温泉で語ろう!
これを「お色気回」とは言わないと思います。
来た早々温泉に浸かる。
ああ、なんと幸せなことか。
お湯から腕を伸ばしてほうっと息をつく。
家のお風呂のお湯と違って、少しだけ身体にまとわりつくようなお湯の感覚がなんとも不思議だった。
これが、温泉の泉質というやつかな?
「日が高いうちからお風呂。贅沢だな~」
修学旅行では温泉の時間……お風呂の時間は決まっていた。
こんな明るい時間帯から、団体でお風呂に入るのは初めての経験で、少しだけドキドキする。
だけど、横から聞こえる声がいろいろ台無しにしている感があった。
「ううっ……タイル張り~」
先ほどからワカは、露骨に不満を剥き出しにした顔で、何故かその場でぐるぐると湯船をかき回しているのだ。
ワカが気に入らないのは、ここの温泉は壁も床もタイルが敷き詰められていたためらしい。
彼女に言わせれば、これは「銭湯」であって「温泉」ではないとのこと。
正面にある大きな窓のすぐ外には大きな黒い石と竹でできた囲いがあって、外からは見えなくなっている。
そして、それよりも後方に天然の若竹が見え、囲いを超えるように垂れ下がった笹の葉が揺れていて、日本情緒がないわけではない。
わたし個人の意見としては、この床や壁の造りも綺麗だから嫌いじゃなかった。
でも、ワカは温泉にもっと求めるものがあったようだ。
タイルも家にあるようなものじゃなく、薄い茶色のもので、よく見ると、黒いつぶつぶした砂みたいなものが表面に散っている。
目地の色は真っ白で、汚れは分からない。
しっかり、清掃されているのだろう。
それに、何より温泉で大事なのは、湯の水質、効能ってやつだしね。
「温泉っていうのは、周りが大理石……というほどじゃないにしても、御影石とかの天然石を加工した湯殿じゃないと納得できないし、何より風情がない!」
「御影石って……石材じゃないんだから」
天然石であることを否定はしないけれど、御影石って聞くとなんとなく墓石と考えてしまうのはわたしだけでしょうか?
いや、墓園近くにある石材屋さんがおすすめしていることが多いのがそんな名前だった覚えがある。
確か正式には花崗岩……じゃなかったっけ?
深成岩とか火成岩とかそんな名称を理科で習った覚えがある。
「じゃあ、兄たちみたいに、昼間っから少し離れた露天風呂に行きます? あそこなら、見た目からも総天然石ですよ」
折角、望さんが出してくれた提案に対しても……。
「ソレはイヤ」
見事に拒否。
「しかも総天然石って、お湯の底の方まで加工してなさそうな響き。底がゴツゴツしてると足痛くなるのよ」
「あれも嫌、これも嫌って贅沢だなあ。でも、昼間から露天風呂はちょっと恥ずかしいからわたしも少し嫌かも」
昼間のお風呂。
それは磨りガラスからでも差し込む明るい日の光に照らされて、自分の肌が気持ち悪いほど白く見えるのだ。
黄色人種であるため、白人さんほどではないだろうが、自分の肌がそんな病的な色に見えるのは抵抗がある。
室内でもそうなのだから、もっと明るい陽の元に晒されたなら、さらにその白味は増すと予想された。
水着を着ていればそこまで気にならないのに、これは一体どういうことなんだろうね。
そう言えば、魔界人って肌の色はどうなのだろう?
九十九や雄也先輩を見る限り、あまり色が変わらないと思う。
それにあの紅い髪の人も、その瞳や髪の色はともかく、肌の色に関しては白人にも黒人にも見えなかった。
そうなると……魔界人って黄色人種なのだろうか?
いや、こんな場所に来てまでそんなことを考えるのは止めよう。
この温泉旅行を楽しむのだ!
露天風呂については、実は夜中にこっそり入る気でいたりする。
せっかく温泉まで来たのだから、楽しめるところは楽しんでおかないと損した気持ちになっちゃう気がして勿体無い。
どうせただなのだし、できる限り遊びたいのだ。
そう言えば……魔界ってお風呂はどうなってるのだろう?
洗浄魔法というものはあるみたいだから、魔法で洗っちゃうのかな?
それこそ情緒はないよね。
……うぬう。
気がついたら、すぐ魔界のことを考えてしまう。
この旅行中、少しでも頭から離したかったのに、いつも以上に意識してしまうのは何故なのだろうか?
「男衆は良いね~。多少誰かから見られても、気にしないようだし」
「まあ、私達に対しても、見る人もいないんですけどね」
お客さん、いないですし、と望さんは少し寂しそうに呟いた。
「それでも! ここの経営者とかは居るわけじゃない。見知らぬ人にこの肢体をさらけ出すほど、私は安い女じゃない!」
ワカは腕を組みながら揺れる胸を張る。
そんな身体の主張に、わたしと望さんはわずかに息を飲み、互いに苦笑しあった。
「若宮先輩はスタイル良いですからね~。胸もあるし」
ええ、どうせわたしは幼児体型ですよ!
でも、一つ下の娘さんにも負けるほどだとは思っていなかったのは事実ですが。
「胸……それは悲しき脂肪の塊。それ相応にしっかり下っ腹も出てるから、ただのおデブですわ」
ワカが自虐的に言う。
彼女は言うほど太ってはないと思うけれど、今、それを言っても絡まれるだけだろう。
わたしは羨ましいのに。
あれだけ胸があれば、九十九も流石に「胸ナイ」発言は控えてくれたことだろう。
……いや、ありますよ?
それなりにあるつもりなのですよ?
わたしの胸がないのではなく、この二人があるだけだ!
「そうですか~? 括れもあるから太っているのとは違うと思いますよ」
「ああ、高田が羨ましい。胸は小さいけどその分、腹もそこまでじゃない」
「そうですね~、高田先輩はお腹、引き締まってますよね~。腹筋がすごいな~」
「本格的に受験勉強する前は、もっと腹の肉が固かったよ」
しかも、部活を一生懸命やっていた時期は、薄っすらと割れていた。
最近は筋トレの時間が減ったから、筋がなんとなく……という状態だけど。
うん、女性として、少しだとしても腹筋が割れているってのはどうなのか?
さらには足も太股が凄い。
だから、お尻がやたら自己主張してたりする。
いっそのこと、胸筋を鍛えれば、もっと胸があるように見えるかな?
「いいよね~、望は。女の子特有の体型に、この肌のハリも良い。一つ下なのにこうも違うのか……」
「この体型も脂肪の賜物ですよ~。やっぱり下っ腹は出ちゃいますし」
「ああ、このむんずと掴める下腹部の肉……。これを取って捨てたい! 全ては演劇のせいだ! 腹式呼吸が全て悪いんだ!」
腹式呼吸なら、腹筋がしっかりと鍛えられるから下腹部も締まりそうだと思うのは素人考えなのだろうか?
女優さんとかもスラリとしているし。
ああ、でもオペラ歌手とかは大きな体型の人がいる気がする。
「体型というのは、女性共通の悩みですよね~」
「う~ん。この太股も捨てれたらいいのに……」
こう、魔法でうまく削れないものだろうか?
さすがにそんなことを九十九に聞いたらまた呆れられるかな?
「高田のもも肉は筋肉だから救いがあるよ」
「そうですよ~」
「いや、『もも肉』……って表現はどうかと」
なんとなく食肉なイメージがするのはわたしだけ?
「それに、これが一斉に脂肪……もとい、贅肉に変わってもそれを口に出来ますか? このおみ足は結構な重さですよ?」
そして、これだけは主張しておく。
「筋トレすれば変化はないでしょ?」
「家での筋トレは限度があるよ。部活ほど真面目に取り組まないし、何より一人だと続かないから」
少女たちの湯浴み……。
漫画やアニメではサービスシーンとも言われているそれは、現実の女の子たちにとってはこんな感じであった。
体型を隠すことができない風呂場でする会話はこんなモノだ。
口から出てくるのは自らの体型のコンプレックスを吐き出す愚痴ばかり。
その際には、角が立たないよう、決して他人のことを悪く言わず、自分が一番悪いと卑下する発言を繰り返す。
そして、相手が零した愚痴については、否定も肯定もせず。
まあ、それが本心からかは別問題だったりするのだけど。
そして、これを明日からのダイエットの励みにするのである。
ここでポイントとなるのは「明日から」。
自分で自分を追い込まないと、ダイエットなんてできないのだ。
今すぐにやらず、先延ばしにしようとしている辺り、まだ本当に追い込まれてはいないだろうけど。
やはりサービスなどなかった。
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