第021話 森の熊さん
続きです。
帰らずの森の中。街まで続く知る人ぞ知る、獣しか通らない様な険しい道。数度の獣との遭遇戦。そして今もその血に誘われ現れた体高2メートルの赤い目をした魔物、レッドベアとの戦闘も難無くこなすダイフク親子。
「おしっ、腕を上げたな、サクラ」
「毎日、剣の訓練していたし。それにサクラだってじーさんの血を引いているからね」
「俺としちゃあ、商才の方も受け継いで欲しかったんだがなぁ、ははは」
「そいやぁっ!!
掛け声と共に振り下ろさす両刃の剣。それが止めの一撃となり、斬撃を受けた大きな熊はズズンと音を立て崩れ落ちる。
「しかし普段より森が獣が騒がしいな。赤目まで出てくるとなるとただ事じゃない。サクラ、街から戻ってくる時、何か聞かなかったか?」
「特になにも聞いていない。そもそも村に戻る時もなんも出なくて拍子抜け食らったぐらいだし……」
「そうか、しばらくこの道は使えないな。取り敢えず街に急ぐぞ、そこで情報収集だ」
剥ぎ取りが出来なかった部分を漁りにやってくる他の獣に遭遇する恐れが有る為、帰りの道は別の、少し遠回りになるルートを算段するダイフク。そんな会話をしながらサクラが周囲を警戒し、ダイフクは獲物を必要最低限で剥ぎ取り作業を終え、再び移動を開始する。
警戒しつつ森の安全地帯で一泊し、次の日の朝方、森の出口でも在る街道に出て、普段より多くの護衛を連れた馬車の往来を横目にその道を急ぐ。
昼ぐらいに街へ到着し、ちょっとした砦規模の外壁を抜け、オクノモリ商会支店に顔を出して荷物を置いてから冒険者ギルドに向かう。
正午を回る時間帯の冒険者ギルドは普段と違い、とても賑わっていた。ギルド建屋の内部には酒場兼食事処が併設されあり、何時もは昼食を摂っている人間ぐらいしか居ないのだが、今日はやたらと混雑している。
「73番受付割符をお持ちの方、3番カウンターまでお越し下さーい」
「パーティー名<森の人>リーダーのカトゥーヤ様、大変お待たせしました。買い取り査定が終了しました。ご覧の金額になりますが如何でしょうか?」
「申し訳ございません。ただいま、冒険者の緊急召集発生の為、依頼は締め切らせて貰っています。ご不便をお掛けしますが、ご了承の程を宜しくお願い致します」
「74番受付割符をお持ちの方、1番カウンターまで……」
奥に設置されたギルドの受付カウンターは冒険者達でごった返していた。受付カウンターの嬢達に混じり男性職員も応援に入り昼返上で対応に追われている。カウンターで使用した番号割符を籠に入れ、再利用の為にギルド入り口に持っていくと待ってましたとばかりに冒険者達が群がり若い番号の割符から順に持っていく。
待合の長椅子はがたいのいい冒険者風の男達や女性達で全てが埋まり、座れない者は壁際、通路でその身体を所在無さげしながら立ち自分の順番を待っている。何時もは我先にと騒ぐ強面の男達はイライラとした様子ながらも行儀よく順番を守っている。騒ぎを起こして余計な時間を食うのを嫌った結果だった。
「繁盛してるじゃないか、こりゃ時間を改めて来た方がよかったか……おっ」
そんな静かながらも殺伐とした空気の中、二階に続く階段から冒険者達とは違う規格が統一された制服を着た男達が降りてくる。この街を守備する衛兵だ。その中に1人だけ黒いレザーのジャケットを羽織った茶髪でマッシュルームカットの優男が混じっていた。この街の冒険者ギルド長であるアスタネだ。
ギルド長と握手交わして制服の男達は去っていくのを見て、ダイフク親子はチャンスとばかりにギルド長へ声をかける。
「よう、アスタネ。ちょいといいか?」
「おや、ダイフクにサクラちゃんじゃない。こんな時期に2人だけでよく無事に森を抜けて来られたね」
「なんだよ、その言い方は。街に着く前から嫌な予感がしていたんだが、やっぱりそうなのか?」
「まぁ、丁度、商談も終わったし、ここじゃ人目もある。ちょっと上に行こうか」
賑わっているギルドの受付カウンターを尻目に二階への階段を上がり、自分の部屋へと二人を招き入れる。ダイフク親子を応接ソファーに座らせ、自分は壁際の机に設えている湯沸しの魔道具で水の入ったポットを温め始める。
アスタネはお茶を入れる作業をしながら独り言を始める。
「ここ2,3日前から帰らずの森、森林鉱山での魔物の目撃情報が増え始めている」
「今ちょっとしたボーナスステージに突入で冒険者達も魔物狩りに勤しんでいるんだけれど如何せん、魔物の数が多い」
「たまたま偶然、そんな時期なのかもしれない。或いは魔物の氾濫の前兆かもしれない。確証がないから断言出来ない」
「しかも獣系しか居ない筈の森で人型の魔物の目撃情報まで上がってきた」
「不測の事態に備えて色々と手を打っているんだけれどね。さっきの衛兵の隊長さんもその一手なんだけれども、一応、領都の方にも連絡は入れてる」
「……ふむ、こんなもんか。如何思う?」
手際よくお茶を淹れ、カップに最後の一滴まで注ぎ、独り言も終え、ソファーに座る二人の前に持ってきてカップの載ったソーサーを差し出す。
「過去に溢れた時は上手い事押さえ込めたんだろう。なら今回もそれに倣ってやればいいんじゃないか。あ、俺、砂糖二つ」
「倣ってはいるんだがやっぱり不安でな、ほらよ。サクラちゃんは幾つ?」
「アスタネさん、ギルド長の淹れるお茶はとても美味いからこのままでも大丈夫です」
「流石、よく判ってるね。オジサンは嬉しいよ」
「正直こればっかりは為る様にしか為らないからなぁ。色々と手は打って有るんだろ?」
「人手は幾らあってもいいと思っている。久しぶりに森の奥から出張ってきたんだ、折角だからお前さんのトコにもちょいと手伝って欲しい」
「今、ウチの所のお館様は領都の方に行っているからな、頼むならそっちだ。他人事じゃないから連絡入れれば飛んで来るんじゃないか?」
「へぇ、そりゃ都合がいい。近いから直ぐに使いを出せる。それまではお前さんを格安で馬車馬の様に使いたい。と、言ったら引き受けてくれるか?」
「そうだな。お友達価格で割り増しで引き受けてやる」
「……言ってろ」
「はっはっはっ」
「ははは」
街のギルド長とそんなやり取りをしたんだがな。ギルドの手伝いを始めて3日後に状況が一変した。街に接する森の魔物が減ったんだ。
正確には冒険者や衛兵以外の何者かにヤられたのか、はたまた同士討ちしたのか、結構な数の小、中型の魔物が殺された形跡を残し、大半の魔物が森の奥に逃げ込んだ様だった。
ギルドに登録しているパーティー何組かと森の外縁部の山を越えた辺りまで追跡調査をしたんだが、魔物の死骸が何かに追い立てられる様に、中心の方に向かって点々と見つかってな。
何かが村に向かっている、そんな気配を感じて随行パーティーには街に戻って貰いギルドに連絡を頼んで、俺達は急いで村の戻ってきたんだ。
運が良かったのか悪かったのかは判らないが、これと言って奥に逃げ込んだと思われる大量の魔物に遭遇する事もなく無事に戻ってこられた。それが反って事態の深刻さを物語っている気がするんだ。
「……と、まぁ、こんな報告しか出来なくて、済まん」
「いいえ。むしろ急いでこの情報を持って帰ってきてくれた事に感謝します」
ここは別館の食堂。そして村に戻ってきた顛末を語ってくれたのはダイフクさん。
魔物の追跡調査と帰らずの森外縁部からの強行軍で若干の疲労が見られるけれど、語った言葉は力強く商人とは思えないタフネスさを垣間見せる。話を聞いていたのはシルヴィアさんを始め従業員達。夜の見張りに出る予定だった村の自警団の隊長さんと俺達3人。
「シルヴィア姉さん。これから如何するんで?」
「ダイフクさんの話を聞く限り、余り悠長な事をしている状況では無さそうね。ツヅラ、アオイ!」
「は、はいっ!」
「なんでしょう?」
「村の女性や子供はこの館まで避難させます。向こうでサクラさんにも話をして、手分けしてその連絡と避難誘導をお願いします」
「直ぐに行ってきます」
「いってきます」
「カエデさんはひと回り第二外壁の辺りの様子を見てきて貰えないかしら?」
「りょーかーい。ちょいと見て来る」
「エボイ。村の男衆に状況を話して、人手と武器を集めて魔物の襲撃に備えて貰います。宜しいですか?」
「ああ、ここは俺達の村だ、俺達が守らないで如何するよ。任せとけ、シルヴィア姉さん」
「ふふふ、とても頼もしい返事で心強いです。宜しくお願いしますね」
「ああっ、やってやるぜ!」
シルヴィアさんの方針も決まった様で矢継ぎ早にみんなに指示を出し、ツヅラさん、アオイさん、カエデさん、エボイと呼ばれた自警団の隊長さん達は部屋からはどんどん出て行く。
みんなが出て行った後、街からの強行軍だったダイフクさんにも少しでも休息を取る様に言いつけ、彼も渋々ながら自宅へ戻り仮眠をする事にした様だった。
一応、この屋敷は城で言う本丸扱いになり、更に館周りにも魔物避けの結界が張られているそうで、簡単には進入して来られず、集落に居るよりは幾分マシな場所になるらしい。非戦闘員が避難するには打って付けなのだそうだ。
読んで頂き有り難うございます。
構成を考えず直感で自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。
読み辛い部分も多々有ると思いますが、そこは平にご容赦を。
更新は気分的に、です。




