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第1話 始まりは別れから

お久しぶりです。又は、はじめまして。

久しぶりに小説投稿をします。よろしくお願いします。


 全ての始まりは社会人5年目の俺が突然別の地方への転勤を命じられたことからであった。

 俺が勤めている会社は【桃谷ももたに商事】という名の全社員500人程の会社だ。

 ちなみに左遷ではなく一応栄転。なぜならば元々勤めていた支店よりは大きい街にある本社への転勤だったからだ。

 元々勤めていた場所の支社の上司から「住む場所とか家具家電とかこっちで手配しておくから。すぐに本社へ行ってくれ!」と懇願され、理由も「人手不足だから!」というなんとも曖昧な回答をもらい、早速引っ越しの準備をして目的地へと向かったのだ。


 急いでいたため元々実家暮らしだった俺は、ほとんどの物を実家に置いていくことにして段ボール6箱分の荷物と共に本社がある街へと来たのである。後々必要なものは後で両親に頼んで送ってきてもらうつもりだ。




「うわぁ……」




 転勤先にて手配してもらったアパートを見たとき、とてもボロボロでこれからしばらくここに住むのかと嫌気がさした。

 木造二階建て。計4世帯が住める作りだ。

 2DKの作りで、お風呂とトイレが別。家賃は3万円。これだけ聞くとまぁいい物件なのだろうけど、漂ってくる雰囲気から何故だか拒否反応が出てしまう。なんなのだろうかこの感覚は。



「さぁ、こちらです」


 アパートの管理人が俺がこれから住む部屋へと案内をした。



「城野様は201号室ですね」


 そう言われて入った部屋は何とも生活感が満載された物件だった。


「え? これって誰か住んでいるんじゃないですか??」


 思わず管理人にそう聞いてしまう俺。会社が俺の生活に困らないよういろいろと用意してくれたのだとしても、靴やらなにやらいろいろとある状態である。

 しかも女性用の靴ばかりで、俺のために買い揃えられているとはどうしても思えなかったのだ。



「あぁ、会社様からはお話がいっていなかったんですね。実はここ、元々住んでいた住人が夜逃げしてほぼそのままの状態だったものを城野様がお勤めになる会社がそのまま借りたのです」


「えぇぇ……」


 ということは、目の前に広がる家具や家電は中古で揃えたものではなく、置きっぱなしの物なのか……。


「あぁ、安心してください。一応清掃業者は入れましたので、冷蔵庫の中身やら箪笥の衣類。トイレ、お風呂なんかはばっちり綺麗にしてあります。

 ベッドも取り替えてありますのでご安心ください」


「いや、まぁ……」


 俺はそれほど潔癖症というわけではないが、なんだかついこの前まで他人が住んでいた形跡がある部屋で過ごすというのは気分がよろしくなかった。

 しかし、数日後には仕事もあるので今更住めないとは言えず、このまま住むしかなさそうであった。


「ちなみにいらないものって捨てていいんですよね?」


「はい、もちろんです。ただ、費用はこちらでは……」


「あぁ、いえ。まぁそれは会社の方がこれでいいって言っちゃったんですよね?」


「そうですね。もちろんもしこの部屋の前の住人が戻ってきて文句を言うということがあれば、遠慮なく私の方に連絡いただければかと思います」


 うわぁ。元々の借主が戻って来る可能性があるってことか……。それはちょっと厄介だなぁ。

 なんでうちの会社こんな物件選んじゃったんだろうか。



「わかりました……。あっ、そうだ。元々居た人ってどんな人だったんです?」


 これで怖い人とかだったら嫌だなぁ。いつの日か乗り込んできた時有無を言わさず暴力を振るうような人物だった場合、大家さんに連絡が間に合わないかもしれない。


「あぁ、うん。おとなしい女性が一人住んでいたんですが……。まぁ、いろいろあったようでしてねぇ」


「そうでしたか」


 そういえば玄関には女性ものの靴があるだけだった事を思い出し納得した。

 怖い男の人の彼女だとか妻とかだったら厄介そうだなぁ。


「それでは私はこのへんで失礼いたします」


「あっ、はい」


 本当は文句や愚痴をこぼしてしまいたいくらいであるが、管理人に言うのは違う気もするので俺は廊下に積まれていた段ボールを部屋の中に入れ新生活がスタートすることとなった。




「げぇ。本当にそのまんまなんだな……」


 家の中の小物はほとんど捨てられていなかった。

 食器や本なんかもそのまま置かれている状態であり、うちの会社がいかに清掃に掛かる経費をケチったかがよくわかる。この担当をした人物が本社の人間か元々俺がいた支社の人間かはわからないが、これはさすがに担当した人物に会ったら文句を言ってやりたい。

 これだったら何にも揃っていない部屋に引っ越した方がマシである。



「箪笥の中身は処分してくれたって言ってたな」



 前に居た人は女性だったらしいので、下着とかが残っていたら逆に困る。

 その辺は気を使ってくれたのでいいのだが、俺の荷物もこれからしまわなくてはいけない。


「替えの下着は箪笥に。小物は押し入れにでも……」


 そんな独り言を呟きながら俺は押し入れを開ける。


「えぇぇ……」


 空になっていると思ったのだが、押し入れには随分と物が入っているではないか。


「嘘だろおい。なんでこんなにあるの??」


 押し入れの中にあったのは、扇風機やストーブなどといったものが入っている。

 まぁ、まだこれらはいいだろう。だけど……。


「【前住人の私物】って、おいおい……」


 押入れの中には大家か清掃会社が片付けたのか、前住人の私物を詰め込んだ段ボール箱も発見された。

 デカデカと紙に【前住人の私物】と書かれている。


「マジかよ……。生活に使えるものか?」


 押入れの収納スペースを圧迫させている原因である為、要らないものであればさっさと捨てたい。だが、使える物ならば置いておこう。

 せめて食器とかならばと思い、封をしていたガムテープを引き剥がし中身を確認してみた。


「段ボールの中にはなにが……アルバム!? 日記に学生時代に使っていたような教科書やノート……。うわっ、季節ものの服まであるじゃないか! これ処分してくれてなかったのか!?

 男性アイドルのポスター、フランス人形、ミシン、子供服?  いや、それにしては小さすぎるな。もしかしてこのフランス人形用の着せ替えようの服なのか? ん? この布は……えっ、もしかしてフランス人形用の服って手作りなのか」


 俺の生活でまったく必要なさそうなもので溢れていた。

 元々の住民の趣味も分かってしまうような代物も発見された。これ、絶対に大切なやつだよな?

 これを実費で処分しろというのか? 前の住人に届けようと思っても居場所も分からない。畜生、絶対会社側に処分させてやるからな。



「まったく。これじゃぁ掃除で一日が終わるぞ……」


 などと辟易していると、スマホの着信音が鳴りだした。


「ん? なんだ……って、お袋??」



 引っ越しが無事できたか心配してくれたのか、着信画面には母親と出ていた。


「はい、もしもし。どうしたんだ?」


『聖人、今大丈夫? 大変なことになったの!』


「え?」


 母のあまりの慌てように、最近はやりの詐欺にでも遭ったのかと不安になってしまう。

 しかし、母から返って来た電話の内容に、今度は俺が母と同じように慌てることになったのだ。


『お義母さんが! おばあちゃんが死んじゃったの!』


「な、なんだって!?」


 詳しく聞けば父方の祖母が死んでしまったらしい。

 年齢は80で、まだまだ元気であったが突然死んでしまったそうだ。

 祖母は祖父が亡くなってから一人暮らしをしており、近くの親戚――――父の兄が面倒を見ていたそうだ。

 父の兄。つまり叔父とは一緒に暮らすことはしないと言っていたらしく、祖父との思い出が残る屋敷で一人で住んでいたようだ。


『お葬式になっちゃったのよ。すぐに来れる?』


「あ、あぁ……」


 幸い俺は新しい職場に行くのは4日後だ。

 一応有給を消化する目的で引っ越しなどの準備があるだろうからと認めてもらったのだ。

 こうして俺は部屋の片付けを中止し、前住人の私物は元にあった場所へと戻して祖母が住んでいた田舎へと飛んでいくことになるのであった。












「やぁ、聖人君。よく来てくれたね」


「お久しぶりです、叔父さん」


 憔悴している叔父が出迎えてくれたのを見て、それまでどこか祖母が死んだことが現実とは違う気持であったが、「あぁ、本当だったんだ……」と悲しい気持ちになってしまう。

 決して母の事を疑っていたわけではない。ただ、よく優しくしてくれた祖母の死が受け入れられなかったんだと思う。

 それから叔父の車に乗り、ようやく辿り着いた祖母が住んでいた田舎の家は悲しみに包まれていた。


「聖人。来たのね」


 俺を見つけた母が走って近づいてくる。


「あぁ、お袋。親父は?」


「奥の部屋よ」


 案内された部屋には棺桶があり、その近くで座り込んで明らかに肩を落としている父親の背中が見えたので、声をかけるのはやめておいた。

 少しだけど震えているのが見える。やはり辛いのだろう。


 俺も小、中学生の夏休みの時にはよくここにきて祖父と共に祖母と過ごしたものだ。

 祖母はおっとりとしているが、実はかなりのしっかり者で、だらしがない祖父の面倒をよく見ていた記憶がある。

 特に、祖母が作ってくれた料理はとてもおいしく、俺が遊びに来るとカレー専用の器に並々とルーが入ったお手製カレーをよく食べたものだ。

 代わりに祖父は結構素材そのものを料理しており、魚だったら塩焼き、イノシシや熊なら焼肉、桃や柿、キュウリやトマトなどいろいろと食べさせてくれた。


 いろいろな思い出が詰まっている場所だ。

 田舎の広い家の葬式は基本、自宅で行うのが一般的らしく、親戚の人たちや近所の人たちが忙しそうに走り回っていた。


 俺も何かできることはないかと部屋の中を改めて見回すと、昔いとこ達と走り回って大騒ぎしていた広間は今は悲しみに包まれている。

 知っている場所に来たはずなのだが、なんだか別の世界に来たみたいであった。








 忙しく飛び回っていると、1日はあっという間に過ぎていく。

 今は葬式も終わり、話を聞きつけて慌てて飛んできた遠方の親類の相手をしながらも、俺たちは一息ついていた。


「いや~。ばっちゃんコロッと逝っちゃって驚いたが、本人は死期を察知してたみたいでなぁ」


「あぁ、なんか身の回りの整理とかしてたんよ」


 などと、この家の近くに住む叔父と祖母の弟の二人がそんな話をしていた。


「何を縁起でもないことをって言ってたら……ねぇ。昔から不思議なところがある人だったけど、まさかそんなことまでわかっちゃうだなんて」


 と、叔父の奥さんである叔母が神妙そうな顔をしている。

 祖母は確かに不思議な人だった。

 田舎の風習というか、言い伝えなんかもよく知っており、ここ土地に入ってしまうと悪いモノに取りつかれていしまうぞ。やら、ここにお供え物をすると神様が喜ぶんだ。などと言っていた。

 ここまでならよくある話であるが、夏の夜窓を開けっぱなしにしていると、「あんりゃ、こっちに入ってきちゃいかんよ」と、何もない外に話しかけたり窓を閉めてしまうなんてこともあった。


「お盆の時期ならまだしも、ああいうのはいかんな」


 と言って笑っていたのが印象的だ。

 はたしてあの時何が見えていたのかは知らないが、親父が言うにはオカルト的な何かが見えていたんだろうと言っていた。


「そうそう。母さん、みんなの分の人形があるって言ってたな。形見分けしろとも」


「そういえばそうだったわね」


 叔父と叔母が思い出したかのように手を叩く。


「人形? あぁ、あの人形か」


 祖母の弟が嫌そうな顔をした。


源吉げんきちさん、そんな顔しないでくださいよ。母さんの持ち物だったんですからそんな悪いもんじゃないですよ」


「いや、でもなぁ」


 形見分けの話になると途端に祖母の弟。源吉さんが拒否反応を示した。


「お袋の人形かぁ」


 家の親父も何かを思い出したのか、懐かしそうな表情をする。


「おぅ、お前も手伝え。一緒に持ってくるぞ」


「あぁ、何処にあるんだ?」


 そんな事を言いながら叔父と親父は一緒に揃ってどこかへ行った。

 人形。その言葉を聞き、俺はふと昔の事を思い出した。


 そういえば、祖母の人形って……。









「持ってきたぞ!」


 親父がそう言って、叔父と共に10個の箱を持ってきた。


「やっぱりこれかぁ……」


 箱を見た源吉さんはげんなりとしている。


「あっ、これって」


 お袋は箱開けると、中には日本人形が一体ずつ入っているではないか。

 思い出される祖母との思い出。その中には祖母が大切にしている人形の光景が目に浮かんできた。


 祖母の部屋にはいくつも日本人形が飾られていた。

 どれも大切だったようで、それを察した俺やいとこ達も祖母の部屋には入らず、たまに祖母が人形の説明をするときのみ見せてもらったり触ったりした。

 触るときは当然丁寧に。

 どこの誰が作ったどんな人形だ。とか、先祖代々譲り受けてきたこんな人形だ。など、延々と聞かされたものだ。

 祖母の真剣さが子供ながらに伝わったためか、俺を含めていとこ連中は決して人形を乱暴に扱わず、祖母も毎回「人形は人の魂が入る事もある。特に動物や人の形のはな。だから、決して粗末に扱ってはいかん」と言っていた。

 まぁ、祖母も不思議な人だったので、説得力があると言えばあったので、俺もいまだに人形というものに対しては近寄りがたい感覚を持っていたのだ。



「それで形見分けか……。姉さんはなんだって?」


「あぁ、ちゃんと聞いているよ。各家に一つずつらしい。ほい、源吉さんの所の」


「うぅぅん……。人形ってやっぱり不気味なんだよなぁ」


「そんな事言わんでくださいよ源吉さん」


 などと叔父と源吉さんがやり取りをしている。

 源吉じーさんは心底嫌そうな顔をしていた。


「ほい、これがお前のだ。母さんがよく見える位置に飾ってたやつ」


「あ、あぁ……」


 叔父さんは親父にそう言うと、一番作りのいい箱を渡してくる。その中にはやはり箱に見合う綺麗な日本人形が入っていた。


「うぅ……」


 それを見て昔を思い出したのか、親父の目には涙が溜まり始める。


「お前は末っ子だからな。母さんから特に可愛がってもらっていたもんな」


 叔父も懐かしそうにその光景を見ており、


「確かその人形、お前がサッカーかなんかのボールを当てて倒したとき、思いっきり怒られてたよな」


「兄貴は余計な事を思い出さなくてもいいんだよ」


 などと最終的には笑い合っていた。

 そうして、箱は配り終わり、


・祖母の弟

・祖母の弟の息子一家

・祖母の弟の娘一家

・叔父一家(祖母の第一子長男)

・従兄一家(叔父の長男)

・従兄一家(叔父の次男)

・叔母一家(祖母の第二子長女)

・従姉一家(叔母の娘)

・従弟(叔母の息子。社会人一年目一人暮らし)

・我が家


 となった。


「えっ。俺分のもあるの!?」


 と、祖母の娘の長男である社会人一年目の彼、大学時代から都会で一人暮らしをしている春太はるたは驚いていた。


「もちろんだ。一家に一体。守り神的な感じでおいておけと言ってたぞ」


 叔父はそういうのだが、彼、春太は不服そうである。


「ちょっと待ってよ。そんなこと言ったら聖人兄ちゃんの分はどうなるんだよ!」


「ん?」


 あっ、春太の奴、余計なことを……。


「聖人は実家暮らしじゃなかったのか?」


「あぁ、つい先日転勤になってな。一昨日から一人暮らしだ」


「そうだったのか……」


 親父も余計な情報を叔父に伝えやがった。

 畜生、こんなことなら転勤になった愚痴を春太に言うんじゃなかった!

 春太とは昔から同じ趣味もあったことから仲が良く、頻繁に連絡を取り合っていたのだ。それが今回裏目に出るとは……。


「そいつはいかんな。よし、母さんの遺品の中から適当に持って来よう」


「あ、いや。お気遣いなく……」


「そんなことしなくても、俺のを……」


「源吉さんはしっかり持ち帰るように!」


 俺に人形が入った箱を押し付けようとしていた源吉じーさんは叔父さんに叱られ、ショボンとしながら元の位置に戻していた。


「確かまだ1体あったはずだからちょっと探してくる」


 そう言って部屋を出て行った叔父が帰ってきたのは、20分程経った後だった。

 その頃になると、各々別行動をしており、部屋には俺の両親と春太、春太の父親、源吉さんが残っていた。


「見つけたぞー」


 叔父が埃だらけになりながらも一つの箱を持ってきた。


「ほら。押入れの隅にあったやつだが中身も綺麗だろ?」


「うぅん……」


 叔父がそう言って箱を開けて見せてきた人形は確かに綺麗であった。

 だけどなんだか……。ほかの人形に比べて不気味さが増しているようである。


「兄貴。この人形、見おぼえないんだが……」


「ん? そうか? そう言われてみれば初めて見るような……」


 などと、二人が話している。

 親父達はよく祖母から人形の事について話をされていた為、嫌でも覚えてしまったらしい。

 その中でも見覚えがない人形があればすぐにわかるようだ。


「兄貴。どこで見つけたんだよこれ」


「いや、だから押し入れの奥。箱自体が紐で縛られてたから外して持ってきた」


「えっ。父さん、それなんかヤバいヤツじゃねぇの? 封印されていたとか?」


 春太がとんでもなく不吉なことを言う。


「おいおい、そんなわけないだろう。母さんが持ってた人形だぞ? 人形を守り神のごとく扱ってたという我が家に、呪いの人形なんか置くわけないだろう」


 と、叔父は恐ろしい妄想を否定して言うのだが俺もあまりよろしくない気持ちでその人形を見ていた。

 偶然その人形と目が合った気もして、なんとなくだが、不気味さが増してしまう。


「まっ、とにかく聖人君はこれを持っていけ。きっとばあちゃんが守ってくれるさ」


「う、うん……」


 そう叔父に押し切られてしまい、否定もできないままこっそり親父の人形と交換しようかとちらりと親父の方を見る。

 しかし、親父はどこか懐かしそうに自分の所へと割り振られた人形を見ていたため、こっそり交換するのも居た堪れなくなりそうだった。

 仕方がなく俺はその人形を持ち帰ることにしたのである。





「ただいまーっと」


 葬式が終わり、俺は自分の家へと帰って来た。

 しかし、一度も寝泊まりしたこともなく、家族が誰もいない部屋であったため帰って来たという感覚は乏しい。

 なんとなく声を出してみたが空しいだけであった。



「はぁ……疲れた。って、そうか。引っ越しの片づけしたままだった」


 部屋の中は引っ越してきた当日、前の住民が残していったものを押し入れから引き出した残骸が残っていた。



「今からこれを片付けるのは……明日でいいか」


 帰って来たばかりでやる気なんか出るわけがない。

 とりあえず「一人暮らしは大変だろうから」と、親戚にいろいろもらった物を置き、カバンからいくつか物を取り出す。

 取り出したものの中には祖母の形見分けである日本人形も含まれていた。


「よしっ!」


 覚悟を決め、箱を開ける。

 当たり前だが箱の中には不気味なほど整った顔の日本人形が収納されていた。

 本当は触るのも嫌なのだが、祖母の形見なのだから、あまり不気味がっていても失礼だと思い両手でそっと取り出す。


パサッ。


「うん?」


 人形の背中にくっついて何かが落ちた気がする。


「うげっ!?」


 その落ちた何かを見た瞬間思わず日本人形を落としそうになってしまった。


ガコンッ!


 驚いた拍子に日本人形を入れていた箱を手で引っ掛けテーブルから落としてしまい、箱は簡単に壊れてしまった。もう箱に戻すことはできない。

 しかし、そんな事を気にしている余裕は俺には無く、落ちた一枚の紙に注目していた。


「な、なんでお札が……」


 そう。落ちたのはお札だ。達筆な文字で何かが書かれたお札。詳しくは読めないが、【封】という文字は何とか読める。


「ハッ。ハッ。ハッ。ハ――――」


 呼吸の感覚が短く荒くなる。そして俺の心臓の鼓動が早まる。

 え? これやっぱり何かヤバい人形なんじゃないか。本当に大丈夫なのだろうか。

 箱の中に戻した方がいい? いや、もう壊れてしまっているから手遅れな感じがする……。

 というか、俺の考えすぎか? 呪いの人形だと思ってしまえる状況だが、祖母が呪いの人形なんて保有しているわけがないじゃないか。

 そう思い込むようにして、俺は現実を見ないようにして次の行動に移した。


「さ、さて、何処に飾ろうか……あれ?」


 平静を装いつつ、俺は早く両手に持った人形を手放そうと辺りを見渡す。

 すると部屋の中をよく見ると、フランス人形がテーブルの上に置かれていたのを発見した。

 たしか押し入れに入っていたものだ。もちろん前の住民が残していった人形である。


「こんなところに置いたっけな? はは……まぁ、いいや。ばあちゃんの人形は隣に置くか」


 フランス人形の隣に日本人形を置いてみた。


「……なんか合わねぇ」


 なんとなくだが、その場の雰囲気に合わない気がした。

 上手く説明できないが、隣同士で置いてはいけない感じだ。

 というか、テーブルの上に人形二体置いたら邪魔だろ。


「部屋の端と端に置くか……」


 ちょうどスペースがあった箪笥の上に日本人形を置く。

 フランス人形はテレビの横の本棚だ。

 どうか化けて出ませんように。



「はぁ……。今日は飯食って寝るか」



 お湯はこの家にあったヤカンで沸かせばいい。夕食は帰ってくる途中で買ったカップ麺だ。

 一人寂しく夕食をとるのはいつ以来だろうか。


 その後俺は風呂に入ってそのまま真新しいベッドで眠りにつくのであった。




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感想は作者が豆腐メンタルなので、優しいコメントでお願い致します。<(_ _)>

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