閑話 フィリップのクリスマス、再び 後編
その日の午後、フィリップにつれられてやってきたのは、ある部屋の様子が見える場所だ。
そこにいたのは、ルイスとアリス嬢。
あ、そうか。
今日は月に一回のあのお茶会の日なのか……。
じゃない!
「フィリップ……。なんだあれは……?」
「ルイスとアリス嬢だけど。婚約者といえど、ふたりっきりにはさせられないからね。ちゃんと扉をあけて、お茶会をしてるなんて、ほんと、ルイスは紳士で素敵で……」
「そうじゃない! 俺が聞いているのは、ルイスの服装だ。あの服はなんだ? どうしたんだ、ルイスは……?」
「あ、気づいた? あの服がぼくからのプレゼントなんだ」
「はあ!? なんで!?」
「ちょっと、うるさいよ、ウルス。ルイスに聞こえちゃだろう? アリス嬢とのお茶会を邪魔したら、優しさの塊のルイスでもさすがに怒るよ?」
俺はあわてて口をふさいだ。
ルイスもまた、アリス嬢のこととなると沸点が低すぎるからな……。
いや、そんなことじゃない!
ルイスのあの服はなんなんだ!?
衣服に興味のない俺では的確に表現できないが、要点だけいえば、まっかな布地に首元と袖口には白いふわふわした何かがついている。
あんな服、見たことがないし、そもそも、あんな奇抜な服装をルイスは好まない。
フィリップならまだわかるが……。
俺は小さな声でフィリップにたずねた。
「ルイスのあの赤い服はなんだ……?」
「異世界では、神の子が生まれた日を祝う日に、赤い服をきた存在が子どもたちにプレゼントを配るんだって。つまり、みんなを幸せにする存在。それって、つまり、ルイスってことでしょ」
「……は?」
「は? じゃないよ、ウルス。ルイスはプレゼントを配らなくても、存在自体がプレゼントだからね。そこにいるだけで、みんなが幸せになるでしょ? まさに、ぴったりかなって。書物に渡り人が描いた挿絵もあったんだけど、それをぼくがルイスに似合うようにデザインしなおしてみたんだけど、……うん、我ながら、最高! 可愛さの中に、素敵さもあって、光り輝くルイスにぴったりだ!」
はしゃぐフィリップに、どっと疲労が押し寄せる。
余計に、意味がわからなくなってきた……。
「……ちなみに、フィリップ。どう言いくるめて、あの服をルイスに着せることができた? どう考えても、ルイスがあんな派手な服を自ら着るとは思えないんだが……」
「言いくるめるなんて失礼だね、ウルス。大好きな兄様のプレゼントなんだから、ルイスは喜んで着るに決まってるよ。まあ、でも、今日は異世界でのルイスの誕生日だからプレゼントするねって言ったら、恥ずかしがっちゃって『俺の誕生日は今日じゃないし、そんな服は着られない』って言ってたけどね」
やっぱりな……。
恥ずかしがるどころか、それがルイスの本心そのままだろ。
なのに、なぜ、ルイスは好みとは違う派手な服を着ているのか。
しかも、ルイスにとったら、なにより大事なアリス嬢の茶会で……。
絶対、何か、フィリップが言ったに違いない。
「一体、なにを話して、ルイスはあんな状態になってるんだ……?」
「んー、なんだっけ……? あ、そうそう。異世界では神の子が生まれた祝いの日に、この特別な赤い服を着れば、大切な人を幸せにできるって言われているんだって。ちょうど、アリス嬢とのお茶会があるのも運命だよねって言ったら、ルイスがすぐに着るって言ったんだよねー」
「はあ……!? それ、さっき言ってたことと、全然、違うだろう? 何、堂々と嘘ついてるんだ!?」
「嘘なんかついてないけど? さっきも言ったけど、ルイスはそこにいるだけでまわりを幸せにしてるんだから、嘘じゃない。それに、アリス嬢は生粋の天使ルイスの婚約者なんだよ? どれだけ幸せなんだか」
「いやいやいや、おかしいことばかりだろう! それにだ、フィリップの言い分で言うと、ルイスはいるだけで幸せにできるのなら、それこそ、赤い服を着る必要はないってことだろう? ルイスをだまして、あんな服を着せて、誰の得になる!?」
「そりゃあ、誰の得っていったら、僕だよね。だって、僕が見たかったから、プレゼントしたんだし。うん、やっぱり、ルイスはなにを着ても似合うよねー!」
そう言って、心からの笑顔を見せたフィリップ。
その視線の先を追って、赤い服を着たルイスを改めて見る。
圧倒的な美貌に、何故か、白いふわふわ付きの赤い服が異様にマッチしている。
見たことのないルイスの一面を見たような新鮮さに、ルイスの顔を見慣れた俺ですら、目を奪われてしまう。
ふと、金色のマフラーをまいた自分と比べた。
全く縁がない物を身に着けているのは同じはずなのに、こうも結果が変わるのか……。
やはり顔面の違いなのか……?
と、多少ショックを受けつつ、お茶会の様子を見ていると、別の衝撃を受けた。
そう、アリス嬢だ。
こんな新鮮なルイスの姿を前にしても、その美貌に微塵も見とれることもなく、義務のように淡々と甘いものを食べ続けているアリス嬢。
その様子を食い入るように見つめる赤い服を着たルイス。
そして、ふたりの距離はいまだ遠い……。
どんなド派手な服を着ようが負けない顔面を持つルイス。
ド派手なマフラーに完全に存在を消されてしまっている俺。
正反対に思える俺とルイス。
でも、いろいろ苦労している点では同じ。仲間よ……。
シュールなお茶会を見ながら、俺は心の中で叫んだ。
ルイス、がんばれ!
去年、他のサイトで更新していたフィリップのクリスマス話をこちらで更新し忘れていたため、今年、2年分のフィリップのクリスマス話になってしまいました。読んでくださった方、ありがとうございました!




