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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
27/41

リーネと負けたい遊び

「やったぁ! やっと勝てた!」


 母親達が話をしているところから少し離れた場所で、少女の歓喜の声が聞こえた。少女の名はリーネ。トランプのババ抜きをネールとツムギの三人でやって、全戦全敗を収めた女の子だ。


 その少女がなんと、初めて勝利したのだ。


 ジョーカーを引こうとすれば、ニヤリと笑って、ジョーカーを引いてしまえば、「あぁああぁぁぁああーー!!!」とこの世の終わりを知ったみたいな声で悔しがる。

 そんな彼女相手に、普通にやって負けろという方が難しい。

 『そろそろ違う遊びにしよう』とネールが苦笑しながらいうと、リーネは涙目になりながら「ヤダ……! もう一回……! もう一回やるんだもん……!」と言って駄々を捏ねた。


 しかし、だからといってわざと負けるような真似をしたネールに少女は膨れて「ちゃんとやってよっ!!」と涙を滲ませ、ポカポカ叩きながらいった。

(なんで無駄にカンが優れているんだ!)

 ネールはそう思った。


 それを見て、全戦全勝という訳ではないが、ほとんど一番だったツムギが手加減することにした。

 ツムギは相手の細かな仕草で、なんとなくジョーカーっぽいと思ったらそれを避けるようにしていた。

 ツムギは相手一人に集中すると、その人が嘘付いているかぐらいなら、挙動でなんとなくわかるのだ。


 なので、ツムギは最初にジョーカーが入っていたとき以外、ジョーカーを引かなかった。

 ちなみに、席順は何回か変わったりしながらやった。


 ツムギがやった行動とは、ネールに勝ち抜けさせた後、リーネの表情を見る前に引くという手だ。

 そうすればわざと手を抜いたとは思われない。


 その作戦を決行し、5回目でやっと勝たせられた。


 運がいいのか悪いのか、ツムギの引いていくカードは何故かジョーカーが少なかった。


 そんなこんなで、ババ抜きは終わり今度は、トランプでタワーを作ることになった。

 もう一セット家にあったトランプを出した。


「アルちゃん! 見て、出来たよ!」

(さっきのババ抜きでは、アルちゃんに駄目なところを見られちゃったけど、今度は大丈夫! 綺麗にトランプを積み上げることが出来た! これならきっとアルちゃんは「リーネお姉ちゃん凄い!」って見直してくれる! そして、アルちゃんにコツを教えるんだ♪)


 リーネは鼻高々に積み立てたタワーを見せた。

 リーネのタワーは3段だった。

 タワーの5段目を積み立てようとしていたツムギは行動を停止した。


「…………。はい……! 本当ですね……」


 ツムギはフリーズしながらいった。


「ぇ、なに……それ、5段…………。……うぅ……ぅぁ……。お姉ちゃんどして……いいとこ……みせようど……しだのに"ぃいいぃーーーーー!」


 リーネは涙を流した。

 とても大きな声で泣いていて、目元を腕で覆っている。

 腕から情けなさの雫が垂れて、テーブルを濡らした。

 リーネの横でネールが妙に申し訳なさそうな顔をしている。

 ツムギは居心地が悪かった。とてつもなく悪かった。

 そして、いたたまれない気持ちになった。


 そうして少し時間が経つ。

 頭が真っ白でよく働かない。泣いている女の子にどう対応していいか分からない。同年代ならまだやりようはあるのに、と少年は思う。


 ツムギは残念ながら5つ程年下だ。ここでハンカチをすっと出しても、格好はつかないし、もっと傷付けることになりそう。

 だからといって、具体的な解決策を見つけることも出来そうになかった。


 うんうんツムギが焦りながら悩んでいると、ネールが動いた。


 ネールがリーネの耳元で囁く。

「無属性魔法の<念動>を使って、タワーを積み立てるんだ。そうすれば出来る!」

「ヒック……ぞんなの卑怯なことでしょう! パパの……卑怯者!!!」

「ぐぅッ!」


 卑怯者ネール。

 娘の言葉が彼の心にグサッと刺さる。


「いや、でもほら! 予め<念動>を使ってタワーを組み立てるといえば、いいじゃないか! リーネの魔法操作は大人と比べても遜色ないし、アルドー君もきっと驚くと思うよ」

「ヒック……グス……うん、そうだね……。ウク……パパ。あたしやってみる!」


(途中から普通の大きさの声なんだよね……)


 こっちを見て涙でうるうるしながらも、表情をキッと引き締めるリーネを見て、ツムギは苦笑したい気持ちになった。

 聞こえていることが悟られれば本末転倒なので、『何も聞いてないよ』みたいな顔をしなければならない。

 結構辛い、とそう思った。


「アルちゃん、見ててね。魔法でタワーをつくるから! "動け" <念動> 」


 リーネが詠唱するとトランプが二枚づつ動き、合わさりを繰り返した。

 下の土台が出来、敷き詰められたら二段目に移行する。

 そんな娘の魔法を見ながらネールは思った。

(……そういえばアルドー君は大人でも真似できないような魔力操作センスを持っていたよな…………)

 頑張る娘を見て、ネールは冷や汗をかいた。


 トランプのタワーが魔法で作られる中、二段目の最後を乗せたリーネは汗をかいてそれを無造作に拭う。


(どうしよう……。もう動かせない……)


 魔力量的にはまだまだ余裕があるのだが、集中力の関係でこれ以上魔法を使ったら他のトランプにかけている<念動>が途切れてしまう。

 トランプは一枚一枚は軽くて、風もないので空気抵抗も少ない。なので、魔力消費はあまりされないのだ。


 だが、トランプタワーは一枚のトランプで出来ている訳ではない。

 何枚ものトランプの集合で出来ている。

 それを、一枚ずつ維持させるのは相当集中力を使うのだ。


 リーネが再び泣き出しそうな顔になってきた。

 娘の表情に気が付き、ネールは(どうしたんだ)とハラハラした。


 そんななか、ツムギはおもむろにトランプを拾い、リーネの作ったタワーに乗せ始めた。


「一緒に積み立てましょう?」


 ツムギは微笑を浮かべた。

 その笑顔に釣られてリーネも笑った。


「うん!」


 それからみんなで協力して積み上げていく。

 トランプで出来た塔は、ネールの手伝いもあり、最終的には八段まで積み上がった。


「やった……。初めてこんなに積み上げられた……! 凄い! 凄いよ!」

「そうですね」

「アルちゃんのおかげだね!!」


 ーーバサバサバサッ!


 リーネは完成したことを喜び、抱いた達成感をツムギと分かち合おうと気を抜いてしまった。

 気を抜いて魔法の操作を忘れてしまった。

 行き場をなくした力は変な方向に働き、トランプの塔は下から崩れてしまった。 


「あ……」


 長い時間をかけて作ったそれは、儚くも数瞬で散ってしまったのだ。

 悲しいことのはずなのに、ツムギはそんなに悲しくなかった。

 塔の散りゆく瞬間があまりにも"綺麗"だったから。


「あ、あ……アルちゃん、ごめんなさい……! ……魔法……途切れて……」

「いえ……いいんですよ。トランプの塔はいつかは崩さなければならないものです。ずっとこのまま置いておきたいと思っても、大きくて邪魔になってしまいます。

 それに崩れる瞬間まで、リーネお姉ちゃんと見ることが出来て……僕は、嬉しいです」


 ーーなんて悲しそうな笑顔だろう。


 ニッコリと笑う少年の顔。

 それはどこかへ消え去ってしまいそうだと、少女は感じた。

 彼女にはそれをどうにか出来る方法も、誰かに伝える言葉も、……なぜそう感じたかも、分からなかった。


「リーネお姉ちゃんと遊べて、今日は楽しいです!」


 そのあとそういって浮かべた彼の笑みは、温かいものだったから。

 なおさら、リーネは分からなくなってしまったのだ。


 時刻はちょうど17時頃。最近はだんだんと暗くなる時間が早い。空の端の方は赤い絵の具を交えたような空だったが、真上を向けば暗い藍色に染まっている。

 地に満ちていた明かるさも、ツムギの髪と目の色に合わせたかのように暗く、黒を従えていた。


「またね! アルちゃん!」


 高台の方にある家から、そんな声が響いた。


「はい。さようなら」


 その声に応えるように声が発せられた。


「じゃあねー、エリスちゃん! また遊びに行くからね」

「ええ、ありがとう」


 その横でも会話がやり取りされている。


 その会話のなかに入れない男がいた。

 ネールだ。


(何故だ……。みんな仲良くなっている……! それはいいことだけど……。いいことだけど! なんでそんなに仲が発展しているんだ! これだと、挨拶を交わせていない俺が、孤独な人みたいじゃないか!)


 そんな考え事をしている、孤独なネールに声がかかった。


「ネールさんも、さようなら」


 ツムギはネールにニコッと笑いかける。


「……! ああ、さようなら、アルドー君。」

(本当に……イイコじゃないか。アルドー君は……。それなのに、俺はあんなに酷いことを……)


 ネールは改めて己の行いを恥じた。


 そして、暗くなった道を歩き、彼ら三人は帰っていった。

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