最悪・リスタートの決断/プレミア視点
私は夢を見ていた。何度も何度もラグナロクという男にママと私が殺される夢。
この男と直接対することは、この周回の失敗を意味していた。時には旅の始まりまで物語を巻き戻す必要さえあった。
あまりにも強く、そして謎でもあった。
ファクターの右腕ながらこの戦いに介入しないことも多かった。周回が比較的安定し始めた最近では、ミシリ―で始まるファクター軍との戦いにおいて突然現れることがあるくらいだった。
意識が戻った私は、ゆっくりと目を開けた。
暗くて周りが良く見えない。遠くにはボンヤリと光る蝋燭の光。そして、鉄格子がハッキリと輪郭を現す。
手足を動かそうにも鎖で繋がれており、ガチャガチャと重たい音が鳴り響くだけで外れる様子はなかった。
体の痛みはなく、回復魔法で治癒したような魔力の痕跡があった。相変わらず魔法は封じられている。この鎖を自力で外すことは不可能に思えた。
「誰か!!! ママっ!!! いたら返事して!!!」
返事はない。私の声だけが虚しく反響していた。ママは無事なのだろうか。ちゃんと手当を受けられているのだろうか。考えると体が芯から冷え切ってくる。
―――リール様は私達に気付いてくれるだろうか。
どの位の時間が経過したかは分からない。でも、何時間も戻らなければ、きっと心配して助けに来てくれるはずだ。
リール様の力があれば、もしかしたらラグナロクを殺すことが出来るかもしれない。いや、リール様でもきっと……。
ラグナロクの強さは常識を超えている。命があることを祈りたい。『時間跳躍』で過去に戻っても、この時間のリール様は死の苦しみを経験してしまう。
遠くで金属が擦れる音がした。カチャリ、カチャリと音を立てて近づいてくる。
私は身構えた。怖くてたまらない。もう時間跳躍を使ってしまおうか。そう考える度に、リール様の優しい顔がちらつく。
もう少し、もう少しだけリール様と出会ったこの時間を生きたい。わがままなのは分かってる。
鍵の音が目の前で止まった。兵士が二人、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「絶景、絶景」
「いやーたまんないっすね」
汚い言葉は聞きたくない。私は、出来るだけ無視するように努めた。何も聞こえない。何も感じない。まだ何か言ってようだが、その言葉は心には届かない。
「セリン様、死んだらしいぜ」
鋭い氷の刃ように放たれた言葉が、私の心に突き刺さる。防ぐことが出来ない言葉だった。
「あれ? 殺すなって話では?」
「いやあ、あんな美人流石に無理っしょ。みんな我慢できない」
「あーたしかに」
「カサティーユ伯はめちゃめちゃ怒ってたらしいけどな」
「お金もらえなくなっちゃいましたからね」
全ての力が抜けた。最悪の終わり方だった。考えたくない。せめてこいつらだけでも殺したい!! 殺したい!!!! 殺したい!!!!
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね ! 死ね!」
叫ぶことしかできない。時間を戻したら、絶対にお前達全員を殺してやる!!!
「おお、おお暴れてるな」
「黙らせましょうか」
私は観念した。もう、この腐れ兵士どもと戦う術はない。時間跳躍の準備を開始した。
発動まで時間はかからない。時間は―――とりあえずは今日の城到着前。そこに変更はない。この時間とはもうすぐお別れだ。
兵士がカギを開けようとした瞬間だった。風の音と共に、二人の兵士の頭が消えてなくなった。
「ハア、ハア」という荒い息遣いが聞こえる。「やっと見つけた」という声が聞こえる。
鉄格子の向こう側には、傷だらけになったリール様が立っていた。
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