終章
終章
飛空艇ターミナルの完成パーティーの次の日。
たとえ疲れていようとも朝はやって来るし、学院には行かなくてはならない。
時計を見て七時を少し過ぎそうになっている事に危機感を覚えた閃助は布団を押しやって体を起こして固まった体を解す。
枕元のこの間買ったばかりのドラゴンのぬいぐるみを抱きかかえて欠伸をする。
そしてそのまま硬直して十数秒、ゆっくりと頷いてぬいぐるみを脇に置いてベッドから出て立ち上がる。 背伸びをして腕を下ろしたタイミングでノックの音がして、返事をするとメロットが制服を片手に顔を出す。
「おはよう、メロット」
「はい、おはようございます」
いつも通りの笑顔に閃助も微笑み返す。こうも毎日顔を見ているとメロットの笑顔を見ないと一日が始まらない気がして仕方ない閃助。
「じゃあ、顔洗ってくるから」
そう言って閃助はさっさと顔を洗って歯を磨き部屋に戻る。
机の上に用意された朝食を貪りながら昨日の事を思い出していた。
昨日の今日だからいきなり何かアクションを起こそうとする人はそうはいないだろうと高をくくってミルクを口にして口元を布ナプキンで拭う。
一息ついたところにノックも無しに千穂が飛び込んでくる。
「おっはよーっ!」
「おはよう。せめてノックくらいはしてほしいな」
閃助が苦言を漏らすと千穂はふてくされた顔で閃助の隣に座る。
「はいはーい」
「閃助様、そろそろ出られるお時間ではないでしょうか」
メロットは食器を片づけて部屋を出る前に閃助にそう言うと閃助は時計を見て立ち上がる。
「そうだな、じゃあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、閃助様」
挨拶はしっかり返してくれるけど何故か不機嫌なメロットに閃助は首を傾げる。
その姿に後ろで閃助のぬいぐるみを弄っていた千穂はむふふと笑っていた。
「行かないのか?」
振り返ってみると案の定ドラゴンのぬいぐるみが弄られていて閃助はため息を吐きたくなるが我慢して千穂に聞く。
「そうだね、行こっか」
ぬいぐるみをベッドに置いて閃助の隣に立って歩く千穂。
門前に箱馬車をくくりつけて背筋を伸ばして立っているブリット。
「おはようございます!」
「おはよう。今日もよろしく」
「はいッ!」
ニコニコと嬉しそうにするブリットに千穂はため息を吐き、それを見てブリットは口をへの字に曲げる。
「何か?」
「いや、べっつにー」
そう言って千穂は箱馬車に飛び乗って勢いよく座って閃助に手招きをする。
「じゃあ、頼むよ」
閃助はブリットにそう言って箱馬車に乗り込む。
「行きます!」
ブリットが叫び走り出す。
見る見るうちに速度が上がり景色が流れて行く。その様子をぼーっと眺める閃助。
「どうしたの?」
閃助の雰囲気を察して千穂が声を掛ける。視線を千穂の方へと移し眼を見つめる閃助。
「いや、なんでもないよ」
高をくくったがもしかしたら、いろんな女の子にアプローチされるのかと思うなんて口にしたらどんな目で見られるか。
閃助の様子に千穂は納得していないが言いたくないなら無理に聞く必要はないと大人しく引き下がり閃助の見ていた景色を見る。二人とも箱馬車が止まるまで景色を眺めていた。
しかし、その途中から外の景色が異様な光景に変わっていた。
男女関係なく、停車場で大勢の者たちが待っていた。
「なにこれ……」
呟く千穂の台詞に閃助も無言で頷く。
「と、とりあえず、行こうか」
此処で取り乱していても仕方ないと閃助が箱馬車から下りると右手に居た山羊の様な耳をした、愛らしい女の子が近づいて来る。
「初めまして、閃助様」
そう言って自然に閃助の手を取り握ってくる。全くもって予想外の行動に閃助の頭の上にはてなマークが飛び出す。
それを見た瞬間に千穂が箱馬車から飛び出して閃助から手を離させようと手を伸ばすと横から出てきた如何にも貴族と言った風貌の青年に遮られて立ち止まる。
「ああ、麗しの君へ」
「うっさい! 邪魔!」
千穂はその男を払いのけて閃助に近づこうとするが千穂には男子生徒の、閃助には女子生徒の壁が厚く布かれていく。
「ちょっと、邪魔って言ってるでしょ!」
叫び虚しく徐々に二人の間は広がって行き千穂はぐぬぬと悔しげな顔をして諦めて校舎の方へと逃げて行く。それを追いかけるように雄たちが流れて行く。
閃助はと言うと獅子王の言葉が現実になったと頬を引き攣らせていた。千穂の方も自分と同じ種族で、あの光龍の娘だ。嫌でもアプローチをしてくる者は多いだろうと自らより千穂の心配をしていた。
手を握る少女の瞳はしっかりと閃助の瞳を捉え少しでも顔を覚えてもらおうと必死だ。
人生最大級のモテキかと閃助は内心皮肉めいた言葉を毒づきながらも、そこまで嫌な気分ではなかった。
イラルア皇国の歴史で初めて人類が登場し、その一ページがこの日刻まれる事となる。
同時に、迅雷王レグルスが初めて歴史に名を刻んだ日でもあった。
第一幕 終




