ラグナロク/プレミア視点
絶体絶命とはこの事だ。震えが止まらない。客間に飛び込んできた十数人の兵士達が、私達に向けて長槍を構えている。身動きが取れない。
カサティーユ伯はもはや笑ってすらいない。ただただ冷徹な目線を私達に向けている。
「捕らえろ。だが殺すな。アクトス様に引き渡す必要がある。話せる状態で生け捕りにしろ」
アクトスの名前が出たことで、どの様なやり取りがあったか私は察した。
「私達を売るの? いくらで?」
金を積めばまだ挽回できるかもしれない。一縷の望みをかけた質問だった。
「売る? なんて人聞きが悪い。正義の行動だよ。英雄を殺した人間を許す訳にはいかないからね」
カサティーユ伯は淡々と答える。正直どこまで本心かは分からない。もう少し別の方法で交渉を続けないと、と思った瞬間だった。
「やれ」
兵士達に命令が下った。
「プレミア! 私の後ろに! シールド!!」
ママの魔法が発動する。物理攻撃を防ぐ魔法。簡単には破れない。
しかし、その魔法はいともたやすく破られた。
腕や太もも、そしてふくらはぎ。致命傷にならないであろう部位に刃が突き立てられる。強烈な痛み。頭が沸騰しそうなほど。
「きゃあああああああああああ」
ママの悲鳴が部屋中に響き渡った。
「ヒールっ! ヒールっ! ヒールっ! ヒールっっ!!」
悲鳴のような魔法の連呼。なのに、ママの回復魔法が発動しない。
おかしい。私の魔法も『想定される未来』も発動しない。部屋か、槍先か。
何らかの手段によって魔法が完全に封じ込められている。
意識が朦朧とする。私は―――時間跳躍の魔法を自動発動に設定した。
これで、私が死んだら自動的に魔法が発動する。時間跳躍の魔法は、なぜか魔法が使用できない状況下でも使用することが出来た。
時間は―――。この城に到着する前!
過去へ跳躍する。本当は使いたくない。死にたくない。お願い、リール様助けて。
もう立っている力すらない。
膝から崩れ落ち、床にうつ伏せで倒れこんだ。ママも倒れている。声は聞こえない。ママは……生きているのかな? 殺さないという言葉を信じるしかない。生け捕りにするなら、きっと私達を回復するはずだ。
いつの間にか、体中に『束縛』の魔法がかけられていた。この魔力は―――。
消えゆく意識の中で、一人の男が部屋に入ってくるのが分かった。
あれは―――魔術師ファクターの右腕であり、何度となく私達を殺した男。アクトスに辿り着くまでの最大の壁であり、不確定要素の原因。この男にだけは会いたくなかった。
静謐な死神『ラグナロク』という男に。
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