↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/94

ミシリ―国にて/閑話/リール視点

 目を開けるときらびやかな装飾が飛び込んでくる。いまだに慣れない。寝起きも悪く、ここがミシリ―城の豪華な客間であることを忘れそうになる。


 ミシリ―国にある王都ミシリ―に到着して一週間が経った。あの国境越えからは三週間が経つ。王様に挨拶を終えた後、俺は久しぶりに訪れた平穏な日々を過ごしていた。


 「ちょっと早く起きすぎたな」


 身支度を整え、兵士達に挨拶をし、城を出る。


 まだ朝日は昇りきっていない。わずかに底冷えする石畳を歩きながら、俺は市場へと向かった。昔からの習性が残っているのだろう。なんとなしに足が向いてしまう。


 ミシリ―は歴史のある国だ。王都であるこの街については、なんと1000年以上の歴史があるという。王も二十代以上続く由緒ある血筋だそうだ。


 元々アクトス国はミシリ―国にある辺境の都市の一つだった。


 それがアクトスの魔王討伐という功績を称え、報酬として譲渡じょうと・独立を認めたのが現在のアクトス国だった。


 当初は交流も多かったそうだが、今は非常に仲が悪い。セリンがアクトス国から追放された後、ずっとこの国でかくまわれていたそうだ。納得である。


 早朝の街は少しずつ起き始めていた。


 多くの商人と職人が一日の準備を始めている。街の規模が、人の多さが、アクトスとは全然違う。その人たち向けの飲食店も多く、早々にひと仕事終えた者達が朝食を食べながら談笑していた。肉や魚の焼ける音とパンの焼ける匂いが食欲を刺激する。

 

 市場まではもう少し距離がある。しかしーーー。


「腹が、減ったな」


 思わず言葉が漏れてしまう。「朝食はいらない」と昨日の夜に伝えてある。この辺りで店を探そう。


 パンのいい香りに誘われながらカフェをのぞき、肉の焼ける音に誘わるように屋台の前で立ち尽くす。ああ、何を食べよう。


 そして―――ミシリ―と言えば、忘れてはいけない、その豊富な魚貝類だ。俺も何度か仕入れさせていただいたことがある。


 川と海が近くその種類は多岐たきに渡る。魚は脂と身の締まりが良く、貝に関しては味の濃さが際立つ。


 日持ちをさせる技術に関しても、王都の職人は他の都市の職人とは比較にならない。『王都ミシリ―以外の魚貝は魚貝であらず』という言葉もあるくらいだ。


 大鍋にカゴ一杯に詰め込んだ貝を突っ込みスープを作っているな。いい香りだ。この店はエビを捌いて鉄板で焼いている。こっちの店は魚を串刺しにして炭で焼いている。

 

 決められない。どうする。どうしようか。


 そう言えば、王都でしか食べられない珍味があると聞いたことがあった。昔、市場のおやじが言っていた言葉を思い出した。


「すいません、この辺りに魚を『生』で食べられる店ってありますか?」


 俺は通りを歩いていた、商人らしき髪の毛がないおっちゃんに声をかけた。


「この通りを真っすぐ行くと左手にあるよ。でっかり魚をぶら下げているから、すぐに分かるはずだ」


「ありがとうございます」


「冒険者かい? どこから来たの?」


「はい。ディアゴの方です」


 アクトスからというのはもちろん秘密だ。そもそもミシリ―の人達はアクトス国の人間をあまり信用していないし、どちらかと言えば嫌っている。それに関しても、アクトスによる攻撃的な姿勢と貿易政策のせいではあるが。


「へえ。遠いのにご苦労様だ。命大事に。ゆっくりしていきな」


 再びお礼を言い、教えてもらった店を探す。


『魚を生のまま食べる』というのはまさに命知らずな食べ方だ。腹を壊すのは確実。そもそも臭くて食べたいとも思わない。魚は煮て、焼いてこそなのだ。しかしミシリ―では、その鮮度から臭みもなく、腹も壊さず、そして美味いという話だった。


 興味を持たない訳がない。


 その店はすぐに分かった。大男二人分くらいの大きさもある木彫りの魚がぶら下がっていた。


 「いらっしゃい!!!!」


 髪があるおやじの威勢のいい声が店内に響く。お客さんも多く、商人と職人達が皿を抱えるようにし、勢いよくスプーンを口に運んでいる。メニューはない。料理は一つだけのようだ。空いているカウンター席に腰かけ、調理場を覗いた。


 髪の毛があるおやじの他に二十代くらいの若者が二人いる。


 おやじが大男一人分くらいの魚を解体し始めた。刃物の使い方がうまい。あっという間にブロックぐらいの大きさに身を切り分けてしまった。


 そして、そのブロックを薄く切っていく。身は赤白く、脂身が少し多いような気がする。傷んでないのかなと少し心配になってしまう。未知な料理にワクワクと共にドキドキが止まらない。


「まーた関税があがるらしいぞ。住んでる人が可哀そうだわ」


「もうダメだなアクトスは」


 隣に座った商人達の話し声だった。思わず耳を傾けてしまう。


「早くシモンに戻らないかな」


 『シモン』とはアクトス国の旧名だ。


「攻める準備は進んでいるって話だけど」


「ここ何年もそんなことを言ってないか?」


「ずっと準備期間だったんだろ? なんか最近カサティーユ周辺でいさこざがあったらしいし、いよいよなのかもな」


「そりゃ楽しみだ。さっさと潰してくれないかね」


 商人達の情報網には感服する。実際にアクトス国との戦争の準備は終わり、開戦のタイミングを計っている状態であることを王とセリン、そしてプレミアから聞いた。今後、俺達はその戦いの手伝いをすることになる。


 今日は冒険者ギルトへその調整に行くことになっていた。


 調理場に目を移すと、鉄板の上で山盛りになっている白色の粒を皿に乗せていた。珍しい、あれは『ライス』だ。小さな小さな植物果実を大量に集めた食べ物だ。どうやら蒸した後に鉄板で焼き、それを冷ました物のようだ。


 そのライスの上に赤白い魚の切り身を何枚も重ね、魚卵をかけ、貝の身を並べていく。最後に塩と特製の調味料をふりかけて完成のようだ。

 

「お待ち!!!」


 本当に食べられるのだろうかという不安と共に、ゆっくりと口に運ぶ

 

「っ!!!!」


 魚の濃厚な旨味が脳を突く。全く臭くない。


 衝撃だ。口の中でとろける脂と魚卵のプチプチと弾けるような食感、そして貝のコリコリという歯ごたえ。そいつらを受け止めるライスの芳醇ほうじゅんな甘みと溶け込んだ塩と特製調味料。


 もう止まらない。これが『生』の凄さ。プレミアにも、みんなにも教えたい。


 あっという間に平らげてしまった。ごちそうさまでした。今日はいい日になりそうだ。

読んでいただきありがとうございます。またブックマークありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。