呪縛からの解放/リール視点
人通りが多い路地でアクトスのパーティを見つけた。セリンとライトが向かい合っている。
少し遅かったか。様子をうかがいながら、その辺で休んでいるおじさんから麦わら帽子を貸してもらい顔を隠した。今見つかったら話がややこしくなりそうだったからだ。
人ごみに紛れながら近づいていく。少しずつ話声が聞こえてくる。
「言いがかり……だな。そんなガキは知らない! そうだ! 証拠もないだろう? 勇者がそんなことをすると思うか? そうか! お前も勇者を目指しているのか! 魔王討伐を出し抜かれたくないんだろう?」
アクトスの声だった。セリンかライトに、俺にした暴行について責められたのだろう。何となく予想できる答えではあった。このまま白を切るつもりだろうか。
だが、ライトは力強く答えた。
「リール君の身体に残った微弱な魔力を抽出して残しています。仮にも勇者と名乗るのであれば、この言葉の意味が分かるでしょう?」
「ちっ……。噂通り高名な賢者様だな」
「では認めるのですね?」
「……」
「何か言いなさいよ!」
セリンが激しく詰め寄るが、アクトスは黙ってしまった。
まさかライトが俺の身体から魔力を抽出していたとは思わなかった。これならアクトスのやったことを証明できる。街の警備兵に伝えれば長い投獄になるだろう。
しかし―――年齢的に20代後半から30代前半だろうアクトス、ファクター、バルドルの弱々しさには驚いてしまう。アクトスの返答の自信のなさ、そしてそれを聞くファクターとバルドルの動揺っぷりがハッキリと分かる。
悪夢で見ていた彼らとは全く違う姿がそこにはあった。
俺が子供だったからこそ、その姿がより大きく、そして見せかけの迫力に押されて力を過大評価してしまったのだろう。
「……」
「……」
雑踏の声がよく聞こえる。二人の沈黙は、バルドルの叫び声によって切り裂かれた。
「死ねやこの野郎!!」
ライトに向かって持っていた巨大な斧を激しく振りおろした。
「反射!!!」
俺は飛び出しライトを守るために魔法を展開した。
バルドルの攻撃は反射を破れず強く押し返され、その反動で少し体勢を崩した。
その瞬間だった。
背後にライトとセリンの気配がないことに気付いた。一瞬の内に二人はバルドルに反撃をしかけていた。
「魔力強奪」
セリンがバルドルの肉体を補強する魔力を奪った。そして、
「肉体強化」
その言葉と共に、ライトの細身の肉体が大きく筋肉の鎧で纏われ、刃のような鋭い拳がバルドルの顎を捕らえた。膝から崩れ落ち、激しく痙攣をしている。
「脳を揺らした。しばらく安静にしてるといい」
ライトはアクトスとファクターを睨みつけた。
なんて強いんだ。賢者と言われていたが、明らかに格闘家の戦い方だ。なにより―――セリンとの連携の仕方と、魔力の流れと質が―――あまりにもプレミアと酷似している。
青ざめたアクトスは剣を抜き、ファクターが杖を構える。いよいよやる気のようだ。それと同時に人々の声が上がった。いつの間にか大勢の人が俺達を取り囲んでいた。
「喧嘩か?」「やれやれ~」「子供をリンチしたらしいよ」「その子供は酷いケガだったらしい」
「ライト先生! 悪に鉄槌を!」人ごみからそんな声が聞こえてくる。完全に野次馬だ。
「リール君、助けてくれてありがとう。やっぱり君は魔術師だったんだね。しかも只者じゃない」
ライトが朗らかに言った。
「……そうです。黙っていてすいません」
「言う必要もないさ」
「ちょっと! さっきの魔法ってリフレクトじゃない? え? え? 本当に? もしかして最近噂の4Sの天才魔術師ってもしかしてリールなわけ?」
天才魔術師―――その肩書が懐かしい。俺は頷いた。そのやり取りを見ていた野次馬達がさらにざわついたのが分かった。
「見かけによらないものねえ……。全然子供なのに……。私より強いなんて納得いかない」
セリンはちょっと不満そうに俺の顔を覗き込んだ。
「あーーー!!!! うだうだうるせえんだよ!!」
アクトスが大声を上げ、さらに言葉を続ける。
「いいか、俺達はそこにいる4Sの天才魔術師様を一度半殺しにしているんだ。俺達をなめるんじゃねえぞ。降参するなら今の内だ」
「私達を本気にさせたようね」
倒れているバルデスをアクトスは思い切り蹴飛ばし剣を抜いた。ファクターも続いて杖を構える。その姿をみた群衆は更に盛り上がった。もはや完全に見世物だ。
そう、この場所はもはやライトという青年が、アクトスという勇者の名を語る悪人を打ち倒すショーでしかないのだ。アクトス達には、群衆を怖がらせるだけの雰囲気は持ち合わせていないし、ライトより能力が低いことは怯えた姿を見れば明らかだった。
よく魔王の所まで辿り着けたな、というの正直な感想だ。この後にアクトス達が急成長をして、魔王のところに辿り着いたのだろうか?
ただ、魔王と『取引』をしたというのはよく分かった。結局、魔王を倒せなかったのだ。この能力では倒すことは不可能だ。倒せず、ただただ魔王に取り込まれたのだ。そのヘドロのような欲望を利用されたのだ。
ともあれ、今俺の目の前には憎き敵がいる。俺やプレミアが命をかけて辿り付こうとした人物がそこにいる。『プレーミア:火焔』なら10秒とかからず消し炭できるだろう。
アクトス、ファクター、バルドルをもう一度しっかりと見た。
しっかりと見れば見るほど、たかだか10歳の子供に怯え、集団で痛めつけることしかできなかった情けない大人がそこにいるだけだった。
俺は―――22年間―――こんな奴らに怯えていたのか。
俺は近くで見ていた武器商人の剣を拝借し、ライトとセリンの前に出て、剣を―――ゆっくりと抜いた。
「いいよ。相手をしてやる。ここでお前達とはサヨナラだ」
その言葉で群衆が沸いたのが分かった。いいさ、どんどん盛り上がれ。これはただの見世物だ。
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