Ep.1 表で影の住人-1
週に更新をめざしてやっていきます〜
The Stranger of Virtual(通称:SoV)と呼ばれる、VRタイトルとして世界初の拡張型MMORPGが配信開始から5年を迎えた2037年。
大規模拡張パックの第6弾"彼方の大陸"の配信をもって、シナリオの第1部が完結した。
そして、ver.6.24.99パッチにより当時のアクティブユーザー約44万人がゲームに捕らわれた。
ゲーム史上最悪の事件と呼ばれたその日から数年が経ったある日の日没後、始まりの街エルトガルドの時計塔にて黄昏れる1人のプレイヤーが居た。
膝丈の暗めのグリーンのケープを纏い、月白の髪を風になびかせながら、地平線の彼方を眺めていると、リボンの着いた左耳がピクリと動いて誰かから飛ばされてきたメッセージを知らせる音に反応する。
眺めていた景色を台無しにされ、少し訝しげな表情をしてその内容を確認する。
確認し終えると、脚の上に回していた尻尾で面倒だと言わんばかりに床面を叩き、宙へ向かって踏み出し飛び降りる。
音を殺して屋根に降り立ち、そのまま屋根伝いに目的の建物へとかけて行った。
ここエルトガルドは、良質な地形に恵まれた港と主要な街道がぶつかる場所に在り、貿易の要所になっている。
エウロペ洲最大の都市と言っても過言ではない故に清濁併せ持ち、昼夜問わず街が寝静まる時間はほとんどない。
寝静まらない街の屋根をかけていた彼女は、街の中心部から2ブロック分入り込んだ建物のベランダに軽やかに降り立つ。
中を覗くと、夜のトーンに合わせた照明の元で作業をする人影が見えたので、コンコンっと軽く窓をノックする。
相手が気づいて顔を上げてこちらに気がついた所で、窓の鍵を開けてするりと中に入る。
窓の鍵はもちろん掛け直して置いている上に、廊下へと続く扉の鍵も閉めておく。
「やはり貴女でしたか。偶にはちゃんと正面から入ってきてもらえませんか。」
事務作業を中断した彼からお小言を頂き、いつもの様にいつもの返しをする。
「ボクがする事には、多少は目を瞑るぐらいじゃないとダメかな。」
そして、彼の居る机に腰掛けて要件を尋ねる。
「今日は、なんの呼び出し。なんの仕事?あっ、それとも買うの?」
どうするかは決まっているだろうけど、あえて訪ねると、どっちもするらしいので仕事の事は後で聞くことに取り敢えずはしておく。
彼、この街の実業家であるレストルは、普段とはちょっと変わった事をしたい時に依頼をしてくれるクライアントだ。
彼から直接請け負うのは、合法非合法とわない内容で、危険度高かったり貴重だったりする物を調達する事もあれば、害をなすモノを処理する…詰まるところ暗殺だったりと色々だ。
それ以外にも、わたしはわたしの基準を満たすならば、使える様になった武器はなんでも利用をする。
例えば、彼であれば立場も信用もあり下手にリスクを犯さないと信じられるから、わたしを価値として提案も出来る。
とはいえ流石にムードも何も無いのは向かないので、彼の机の上のバケツから香りの良い物を取り出し、スクリューで封をあける。
もちろん、これはわたしのために用意してあるものなはずなので、許可をとるような野暮な事はしないし、男らしくないので認めない。
「んー、それにするとは流石に獣族の嗅覚ですかね。」
少しお高めだったらしく、若干苦笑気味に言葉を紡ぎながら大きめのグラスを差し出してくる。
「違うよ。ボクは獣族じゃなくってレイ(Lreyh)だから、純粋なあの人達みたいにはなれないね。」
「そうなんですか……てっきり、貴女は混じってないと思っていました。」
「よくこっちの人にはそう言われるけど、ボクは妖狐の獣族と夜の妖精の眷属のレイだからね。」
受け取ったグラスに注いだワイン香りを楽しみ、話をしながら一気に仰いで飲み干す。
冷えてサラッとした喉越しに、早い酔いがほんのりとまわりだす。
何度味わっても、フレーバーテキストと違わない『 獣族の嗅覚にも優しく香るほんのりとした甘さが特徴の白ワイン……』なのに、しっかりとした味わいがある。
けど、このワインには落とし穴がある。
獣族にも飲みやすい様になっているのに、他の種族のヒトが飲むのに比べて酔いやすいという特徴もある。
だから、お酒に強いはずのこの身体でも彼と同じ3杯なのに、酔いの周りが早くボクは覚束なくなってきている。
「いつも思いますが、潰れやすいのに貴女はよくこれを呑もうとするのか理解し難いですね。」
「め……。ダメだけど…こうでもしないと。………貴女じゃなくって名前で呼んでよぉ。」
あぁ……ダメなのに、ダメなのに彼の好意を逆手に取ろうとしてしまう。
「はいはい、そうでしたね。こうでもしないと、自分の口実に出来ない不甲斐なさがダメなんですよね。」
慣れた掛け合いをして、わたしは彼の膝上に座る。
「んー…ねぇ、やっぱり先に仕事の話を聞いてもいい?」
部屋を染めあげそうな色を壊すかのように、あえて話を変えてみる。
「ッ……まぁ、そういうのが貴女らしいと言えば、らしい"ッ」
聞き分けない彼に、話しを切らせる。
口を塞いで、訂正ついでに軽く舌を噛み間違いをしないように躾ける。
「っぷはぁ…」
「っ、いきなりはやめてくださいといつも…」
まくしたてようとした口を抑えて紡ぐ。
「ちゃんとボクを呼んでくれないなら、この話はなかったことにするよ?」
とても依頼をする側と、される側とは思えない立場関係に見えるけど、ボクは好き勝手にやるだけだ。
これに、諦めを込めた嘆息を挟んで彼が続ける。
「今回、フランさんにお願いするのはコレを取ってきて欲しいんです。」
そう言って差し出されたメモを見ると、常しえの瞳と星海のマーブルと描かれていて、必要な個数も記されていた。
メモを受け取りつつ、今度は彼からアプローチをされる。
「……いいけど、上手くいかなかったら一週間は掛かるけど大丈夫なの?」
息を継ぎつつ、細かい条件を確認すると期限も量も問題はなさそうだった。
「ん、覚えた。」
手元の2つのグラスを飲み干して後ろの机に置いて、ついでに邪魔な物もとっぱらっておく。
「丁度、ボクも準備が出来たから先に頂くね。……ンッ」
そうして、膝上に腰を据える様に座り直した
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