罠/プレミア視点
カサティーユ伯の提案は私にとっても予想外の出来事だった。バルドルを殺した後にこの関所を渡ることは簡単なことだった。
しかし、カサティーユ伯は面会を求めてきた。
これは初めてのケースだった。金さえ握らせていればどうにでもなる男だったのに。何を企んでいるのだろう。
ママも不安そうな顔をしている。私が話していないことは予想外の出来事だということは伝えてあった。リール様が一緒であれば心強かったのに、その願いは叶わなかった。
上官の兵士に連れられて、私たちは客間の前までやってきた。胸の鼓動が速くなっているのがハッキリと分かる。何度も来たことがある部屋なのに、不安で逃げ出したくなる。
状況によっては『時間跳躍』の魔法を使って時を戻そう。
でも、それだけは避けたいと思ってしまう。一秒でも長く、リール様と初めて出会った時間を生きたい。
「入れ」
対応がもはや客人に対するものではない。檻に押し込まれる動物のように、私達は部屋の中に誘導された。
「やあ、ごきげんよう」
金色の長髪と整った顔立ちで、細身で長身の若々しい男。それがカサティーユ伯。
時折見せるニヤニヤとした笑顔が、特に気持ちが悪い。椅子に深く腰掛けたまま、私たちに椅子に座るように促した。
「お久しぶりですわね。突然お会いしたいなんて、何か楽しい話でもあるのかしら」
「せっかくセリンが立ち寄ったのだから、美しい方と会って話をしたいと思うのは普通でしょう? それに娘さんも一緒だ」
「あら、嬉しいですわね」
私も小さく頭を下げた。
ママとカサティーユ伯は魔王討伐の頃からの知り合いだ。
それはつまりアクトス達とも知り合いということでもあった。当初はどちらの味方なのか分からず苦労したが、何てことはない、多くお金を渡した方の味方だった。
「わたくしも久しぶりにカサティーユ伯のお顔を見れて嬉しかったですわ。本当はゆっくりお話ししたいところですが、友人を待たせております」
「まあまあいいじゃないか。その友人は丁重にもてなすとしよう」
「いえ、急いでミシリ―へ帰らねばいけませんので―――」
「バルドルが―――死んだようだね」
カサティーユ伯から出たその言葉で、一気にこの部屋の緊張感が上がった。すでに情報は届いていたようだ。
だけど、この状況は過去に何度もあった。本人から聞いたわけではないが、兵士の話や警備が強化されていたりと対応に変化があったからだ。それでも問題なく関所を突破してきた。
情報の有無はこの男の判断に影響を及ぼさないはずだった。
「知りませんでしたわ」
「そうか。仲間が死んだんだ、さぞ悲しいだろうね」
「そう……ですわね」
ママがそう答えると、カサティーユ伯はニヤニヤと笑った。思わず私は、
「何がおかしいんですか?」
と言ってしまった。カサティーユ伯の笑顔は更に歪んだ。そして、
「隠さなくてもいい。君たちが殺したんだろ?」
と言った。その言葉を待っていたかのように、十数人の兵士が部屋の中に飛び込んできた。
読んでいただきありがとうございます!




