陸戦仕様のグイムの約500機がどれほど活躍してくれるかがこの戦いの決め手になるだろう。
「こちら第22空戦機動部隊! 応援を! 囲まれている、応援――うわぁああ!!」
式神と呼ばれていた黒地子の追加戦力は、空中戦用グイムに突撃し自爆をする個体もあるようで、あれ程優勢だったグイム達にも死者が出てくる。
「地上にいる地対空部隊、空中部隊を支援せよ!」
グイム総司令はすぐさま地上のミサイル部隊や対空機関砲部隊に指示をし、彼らは一斉に弾薬を空中へと放った。
次々と穴を開けられ落とされ、何故か爆発する式神達。
空にはよくアニメで見る光っては消え、光っては消えるあの爆発の点滅がいっぱいに広がっていた。
それを見た黒地子家は、
「地上からの支援があるようです! あちらこちらから対空砲のようなものが撃たれています!」
「ならば民家に潜む妖共を一掃すればいいだろう! もはやここまで騒ぎが大きくなったんじゃ。遠慮などせず、好きな術で連中を大人しくさせろ! 呪陽!」
ここで、まってました。と言わんばかりに嫌な笑みを浮かべる黒地子の連中。
なんだ。防戦一方だった人間の術者連中が何をしようとしているんだ?
「ぎゃはははは、ようやくご当主様から許可が出たなぁ! じゃぁ本気出していくぜぇええ!!」
異様に鋭くとがらせた髪をセットしている男が術を唱え始め、巨大な炎の球を形成したかと思えばそれを放った。
そして、その巨大な炎の球は盛大に息巻く男の目の前にあった民家の壁に当たり、
ズゴォォオオオオン!!!
と破壊したではないか。
「はぁ!? なんだよそれっ!!」
俺は思わず叫んでしまう。
丁字路の先の民家が吹き飛んだのだ。
空中へと支援攻撃や術者達に攻撃をしていた8機のグイムが共に消滅する。
爆音がまだ離れているこのアパートまではっきりと聞こえてきた。
事態を把握した周辺のグイム達は高威力の攻撃をしてきた男に向かって攻撃を仕掛けるが、ことごとく青白い光の防御されるか式神に身を守られている。
「よくやった呪陽」
と、偉そうな爺さんが破壊活動をした若い男を褒める。
「守りの専売特許が可部和見だけのものと思うなよ!」
などと、その男、呪陽という名の若者は言っていた。
そんな彼の脅威度が一気に上がったため、グイムの隠密部隊も姿を消したまま彼に攻撃をするが、
「見えてんだよぉおお! 俺の目を誤魔化せると思うな!」
と、次々と呪陽の術で見つかってしまい、グイム隠密仕様も破壊されてしまった。
「れ、連中見境なしに……」
術を張っていた亜矢子がそう震える声でテレビに映し出された爆破後の民家を見ながら言ってしまうほど、彼女たちにとっても衝撃的なことだったのだろう。
「なぁ、おい。これって後始末……。誰が弁償するんだよぉ!」
俺は戦いの後の事を心配して、亜矢子に質問をしてしまった。
「私達に隠蔽できることにも限度ってものがある……」
「ですよねぇ」
さすがの民家吹き飛ばしについては可部和見家にもどうしようもできないらしい。
うん、よし。しょうがないよね。あれは黒地子のせい。全ては黒地子のせい!
「大量破壊行為確認。議長閣下、もう……手加減はせずともよろしいですよね?」
この光景を見て、総司令も黙ってはいられないのだろう。
「あぁ、かまわない。というか、むしろ頼む」
俺がそう答えると、
「了解。各員に次ぐ! これよりオールウェポンズフリーとなった! 繰り返す。これよりオールルウェポンズフリーである! 各自武装制限撤廃。並びに規定の大量破壊兵器使用を許可」
総司令がそう"全兵装使用許可"の指示を出すと、自宅で待機していた重々しい兵器を持ったグイム連中が動き出した。
これから起きる破壊行為は全て黒地子のせいだからな。と、思い込むことで俺自身の責任感を和らげることにしたのであった。
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次話は明日の予定です。