辺境で 13 (アリス視点)
王都から辺境までは、朝早く出発しても到着は夕方になるみたい。
途中、休憩をはさむから、もう少し遅れるかもしれないとマチルダさんが説明してくれた。
マチルダさんは近くで私を護衛するために馬車に同乗して、私の前にすわっている。
私たちと話をしながらも、背筋をぴしっとさせて、窓の外を注視するマチルダさんは、とってもかっこいい!
そんなマチルダさんのことが、私は、すぐに好きになった。
私と侍女のメアリー、マチルダさんと3人で楽しく話していると、長い道のりが全然気にならない。
あっという間に、休憩場所についた。
マチルダさんに先導されて馬車から降りると、小さなお店のようなところに着いた。先に到着していた辺境騎士団の騎士さんたちが護衛するように立っている。
「ここは、辺境騎士団が王都へ向かう時に休憩に寄らせてもらうカフェなんです。ケーキがおいしいと評判なので、騎士団長様からアリス様の休憩場所はここにと指示がでています。あまりゆっくりはできませんが、もしよかったら、ケーキも食べてみて下さい。ちなみに、私はここのアップルパイが大好物なんです」
と、教えてくれたマチルダさん。
「アップルパイ! 私も大好きです!」
私の言葉に、マチルダさんが嬉しそうに微笑んだ。
カフェの中は貸し切りのようで、すでに、おいしそうな匂いがただよっていた。
「アリス様。申し訳ないのですが、今日はあまり時間がないもので、到着したらすぐに食べられるように、こちらで軽食を注文してあります。ですが、デザートはアリス様のお好きなケーキをお選びください」
と、マチルダさん。
やけに屈強な、優しい笑顔の男性がランチを運んできてくれた。
なんでも、元、辺境騎士団の騎士だった方で、お名前はジョンさん。
料理好きが高じて、今はパティシエの奥様のミシャさんと一緒にこのカフェを経営されているそう。
目の前に並べられたのはサンドイッチと野菜のサラダ、かぼちゃのスープ。
マチルダさんは軽食と言ったけれど、私には十分な量。
まずはスープを飲んでみた。
やさしい味がひろがって、体の中が、ほっこりとあたたかくなる。
次は野菜サラダ。
色とりどりのしゃっきりした野菜が甘くて、おいしい!
サンドイッチは、ハムと野菜の入ったものと卵のシンプルな2種類。
まずは、大好きな卵のサンドイッチから……。
「美味しい……!」
思わず、声がでた。
「ええ、本当に」
隣で食べているメアリーも大きくうなずいた。
すると、お茶を淹れてくれていたミシャさんが、
「よかったです! 今日のランチの野菜は全部、主人が作った野菜で、卵も、うちで飼っている鶏の卵なんです」
と、にこやかに教えてくれた。
「ジョンさんは騎士団にいたころ、騎士団長から許可を得て、騎士団の宿舎があるところに、小さい畑を作っていたんです。そこで収穫した野菜を騎士団の食堂で料理して俺たちに食べさせてくれたんですけど、ある時、俺がにんじんが嫌いだっていったら、にんじんのいろんな料理を作って、食べてみろって……。正直、俺ににんじんを食べさせようとするなんて悪魔か!? と思ったんですが、先輩だから断ることもできず、我慢して口にいれてみたら、びっくりするくらい美味くて……。それから、にんじんが食べられるようになったんですよ、俺」
と、懐かしそうに話すアールさん。
「今では、兄は、ここのにんじんケーキが一番のお気に入りで、誕生日に何が食べたい? って聞いたら、ここのにんじんケーキが食べたいって言うくらいなんです」
マチルダさんが笑いながら補足した。
屈強なアールさんが、お誕生日に、にんじんケーキが食べたいって言うのを想像したら、ほほえましくて、顔がゆるんでしまった。
わいわいと楽しい雰囲気でランチを食べ終わり、デザートにはアップルパイを頼んだ。
待っている間に、何気なく気になっていたことを聞いてみた。
「マチルダさんって、もしかして、赤い色が好きなんですか?」
「あ……はい。やっぱり、わかりますか?」
マチルダさんがそう答えた途端、隣のテーブルにいた、アールさんとロイスさんが笑った。
「そんだけ、赤い色をした物を身に着けていたら、誰だって気づくだろ、マチルダ」
と、笑いながら言ったアールさん。
「そう? 今日は赤い色の物はおさえてるはずだけど……」
マチルダさんがあわてたように、自分を見回している。
おさえてる……?
今、見えるだけでも、マチルダさんの髪を束ねるリボンは赤い色だし、靴ひもも赤い色。
制服のポケットにさしているペンも赤い色だし、さっき、バッグからとりだしたハンカチも赤い色だった。
更には、そのバッグにも赤い石がついている。
「お嬢は、赤い色の物を持たされすぎて麻痺してるんだよ」
と、これまた、笑いながら言ったロイスさん。
ん? 持たされる?
それってどういうこと……?




