44 ランキングNo.1
と、言うわけで今俺は、親父と一緒に応接室に居るわけだ。
「ライト伯爵、お待ちしておりました。奥様は先にお着きでしたので、用意させていただいた部屋でお休みいただいております。」
「うむ。いつも気遣いいただいてすまない。これが今年のお披露目に出す息子のロックだ。よろしく頼む。ロック、挨拶しろ。」
「初めまして、太守様。ロック・ライトと申します。このたびは部屋をご用意いただいたと伺っています。ご迷惑かとは思いますがよろしくお願いします。」
「おぉ!なんとしっかりした御子息だ!初めまして。私はこの町の太守を王より任じられているムバル・ダールと申します。ロック様、この時期はお披露目のために『命の川』経由で王都に入る貴族の方が多数通ります。その宿泊のお世話もこの町の太守の仕事ですから、迷惑など一切ないのですよ?短い時間ですがどうぞおくつろぎください。」
ムバル・ダールさんて言うのか。
他の貴族とかって見たことないから勝手にデップリ系の貴族然とした人を想像してたけど、全体的に小柄な人で、ロマンスグレーの髪をオールバックに固めて、手入れの行き届いた口ひげを蓄えた、ニコニコとした笑顔が良く似合う優しそうな50代のオジサンだった。
着てるものも派手さは無いけど、パッと見ていい生地を使って仕立てたのがわかるこげ茶の服で、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出している。
これで背が高くてブラックスーツに白手袋だったらセバスチャンと呼びたくなる雰囲気だ。
「有難うございます。ご用意いただいたお部屋は父上や母上と一緒ですか?」
「はい。この建物の中を抜けた裏手に宿泊用の別館がございます。何分、御利用いただく人数が多うございますので、一家族に一部屋しかご用意できないことはご容赦ください。」
「いいえ、普段から父上や母上と一緒に過ごしていますが、寝室も一緒だったことは無いので、今から楽しみです。」
「そうおっしゃっていただけますとこちらも気が楽になります。」
「ムバル殿、先触れは出したが楽器の固定台と、練習を出来るよう部屋の用意をお願いした件は問題ないか?」
「はい。練習は今日明日中はホールの利用予定がありませんので、そちらをご利用ください。固定台についても先ほど届きましたので、ホールに運ばせてあります。」
「うむ。何から何まですまないな。」
「とんでも有りません。こちらで練習されると言うことは、お披露目の時に演奏する為と思われますし、ぜひ素晴らしい演奏を披露いただけるよう練習をしてください。」
おぉ、全てセッティング済ですか。
たった今、俺の心の中で彼はセバスチャンと呼びたい男ランキングNo.1にランクインした。
さっきまでは親父の秘書さん(数回見かけただけだから名前知らない)がNo.1だったけど、残念ながらちょっと太り気味なのか今回のランキング入れ替えの理由だ。
ちなみにこのランキング、まだNo.2までしかない。
年間通していろんな貴族が止まりに来るみたいだし、このくらい如才なく仕事が出来る人じゃないとこの町の太守も勤まらないんだろうな。
「早速、ホールを御利用になられますか?」
「いや、時間も中途半端だし、昼食後にさせていただこう。」
「了解しました。お食事は部屋にお運びしましょうか?」
「うむ。それで頼む。」
「では、早急にご用意を。」
そういうとセバ・・・ムバルさんは立ち上がった。
「ライト様をお部屋にご案内しろ。」
「はい。ライト様こちらになります。」
「うむ。」
返事と同時に部屋の扉が開き、ピシっとした黒い服の若い男性が先導してくれた。
太守の屋敷は、ライト家程ではないにせよ、かなり重厚な作りになっており、応接室を出た中央の廊下をまっすぐ奥に進んでいくと、大きなガラスの入った扉から光がさしていた。
この世界のガラスは高級品で、扉に入れるようなサイズのガラスとなると、ライト家でも本館にしか入ってない。
貴族が宿泊するための施設だし、見栄えなんかも重要なんだろう。
その扉を抜けると、街中とは思えない木々の生い茂った綺麗な中庭に出た。
そのまま庭の小道を歩いていくと、木々の向こうに3階建ての白っぽい石壁に緑色の屋根の建物が見えてきた。
やはりファンタジーと言えばセバスチャン的執事が必要だと思います。
ムバルさんは執事ではありませんけどね。
現実ではそんな老紳士に出会ったことは一度もありません。
日本人にとってセバスチャンと言う存在自体がファンタジーということですね。
明日も10時に投稿されます。




