気付かなかったこと/リール視点
「この間言ってたアクトスがこの街に来ているらしいよ」
セリンの言葉に朝食を食べる手が止まった。
「誰だっけ?」
「もー! ライトはぼんやりして! この間リールが言ってた人だよ」
「あーそうだった。そうだった。リール君が探してる人だっけ?」
「いえ……探してはいないです」
そろそろじゃないかとは思っていた。アクトス達が俺をパーティーから追い出して間もなく、セリンがパーティーに加入していた。
アクトス達への対応はまだ決めかねていた。半殺しで二度と戦えない身体にしてしまうのが得策ではあるが、正直まとめて殺してしまっても問題ないのでは? という思いが生まれ始めていたのも事実だった。
「あれ? そうなの? じゃあアクトスって人もリール君を探してる訳じゃないのか」
「聞いた話だと魔王討伐の途中らしいよ」
「そうか、勇者だったね。なんとか魔王を倒して欲しいものだねえ……。特に最近は魔物の被害者が多くてね」
「私もお手伝い出来ないかしら? 回復魔法ならちょっと自信あるんだけどな!」
「ダメだ!」
思わず大きな声が出てしまった。完全に冷静さを欠いた対応になってしまった。
「び、びっくりした……。リール、突然どうしたのよ」
当然聞くにきまっている。隠していてもしょうがないことではあった。
俺は、アクトス達から受けた暴行の事を全て二人に話した。
当時の俺は、それが恥ずかしことだと思い、家族にも話すことはなかった。
これは大人になったからこそ分かったことだ。負けたことを誰かに話すことこそが、最初の戦いなのだと。より強さが必要なのだと。
「……」
二人は俺の話を黙って聞いていた。セリンは泣いているようにも見えた。
「何となく分かっていたよ」
ライトが優しく言った。
「傷口から、魔物ではなく、人間の手による、かなり酷い暴行だってね……。話してくれてありがとう。辛かったね」
その言葉に胸が熱くなった。そう、辛かったのだ。辛くて辛くて仕方がなかったのだ。
ずっと―――誰かにその言葉をかけて欲しかったのかもしれない。
「絶対に許せない!! そんな人間が勇者を名乗る資格はないわ!!」
セリンが勢いよく席を立った。今にも家から飛び出してアクトスに殴りかかる勢いだった。
「子供を守るのが勇者の大事な仕事だと思うんだ」
ライトも力強く言った。
「いったい何を……」
俺は聞いた。
「ちょっと懲らしめてくるよ」
当時―――こんな救いをどれだけ願っただろうか。アクトスが何かしらの罰を受けることを。
俺が事実を隠し必死に生きる一方で、アクトスはどんどん名声をあげ、ついには魔王を倒し、一国の英雄として王になった。
その時になってからアクトスの悪行を叫ぼうにも、すでに手の届かない地位についた奴らに意味はなかった。
まさか、こんな近くに救いの手があったとは想像すらしなかった。もちろん、当時の俺には気付くような余裕なんてある訳ない。
俺は必死に目を擦った。涙が止まらなかった。
ただ―――ふと我に返る。ライトとセリンがアクトスと対等に戦えるだろうか。今のアクトスはそこまで強くないとは言え、ケガをしてしまう可能性は十分にある。
とりあえず二人を止めようと顔を上げると―――すでに二人はいなかった。行動が早い!!
「ちょっと待って!! 俺も行くから!!!」
俺は必死に二人の背中を追った。
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