レッドとの決着/プレミア視点
血。血液。なんでこんなに嫌な匂いがするんだろう。
もっと爽やかで、ちょっと甘い感じで、ああ……もっと心を静めてくれる匂いがすればいいのに。
それなら、もっと喜んで人を殺せるのに。
私は、隣に横たわる『それ』を見た。
レッドの心臓の鼓動はすでに止まっている。頭は―――ああ私の拳で粉々に砕いでしまった。目が合わないだけでも、こんなにも心が落ち着くのかと思う。
ママは仲間の兵士さん達に指示を出している。つい先ほど二つの連絡が入った。
一つは、ラグナロクをリール様が殺したということ。
もう一つは、ファクターがこちらに向かって軍を動かしたということ。
ラグナロクが死んだという情報は、本当に夢かと思った。あのラグナロクが死んだのだ。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も私達の邪魔をしてきたあの男が。
ついに死んだのだ。
リール様はどこまで私の願いを叶えてくれるのだろうか。アクトスを殺し、メテオを止め、ママは死なない。きっと、そんな星を掴むような願いを叶えてくれる人なのだろう。
「ファクター、まだ来ないのかな」
ファクターを殺すことは難しいことではない。所詮口だけの女だ。優秀な護衛がいなければ簡単に懐に入れるし、あの女にそこまでの人望もない。戦力的に優位な状況を作れれば兵士達は勝手に敗走する。
「一度、リールさん達と合流するらしいっすよ。あ、水いります?」
声をかけてきたのはドルビーだった。私はありがたく水を受け取った。
「ドルビー、さっきは守ってくれてありがとね」
「いやいや。しかし強いっすね。演習なんかで何度か『肉体強化』した姿は見てたけど、もっとエグいとは。その辺の岩くらい握力で握り潰せそうっすね」
「気持ち悪いでしょ。引いた? 私、あの姿嫌いなんだ」
「かっこよくていいと思うっすけどね」
「ありがと」
「こいつがレッドだっけ? 知り合いなんすか?」
「少しね」
「元カレみたいな?」
「あんたも死ぬ?」
「すません」
「まあ……戦友……だね」
「それは複雑っすねえ。言ってくれれば俺がやったのに」
「いいの。私のケジメみたいなものだから」
「やっぱ元カ―――」
「死にたいのね」
「すません。でもほんと強い奴でしたね。あれだけ魔力を溜め込んだプレミアさんのパンチを防ぎきって、かつ俺の盾をぶっ壊すんですから。あらかじめセリンさんに一枚余計に魔法壁を張ってもらわなかったら身体バラバラでしたよ」
「足、大丈夫なの? 酷いケガだったけど」
「セリンさんのヒールのお陰でピンピンっす。つられてあっちの方もピンピ―――」
「うっさい」
「冗談っすよ。ホント倒せてよかったっすね」
「昔は―――もっと強かったのよ」
「まじっすか」
そう、もっと勇敢で強い男だった。
戦いの中で、少しだけ彼と話ができた。
「なんでファクターの味方をしているの?」と私は聞いた。どうしても聞いておきたかったことだった。もしかしたら、リール様とレッドが共闘するような『時間』があるかもしれないなんて思ったからだ。
彼は答えた。「ファクター様は、俺を愛してくれている。それ以外に答えはない」と。
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「じゃあ、俺先いくっすね」
「うん」
私は、レッドと戦った『時間』を思い出していた。私は―――彼を―――レッドを愛したことなど一度もない。
ただ、レッドはどうだったのだろうか。もしレッドが、ファクターに対して向けていた感情を私に向けていたとしたら。
頭の中でそんな考えが浮かんでは消える。
しかし、もうその答えを確かめる術はないのだ。
その『時間』は、私が消し去ってしまったのだから。
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