脱出/リフレクト最高出力/リール視点
ラグナロクという男は、言葉一つ発さないまま俺達に右手を向けた。
「逃げて!!」
プレミアの悲鳴のような声と共に、ラグナロクの右手から光の弾が放たれる。
「反射!!!」
あらゆる攻撃を跳ね返す防御魔法。数多の光の弾を跳ね返す。部屋中に響き渡る爆音と、崩れゆく壁と装飾。
しかし、セリン、プレミア、スパルナ母娘にはリフレクトが間に合ったものの、自分にはわずかに間に合わなかった。左の肘から下が消し飛んでる。遅れてくる激痛。止まらない出血。
「すぐ回復しますわ!!」
セリンが駆け寄ってきてヒールを使用する。左腕に魔力が流れ込んでくるのが分かる。骨が、神経が、筋肉が、皮膚が、再生していくのが分かる。
プレミアがラグナロクに突撃を開始する。時の魔術により強化された肉体を使い、ラグナロクに殴りかかる。
一発、二発、三発。しかし当たらない。その攻撃を軽々と避ける。一瞬でも動きを止められれば―――。
「ストップ!!!」
治療を続けながら放った。少しでも止まってくれ!!!
だが止まらない。0.1秒と止まらない。逆に、プレミアは剣による攻撃により肩に大きな傷を作り後退を余儀なくされてしまった。
「治りましたわ!!」
「助かる!!! プレミアを頼む!!」
「了解しましたわ!!!」
「プレミア!!! 手当てを受けろ!! 俺が変わる!!」
「リール様、ごめんなさいっ!!」
爆煙が晴れ、壊れた壁からは青空が覗く。昨日の悪天候が嘘がようだ。
スパルナは娘を守るので精一杯だった。この攻撃には加われない。
どうもラグナロクは、ラサヤナを取り返そうとしているように見える。
どうする? 思考が駆け巡る。このまま戦うべきなのか?
左腕にリフレクトを展開し、右手に持ってきた短剣を構える。ラグナロクと戦い続けるのか? 今最優先に考えるべきことは何なのか?
「逃がすな!!! 取り囲め!!!!」
カサティーユ伯の声と共に、大勢の兵士達が俺達を取り囲んだ。ラグナロクの前に兵士達が並ぶ。
まさにチャンスだった。兵士が邪魔となってこちらを見ることができない。逃げるなら今しかない。敵さんがくれたプレゼントタイムだ。
「スパルナ!!!! 空だ!!!!! 飛べ!!!!!!」
青空を指さし、俺はありったけの声を出した。
「分かったよ!!!」
応えるスパルナ。キングガルーダ形態に姿を戻し、大きく羽ばたいた。その風圧に押され戸惑う兵士達。その隙をつき、俺達はスパルナに捕まった。
そして勢いよく上昇を始める。
次々に放たれる弓と魔法。豪雨のように降り注ぐ攻撃を、リフレクトとセリンのシールドで叩き落とす。
攻撃を潜り抜けながら、忘れずに俺達の馬車をスパルナの大きな爪で拾い上げた。川に入ると、もう届かないのか攻撃が止んだ。
少しずつカサティーユ城から離れていく。
「終わり……ですわね」
息を切らしたセリンがグッタリと座り込んだ。
「逃げ切ったのかな……」
ラサヤナを抱きかかえたプレミアが安堵の表情を浮かべる。
「みんな……ありがとう……」
ラサヤナは今にも泣きそうな表情で俺達に感謝を述べた。
「お礼ならママに言いなよ」
スパルナがいなければこの脱出は不可能だった。
「グルル!!」
スパルナが反応した。言葉は分からないが、お礼を言っているんだろうなと思った。よく見ると、スパルナの身体は、防ぎきれなかった魔法によりわずかながらダメージを受けていた。
「今、治してさしあげますわ」
「俺がやるよ。このくらいなら俺でも十分治せる。セリンはゆっくり魔力を回復してくれ」
そうして俺はスパルナを回復し始めた。
ゆっくりであるが、スパルナの傷が癒えていく。この川を越えればミシリ―だ。
*******
川の真ん中に来た時だった。ミシリ―まであと半分の地点だった。
「なんだろう……すごい魔力を感じます」
プレミアがそう言った。
「本当ですわね……」
「グル………」
確かに感じる。身の毛がよだつほど殺意が籠った魔力だ。それがどんどん近づいてくる。そして、そんな魔力を持つ人物は、あの中には一人しかいない。
「ラグナロクか!」
かつてない緊張感が走る。
静かなる轟音と共に水柱が空を突く。川は抉れ、地表が見える。魚達は鳥のように空を舞っていた。
その攻撃が、肉眼にもハッキリと確認できた。
「反射!!!!!!」
急いで展開する。かつてない遠距離攻撃。
城……、いや街一つを消し飛ばせる魔力だ。本当に防ぎきれるのか。今からでも避けるよう指示を出すべきか……。
いや、それは無理だ。あまりにも巨大な光の弾。もはや逃げることは不可能だ。
覚悟を決めろ。跳ね返すしかない。
「反射!! レフレクシオン!!!」
反射魔法の威力を上げる。ここまで魔力を上げたのは初めてだ。
直撃まであと、3秒、2秒、1秒―――。
凄まじい爆発音と共に魔力同士が衝突する。スパルナは大きくバランスを崩し、セリンとプレミアは振り落とされそうなラサヤナを必死に守っている。
反射が出来ない!!! 魔力同士が拮抗している。川が抉れ、地表が露わになっている。あちこちに虹がかかり、水滴が体中を打つ。
ダメだ。魔力を使い切る覚悟で、もう一つ魔力を上げる必要がある。使ったらバルドルとの戦い様に子供の姿になり、しばらく起き上がれないかもしれない。できればやりたくない。
しかし、俺のリフレクトが押され始めている。背に腹は代えられない。もう一つ上げる!!!
「リフレクト!!! レフレクシオン!!!! リヴェルベロ!!!!!!!」
その言葉と共に、体中の魔力が集結する。リフレクトは、ラグナロクの巨大な光の弾を超えるほどの大きな円となった。
「跳ね返せ!!!!」
光の弾は勢いよく反転した。
反転した光の弾は、空に向かって飛んでいく。雲を蹴散らし、虹を突き抜けグングン上昇する。
なんとか乗り切った……。あれは一体どこまでいくのだろうか。遠ざかっていく危険を眺めながら、少しずつ心が落ち着きを取り戻してきた。
流石にもう一発はない。もしそんな魔法が使えるなら、魔術師ランクの4Sを軽く飛び越えて、きっと測定不能になるはずだ。もしそんな魔術師ならば、城で出会った時点で俺達は死んでいる。
「きゃー!! かわいいですわ!!!」
「リール様がまたかわいいお姿に!!!」
その言葉で、俺の体が再び10歳当時の姿になっていることに気付いた。魔力はほとんど残っていない。不思議とファクターへの強い怒りが沸いてくのが分かった。子供の姿になると、なぜか当時の怒りを思い出すような気がする。
さすがに疲れた。とりあえず少し休むことにしよう。
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