第038話 浪漫飛行
我が妄想。……続きです。
あの後、婆さんから身体のコントロールを返された俺は連続した魔法使用が祟ったのか脱力していて、何故かシルヴィアさんに膝枕をされた状態で地面に寝転がり交わす言葉もなく夜が明けるのを待っていた。
そんな俺達に対し、不思議と魔物の残党が襲ってくる気配もなく、完全に戦意を喪失してしまったのか、足早に森へ消えていく姿が目に付いた。静寂の中、空に球状魔法陣が浮かび、赤い髪、赤いドレスを纏った天使が舞い降りる。……シャウラだった。地面に音も無くふわりと降り立ち、こちらにトコトコと歩み寄ってくる。右側の口角を上げ、ドヤ顔の笑顔で腕組みをしながら俺に言葉を掛けてきた。
「二代目殿、調子は如何じゃ?」
「……身体中が痛いし、頭ん中が引っ掻き回されて最悪な気分だ」
「まさか、お主の中にヤツが居ったとわのぉ。道理で脳内容量が圧迫されている訳じゃよ」
「けれど、そのお陰で助かった。シャウラも、ありがとう」
「なんじゃ、言葉だけか、つまらんのぅ。ここは態度で、そうじゃ血で……」
「また今度な」
「ぬぅ」
まだ心持ち、ダルいので次が何時になるか判らない「また今度」を使い適当な返事をする。シャウラの「……最後まで言わせろなのじゃー」と言葉尻に余韻を残していたが、どうやらシャウラも元に戻ったらしい。や、どちらが元なのか判らなくなったけれど。
そこへ東門から姉さんとその仲間達がやって来た。カエデさん、ダイフクさん夫婦にその娘のサクラ。そして魔法使いの格好をしたお姉さん。如何やら東門に出現したロックゴーレムをフルボッコにしたメンバーらしい。俺の頭上で若干疲れた顔をしているダイフクさんと顎に手をあてニヤ付いているカエデさんの二人がシルヴィアさんとそんな情報交換をしていた。そんな目で見ないで下さい、カエデさん。
「……しかし、何とか命拾いしたが色々あり過ぎて酷い一日だったよ、まったく。これからまだ残務整理があると思うと頭が痛いよ」
「ふふふ、穏やかな顔をしているね、シルヴィア。心の整理が付いたのかな」
「間接的だけれど会いたい人に会えた。」
「いい歳してまだまだ甘えたい盛りなんだね、シルヴィアは」
「あぁん」
「おっ、と」
そして笑い合う二人。シルヴィアさんとカエデさんが何かを判り合った感じなのか。それを俺とダイフクさんが訳も判らず見ていた。
「……ッ???!!!」
その隙を縫う様に、姉さんが横になっている俺に近づき無言で腹にパンチをくれた。
あんまりだと思ったが、そのまま腹の上に覆い被さり顔を隠しながら身体を小刻みに震わせていたのを見た時、「無駄に勘のいい姉さんへ心配を掛けさせてしまった罰なんだろうな」と思い直す事にした。突然の事で周りに居た誰もが姉さんの行為を止める事が出来ず固まっていたけれど、その姿を見て各々が何かを感じ取っていた様だった。
少し落ち着いた辺りで、みんなにイーエヌ・デーの死体を如何しようか相談したところ、動物や魔物に食い散らかされたり流行り病の元凶やアンデッド化の恐れ等を考慮し荼毘に付す事になった。ちなみにシャウラから光属性浄化魔法の<グランドクロス>を提案されたが、フィオナさんと魔法使いのお姉さんから数人掛かりの戦術級は止めた方がいいと渋い顔のジト目で言われた。確かに脳内ライブラリに登録されていたけれど、もしかして個人でも発動できるのか。……婆さん然り、シャウラ然り、何故こうも大規模魔法を使いたがるのかな。
兎も角、ぶつぶつ文句を言っていたシャウラの指示の元、魔杖<スコルピオン>を使って脳内ライブラリから土属性魔法<アースホール>を呼び出して深めの穴を掘り、パーティーに居た魔法使いのお姉さんが簡易ながら火属性魔法の<フレイムピラー>で豪快に火葬して、穴を埋めて申し訳程度の石を置いて手を合わせた。
ちょっとした時間が取られたけれど南門へと引き返すと、各門で守備に当たっていた村の男衆や自警団の男衆や弓、魔法使いの方々も戻ってきていた。見た感じ、怪我人が数人居た様だけれど、人的被害は少なそうなのでホッとした。普段の生活に影響は無さそうだ。よかった。
村の被害としては第二外壁の東門がもっとも損傷激しく、残骸の移動や門扉の補修に時間が掛かりそうとの事だった。平行して魔物の死骸撤去も骨が折れそうだ。
南門は特に問題はなかったが森の外縁部付近に俺の使った土魔法<ストーンファング>で夥しい数ので串刺しにされた魔物の死骸が晒されており、岩の柱の撤去と死骸が腐敗する前に素早い処理が必要とされた。最悪、素材は放棄して魔石だけ確保するそうだ。……申し訳ない。
西門はそれ程の被害もなく、東門と南門に殺到した大群から溢れた魔物群と思われた。それでも門前や壁際には結構な数の死骸が積み重ねられたそうで、村の自警団隊長のエボイを筆頭に守備に当たった者達の頑張りが窺い知れた。
憶測だけれど、東門と南門は名も知らぬ神官っぽい男、仮名としてイーエヌ・デーが向かおうとしていた場所は、どうやら帰らずの森と別館裏にある遺跡群を結ぶ進路上であり、戦力として連れてきたロックゴーレムに追い立てられた魔物群がその2箇所に集中した為だと推測された。人が集まると色々な情報もやり取りされて、あっという間に時間が過ぎ去り、気が付けば陽も昇り始め空の色も黒に近い濃紺から白色に塗り潰され、そして薄い青色に代わっていた。
そんな晴れやかな空を見上げていると、森の向こう側、西の方角から一隻の空に浮かぶ飛空艇が音も無く滑る様にやって来た。水上船の船底をひっくりかえした形で側面下部から何本かの櫂っぽい突起物が出ていて波打つ感じで規則正しく動いている。如何にもファンタジー的な飛空艇と云った様相の飛行物体で所々にプロペラも付いていて謎の動力で航行している様だ。
「そ、空飛ぶ、団子虫?」
「そこは飛空艇だろう、姉さん……」
「輔、輔、船が空飛んでるよ。なんか凄く非日常的な光景だね」
「ああ、そうだね」
「お、ありゃあ、ジョンの法船か?アスタネの野郎、領都まで連絡付けたのか」
夜明けの空に太陽の光を浴びて飛空艇が浮かんでいる。この世界では法船と言うそうだが、現存数も少なく大変貴重な代物らしい。普段見る事がないから見れたら幸運になるジンクスも有るそうだ。ダイフクさんが興奮してスペックや法船に関する歴史やエピソード等、色々と口早に説明してくれた。漢ってこういったの好きだよね。俺もだけれど。
村の様子を確認する様に上空を旋回した後、今は別館裏の岩山西側中腹部辺りに接舷していた。ダイフクさん曰く、如何やらそこら近辺に乗降用のタラップが存在していた様だ。「そんな話聞いてないよ。知っていたら速攻で見に行ってたわ」と、今更ながらに心の中で叫んでしまった。
しばらくすると、そこから降りてきた煌びやかな一団がやってきた。泰然自若と歩いている爺さんを先頭に高貴な装飾を施されたサーコート風な外套を羽織り優雅に礼装服を纏い左手に大きな魔杖を持った女性を案内している様だった。後ろに続くは婆さんの記憶で見た何人かの人物と騎士っぽい出で立ちの者と只者ではなさそうなメイド数人。
横に居た姉さんのツーサイドアップにした髪の毛が逆立っている。長期休み毎にリハビリを兼ねた地獄のブートキャンプをした思い出が過ぎる。紛うことなき我等姉弟の天敵の登場である。思わず身構えてしまった俺達の警戒心を余所にゆっくりと歩いてくる。場所が場所の所為なのか向こうに居た頃と違った雰囲気を醸し出している。
爺さんの性格だけで考えれば近所の面倒見のいいおっさんって感じなのだけれど、外見は生きた時間を刻み込んだ顔をしている歳相応の爺さんである。結構な年齢を重ねているとは云え、体格が180センチ半ばで体重も100キロ近く、かと云って贅肉ではなく全体的に筋肉質で背筋もピンとしており、黒に白が混じったグレーの髪は後ろへ無造作に流し撫で付けられ、眼光も鋭く鼻の下にはもさっとした髭を蓄え、殆どの人からすれば威圧感を持つであろう容姿をした人物。
あの記憶で見た少年の成れの果て、いい感じに歳を取るとこんな風になるのかと思ってしまった。そう思ったのも束の間、俺達を見つけた瞬間凛々しかった顔は一気に綻び相変わらずのいい笑顔に代わった。「亮に輔?!お前等っ、こっちに来てたのか!!」と、言ったのと同時に、駆け出してきてゴッツイ腕当てを付けた右腕を振り上げ殴り掛かってきた。奇襲が無かった分マシだけれど、何時ものパターンかと思ったら案の定、姉さんが俺の前に素早く立ち塞がり「爺さんの相手はボクだっ!!」と叫びながら<更綱>を抜刀すると駆け寄ってきた爺さんの拳を弾いた。……なんだかんだと言ってはみても血を受け継いでいるだけ君達は似ているよ。
周りから「おおっ」なんて声が幾つも聞こえてきたけれど、案内してきた人達をほったらかしにした爺さんと姉さんが数合程、金属音を響かせながら剣と拳をぶつけ遣り合っている。「亮っ、少し見ないうちに強くなったなぁ!!」なんて獰猛な笑みを浮かべ雄叫びを上げている。明らかに姉さんは押されていて幾合かしたら姉さんは負けるだろうな。……しかし、何故こうなるか。
兎も角、俺とシャウラは二人と同じ人種じゃないアピールも兼ねてその場から少し離れ、ザワ付いている周りを遠回しでその様子を見ていると、見慣れた謎の米国人が横の方から近づいて言葉を掛けてきた。
「HAHAHAー。何故も何も、<ふじの湯>じゃ日常茶飯事だろう、輔ボーイ。しかし、相変わらず鋭い斬撃を放つねぇ、亮ちゃんは。で、ユー達もこっちに来ていたのかい?」
「あ、ジョンさんお久しぶりです。ジョンさんもこっちの人だったんですね」
「イェース、そーだね。仕事であそこのプリンセスのお守りが入ったから、ユー達の来訪が延期したって聞いてたからねー。今回は会えないかと思っていたんだけど、元気そうで何よりだね」
「そうですね」
そんなやり取りをして俺とジョンは二人の模擬戦に目を向ける。爺さんと姉さんの向こう側で、急に始まった模擬戦を見守る一団、ジョンはその中心にいる自分の背丈ほどの魔杖を握り、手に力を入れながら観戦しているお姫様を見やる。俺も釣られて目を向ける。お姫様にしては緩っとした雰囲気も無く、眼鏡の奥に見える瞳には力強さを感じさせ、何時でも戦闘出来ますよ、って按配の動き易そうで凛々しい軍服っぽい服装をしたお姿だ。チラリとこちらに目を向けた感じがしたので、余りジロジロ見るのも失礼かと思い、爺さんと姉さんの模擬戦を見ている風を装い、ジョンとの会話を続ける。
「……どうやら偶然こっちに来てしまったみたいです。……と言うか、ジョンもこっちの言葉使ってるんだから、中途半端な英語止めましょうよ」
「くっ、子供騙しもここまでかー。……ん、ゆー、君達の場合は往々にしてお絹さんが絡んでそうだから、こっちに来たのって偶然ってより必然だろうね」
「……多分、そうなんでしょうね」
「魔物の氾濫の話を聞いて急いで来たんだけれど、取り合えず、この村と君達が無事で何よりだ。後で色々と聞かせてくれよ、その横に居るお絹さん似の娘の事とか、あの光の柱の事とか」
「えぇー……」
ジョンは白い歯を光らせながらニヤリと笑みを浮かべそう言ってくるが、非常に面倒臭い案件だ、誰かに丸投げしたい。
そのジョン曰く、魔物の氾濫で斥候を勤めたダイフクさんが村に戻ってくる際に、伝言を頼んだ冒険者達が街のギルドに報告したら、そこのギルド長アスタネさんが街の横を流れている大河の下流にある領都へ、水路と早馬を使って連絡を入れてくれたのだそうだ。
領都には爺さん達が要人護衛の為に滞在していたらしいのだけれど、国を跨ぎ存在する機関であるギルド経由からの連絡は、伝達事項の上位に当たるので領都城へスムーズに通り素早く情報が届けられたのだと云う。連絡を受けた者達は魔物の氾濫が起きてもしばらくは篭城戦で持ち堪えるだろうと憶測したのだが、村で留守を預かっている傭兵団員の数も少ない事から、最終的に爺さんの判断で村に戻る事になった。
素早く準備を始めた一行は移動方法として、一緒に行動している彼の所有の法船<エンタープライズ号>で空を駆り、村に出来るだけ早く帰る。現着するといった計画を立てられた。余談として、「何でエンタープライズ号なの?」って聞いてみたら「米国人としたら当然だろう!!」 って力説された。
問題だったのは、要人護衛の任務を途中で放棄して大丈夫なのか?と言う事だったのだが、護衛対象の要人であるこの国の第一王女様が「私が皆さんと一緒に行動すれば護衛の弁が立ちます。なので私も同行します」と言ったのだとか。ただ、護衛の騎士団や随伴の女官達は激しく反対したそうで、妥協案としてその中の数名を伴い一緒に移動する事で決着が付いた。となれば、膳は急げと昨日の夕方に当地を治める辺境伯への挨拶もそこそこに領都を出発して夜通し運行してきたという話。
ジョンからの説明が終わった辺りで爺さんと姉さんの模擬戦は爺さんの勝利で終わった。勝利と言っても、殆ど姉さんに対し稽古を付けて居た様に見えたけれど。そして周りの盛り上がりが凄かった事も追記しておく。
読んで頂き有り難うございます。
構成を考えず直感で自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。
120%の適当加減さ。中途半端な知識を妄想でブレンドして、勢いと雰囲気だけで誤魔化そうとしています。
読み手に対する時間泥棒な作文です。読み辛い部分が多々有ると思いますが、そこは平にご容赦を。




