夜の終わり
「この畑に人が入る気配がしたからです」
なんでここにいるのか、とツムギは尋ねられて、言葉に詰まることなくそう応えた。
逆に、こう応える以外の返答は見つからない。
「なんで……よりによってお前なんだよ……!?」
自分の父に、劣等感を抱かせた奴の子供。
レイドと血は繋がっていなくても憎く、ときに気味の悪い奴。
そんな奴が自分……いや、この村では誰でも出来ないような、正確で安定感のある魔法の補助をしたのだ。
そして、メードルはそれをレベルの高い魔術師のものだと、認識してしまった。
今の自分じゃ、叶わないと認めてしまった。
メードルは憎悪と、嫌悪と、やりきれないような複雑な感情で、ツムギを睨み、声にもその感情をにじませながら、ツムギに問うた。
「……なんで、俺を助けた?!」
「このままでは、メードルさんが危ないと思ったからです」
さらりと、丁寧な言葉遣いでツムギはそう応える。
もしも、この言葉が自分より年上の親しい人が言ったのなら、頼もしいと思ったかも知れないが、メードルにとって天敵とも言えるツムギの言葉は、腹立たせる要素にしかならなかった。
「お前っ……」
鬼のような形相でツムギに近付こうとしたメードルは、アカクイドリの低い唸り声で舌打ちする。
「ちっ! おい、お前っ! 今度は俺の狩りの邪魔をするなよっ!」
そして、アカクイドリの特攻が始まった。
▽
「はあ……はあ……はあ、おい、俺、言ったよな……! 狩りの邪魔をするなって、言ったよなっ!」
果樹が囲うその畑に、アカクイドリの血糊が辺りを濡らす。
メードルの周りには、沢山の死骸の山が形作られている。
あのあと、特攻してきたアカクイドリの最後の1羽を仕留めたメードルはツムギを睨みつけながら、襟首を掴み近くにある果樹に叩きつけた。
ツムギは結局、メードルを手助けしてしまっていたのだ。
「……ぅ!」
叩きつけられた衝撃で、ツムギの口から呻き声が漏れた。
メードルはその叩きつけた勢いのままに、右手を振り上げ、何度もツムギを殴りつける。
「なんで……、なんで邪魔してんだっ! 俺が弱いからかっ! 俺が負けそうだったからかっ! 俺は助けを求めたかっ! 求めてねぇだろっ! 勝手なことしてんじゃねーよっ! そんなに……、そんなに、俺を下に見て楽しかったかっ!」
「ぐっ……! 下に見てなんか……」
「嘘をつくなっ! 俺がどんなことをしても、いつもいつもニコニコニコニコ、なんてことない顔で笑いやがって、薄気味悪いんだよっ! 今だってそうだ……」
(俺の拳を避けることもせず、防ぐこともせず、ただ受け続ける。まるで、俺の拳がなんて事ないように。俺の感情を嘲笑うかのように……。
だから、俺は)
「お前が嫌いなんだよっ!」
最後は、思いっきり腕を引き、ツムギの顔面を殴りつける。
その衝撃で、メードルの腕はジーンと痺れ、拳は赤く腫れ上がった。
そして、もちろんツムギの顔面は何発もの打撃を受け、メードルの拳以上に腫れ上がる。
そんなツムギの襟首をメードルが放すと、重力に従って、ツムギは地面に崩れ落ちた。
だらりと、地面に倒れたツムギを見て、メードルはさすがにやりすぎたか、頭が冷えていき思ったが、次の瞬間。その気持ちはどこかへいくことになる。
地面に崩れ落ちたツムギが、ゆっくりと立ち上がった。
そして、その表情を見たメードルは背筋が冷たく凍る。
「なに……、笑ってんだよ」
メードルは喉になにか詰まったような声で、そう問いかける。
ツムギが見せた表情、それは笑顔だった。
「……そうですか? 笑っていますか? だとすれば、それはきっと、安心、したからです」
そう言ってツムギは笑みを深くする。
その表情は、人を馬鹿にする為の笑顔ではなく、嬉しいことがあって、それが抑えきれなくて、溢れたような笑顔だった。
それは、いつものニコニコとした作り笑いではなく、こんな状況でしていい筈のない、嘘偽りのない本当のツムギの満面の笑み。
「……そういうところが、気味が悪いんだよ」
(そういうところが、怖いんだよ)
メードルはそう言って、その場を立ち去り帰路につく。
ツムギはしばらく果樹園に立ち、メードルが見えなくなってからその場に座りこんだ。
「いてて……。回復魔法かければ、明日までに腫れは治まるかな……?」
それにしても、とツムギは空を向く。
空は美しく満点の星空が広がり、なんとなく先ほどの嬉しい感情も相まってツムギは、笑ってしまう。
「僕の事が嫌い、……か」
そう、親しい人から言われたら、傷つく言葉だけれど、嫌われてるだろうな、と思っている人に言われたら、こんなに心安らぐ言葉だったなんて、ツムギは知らなかった。
(僕の事が嫌いなら、僕がどれだけメードル君に憧れても、いい感情を持っても、あの"何か"が暴れることはない。好きなだけ、好きだという感情を抱ける……)
暗い感情を持たれることによって好きに輝ける気持ち。
それは、暗い空でしか輝けない星のような希望だった。
ツムギは簡単に回復魔法をかけ、痛みを抑えたあと、森でいつも寝ている場所に行き、回復魔法を維持しながら眠りにつく。
なろうに直接書き込むと、文字がバグって時間がかかるので、メモ書きアプリで執筆しているのですが、書いてる途中にアプリが落ちて1500文字くらいパァになりました……。
ぶっちゃけると、落ちる前に書いてた文章の方が上手くかけていたので、ものすごく落ち込んでいます……。
番外編
地面に崩れ落ちたツムギが、ゆっくりと立ち上がった。
そして、その表情を見たメードルは背筋が冷たく凍る。
「なに……、笑ってんだよ」
メードルは喉になにか詰まったような声で、そう問いかける。
ツムギが見せた表情、それは笑顔だった。
(こ、コイツは殴られて喜ぶ、変態ドMだったのか!)
「……そういうところが、気味が悪いんだよっ!」




