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第37話 報連相



 大量のグイムを購入したのはいいが、可部和見家所有のワンボックスカーにはガゾプラは載せきれず、結局タクシーを呼んで俺はと積みきれなかったガゾプラを入れ込み、アパートまで運ぶことになった。

 ガゾプラを車に積み込んでいる最中、亜矢子達の恰好を見た店長代理は何とも言えない顔でその様子を見ていた。

 うん。傍から見れば、コスプレ集団が何をしているんだ? って感じだろう。


 アパートまで到着した俺達は、さっそくタクシーからガゾプラを下ろす。

 家の中に入り切るだろうか……。

 いや、そんな心配よりもしなくてはいけない心配がある。俺が嵌められ仕事を首になりそうな事や、黒地子と可部和見の件だ。


「じゃぁ、報告してくるから待っていてくれ――――いや、代表者一人が説明役で来てくれると助かるんだが」


 退魔士の件は俺から説明するより、車に乗ってやって来た亜矢子を含めた三人のうち誰かが説明をした方が分かりやすいだろうと思いそう提案すると、


「じゃぁ私が」


 と、亜矢子が手を挙げた。


「私は一応この中の代表よ」


 そう言って自ら名乗り出てくれたので拒否する必要もない。そのため、俺は持てるだけのガゾプラを持って自宅まで行き、中へと入った。


「みんなただいま。ちょっといいかな!」


 と、俺が玄関先で伝えると、ワラワラとグイム達が出てきて俺が持つガゾプラの箱を一つにつき4体で運んでいく。


「「「「「お帰りなさいませ議長閣下!!!」」」」」


「あ、うん。ただいま」


 そう俺が返事を返し、後ろに居る亜矢子を紹介しようとするため、亜矢子の方へと振り向いた。


「うわぁ……」


 亜矢子は何とも言えないと言った表情をしている。

 そうか。彼女にとってはまさに敵地のど真ん中になる可能性があるのだ。


「こんなに…いたの……?」


 どうやら亜矢子はグイム達の数に驚いているようだった。


「みんな。警戒しているだろうが、大丈夫だ。彼女は以前ここに攻め込んできた集団の一人だけど、今は同盟関係を結んでいる」


 俺がグイム達に伝えると、総司令官機が出てきて、


「存じております。今日の出来事は隠密仕様のグイム達から報告を受けておりますので」


 と、言ってきた。


「え。あ、そうなの?」


 なら説明の手間が省けた――――って、え? 今日の出来事?




「――――いや、さすがにそれはまずいじゃろう」


「でも、逃走先で私がバイトをすれば、少しでも逃亡資金やグイム達を揃える資金が――――」


「萌恵、だからそれは危険だって結論が出たでしょ? それに逃げるったって全国に黒地子の連中が居るのよ。そんなのどうやって見分ければいいのよ」


「うぅむ。全員が全員見た目で判断できるわけでもなかろう」


「なら、おびき寄せて一気に叩けばいいでしょ」


「それはそうじゃが、戦闘になればここが安全とはかけ離れた土地になるとグイムの総司令官が言っていたではないか」



 奥の部屋からお菊、萌恵さん、カリーヌの声が聞こえてきた。





「もしかして……俺がクビになりそうだってことも伝えたの?」


 恐る恐るグイム総司令官に確認すると、


「はっ。一刻も早く事態の解決に努めなくてはならなかったため、この家だけではなく萌恵殿の実家の基地などにも情報共有しております! ですが、ご安心ください。職場の件は我々が全力で――――」



「うわぁぁぁぁぁ」


 どれだけなんと言おうか悩んでいたのに、馬鹿みたいじゃないかぁぁ。

 報連相どうしようか迷っていたのに、もうすでに話し合いが行われているぅぅぅぅ。



「え、貴方仕事クビになったの……?」


 後ろでそんな問いを亜矢子がしてきた。

 慌てて俺はそれを、


「いや、クビにはなってない。クビになりそうだってだけだ」


 と、訂正した。


「なにやらかしたのよ……」


「ライバル企業へ顧客、新商品、技術とかの情報を流出――」


「え"」


 亜矢子がドン引きした表情で俺を見ながら一歩下がった。


「させたって言っているけど、嘘なんだよ! 俺はそんなことしてねぇ。

 そうだ! むしろ黒地子とかいう連中がやったんじゃないか!? 俺を追い詰めるためになんて卑怯なことを!

 だいたいおかしいと思たんだよ。いきなり顔も知らない役員の一部が俺を目の敵にきてきたんだ。社長の息子や課長も操られていたんだ!」


 その可能性が高い。むしろこんなにタイミングよくグイム達を揃える資金源を断つようなことが起きるわけがない。ならば、黒地子の連中がやったという事であればすんなりとわかりやすい。


「いや、それはどうだろう……」


 亜矢子がそう言っているが、


「いいや。きっとそうだ」


 と、真犯人を見つけたと思い少しだけ立ち直る俺。

 であれば、翼や北見課長は操られているのか、そもそも協力者なのか判断が難しくなるな。

 今度亜矢子に二人を見せればいいのだろうか?


「いえ、こちらで調べたところ、黒地子と呼ばれる連中の関与は薄いかと……」


「うわぁぁぁあぁぁあああ」


 グイム総司令官にそう指摘されてしまい、希望は簡単に失われた。

 というか、調べられたんかいっ! 家のグイム達優秀過ぎない!?


「なんじゃ奇声をあげて。帰って来ておったのなら声をかけぬか」


 すると、居間からトテトテと歩いてきたお菊が俺に声を掛けてきた。


「あ、聖人さん。お帰りなさい」


「ちょうどアンタが無職になった際の対策とかについて話してたの」


 萌恵さんやカリーヌもやってくる。


「あ、うん……」


 もはや何も言えなくなり、俺は後ろにいる亜矢子に視線を送る。


「え? あ、私!? わ、私は可部和見 亜矢子よ。事情はこのロボットたちがもう伝えたって言っていたけど……」


 と、亜矢子が説明をすればいいのかどうかの判断に迷っているようだった。



「あ。私、梅岸 萌恵って言います。……しばらく貴女達の除霊施設とかいう場所に監禁されていた者です」


 少し尖った言い方で萌恵さんは亜矢子にそう言った。

 なんだか萌恵さんからどす黒いオーラが……。萌恵さんがここまで怒るのは初めて見た気がする。


「うっ……それについては……私は間違った事をしていたとは言わない」


 と、亜矢子は言葉に詰まりながらも自分の主張を曲げようとしなかった。


「この子達を見てもまだ、自分たちは間違っていないと?

 人形達は悪霊で、私は操られている。そう言いたいの?」


「そ、それは……」


 亜矢子は周囲に散らばるグイムやお菊、カリーヌを見て判断に迷いながらも、


「少なくとも……この状況が良いこととは言えない」


 と、言い返した。


「まだそんなことを!」


 その返答に腹が立ったのか、萌恵さんは怒りで何かを言おうとしたのだが、


「そこまでじゃ。今は口論している暇などない。信頼できないであろうが、協力を申し出てくれたのじゃ。可能な限り黒地子とやらに対抗してもらおうではないか」


「……」


 お菊にそう言われた萌恵さんは、渋々引き下がる。


「絶対にお父さんとお母さんは元に戻してもらうから」


 と、それだけ言って居間へ戻っていった。


「わかってる。生き延びたら絶対に」


 そう亜矢子は返事をした。

 亜矢子の発言で既に生きるか死ぬかの所まで状況は悪くなっていしまったのだなと改めて感じた。










「賛成177。反対52により、敵対関係となる黒地子の集団に対してはアパートの防衛に専念。また、議長閣下や梅岸 萌恵殿は移動させるよりもアパートに居る方が安全と判断するものとする!」



 グイム総司令官仕様が我が家に居る者達で多数決を取り、これからの方針を決めた。

 基本的には俺や萌恵さんの意見を参考にするが、軍事専門家ではない俺達がどのような選択をすれば命を守ることができるのか判断し辛いこともあり、俺達はアパートに立てこもり襲撃に備えることになった。


 仮にホテルなどに避難したとしても、どのみち周囲の人々に被害が拡大する可能性もある。

 これは俺の実家も同じことが言え、俺の家に萌恵さんと共に行ったとしても、こんどは俺の両親に危険が及ぶかもしれないのだ。

 それに、亜矢子に言わせれば、お菊などの人形達はこの土地の特殊な霊道から出る霊力によって動いているそうだ。つまり、例えば俺の家で防衛拠点を構えても時間がたつにつれグイム達が動かなくなる可能性があるのだ。


 そんなわけで、俺達はこのアパートで連中を待ち構えることになる。

 可部和見家の面々は、このアパートに結界を張って黒地子家の連中の攻撃から守るそうだ。



「以前私達がやった奇襲とは違って時間があるから、しっかりとした結界を作る」



 と、亜矢子は言った。

 その発言は連中が言っていた3日後という話が本当であることを前提としたものだろう。

 だが、本当に3日あれば、俺達はそれなりに戦力を揃えることができるのだ。




 その戦力増強の一環として、俺は202号室。つまり隣の部屋であり火星連合の基地となっている場所を訪ねた。



「少し話したい! いいだろうか」



「何の用かな?」



 そう言って出迎えた火星連合側代表のゾーム火星連合総統の態度は大きい。

 連中がこちらが困っていることを見越してこのような態度をしているのかはわからないが、俺や護衛のグイムはいくつかのガゾプラを彼らの前に置いた。

 そして、


「支援に来た」


 と、俺が一言伝える。



「支援? はて、以前行った交渉の件の前払いではないのか?」


 総統は首をかしげて何を言っているのかという態度を表す。

 きっと俺達は火星連合の力を借りに来たのだと思っているのだろう。

 だが、俺の目的は違う。


「おそらく3日後にこのアパートを含め、周辺地域は戦場となる。

 よって、ここに20個以上ゾームと強化パーツが複数ある。君たちが望んだ品だ。協力しろとは言わん。だが、これで少しでも戦力を整え、自分達の身は自分達で守ってくれ」


 その言葉に火星連合側は騒然とする。


「戦争になるだと?」


「協力依頼があるかと思えば、自分達の身は自分達で守れと? 何を勝手な」


「地球人は野蛮だな。協力でもなく、勝手に戦えと? ハッ、素直に助けてほしいと言えばいいものを……。やはり地球人という連中はプライドの高さが成層圏並みに高いとみえる」


「それが地球人共の本性というものだろう。何度同じことを繰り返せば気が済むのだろうか」


 口々に地球人である俺に対して非難が飛び交う。聞いていて耳が痛い。

 だが、



「止めよ」



 と、総統が一言発すると彼らは発言をやめた。

 そして、問いかけてくる。


「詳しく話してもらおう。なぜ戦争になるのかをな」


「わかった。そのつもりだったから問題はない」


 俺はこれまであった経緯を彼らに伝えることになった。








「なるほど。つまり、その黒地子という連中の狙いはお前たちだけではなくこの土地である……と?」


 全てを話し終えると、総統はどこから出ているのかわからないが深いため息と共にそう言った。


「関係者は全て消すそうだ。とはいえ、お前たちの主人である矢川まで狙われているかどうかまでは知らないがな。可部和見家の連中は矢川の事までは調べていなかったみたいだが……」


「この土地を調べる過程で露呈するのも時間の問題というわけか……」


 俺と総統がそんな会話をしていると、


「何を悠長な! 今の話が本当ならば、我らが創造主であらさられる矢川様にも危険が及ぶという事ではないか!

 即刻矢川様への援軍の許可を総統閣下に願いたい」


 と、宇宙元帥のゾームが総統に指示を仰ぐ。


「ならん! 今大勢で向かえば目立つであろう。そうなれば、必然的に矢川様の居場所が知れてしまう。残念ながら我々には視界的なステルス機能を持った個体も居なければ、追加で来た者達にもその機能もちは居ない」


 と、総統は元帥を止める。

 残念ながらステルス機能を持ったゾームはあの模型店にも置いていないし、他の店にも置いていなかった。

 それもそのはず。ゾームの光学迷彩という視覚的にもステルス機能を持った機体は専用オンラインショップ限定版であり、注文もずいぶん昔にされていたものだ。再販は何度かあったらしいが、今はもうされていない。

 こうなった原因は、作中で"アンチステルスフィールド"と呼ばれる対抗兵器が火星連合、地球同盟双方にて開発されたため、光学迷彩を含むステルス機能を持った機体は無意味となってしまっていたのだ。

 まぁ、それまで地球同盟側がステルス機能を持って無双をしていたための大人の都合的な措置であったことは言うまでもないけど。


「し、しかし」


 そう元帥は食い下がることはしなかったが、いい案が浮かばずそれ以上は言えない。


「俺が連絡をする。以前話した時に連絡先を互いに交換したからな。そのうえで、彼には自分で判断をしてもらおうと思う」


 以前カフェで話した時に連絡先を交換しておいてよかった。今日の件を彼に報告できる。


「人の目を恐れる者どもに対して、人が多くいる場所が安全という事か」


「そういう事だ」


 総統は俺が考えている事を察してなるほどと頷く。

 もっとも黒地子がどこまで人目を気にするか分からないが……。


「では、我々はこの拠点の防衛に専念しよう」


「それだけでもいい。結果的に俺達が引き金で戦闘になるようなもんだ。迷惑料代わりにこれらは置いてくよ」


 と、俺はゾームのガゾプラの箱をパシパシと叩きながら言った。


「ふふ。後で返せなど言われても返さないぞ?」


 などと総統は軽口を叩くが、


「むしろ、この程度の戦力で戦況が覆るとも思えないよ」


 と、俺は言い返す。


「ははっ、地球人め。よく吠える」


「じゃぁ伝えることも伝えたし、渡すものも渡した。俺は帰るよ」


 こうして202号室から出た俺は自室へと戻っていくのであった。



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