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現 3

 ほのかが死んだなんて嘘だ。そう判断して涼は夢の世界で幸せに過ごしていた。しかしもうあの日々は白く覆われてしまった。涼がようやく退院した翌日、「人が死んでしまった」という理由で歩道橋がとり壊された。まさか歩道橋がいつまでも残っていたのは、ほのかを突き落とすためだったのか。もっと早くとり壊していれば……ほのかは死ななかった。涼はもう二度と歩道橋を渡らないと決めた。ほのかが死んでしまったという事実を頭から葬り去るためだ。

 いつの間にか冬が来ていた。毎年のように雪が降っているのに、ほのかはいない。医師は夢の中と言っていたが未だに信じられなかった。

 そういえば、ほのかはほうじ茶が好きだった。涼は熱いほうじ茶を飲んだ。それと同時に涙が溢れた。

 自分も死んでしまおうかと考えたが、そんなことをしても意味がないと思った。涼が死んだらほのかが生き返るわけではないし、あの世でほのかに会えるわけでもない。ほのかだって涼に死んでほしくないと思うはずだ。涼が現実の世界で真っ直ぐ前を向いて生きてほしいから、もう別れると決めたのだ。ほのかの想いを無下にしたくない。

 やはり雪も冬も嫌いだ。どうしてほのかは好きだなんて言ったのだろう。自分の大切な命を奪ったのは雪なのに……。

 もう過去には戻れない。ほのかが死んでしまったことを受け入れなくてはいけない。涼はずっと悪夢の中を歩き続けた。

 高校を卒業すると、涼は家から出ると洋子と雄一に言った。

「雪を見たらほのかを思い出すんだ。こんな思いで生きていたくない」

 すぐに二人は頷いた。涼と同じ気持ちだったのだろう。

「もう二度とここには帰ってこないから」

 しっかりと宣言した。すると洋子が目を赤くしながら何か渡した。

「これ、持っていって」

 一枚の封筒だった。涼は何も言わず鞄の中にしまった。

 電車に乗り、どこに行こうか考えた。どこへ行っても寒くなれば雪は降るだろう。だが違う場所に行けばほのかの姿を思い出すことはないと考えた。完全にほのかを忘れることは無理だ。ずっといつまでも、死ぬまで涼の心の中に残り続ける。それでも涼は前を向いて生きていかなくてはいけない。ほのかの死を受け入れなくてはいけない。

 ふと洋子にもらった封筒を思い出した。鞄から取り出し中に入っているものを見た。手紙だと思ったが写真だった。入学式に行く前に洋子に撮られてしまったほのかとの2ショット写真だ。涼は怒ったように顔をしかめているが、となりには輝く目をしたほのかが笑っていた。これから新しい生活が始まるんだというとてつもなく幸せな笑顔だった。この数時間後、まさか自分があんな酷い目に遭うとは本当に……夢にも思わなかった。涼は声が出ないように口を塞ぎ、ぼろぼろと涙を流した。




 


 大学生になって初めての冬が来た。クラスメイトの男子が大きな声を出していた。

「俺、昨日、雪で滑って転びそうになったんだよ。すげえ怖かったよ」

 聞いていたもう一人の男子も頷いた。

「俺もこの前倒れそうになった。雪って危ないよな」

 そう言うと二人はそばにいた涼に目を向けた。涼は出身地がどこなのか誰にも言っていなかったがなぜか見つめてきた。

 涼はそのまま黙って無視をしようとしていたが、口から言葉が漏れていた。

「高いところから落ちたりするしな」

 二人は顔を白くした。やけに話し方が現実的で怖かったようだ。涼は目をそらしその場から離れた。

 何も知らない人間が羨ましかった。涼がどれほど傷ついているのかあの二人にはわかるわけがない。自分の命よりも大切なものを失った悲しみは言葉では言い表せない。拳を握りしめ体を石のように固くしていた。全身に力を入れていないと心が粉々に砕け散ってしまうと思っていた。


 

 


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