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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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温泉で語り尽くそう

「昼間から露天風呂。贅沢だな~」


 周りは木々で囲まれ、小鳥の囀りさえ聞こえる。

 遅咲きの山桜の花びらが湯に浸かり、なんとも風流だ。


「……男同士で風呂って、ビジュアル的には最悪だよな」


 溜息混じりで兄貴みたいなことを言う来島。


 こいつの脳も兄貴と大差がないかもしれない。


「でも、来島。一部の女性にはすごくウケるらしいよ。男同士の風呂って妄想がかきたてられるとか」

「「どこの女性だよ!? 」」


 深谷のどこかずれた言葉に、来島とオレの声が重なった。


 同じ学校にいても、この深谷とはあまり話した印象はない。


 ただ、女に対して顔が真っ赤になってしまうという面白い特性を持っていることで有名だったから、顔と名前ぐらいは知っていたんだが。


「で、笹さんよ~。結局のところ、高田とはどこまでいってるんだ?」

「ん~。まだ手を繋いだぐらいかな」


 主に移動魔法使用のために。

 他には、卒業式の日に少し抱きかかえたぐらいか。


 流石に、うっかり一緒の布団の中に放り込まれて、一夜を過ごしたことがあるとは言う気にはなれなかった。


 1ヶ月でそれは早いし、その言葉自体で誤解も招きかねない。


「うわ~。今時の中学生とは思えないほどピュアな関係だな」

「まだ1ヶ月だから、そんなものじゃないの?」


 深谷もオレと同意見のようだ。


 付き合って1ヶ月ぐらいじゃ、相手にどこまでの言動が許されるか? というお互い、関係に探りを入れている段階だろう。


「甘い甘い。お前も女に奥手だからな~」

「単に来島の手が早いだけだろ。俺は体質もあるけど、好きな子じゃないとイヤだからね」

「……と言うより、大切な女ほど手が出せないな。下手なことをしてアイツを傷つけたくない」


 いや、正しく言えば、迂闊なことをすればオレは命がなくなるだろう。

 文字通りの意味で。


「おお、(おとこ)だね~、笹さん」

「いいな~、そう言う人がいて」


 そんなオレの心境も知らず、二人はそんなことを言っている。


 本当のことを言ったら、ビビルだろうな。


「それなら、前の彼女は?」

「へ?」


 思いもよらぬ言葉が来島から飛び出した。


 そう言えばこいつらは、同じ学校だから知っていても可笑しくはない。


「いただろ? 笹さんには、小柄で黒髪セミロングの可愛い彼女が……」

「可愛いかどうかは置いておいて、あいつとは別れたよ。今月初めに」


 確かに可愛いと言える容姿ではあった。


 ただそれを、他の男から言われるのは少しだけ腹立たしい気がするのは何故だろうか?


「それで直ぐあの高田さんって人と?」

「まあ、そこは成り行きで」


 その辺りはホントに成り行きだから笑える話だ。


「へ~、別れたって噂はホントだったか……。何でも彼女の方からだって聞いたけど、そこも本当だったのか?」

「そ。オレが鈍いのが気に食わなかったらしい。女って難しいよな」


 口にしなくても気持ちを分かって欲しいとか読心魔法でも使えというのか?

 無理だぞ?


 いや、実際はそんな風に言われたわけではないのだが。


「そりゃ、男とは違うから難しいのは当たり前だとは思うが。でも……、前の彼女って……、高田にちょっと似てなくないか?」

「は?」


 思わぬことを言われた。


「笹ヶ谷くんの前の彼女って……、確か、俺と同じクラスの岩上(いわがみ)深織みおりさんだったよね? う~ん? ああ、あの高田さんって子の髪がもう少し長ければ、もっと感じが似てるかもしれない。同じくらい背も低いし」

「深谷は知らないだろうけど、高田は少し前、髪があいつ以上にあったぞ。腰ぐらいだったかな。いつの間にかばっさり切っていたが」

「オレと会った時は、高田の髪はもう切ってたぞ。でも……、似てるか~?」


 思い出してみるが……、そこまで似ているとは思わない。


 まあ、背も低いし、体型も似たような感じだったのは認める。


 言われてみると……性格……というより、その言動に関しては、どことなく似ているような気がしなくもない。


「印象の問題だろうな。岩上も部活でスポーツやってただろ? それに体型もちょっと似てる。やっぱ、笹さん、引きずってるね~」

「似てないよ。深織は深織だし、高田は高田だ」

「お? 岩上は『深織』で……」

「高田さんは『高田』なのか……」


 なんだ? なんだ?

 オレは今、おかしなことを言ったか?


「それだけで親密度の違いも分かりますな~」

「し、仕方ねえだろ? 高田は小学校の時から『高田』だったし、深織……、岩上はそう呼べって言われたから……」

「それだけか~?少なくとも岩上とはキスぐらいはやってんだろ?」

「そりゃ……、まあ……キスぐらいは……」


 オレだって健全な中学生男子。

 それなりにそっち方面に興味がないわけはない。


 寧ろある!


 でも、アレについては、オレの意思じゃなかった。

 不意打ちだったのは間違いない。


 それが嫌だったかと言われたら、嫌ではなかったのだけど。


「へぇ~、やっぱり付き合いが長いとそうなるんだ」

「いよっ! 笹さんったら、女泣かせ!」


 からかうような深谷と来島の言葉。


「お前はどうなんだよ、来島! 深谷!」

「俺はお付き合いそのものをしたことないな~。こんな体質だから、からかわれるだけでなかなか恋愛にはならないんだ」


 深谷は少し、伏し目がちに言った。


 確かに女限定の赤面症体質では、恋愛は難しいかもしれない。

 でも、気にしないヤツっているような気もするんだよな~。


「俺もお付き合いはしたことないから~」


 来島がそうすっとぼける。


「嘘を付け! 来島! お前が無いはずないだろ?」

「いやいや、笹さんほどモテませんから」

「来島は俺の知る限り3人は確実にいるよ」

「うお!? 味方の裏切りか!?」

「笹ヶ谷くんだけじゃ不公平だろ?」

「相手のないヤツは余裕で良いよな~」

「あまり嬉しくないよ、それは……」

「3人……か。さあ、正直な数を白状しろ」

「どれも付き合っちゃいないよ。ちょっと相手しただけ。それも正確には5人だし」

「うわ! 露骨!」


 本当に兄貴みたいなヤツだ。

 兄は歳の分、もっと数が居るだろうけど。


「5人か……。多いな~」

「でも、年上ばかりだし、皆1回お茶したぐらいだぞ? なんて言うか飽きっぽいんだよ、俺。同じ女じゃ満足できないってヤツ」

「羨ましい性分だ」

「お? 羨ましいってことは笹さんも、そう言うのが良い?」

「良いというのとは違うんだが、修羅場がなさそうで良いよな~」

「修羅場経験者の言葉は重いな」

「ほっとけ」


 そこまでの修羅場は経験してはいない。


「俺にはどちらも未知の世界だよ」


 深谷が肩を落とす。


 確かにお年頃で、健康的な男子ならそんな心境になっても仕方がない。


「大丈夫だ、深谷。お前もいつかは慈愛に満ち溢れた女性が……」

「奉仕の精神っぽくてイヤだ」

「望みが高すぎるんじゃないのか? 体質知っても女友達がゼロってわけじゃないんだろ?」

「望み……高いかな?」

「高い。すっげ~、高いよ、こいつ」


 首を捻る深谷の横から来島が何故か答える。


「自分より背が低くてあまり凹凸無くて、目の大きな童顔で、笑顔が可愛くて、性格も明るく元気よくなきゃ駄目。加えて行動的で、それなりに勉強も運動もできて、言動もしっかりしていて、最低限の礼儀は知っていて、会話にも困らなくて、見ていて退屈しない女……。まるで、漫画に出てくる主人公みたいな感じだよな~。女に夢見すぎなんだよ」

「普通にいると思うけど……、そんなに漫画的かな?」


 深谷はそう首を傾げる。


「……それって」

「「ん? 」」

「いや……、その、それってつるぺたロリ属性だなと」

「すげ~、笹さん、その通りだよ。その言葉を知っているだけで尊敬するわ」

「……うん。少し驚いた」


 そんなことで尊敬されても嬉しくないし、驚かれても複雑なだけだ。


 因みに「つるぺたロリ属性」とは、幼い外見の女を指す。


 つるつるぺたんこ……つまり凹凸のない体型でロ……もとい、童顔というのを合わせてそう言われるが、一般の人はよく知らないのが普通である。


 いや、最近は漫画や小説でも普通に出てきてるから、知っていてもおかしくはない言葉ではあるのだが。


 いや、そんなことはどうでも良い。


 オレはその条件にがっちりと当てはまる女が知り合いにいることに気付いた。

 確かに珍しくはないタイプだからな。


 だけど、オレは何故だかその女の名前を、この場で口にする気にはならなかったのだった。

文字だとそこまでの違和感がないのに、実は絵面を想像するとかなり暑苦しいという……。

前話が(一応)ガールズトーク編なら、今話はボーイズトーク編です。

しかし、こういった話題は風呂場じゃなく、夜中に部屋でするべきではないのでしょうか?


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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