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八時限目「コスプレをした社会科教師二人によって幕開ける激闘について」

今回からバトル回。然し本当にこいつらただの社会科教師なんでしょうか?

「どうも皆さん、通りすがりの魔法少女です」

「どうも皆さん、魔法少女のマスコットです」

「「二人合わせて『英語ができない私を責めないDAY』です」」


 突如現れては『英語ができない私を責めないDAY』を名乗った男女の二人組は、何とも変な格好をしていた。

 その詳細を述べると説明文だけで500~1000字を超えてしまうし、そもそも私はその大まかな風貌と声から二人が何者なのか既に理解してしまっているので単刀直入に言うと――常木先生と清木場先生だった。


 ただ問題なのは先程から言っているように、二人の恰好がわりと妙なコスプレにしか見えないということだった。

 何せそれぞれフリルつきでミニスカートかつ所々露出の高いメイドかウェイトレスを思わせる制服風の衣装に、欲深く冷酷な大手暴力団の幹部格を彷彿とさせる毒々しい色合いのスーツである。仮に前者の衣装を着こなす常木先生が魔法少女に見えたとしても、後者の衣装に身を包む清木場先生がそのマスコットだなどとは信じられないだろう(まず常木先生の時点で魔法少女には見えないが)。

 どうにも状況が理解できないといった感じの私達や賀集一味が混乱の余りただ呆然としていると、二人はいつの間にか貯水タンクから私達親子の側へ音もなく舞い降りては言う。


「さて、それでだね……突然現れて何なんだが、超絶賀集帝国の諸君……開国祝いの中申し訳ないのだが、君らには既に各方面から鎮圧命令が出されていてね……生死問わず、全員残らず無力化せよとのお達しだ……」

「な、何ぃ!?」

「ま、事情聴取の為に一人か二人ぐれーは生け捕りにするのが理想的ってぇ話だがよ……基本的にゃ皆殺しにしてくれて構わねーって――よっ!」

 さらりととんでもないことを言いながら、清木場先生はどこからか巨大な黒い球体――というより、漫画などでよく見かけるデフォルメされた爆弾のようなもの――を取り出し、賀集の部下達目がけて投げつける。

「うわああああああああああ!?」

「な、なんだありゃああああ!?」

 その迫力と威圧感に部下たちは恐れ戦き逃げ惑う。だがそんな部下たちを嘲笑うように爆弾状の球体は空中で炸裂、近くに居た賀集の部下達を屋上から吹き飛ばしてしまった。

 不思議な事に炸裂で生じたのは強烈な爆風のみで、火の気や煙などは一切上がっていなかった。

「さて、これで道ができたな……お二方、ここは僕らに任せて彼女を連れてお逃げなさい」

「お、おう! わかった! 親父、急ぐぜ!」

「ああ、そうだな。誰かは知らんが有り難う、それしか言葉が見付からない!」

(実際は誰だか知ってるんだがまあこの流れだし知らないふりをしておいた方がいいだろう……)

「いや何、礼には及ばんよ。然し気を付けなさい、校内にはまだ連中の手の者が残っているはずだ。安全な場所に出られるまでは用心した方がいい」

「勿論だとも!」

 通りすがりの魔法少女、もとい常木先生と軽く言葉を交わした私達親子は、場の混乱に乗じて寿々子さんを連れて屋上から逃げ出した。




「さて、これで一先ずは大丈夫……でもないかな。ジェットテンフット、フライングネクトン、ベンソン親子と尾原君の護衛を頼む。

 プランテッドマウス、待機している全メンバーに校内各所に囚われている人々の救助へ向かうよう伝えてくれ」

 僕(常木譲)はスマートフォンで校内にスタンバイさせている小さな盟友達のそれぞれに指示を出しつ身構える。

 清木場君のエアーボムで大多数の"国民"どもを屋上から吹き飛ばし、賀集敦を含む残った幾人かも気絶してはいるがじきに意識を取り戻すだろう……などと思っていれば、早速何人かが意識を取り戻しつつあるようだ。

「さあて清木場君、どうするね? 奴らまだまだやる気のようだが」

「向こうがやる気だってんならこっちも殺る気で迎え撃つだけですよ。何時だってそうしてきたじゃありませんか」

「それもそうだったね。然し驚いたよ。校長や理事長、大学の学長とかは兎も角、市長や県知事からも奴らを殺せと命じられるなんてね。全く、何だってただの教師でしかない僕らなんだか」

「そりゃあんた、私らが只の教師じゃねえということを熟知してっからでしょう。どっから聞いたんだかは知りませんが――」

「うらぁ! てめぇらよくもやってくれたなぁ!?」

「てめえらの所為で賀集の結婚式も景気づけの処刑ショーも台無しだ! どう責任取るってんだテメェ!?」

「これはもうあんたらぶっ殺してハンドバッグなり三味線なりにしてでも責任取らすっきゃないわよねぇぇぇぇ!?」

「賀集! あんたは手ぇ出すんじゃないわよ! 帝王ってのはそうそう表に顔出さないのが鉄則なんだから!」

 見れば意識を取り戻した賀集の取り巻き達が僕らを取り囲み、各々銃や刀など様々な武器をこちらに向けていた。どう考えたって僕らを殺す気でいるのだろう。

「ふん、仕方のない奴らだ。ならば掛かってくるがいい、返り討ちにしてやろう」

「久々に、暴れるとすっかぁ……」

「ウダラ気取ってんじゃねぇぞぉぉぉぉおおおお!」

「うおおおおおおああああああああ!」

 ふむ、正面からいきなり向かってくるか。しかも鈍器や刃物だけでなく飛び道具を使う奴らまでも。全く芸のない連中だ。

(だがこれは都合がいい……まとめて向かってくるなら殺し方はもう、できているっ!)




「叩き潰しちまえええええ!」

「ぶち砕いてやらああああ!」

 常木先生が背後で持ち前の反射神経とスピードを生かした戦いを繰り広げているのと時を同じくして、私こと清木場創太郎の周りには見るからに怪力を誇りそうな巨漢・巨女ばかりが迫って来ていた。

 過半数が私より大柄な者で占められるだけに、武器も持ち前の腕力を最大限に生かすためだろうが大ぶりな棍棒やハンマー、鎖付き鉄球などの鈍器類の他、どこからか適当に拾って来たのであろうドラム缶や瓦礫ばかり。

「ぬうううがあああああああ!」

「どおおおりゃああああああ!」

 現に今、こうして私を叩き潰そうとしているトロール二人の振り上げている武器もコンクリートの土管と丸太だ。どちらもサイズ、重量ともに恐らく結構なもので、まともに食らえば一溜りもないだろう。だが――

「ほっ」

「「な、何いいいっ!?」」

 この私にしてみればそんな鈍器如き受け止める程度の事なんぞ、わりとどうって事もねえ話なのであって。

「よっ、と」

 ましてそれを、振り下ろした脳筋どもの脳天だか後頭部だかに投げ返してやるぐれえのこと、ワケもねえのは当然だ。

「「ごぶべばぁっ!?」」

「はんっ……自分てめえ武器えもので自滅たあ、笑い話にも――

「うおるああああああっ!」

「おっと、背後から奇襲かける程度の知恵はあるような奴も居たか。だがダメだなぁ、ドラゴニュート相手に背後バック取ったぐれぇで粋がってるようじゃ……私みてえなのは、特によぉぉっ!」

「なっ!?」

 尻尾を伸ばし(・・・)、背後から襲い掛かってきた巨漢を適当に薙ぐ。手応えはあった。予想外に背が高かったもんで、頭じゃねえが……十分だ。

「……何が、ダメなんだよ? おうこのヤクザ気取りのクソボケ野郎が! 何がダメなんだよ!? 言ってみろやあ!」

 なんだこいつ、まだ気付いてねえのか? じゃあ益々――

「……ダメ、だなぁーお前。この状況でそんな台詞しか吐けねえなんてよぉ……」

「だから何がダメなんだよ!? はっきり言えやこのチンピラが――

「下あ見ろ、ボケが」

「は?」

「より厳密には胸か腹の辺りだ。それ見りゃ流石に気付くだろ」

「あ? てめー何を――ぉわあああああああああああああ!?」

「っっっっ! 五月蠅えなオイ何がどうした!?」

「なっ、ああ、うあああ、お、俺の、俺の腹がああああ!」

 何なんだ全く、いきなり悲鳴上げやがって騒がしい野郎だ。然し一体何事かと振り返ってみりゃ成る程、身長3m弱の猪獣人ボアオークが大きく抉られた腹から血やら内臓やらを垂れ流しながらオロオロしてやがった。まあ確かに騒がずには居られねえような重傷を負って奴だろうな。

「ほれ、これで分かったろ? お前自身の今置かれてる状況がよぉ」

「あっ、ああっ、あああああ、お、おめえ! お、れ、俺にっ、俺に何しやがったあああ、ああ!?」

「大したことはしちゃいねぇよ。ただお前の肉を適当に食っただけだ。然しそこをそんだけ食われてまだ喋る余裕があるとは……豚亜人オーク頑丈タフでしぶといってのは聞いたことあるがよ、流石にそれは死んじまうんじゃねーかと私は思うんだがなぁ」

「えぇぃ、へいぃぃっ! し、知るかバカっ! お、俺だっ、て、なん、なの、か、わかんねーんだっからっばああああああ!」

 叫びかけた所で、猪獣人ボアオークの巨漢は口から大量の血反吐を吐き散らしながら屋上の床に崩れ落ちた。

「ん、死んだか……然しこいつ、何か妙だな……ちぃと調べる必要があるか……」

 見れば周りの奴らは仲間の死にビビるどころか、仲間を殺した私に対して殺意をむき出しにしているようだ。或いは私の首を賀集に差し出せば昇格できるという考えなのかもしれんが。ともあれこれは都合がいい、こいつら全員があの生命力を得ているという確証はないが、それも調べてしまえばいい話だ。

「……有機的可変オーガニック・ヴァリュアブル・流体金属細胞フルイド・メタルセル……基盤S適用、形質A、C、E起動……」

 静かな呟きに応じるように、私の身体は変異し始める。鱗や皮膚は頭髪と同じ灰銀色になり、背からは暗黄色の鳥に似た大降りな翼が生え、明るい赤紫色になった尾はより細長くしなやかになり、鮮やかな緑色になった頭はワニを思わせる厳ついものへと形を変える。辺りで賀集の取り巻きが何か叫んでいるが、最早『何とでも言え』としか思えない。

「さて……久々に暴れさせて貰いますかい……――グルガァァァァアアア!」

 翼を広げた私は、景気付けに一発雄叫びを挙げる。頭部が頭部だからかワニのそれに似た咆哮は大気を揺るがし、私に殺意を向けていた連中を軒並み震え上がらせた。

「ひ、ひいいい! なんなんだあいつ!?」

「いきなり姿が変わったと思ったら、今度はいきなりダイナマイトが爆発したみたいな声出してもうわけわかんないんだけどー!」

「チクショオオオオオオ! 怖エエエエエエエエっ!」

「もうヤダ帰りたーい!」

「戦いたくねーっ!」

 どいつもこいつも咆哮一発でこの調子なので、もう何か一方的な虐殺になる気しかしねぇ。苦戦しないに越したことはねえにしても無抵抗の相手を一方的に痛め付けるのは正直嫌だなあ……なんて思っていたのだが、

「バッカヤロウ戦いたくねえとか言うなよ俺らまで戦意喪失すんだろ!」

「そうよそうよ! 戦いたくないのはみんな同じだわ!」

「けど俺らはもう後戻りできねー所まで来ちまってんだよ! だったら進むっきゃねーだろ!」

「おめぇらだって身内殺してまで賀集についてってんだったらハラ括れやあー!」

 一部の無駄なやる気を持て余しくさったバカどもが他の連中を鼓舞し始め、怯えきっていた奴らの瞳に再び私への殺意が宿る。

「おっ、いいねえ……それでこそり甲斐があるってもんだ。社会のゴミどもめ、かかって来やがれ。超絶賀集帝国だか何だか知らねえが、高々十数年ぽっち生きた程度で悟った気になって『学校なんてくだらねえ。勉強なんてするだけ無駄だ』などと抜かしやがるてめえらのやらかしたことがどんだけの重罪か、この清木場創太郎が社会科教師として直々に教育してやっからよ……」

 ああ、興奮してきたぜ。こういう時は一発叫ぶに限らぁな。

「始業時間だ、着席しやがれゴミガキがぁ!」




ってエー……畜生ぉ、いきなり吹っ飛ばしやがってあの変態どもが……」

 この俺、古居宇太郎はいきなり現れた変態二人組の妨害を受けて屋上から一気にコンクリの地面に放り出されちまっていた。幸いにもあの稀秘って奴から貰った力のお陰で重症にはならずに済んだが……

「(それでも俺含め大勢の仲間が屋上から追い出されるわ、俺の持つ睨んだ範囲内の敵全員をビビらせ動けなくするギロッとアイ強化版も何でか消えちまってるわ、そのせいで校内の奴らが次々抵抗し始めるわ、非力な奴らも逃げ出すわ……こいつぁかなりヤっベェーぞ……)」

 考えたくねえことだが、多分上にいる仲間たちはあの変態どもにぶっ殺されてるだろう。あと寿々子や便所野郎どもも逃げ出してるかもしれねぇ。

「(となりゃ……もう形振り構っちゃいられねーよなぁっ!)」

 決意を固めた俺は、既に意識が戻りつつある仲間たちに呼び掛ける。

「てめぇらっ、集ゥー合ォォーッ!」

 大勢の仲間を呼び集めた俺は、力の中で一番の切り札を使うことにした。




「ほいっ、と」

「ぐわばぁーっ!」

 向かってくる小男を愛用の短刀で一刀両断した僕(常木譲)は、ふと向こうの方で戦う清木場君に目をやってみる。

「(ふむ、向こうも大騒ぎのようで……彼のああいう側面を知らず、巨体や怪力による格闘を軸に据えた単なるパワータイプだと思い込んで向かっていった奴らは全く御愁傷様と言わざるを得んね)」

 見れば戦況は清木場君が圧倒的に優勢で、賀集の手下達はなす術もなく一方的にやられてばかりだった。

「さて、この辺りも粗方片付いたかな」

 現に先程切り裂いた小男を最後に、僕に敢えて迫って来ようとする者は居なかった。皆創太郎君の方にばかり気を取られていて、僕など眼中にないらしい。賀集にしても、取り巻き達が大勢死んでいるというのに表情一つ変えず、さもそれが当然の出来事だと言わんばかりに大物ぶってドンと構えていやがる。

「実に不愉快だな、ああいう古臭い男が持ち合わせるジェンダーの欠点ばかりをひっくるめて煮詰めたものを常温で放置し取り返しのつかない段階まで劣化させたようなクズは。全く、物心ついた時から日に生卵ばかり数ダースも食っては発達させた無駄な筋肉と汚い胸毛ぐらいしか誇るものがなさそうな面をしやがって。ああいう奴らばかりが無駄に目立つから各方面でオーガやトロール、オーク、イエティなんて種族のイメージが悪くなってばかりなんだ」

 などと呟きながら改めて周囲を見渡せば、これはまあなんという死屍累々。実に惨たらしいな。全く惨たらしい。誰だこんなことをした奴は? 実に最低だな――ああ、僕だった。

「じゃあ僕が最低か? まあ確かに、清木場君の裸体を見れば当然いやらしい方面で興奮するし着衣状態の彼を見ても卑猥な妄想が捗って興奮するし声聞いただけでもわりと性的な方向で興奮するし性欲はそれなりだ。タイトルにもあるように変態呼ばわりされるのも、不本意ではあるが認めざるを得まい……まあ清木場君に変態呼ばわりされたらいい感じに興奮するがね。そして興奮の余り彼に手を出して折檻されるなんてことはしょっちゅうだ。然し性欲を拗らせた変態であるからと言ってそれだけで最低とは言えまい。好き嫌いもなければ浮気もしないし目上の相手には敬意を払い生徒への思い遣りも並み以上にはあるつもりだ。今回の殺戮も学校を守る為、諸方からの要請を受けてやったことだし。となると僕は最低じゃないってことに――」

「ぅんぬおりゃあああああ!」

 突然背後から響き渡る、不自然に――例えるなら、元々高かった声を無理矢理低く加工したような――野太く以下にも知能の低そうな叫び声。一体何事だと振り向いてみれば、身長18m程度の醜く不格好な筋肉ダルマが怒りの表情で此方を睨み付けていた。

「……何これ?」

 敵って事でいいんだろうか。ともあれ放置しておくわけにもいかないので相変わらず巨漢どもを蹴散らしている清木場君に一言『ちょっと席を外させて貰うよ』なんて告げた僕は、屋上を後にしつつあの全身不細工な筋肉ダルマを片付ける為の準備に取り掛かる。

「出番だよ、ラッキーくんっ」

次回、超キュートでプリティーな譲のペット、ラッキーくんが登場!

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