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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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あの時、温泉で起こったこと

「で、あの場で何が起きたんだ?」


 オレは本題を切り出す。


「アノ男がいきなり私に向かって、魔法を放った。そこまでしか知らない」

「なんでだよ」

「炎の中にいたから。声も聞こえなかった」

「……そうだったな」


 あの激しい炎の中で声が聞こえるはずもない。


 しかし……。


「それはただの人間だったらの話だろ? お前ほどの女が炎の中で大人しくしてるとは思えない。何らかの形で会話程度なら聞いていたと思うが」


 それは勘だった。


 普通に考えれば……、火に包まれた状態で音なんか聞こえるはずもない。


「へ~、笹さんは私を疑うんだ? ひどい! 私はただの被害者なのに」


 そして……、流石にこれで誤魔化せると思われるのは心外だった。


「被害者でもあるが……貴重な目撃者でもある。知ってるんだろ?」

「誤魔化されないか……。流石に3年前までとは違うね、笹さん」

「小学生と今が同じでも困る」

「確かにね。まあ、いいわ。話してあげましょう。その部分については、聞く権利はあるものね。まあ、こちらに話す義務はないけど、流石に少しぐらいの義理人情はあるわ」


 そう言って、若宮は少しずつ話し出した。


「実は自分の防護壁を、卒業式以来、強化してたのよ。あの日、高田が狙われていることは分かったから、近くにいると巻き込まれる可能性もあったしね。そのおかげで、今回も防御魔法を使うだけの時間は稼げたの」


 なるほど。

 警戒していたらしい。


「もし、強化してなかったら、笹さんに責任をとってもらわないといけなくなるところだったわ。もしもの時は、お嫁にもらってね」


 さらに、どこまで本気か分からないようなことを平気で言う。


「死なない限り、責任もって治してやるよ。治癒魔法は契約済みで使えるだから」

「……冷たい返事ね。まあ、それで防御は間に合ったから、笹さんの予想通り、二人のやりとりでも聞いて、後でとっちめてやろうと思ったわ。巻き込んだんだからそれ相応のことはしてもらわないとね」

「……転んでもただでは起きないよな、お前って女は……」


 その図太さに呆れてしまうが、魔界人はそんな人間が少なくない。


 高位であるほど強かだ。


「当っ然! ただで何かを出来るほど、(わたくし)、お安い女じゃなくてよ」

「そう言う問題かよ」


 本当に強かだ。


「ところが、あいつが高田を挑発するような口振りだったのに対して、高田の方は何も言わないのよ」

「挑発?」

「あの男は『変化』……とか言ってたかな。多分、そのころ高田は既にキレてたんだと思う。で、ぼぼ~んと爆発系魔法が起きて……、相手も沈黙させられたってわけ。ある意味、あっちの方が危険だったかもね」

「……でもその割に温泉には被害がなかった気もするが……」

「そう言えば……、そうね。アイツにだけ集中して魔力の固まりをぶつけたってことかしら? 」

「どうだろう」


 あの時の変化は、明確に魔法だった。


 今回は……、これだけでは判断できない。


「それから程なく遅れてきた護衛の到着~となりましたと。後は、笹さんも知ってるとおり」


 余計な言葉を付け加えて、話は終わったらしい。


「一発だけだったってことか。あの光は……」

「光?……発光もしていたの?」

「音はオレたちの所に聞こえなかった。ただ、光っただけだ。だから、他の人間には気付かれずに出てこれたわけだが」

「あの威力、音で何も影響がないってのも変な話だね。そんなに離れてる?」

「もしくは、アイツがさりげなく結界を張っていたか」

「ああ、笹さんと違って用意周到そうだものね。仲間を潜ませていた辺りとか」

「さっきから一言多いぞ」

「笹さんには言いやすいから仕方ない」


 そう言って若宮は笑う。

 なかなか酷い理由で言われていたんだな。


***


「しっかしどうしたものかね、この眠り姫」


 若宮が溜息を吐いた。


「お前が誘眠魔法をかけたんだろうが」

「そろそろ自然に目覚めてもいいんだけど……。とりあえず殴ってみる?」

「永眠するだろうが」

「や~ね~。加減くらいするよ、死なない程度に」


 ……どれぐらいの強さで殴るつもりだったんだ?


「若宮には解呪が使えないってことか」

「苦手なのよね~。解呪とか癒しとか回復系や補助系って……」

「お前は攻撃系っぽいもんな」

「攻撃補助はできるのよ。これが不思議と」

「凶器だな、早い話が」

「兄さまや、ベ……、幼馴染みの男なら……得意だったと思うけど……」

「お前も兄貴がいるんだ?」

「そ。兄馬鹿全開の兄が1人。私の家出中に増えてなければ私たちは2人兄妹のままだとは思うけど……どうかしらね」

「……オレの方は兄貴が癒しは苦手だな」

「そうなの? なんとなく、笹さんのお兄さんってオールマイティっぽいのに」

「以前、兄貴の治癒魔法で何故だか2,3本アバラが逝った」


 そう言うと、いつものように揶揄うことはなく、若宮は目を泳がせた。

 ……どうやらこいつも似たような経験があるらしい。


 フォローするわけではないが、治癒魔法は案外難しいと聞いている。


 少しでも調節を間違えると、自己治癒能力を促進しすぎて体組織を破壊することすらあるそうだ。


 まあ、栄養剤の過剰摂取と考えれば分かりやすいかもしれない。

 薬も過ぎれば毒となるということなのだろう。


 オレは治癒魔法で失敗したことはないから、分からない感覚だったりするのだが。


「兄貴は修復系ならできるんだがな……」

「物と人は違うからね~」


 修復系魔法というのは人を癒す治癒魔法とは違い、主に、物質の損壊を復元する魔法のことを指す。


 人間の元々持っている治癒能力を促進させる治癒魔法とは違い、元々復元能力がない物に対して始めにあった状態に様々な形で元に戻すのである。


 オレにとっては修復の方が難しいのだが、他の人間にとっては、治癒より修復の方が遙かに簡単らしい。


「笹さんは、治癒に長けてるってことだね。良かったね、何かしら取り柄があって」

「だから一言多いっての」

「高田は……、攻撃系っぽいね。問答無用であれだけの魔法力をぶつけたわけだし」

「キレてたからじゃないのか?」

「無意識な状態こそ人の本質よ。普段はのほほん系だけど、内面にかなりの腹黒さを隠し持っているように」


 そう言えば、高田は確かにさりげなく毒を吐く。


 しかし、オレは過去の彼女を知っている。


 あの頃の彼女は確かに治癒魔法を使えたのだ。

 だから、記憶さえ戻れば彼女も治癒魔法は使えるはずだ。


「ま、放っておいても起きるとは思うけどね。私、精神系魔法は苦手だから」


 精神系魔法とは、精神に影響を及ぼす魔法だ。

 誘眠等、本人の意思に直接かけるものである。


「……ま、その間に魔界人同士の愛を深めておきましょうか」

「……お前の愛は誘導尋問形式だからいかん」

「人を掌で操ってナンボの人生でしょ」

「ヤな人生観だな」


 どんな人生だよ?


「人間とにかく千差万別、十人十色。考え方や生き方は当人以外には理解を得られないものですよ」

「理解したいとは思わないけどな」

「いや~ね~。その人の考え方を理解できないまでも僅かでも受け入れようとする柔軟性こそ大切なのよ」

「お前は受け入れるのか?」

「良いと思えばね。でも、なかなか良い考えの人っていなくって~」

「そりゃそうだろうな」

「役に立たない情報を保存できるほど私の脳内の容量は広くないのよ」

「1メガくらいか?」

「笹さん? 確かに私はパソやコンピュータ用語に詳しくないけど、その容量がどれだけ少ないかは分かるつもりよ」


 敵は手強い。

 その上、攻めが巧い。


 高田が目覚める前にオレが攻め落とされないことを祈る。


「それにしても……封印ねぇ。ちょっと高田を視ても良い? 解呪はできないと思うけど、何か分かるかもしれないし」


 若宮がそう言って、高田の所に座り込む。


「へえ~、法力と魔法の融合か……。確かにこれ凄いわ。集中して触れないとその存在すら気付かせないって辺りが小賢しい感じね」


 そこで、若宮がふと眉を(しか)める。


「しかも、この法力は私の知っているヤツに質がよくているのがむかつくわ」

「え?」

「似てるのよ。この微かに残ってるこう、残り香みたいなのが」

「……いや、オレが驚いたのはそこじゃない。お前が法力の質を見極めれるほど感知に優れているとは思ってなかったからな」

「馬鹿にしないで。仮にも()()()()()()()()()よ。私自身、法力を扱うことは苦手でもそれぐらいの……」


 そこで若宮は固まった。


「そうか……。お前は法力国家にいたんだな」

「しまった」


 出身国を告げるというのはその得意ジャンルを明かすと言うことだ。


 普通はどうってこともない情報だが、秘密主義の若宮からすれば今のは失言だったんだろう。


「……法力は信心が関わってくると言われている。まあ、お前には向いていないだろうな~」

「悪かったわね」

「しかし、似てるヤツか……。そいつは正神官クラスか?」

「馬鹿正直で生真面目な人だったから、変わってなければ……、まあ、多分それぐらいにはなってると思う。まあ、アレがそう簡単に変わるとも思えないけどね」


 膨れっ面で返答する。


 誘導尋問するのには慣れているが、自分がされる側にはあまりならないのだろう。

 いや、別にオレはそんな気もなかったんだが。


「ただ、最後に会ったのは6、7歳ぐらいのことよ。後は手紙で聞いた声くらいしか知らない。家出中だもの。国に帰るはずもないでしょ。そいつにしたって、自分のことは話さず国のこととかこっちの心配とかくらいしか話さないし」

「それでも法力の質が分かるのは凄いな……。オレには、法力が入ってることも気付かなかった」

「兄とその人だけは多分、忘れないと思う。一緒にいた時間が長かったせいだろうけど」

「ああ、なるほど。幼馴染みってやつか」


 ああ、それなら分かる。


 幼馴染みって存在は何故だか別格なのだ。


「そういうこと。感受性豊かな成長期に接していた相手ってのはどうしても忘れられないみたいね」


 そう言って若宮は懐かしそうに笑った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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