第一章 b
「失礼いたします」
部屋に入ってきたのは背の低い長い垂れ耳が特徴的なヴィクトリアンメイドを着込んだ小麦色の髪をしたホーランド族、兎耳の少女。
基本的には人と同じに見えるがホーランドロップの様なふわふわの長い垂れ耳が輪郭を撫でる様に隠し、ゆったりとした長いロングドレスの裾から見え隠れする兎の様な足。
閃助にとって数多くない話したことのある異種族の内の一人で良く覚えていた。
思わず耳を凝視してしまい気を悪くさせてしまった事があり、少々バツが悪い。
「お久しぶりでございます、閃助様」
リリア・メロットは片足を斜め後ろの内側に引き、スカートの裾を掴み、軽くスカートを持ちあげ、腰を曲げて頭を深々と下げ、挨拶する。
あまりにも丁寧な挨拶に閃助はどうしていいのか解らずに獅子王の方を向くと獅子王は思わず吹き出してしまう。
そして、咳払いを一つして閃助に話しかける。
「彼女に君の部屋へと案内してもらうつもりだ、私は少し執務が残っているので、食事の時にまた会おう。 頼んだぞ、メロットよ」
「はい、獅子王様」
メロットは先ほどとは変わり深々と頭を下げ、獅子王が室内を出て行くのを見送った。
それに続いて側近も獅子王の後を付いていき残されたのは閃助とメロットの二人。
ゆったりとスカートを翻し、閃助に向き直る。
「それでは閃助様、ご案内いたします」
「ありがとう、確か、メロットさんだよね?」
名前を呼ばれて長い耳がピクリと動いた。
「はい、メロットとお呼びくださいませ」
そう言う仕事だと分かっていてもギュッと心をほだされてしまいそうになる微笑に耐えきれず目を逸らしてしまう。
その仕草を良く分かっていないのかメロットは首を傾げた。
「それじゃあ、行こうか」
誤魔化そうと閃助は足早に部屋の外に出て息を吐き、後から出てきたメロットは閃助の左手に立つ。
「どうかされましたか?」
「大丈夫、なんでもないよ」
普段見ない可愛い女の子に照れてしまった、なんて恥ずかし事を本人に言える訳がない。
最も見た目は人に近くても確実に違う種族だという事を長い垂れ耳が主張している事に変わりはない。
「悪いけど、部屋までの案内お願いするよ」
「はい、喜んで」
それから数分ほど長い廊下を歩きながら外の景色を見たりして、突き当りを左に曲がりその先の階段を上がった所のさらに奥の突き当りの部屋で立ち止まる。
「こちらになります」
そう言ってメロットは静かに扉を開けた。
部屋の中は大方の予想通り西洋のお城の一室その物、広い部屋に豪華な椅子と机、おまけにベランダもあれば天幕付きのキングサイズのベッド。
六畳ほどの自室を思い出すと前途多難な生活になると強く思い知らされる閃助。
「どこかお気に召さない所がございますか?」
不思議そうな顔で何とも言えない顔をした閃助を覗き見る。
「慣れないうちは大変だろうなと思ってね」
彼女、メロットとも長い付き合いになるかもしれないと考えると無駄に畏まって居ると何時までも堅苦しいままだろうと思い閃助は明け透けな言葉を選ぶ。
「ご安心ください、身の回りのことなどは、私達、使用人がお世話させていただきます」
その言葉に嫌でも隔たりを感じてしまう。
それが当たり前なのだろうけれども閃助には勿論、馴染の無い習慣であるため、そういう所が大変だろうなと思い口にした。
まさに前途多難だなと苦笑を禁じ得なかった。
「何か可笑しな事を言ってしまったのでしょうか?」
「そうじゃないよ、迷惑掛けるだろうけど、これからよろしく」
「はい、喜んで」
扉の向こうが急に騒がしくなったので先ほどまでの光景を思い出して、メロットを見る。
「ところで、メロットは他の仕事手伝わなくて大丈夫なの?」
「獅子王様には、閃助様のお世話をするようにと言われておりますので、閃助様が何か御用が御座いましたら何なりとお申し付けくださいませ」
メロットは、元より閃助が話を呑んだら御付として身の回りの世話をするようにと言われていた。
「なるほど、じゃあ待っている間色々と聞きたいことがあるんだ」
「私で解る事なら何なりと」
「君は聞いているだろうけど、俺はここの世界とは別の世界で暮らしてきた。だから、この国の事や町の様子とか色々知りたくてね」
事実、閃助はあまりにも何も知らなさすぎる。
今回の突拍子もない話を呑む決意をしたのには理由があった。
ただ、後悔だけはしたくない。
馬鹿みたいに思える動機は閃助にとって何よりも重要な事だった。
だから、もしここで獅子王の話をなかった事にしたら絶対に後悔する、そう思うとここに来ずにはいられなかった。
無論、ただ馬鹿みたいにのんびり優雅に旅行気分で過ごすなんて事ではなくてこの世界で生きて行く、それくらいの心構えはしてきていた。
だが、元の世界にこの世界の資料なんてある訳もなく、閃助は赤子でも理解している事を知らないのだ。
だったら知っている相手に聞いて学んでいくしかない。
「頼めるかな」
「はい、私の知る範囲のお話でしたら」
「ありがとう、助かるよ」
閃助は近くの椅子に腰かけてメロットの方を向く。
「メロットもほら、どこでも座って」
「よろしいのですか?」
「別に問題ないよ、少なくても二人の時ぐらいはさ」
閃助は自分だけ座ると言うのはなんだか悪い気がして、メロットにも姿勢の良い体制のまま立ってもらい続けるのも大変だろうと催促した。
閃助の意志を尊重しメロットは失礼いたしますと言いながら一番近かった椅子に腰かけた。
「色々聞きたいことはあるけど、言いにくい事じゃなかったらその耳とか足回りとかの柔らかそうな部分がどういうモノか聞きたいな」
「えっと、耳と足ですが?」
頭の上にはてなマークが浮かんでいるのが目に見えた、確かに聞き方が悪かったがそれ以外どう聞けばいいだろうかと腕を組む。
「聞き方が悪かったかな、その兎の様な耳や足はどうしてそうなのかって事を知りたいんだ」
少し考える様な仕草で頬に人差し指を当てて首を傾げて納得したメロットだが、気を抜いてしまって何時もの癖が出て居る事に気が付いてはっとして両手を胸の下あたりで組む。
「つまり、閃助様は『元形部位』についてお聞きしたいという事ですか?」
「多分、それだと思う」




