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散文の後/東風  作者: 新辺守久/小珠久武
序章 15歳 春休み<東北片田舎秘湯温泉ふじの湯>
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第002話 春休み2

2020/10/02 文章が長いので分割しました。

 そんなこんなで車外の風景は何時の間にか民家もまばらとなり農道は緩やかな山道へと変わり、道路脇に標示されている<ふじの湯>の案内板が見えてくる。車はその案内板のしめす方へと曲がる。

春もまだ遠く、いまだ雪が積もり合間から鬱蒼うっそうと生い茂った木々の所々で、白い吹き溜まりを作った山肌を横目に除雪された道路を軽自動車は俺達を乗せ目的地へひた走る。


 更に十数分後<ふじの湯>温泉に到着すると数台程お客さんの車が止まっていた。

先に俺と姉さんは着替えの入ったバックを抱え、建物近くに降ろしてもらい母さんは駐車場の端の方、従業員専用の場所に軽自動車を移動させ止める。

 姉さんを先頭に俺達はログハウスっぽい木造の建物へ入った。


 入り口の扉に据付けられた獣避けのベルの音がカランカランと軽快に鳴り来客した事を知らせる。


「いらっしゃいませー、お客様は何名様ですか?」と、反応よくカウンター越しに中で作業をしていたメイドさんが声を掛けてくる。


 山咲周やまさきあまねさん。普段から<ふじの湯>に住み込みで働いていて、仕事の邪魔にならない様に髪を肩口で切りそろえている眼鏡のお姉さんだ。

 中は小洒落た喫茶店っぽい感じのロビー兼受付カウンターがあり奥には調理場もあり軽い食事も出来る仕様だ。

 調理場の反対側は更に奥行きがあり、事務作業が出来る造りになっている。


「周姉さん、こんにちわ」

「周さん。お久しぶりです」

「あぁ、亮ちゃんに輔君、こんにちわ。そっか学生さんは春休みですか、いいですね」


 長期休みに何時もお世話になっている所為か俺達姉弟の少し歳の離れたお姉さん的な存在である。

 そんなやり取りをしていると後ろから再びドアベルの音が聞こえ、遅れて入ってきた母さんが声を掛けてくる。


「周ちゃんこんにちわ、母さん居る?」

「静さんこんにちわ。マスターは奥で書類と格闘していますよ」


 山咲さんはそう言って振り向く様に奥の方へ視線をやる。釣られて俺達親子もそちらの方へ視線を向ける。

 奥では外界の音が聞こえていない様な感じで忙しそうに机で書類をにらめながら、忙しそうにペンを走らせる秘湯温泉<ふじの湯>の女将おかみであり母さんの母親、つまり俺達からすれば婆さんがそこに居た。


「母さん、ただいま。手伝いに来た」


 老眼鏡とおぼしき眼鏡チェーンの付いたつるの部分を指でつまみ少し下げこちらを一瞥いちべつ


「あら、静。丁度良かった、助かる。亮に輔も、二人ともいらっしゃい」


 眉間にシワを寄せ険しくしていた顔は一転、柔和な笑顔になり書類と格闘するのを止めカウンターへ寄って来る。

 髪留めのかんざしを使い若干ブラウンの入った髪の毛を後ろでまとめ首から眼鏡チェーンが掛っている姿は出来る女を演出し、

今は和服を着ているけれど、スーツでも着ていれば何処かの社長秘書を想像させる姿は、とても孫が居ると判らないぐらいに見た目も若々しく、俺達の母さんもそんな感じなのだから実年齢より若く見えるのは血筋なのだろう。


「周さん、亮と輔を何時もの部屋に案内してもらえるかしら。静はこっちに来て手伝って頂戴」

「はい、マスター何時もの部屋ですね」

「うへぇ、到着していきなりかぁ」


 挨拶もそこそこに山咲さんに俺達の案内を頼むと、婆さんは母さんを連れて早速事務作業をするのか奥の方へと歩いて行った。


「亮ちゃんと輔君はこちらです。荷物をお持ちしましょうか?」

「これ位大丈夫、周姉さんには何時いつも迷惑掛けるね」

「俺の方も大丈夫。周さんまたお世話になります」

「私の仕事ですし、ここが好きで働いているので、二人とも気になさらずに何時も通りに楽にしていて下さい」


 周さんはニコリと微笑んで温泉宿泊用の通路とは反対側、住居兼寮へ続く渡り廊下へと案内してくれる。


「……そうえば何時いつも奇襲を掛けてくる爺さんの姿が見えないけれど何処かに出かけてる、とか?」


 我等が姉弟の天敵である鬼軍曹な爺さんの姿を見ていない。出掛けているならラッキー、今回の初日は楽が出来る。

 そんな期待を込めて周さんに爺さんの所在を聞いてみる。


「旦那様は別館の方で問題が発生したとかで、そちらお方へ行っております。お帰りは何時いつになるか不明なんだそうです。」

「ん?」はて、別館とかここに来て初めて聞く単語だ。

 爺さんが不在と聞いて小躍りしながら小さくガッツポーズを決めていた姉さんに聞いてみる。


「ふじの湯に別館ってったっけ?合宿で何度も来ているけれど聞いた事がないなぁ、姉さん知ってる?」

「や、知らない。でも何か不穏な感じがする」


 知らない様だ。けれども姉さんの直感に何かを訴えかけるモノが有ったらしい。

 姉さんの直感は結構的を射る事が多いので、信じたくはないが警戒しておいた方がいいのかもしれない。


 別館について何かしらの情報を知っているであろう周さんに質問したけれど詳細は知らないらしく


「ご免なさい、私からは詳しく話せないのです。マスターなら、或いはきちんと教えてくれるかもですよ?」


 と言われればこちらとしても深く追求は出来ず、お昼御飯の時に婆さんと母さんに聞いてみる事にする。


「では、私は仕事に戻るので何かあったら呼んで下さい」


 周さんに何時もの部屋へ案内され、俺達は担いでいた荷物を降ろし片付けをして、そこでようやく一息つく事が出来た。



 春休みの初日。こうして午前中は何時もいきなり修羅場に突入する様な合宿とは違い穏やかな感じで始まるのだった。

 ちなみに年度末絡みの役所等へ提出する書類と格闘していた母さんが「私の方が修羅場だったわ」と昼食時に愚痴をこぼしていた。

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