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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
33/41

時は進んで

 木はあたり一面を覆っている。

 上を向けば木の枝葉が、下を見れば木の根っこが、前後左右どこを見ても木の幹が目に入る。

 木だけではなく、羽虫も増えてきていて、あたりに飛び回っている。


 そんな木漏れ日満ちる森の中、赤茶の髪の少年は弓をつがえる。

 その動作は洗練されていて、熟練者が見れば目を剥くだろう。

 「どうしてあのような子供が」と。


 少年が狙っている獲物は50メートルほど先、まるまると太った鳥。

 体長50センチはある、体の割に小さな嘴で、色は白い。


 狙いを付けて、放つ。

 放たれた矢はヒュッ! と音を立て、木々の間を縫うようにして標的に吸い込まれる。

 ーーキュッキュッ

 と鳥が鳴く。


 矢が刺さったのは、鳥の眼前。鳥自体にはカスリもしていない。しかし、矢に驚いて鳥は森奥へ逃げてった。

 少年は放つ直前に、微妙にぶれた腕を睨みつけ、下唇を噛む。

 何度弓を構えて放ってもこの癖が治らない。的に当てることは出来ても実践では獲物に当たらない。


「また、当たらなかった……」


 赤茶の髪の少年の隣で、茶髪の男が慰めるように少年の肩を叩き「今日はもう帰ろう」といった。

 少年は何か言いたげに口をもごもごさせたあと、「はい……」と頷いた。


 救世暦3990年9月25日。

 夕陽が輝く空。

 ツムギは未だにリーン村から抜け出せていなかった。「動物を仕留めること」それが独り立ちするための条件の一つであり、ツムギが達成出来ていない最後の条件だ。


 夕焼け空を背後に二人は家に戻る。

 エリスは出迎えて「おかえりなさい」という。レイドは「ただいま」といって家に入り、ツムギは「はい……失礼します」とエリスの顔も見ずに家に入る。

 すっかり慣れてしまったその光景にエリスはため息を吐いた。


 最近はまだ暑いので汗をかく。なので、ツムギは最初に汗をお湯で流すことにした。

 この国にはお風呂の文化があり、この家にも浴室はある。そこで、魔法を使い体を洗う。


 ……と、その前に、髪に付けられたシンプルな髪留めのようなものを外した。

 するとたちまち、ツムギの髪色は元の黒に戻る。


 体を流すのに使う魔法は水属性魔法<水の生成>と火属性魔法<火の生成>だ。この2つの魔法は名前の通り、水を発生させる魔法と、火を発生させる魔法で、本当に発生させるだけという具合で、戦闘では使えない。

 初級魔法にも数えられていない、魔力を覚えたてでも何かしらの適性があれば使える魔法だ。


 この2年半程で判明したことで、ツムギは他の人の魔力の質ーー魔素を模倣出来るようだ。

 しかし、模倣するには条件があり、ツムギの魔力が操れる範囲ーー直接的魔力領域の中で、ツムギが模倣しようと集中し、模倣される相手が何か魔法を使わなければならない。

 また、相手の体に触れながら、相手の体の中に流れる魔力を感知して、魔力が変化するように『魔力を変われ』と念じれば、模倣される。

 その条件を満し、一度模倣した魔力は自由に変更できる。


 今、ツムギの模倣出来る魔力は、レイド、エリス、ルイリア、ネール、フィリス、リーネ、の7つで、お湯にするのに火属性と水属性の魔力が好ましいので、火、水、地、光の四属性に適性のあるネールの魔力を模倣している。


 <水の生成>で水を空中に生成し、<火の生成>で水の中に火を灯し、温度調節をする。水の中に火があるのならすぐに消えると思われるかも知れないが、そういうことを出来るのが魔法である。

 二属性の同時操作は高等技術で、使えるものはこの村にはツムギだけしか、使える人がいないようだが。


 そんなこんなでお湯を浴び、この家にある石鹸を拝借し、体を洗ったツムギ。

 体を流し、また水を浮かし今度は肩まで浸かる。傍から見ると、浮かんでいる水に立ったまま浸かっているので、なかなかシュールな光景だ。


 それが終わったら浴室を出て、タオルで体を拭き、用意していた服を着る。


(……今日も殺せなかった)


 晩ご飯を四人で食べ、食器洗いをしたあと、寝室に付き一人思う。


 厚めなノートブックに、今日の出来事をこの世界の言葉で書き綴る。この2年で覚えた言葉で日記を書いているのだ。ノートブックの購入は、レイドと供に森の中で採れた木の実やきのこ、薬草などを売ったお金で購入したものだ。


 日記帳を前の日、前の日、とどんどん捲っていくと自分がどれだけ今躓いているのか分かる。

 リーン村に出るに当たって、ツムギはいくつかの達成条件が課せられた。


 一つ目に、薬草の目利き。この世界の薬草はおかしな効果があるもので、磨り潰して傷口に塗り込むだけで、軽い切り傷程度なら瞬時治る草や、体調を整える効果を発揮するものなど、地球にいた頃の薬品が子供騙しに思えるような草がある。


 また、触っただけで体中が痒くなるもの、中毒性のあるもの、など危険なものもあるので項目に入れたのだろう。これは、最初の1週間くらいで図鑑に書いてあるものは覚えた。実際に森の中に出向いてどの草がどんな効果がある、だとか大概わかるようになれた。


 二つ目に、魔力による身体強化。この世界には魔物がいる。その魔物から逃げるにしても戦うにしても身体強化は覚えておけ、というのがレイドの意見だ。教えて貰ったその日に出来た。これはセンスがものをいうらしい。出来る人は簡単に出来るが、出来ない人はとことん出来ないそうだ。意外にも、魔力の操作が上手い人が出来なかったりするそうだ。


 三つ目に、レイドと戦い認めさせること。これは木刀を使ってのものだった。レイドは普段から狩りをしているが、使うものは弓だ。だからか、隙が多かった。しかし、達成するのには時間がかかった。ツムギは三回程木刀を振ると握り方や姿勢などなんとなく把握し、実際に鋭い振りをすることが出来ていたというのに。

 達成が困難になった理由は、ツムギがレイドに木刀を当てようとすると途端に、剣先がブレてへなちょこな振りかたしか出来なかったからだ。ツムギは痛みを与えてしまうと考えると、剣が上手く操れなくなる感覚に陥っていた。

 結局、レイドに当たる寸前で剣を止めるのを何回か繰り返すと、お情けで認めて貰った。


 四つ目に、動物の解体。これはすぐに達成出来た。どうやらツムギの体は生き物を殺すことに抵抗を示すが、死んだ生き物を扱う分には大丈夫らしい。


 そして、五つ目に、動物を狩ること。これは一年以上取り組んでいるにも拘らず、未だに一回も達成出来ていない。元よりツムギは何かを殺すことに不可思議な程、拒否反応を示していた。

 夏場に蚊が彼の周りに飛んでいたとしても、ツムギはその蚊を潰さない。

 黒光りGが現れても、捕まえて外に放す。

 それほどまでに、殺さない。……いや、殺せない。

 だからツムギにとってこの条件は、今までのどんな条件より難しい。


「……ハァ」


 日記を見返しながら、ツムギはため息を吐き出した。


「お兄ちゃ、どうったの?」

「ッ! ……なんでもないです。ルイリアさん」

「しゃんはいらない!」


 いつの間にかルイリアが部屋にいた。

 驚くツムギだが、すぐにいつものような態度をする。

 ……他人に接するときの態度を。

 ルイリアはそれが嫌なようでむくれた。


 それに対し「……はい」と微妙な表情でツムギは答えた。


「わかったらいい! ご本読んで」

「エリスさんに読んで貰えば……」

「ヤダ。お兄ちゃ読んで」


 それに対し「……はい」と再び微妙な表情でツムギは答えた。


 ルイリアが機嫌よく持ってきた本を差し出してきたので、それを受け取ってしばらく読み聞かせをした。

 中盤辺りでルイリアは寝てしまったので、本を閉じて部屋を出て本棚に戻した。その後、ルイリアに布団をそっと掛け、その隣で寝るフリをした。


 レイドとエリスも寝室に入り寝た後、ツムギは家を出た。


「ハァ……ハァ……」


 温かく、息苦しい、家を出た。

 走って、進んで、森の中。フクロウの声の怪しい木霊。

 耳を澄ませて、聞かし聞かされ、しばらく息を整える。

 ツムギの中である程度の余裕が生まれた。


 ふと、夜空を見ようと思い立ち、近くで高めな木を見つける。慣れた調子で木に登り手頃な枝に座り込む。

 そして、宙を仰ぐ。


 空は星空。冬の方が空気が澄んでいてよく見えるとは言え、日本の民家から見る星より、幾分輝いている。

 もちろん、世界が違うから星座も違う。あの星座は金角鹿。


 こうして一人でいると、落ち着いた。

 今宵、月は満月。

 自分の中にある"なにか"はザワザワ忙しなく蠢いて、ツムギの意識を操る時を虎視眈々と狙っていた。


 寝るときは意識を手放すので、家の中で眠るのは危険だ。

 また、"なにか"は夜の方が活発に動く傾向がありそうなので、そのこともあり、いつも森で寝て、朝に急いで寝室に戻るという生活をツムギはしている。


 今日も寝ようと、木に体を預け身体強化をしながら寝た。

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