Ep.2 表で影の住人-2
翌日、依頼された物を取りに近くの岬から伸びる海底ダンジョンへと向かった。
そこは、スプーン入り江の洞窟と呼ばれるエルトガルドが貿易都市である理由の一つでもある大型のダンジョンがある。
本来は、岬の洞窟という名前で岬の上に入口があったのだけれど、どこかのバカがゲーム時代に魔法を使って、海面近くの階層まで全て吹き飛ばしたせいでそう呼ばれるようになった。
型抜きでくり抜いたみたいな三日月型の入江に沿うように観光用の施設が立てられ、ダンジョンの入口は入江の端に立てられた祠に変更されている。
ダンジョン兼保養地という珍妙な有り様を見ないふりをして、さっさと階段を下っていく。
依頼の目的地は、全20階層あるうちの深層と呼ばれる17層のオーロラ鍾乳洞で、通常なら中堅程度のパーティーで無理せず潜って往復3日はかかる階層だ。
しかし、ゲームだった時ならまだしも現実にそれほど時間をかけて挑戦したいとは思えないので、大抵のダンジョンには転移魔法が仕込まれている。
ここの場合は、1層目の少し上にある広場に4つの転移魔法陣が設置されている。
その内3つが5層ごとに存在する特殊なセーフエリアに繋がっている。
17層に行くには、右から2つ目の15層行きのものを使いそこから2層分攻略をし、帰りは最深部の帰還用の陣か転移アイテムを使用することになる。
いつもの様に魔法陣を踏み、15層に転移して武具を取り出す。
武器は、弓をメインに据えて遠距離から戦うが、接近されても対処できるようにダートと極端に軽いショートソードを使う。
防具は、獣族のしなやかな肉体を活かすために防具らしいものではなく、弓を保持する右腕に上質な龍の甲殻を縫い合わせていて、盾としてもある程度は使えるのを身につける。
ただ、16層は複雑に入り組んだ市街地のようで射線が通りにくい構造になっているため、弓は背負って剣を片手に進む。
いつも通りに地面に降りることは可能な限り避け、建物伝いに異質なダンジョンを進んでいく。
時々、同業者の戦闘音や魔力の反応を感じるけど、面倒は避けたいので危険が薄いと判断出来るのは避けていく。
それでも危ない場面を見た時は、少し高い建物から魔物を射ってそれとなくフォローをしておく。
けど、姿を見せると面倒な事になるからということで、避けようとしていたはずの弓を結局いつもの様に使ってしまった。
そうして自分に言い訳している内に、気がつけば17層への階段がある場所に着いていた。
16層の地下都市がコンセプトだろう様相からすれば、装飾と扉以外は何の変哲もない箱型のの平屋になっている。
誰が見ても、私達から見れば一瞬で分かる数字のロゴが描かれた看板をくぐり、こっちの世界の人からすると解読不能な言語で書かれた案内通りに進む。
建物の奥の押し戸をくぐりトイレの裏の壁にある目印を押し込むと、壁が後退しながら床が沈んでいき隠し階段が出現する。
もちろん、ここは正規のルートではイースターエッグなので、某ゲームの仕掛けが作動した音が茶目っ気たっぷりに流れるおまけ付きだ。
このダンジョンには、同じ様な正規ルート以外で次の回に降りれる手段がいくつも存在する。
この階層には、コンビニ隠し階段を含めて4つの方法がある。
1つ目は、階層の中心にぽっかりと空いた直径30mの穴で、着地手段とそこに居る魔物さえ何とか出来れば1番楽なルート。
2つ目は、正規ルートの階段のある祠の様なもののすぐ裏にあり、17層のボス部屋の目の前に出る通路。
3つ目は、張り巡らされた下水道の起点にある取水口の滝の裏にある謎のエレベーター。
4つ目がこのコンビニの階段で、ここを降りた先にある謎の水辺に目的のひとつがある。
長い階段をゆっくり降りながら、いつも疑問に思っている事を考える。
何故、何のためにわたし達はここに居るのだろう。
そう、余程図太い神経をしていても考えなかったことは無いと思いたい疑問だと思う。
事実は小説よりも奇なりと言うけれど、5年前のあの日に突然に帰れなくなった理由は未だに謎で、誰にも理由が分からない。
こっちでは5年も経っているのに、未だに解決の兆しも希望もなく、外部とのネットは繋がっているものの、日々絶望が募るばかりなのだ。
そればかりか、最近この世界がサーバー上に再現されたゲームではなく、本当の現実かもしれないという示唆もある。
理由は、星の配置が現実と同じものや実際に地球で見えるのとは違っている物があるが、こちらで撮ったスクショをあちらで分析した人からは、見え方以外は全く同じだと言われたそうだ。
この事実は、囚われた当初にここをゲームと思いキャラをキルして脱出しようとしたプレイヤーが、本当に死んだかもしれないと暗に私達に突きつけてきた。
また、わたしの様にゲームアバターと性別が違っているプレイヤーは、例え帰れても元の自分に戻れないと諦めている。
これは、外面よりの問題というよりは本人の意思の問題だろうけども、この差を受けいれた人もいれば、未だに抗おうとしている人もいる。
わたしはどうかと言われれば、答えはあるのだけどもあまり気持ちの良い内容では無いと思うし、人によっては聞きたくないと思う。
意味も無い事を考えていると、いつの間にか1階段は終わりを告げていた。
「さて、今日は誰もいなさそうかなぁ…」
降りた先の岩の隙間をぬけると貸切状態で、そこにいるのは依頼された大理石を甲殻にしているヤドカリ(?)な魔物がカサカサしてるだけだ。
見た目は完全にでかいヤドカリか某ゲームの盾蟹を小さくした感じで、立派な甲殻を持った一対の爪足によく分かんない魔物の頭蓋を殻にしている。
当然の如く、ヤドはすざましく硬い上に甲殻は固い癖に衝撃で品質に影響が出るので、あまり悠長な手段は取れない。
だから、ここでは弓もダートも防具もしまって防御よりも素早さを取る。
その代わりに攻撃力を補うために2振り目の片手剣を取り出す。
この姉妹剣は、獣タイプに特攻のある紫で細身のガスト、悪魔に特攻のあるライトブルーで長めのアヴァランチと言う。
けど、性能よりも他のゲームでお気に入りだったものと同じデザインだから使っている。




