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第一章 a

第一章


その日の城内は急に慌ただしくなった。

前触れもなく、何の変哲もない青年が国王を訪ねてやってきたのだ。

知らせを聞くや否や国王は瞳を輝かせて、まるで幼子の様に期待に満ち溢れた表情でそばにいた側近に直ちにもてなす準備をせよと命じた。

そうなっては城内のメイドに執事、おまけに日向でうたた寝をしていた兵士たちも巻き込んで大慌てで準備が始まる。

国王は大きな体躯の為、窮屈な正装は好まないが瞬く間に用意された正装に喜んで袖を通すほどに浮かれている。

その国王が浮かれるほどの最もホットで注目の的でありながら、兵士たちからはぶつくさと知らぬところで悪態を吐かれている青年を見た事のあるメイドはこの騒動の合間に他のメイドたちから前回同様に質問攻めにあっていた。

その中の一人、リリア・メロット。彼女はこの惨事の様な騒動の原因、雨鳴閃助と言う青年と言葉を交わした事がある為、他のメイドよりも多く質問攻めに合っていたが、国王直々の呼び出しに飛び跳ねて大急ぎで国王の元へと向かう。

噂の渦中の青年は目の前を通り過ぎるメイドや執事、おまけに鎧を着た兵士たちの姿に自分の置かれた立場を強く再認識していた。

彼は雨鳴閃助。数ヶ月前にひょんな事からこの異界へと繋がる道を見つけた現状唯一無二の人間である。

ぼけっとしていると案内を申し付けられた若く背の高い執事が現れ、彼の後を黙って付いていき客間の前に立つ。

執事によって空けられた扉を潜るとそこには前回同様、見慣れぬ姿の国王が椅子に腰を下ろしていた。

国王は扉の音で客人に気付いたのか立ち上がり閃助を抱きしめた。

「よく来てくれた閃助。本当にありがとう、心より感謝する」

下手をすれば倍近く体躯に差があるので抱きしめられると自分が子供に戻ったような気にさせられると一人ごちる。

挨拶もそこそこに解放されて国王に催促されるまま椅子に座る。

「この数ヶ月、君がどのような答えを聞かせてくれるのか。いや、どのような回答でも受け入れる覚悟はしてきた。 二度と話す事も叶わぬと思っていたのだ、こうしてまた出向いてくれた事だけでも、本当に感謝する」

「いえ、俺も時間を掛けてすみませんでした」

閃助は初めてここへやって来た際、国王に頼みごとをされていた。

一呼吸おいて、閃助は国王のアイスブルーの瞳を見ながら、強く答えた。

「俺でよければ今回の話、受けさせてもらいます」

それは自らがこの国の次期国王候補となること、ひいてはこの異界で生涯を過ごすということ。

腹を据えて決心した道に閃助は何一つ迷いは無かった。その頼み事に対する肯定の回答に国王の白く長いたてがみが逆立ったように見えた。

閃助は安全だと分かっていても思わず唾を飲み込む。

澄んだ青空の様に輝くアイスブルーの瞳、汚れの無い純白の白い毛並に威厳を感じさせるたてがみ、三メートル近くあるのではないかと思うほどの体躯に優しく微笑む度に見える鋭い牙、紛れもなく純然たるその姿は百獣の王、獅子である。

人ならざる者たちだけが住まう世界、その星に存在する大陸の一国を総べる者。それがこの雄、獅子王と呼ばれるイラルア共皇国の国王である。

大きく息を吸い長く息を吐いて獅子王は閃助を見据える。

「ありがとう、何と礼を言えば良いのか。今の私は心から君に感謝している」

「そんな感謝だなんて、俺は自分が後悔しない選択を選んだだけで、そんな事言われると困ります」

「いや、そうは如何、私の都合で閃助、君を選んだのだ。君にどれだけ迷惑を掛けているか、その上で君は私の頼みを受け入れてくれた、感謝するのは当たり前の事だ」

あまりにも紳士的で目を奪われるほどに気高きその姿はまさに王に相応しい。

照れくさくなった閃助は思わず視線を逸らし、それに気づいた獅子王は話を変える。

「すまない、少々興奮しすぎたようだ。食事の用意をさせている間に部屋を案内させよう」

獅子王が控えていた側近に目配せすると彼は無言で頷く。

「入ってもよいぞ」

側近の一言で部屋の扉を数回ノックする音がしてから、扉が開く。


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