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四十三時限目「老いざる人魚とその被害者たちを待つ驚愕の結末、即ち雄竜の凶行について」

追い詰められたウェンディの口から飛び出た予想外のクズ発言に隊員騒然!

そしてこの後、創太郎のクズ過ぎかつ空気読まなさ過ぎるクソ以下の行動が惨劇を呼ぶ!


『読者の予想を徹底的に裏切りたい』

『自分の描く主人公は決して正義ではない』

『寧ろ実力があるだけのどうしようもない屑である』

そんな蠱毒成長中の、救いようがないほど歪み切った思いが炸裂の最新話、遂に更新!

主人公だからって常にカッコよくて正しい行動だけをし続けているとか幻想も大概にしておけよ!

(いつになく気合いの入った前書き)

「この者達は――私以外のマーメイド隊関係者は、どのようにして頂いても構いませんので! どうか、私だけは何卒ご勘弁を!」



 そこからの流れは異様にスムーズかつ無駄に洗練されていて、私達は抵抗する間もなく絶望への下り坂を転げ落ちて行く。

 私達の内、ある者は泣き出し、あるものは落胆し、あるものは言葉を失い、ある者は気がふれて笑い出す。またある者は隊長への抗議や糾弾を試みたが、然し彼女は私達の如何なる言葉にも耳を傾けず、淡々と憎きドラゴニュートとの対話を進めていく。


 ドラゴニュートは隊長の申し出を承諾するか否か迷っていたようだが、追加で傷付き別室に隔離されていた美麗闘士の方々をも闘技場に転送し『彼女らをも好きにしていいからどうか』と形振り構わず頼み込む。

 すると幾らかの、恐らく美麗闘士に痛め付けられた経験があるのであろう男たちが『ならば構わんだろう。直接的な実行者に報復できれば指揮官はどうでもいい』などと言い出し、その意見を聞き入れたドラゴニュートは快諾し、かくしてあっさりと我らが隊長ウェンディ・ボーモントは闘技場から逃げ出してしまった。

 謝罪や嘲笑の一言もなく、視線も向けず全力疾走で逃げて行く彼女の背中はどこか楽し気で、縋るべきものを全く失ってしまったという現実を嫌と言う程再認識させて来るのだった。




「ちょっと、皆さん! やめましょうよこんなことっ! 絶対間違ってますって!」


 僕、トリダ・タヒ・タルカスは目の前で凶行に及ぶ嘗ての同胞たちを止めようと必死に呼びかける。だが同胞たちは嘗て自分達を痛め付けていた女たちへの報復行為――殴る蹴るといった身体的暴力から、直接描写するのが躊躇われるような性的暴行まで、内訳は様々だ――に夢中になっている。

 もう僕なんかの言葉に耳を傾ける者はいない。けれどだからと言って、この惨劇を無視して帰るなんてことは当事者としてすべきじゃないと思っていたし、まして一緒になって女たちを痛め付ける側に回るなんて以ての外だろう。

 だがこのまま叫び続けたって状況は好転しない。なら手段は一つだ。


「清木場さんっ! 何やってるんですか、彼らを止めて下さい! 僕じゃ話を聞いてくれない!」

「……何故だ」

「何故、って……こんなの間違ってるからですよ! 無抵抗の相手を一方的に痛め付けるなんて、どんな理由があったって許されることじゃない!」

「確かにそうだな。だが今彼らに痛め付けられているあの連中は嘗て同じことを――いや、もっと酷い事を大勢の人間にしてきた。ならば同じか、或いはそれ以上の報いを受けるのが世の中というものだろう」

「因果応報、ってヤツですか? ……確かに理屈ではそうかもしれませんけど、だとしても罪人への制裁は法の下に行われるべきでしょう! ここで彼らを止めなかったら、実行者である彼らは奴らの同類になってしまうし、止めなかった僕や貴方だって当然悪人ってことになる!

 清木場さん、僕は貴方とまだ出会ったばかりだから、果たして貴方って人がどんな方なんだか、その辺りを詳しく知ってるわけじゃない。こう言っちゃ失礼ですが、もしかしたら貴方はあのマーメイド隊って奴らさえまともに見えてくるほどの極悪人で、常識がまるで通用しない怪物じみた狂人なのかもしれません。

 けどそんな僕にも断言できることがある。それはね清木場さん、貴方が僕らを助けてくれたって事ですよ。貴方はあの時、確かに怪物ワニを操って僕らをあの地下から脱出させてくれた。そして僕らを通じて囚われていた他の人たちも助け出し、自らは囮として敵を足止めし、僕らを直接痛め付けていた幹部の女たちをやっつけてくれた。

 つまり、他の誰がどう思おうと、実際過去どんな被害に遭っていようと、少なくとも今この場では、貴方は僕らを助けてくれた命の恩人で、僕らにしてみれば救いのヒーローみたいなもんなんですよ。僕や彼らは、少なくとも貴方のことをいい人だと思ってるんですよ。

 そして、貴方には志を同じくする仲間が居て、あいつらを束ねているネバーランドって悪の組織を壊滅させるべく動いてるって事もさっき聞いたから知ってる。ネバーランドなんて聞いたことないけれど、少なくとも僕らをあんな目に遭わせた奴らの親玉なら、社会全体にとっての悪と考えるのが妥当でしょう。なら貴方や貴方の仲間達は、少なくともその意味では社会に貢献する正義の味方ってことになるんですよ。

 だから清木場さん、彼らを止めて下さい。正義の味方が身内の悪行を容認するなんておかしいでしょう。……僕も、反対するならもっと早くからしておけば良かったとは思います。実行してから止めに入ったってどうしようもないし、もうここまで放置したなら同罪だろうって。それにもう、既に彼らは取り返しのつかないことをしてしまっている。マーメイド隊の女たちは勿論、彼らも恐らくは法の裁きを受けるでしょう。場合によっては、僕も。

 けどだとしても、どんな悪党にだって悪党なりの事情があって、何かしら仕方ないような側面がある筈なんです。なら許せる限りは許してやらなきゃいけないし、救えるのなら救ってやるのが道理でしょう。だからお願いです清木場さん、彼らを……そしてあいつらをも……救ってあげて下さい……情けないですけど、僕じゃ、もう……」

 僕は思わず泣き崩れていた。

「……」

 そして清木場さんは微動だにせず、少し黙り込んでいたが。

「……わかった。私は自分を正義の味方だなんて思ってねえし実際お前の言う通り悪党なんだが、確かにその言い分は正論だ。何より冷静に考えてみりゃ、こういう場面ってのはどうにも私の趣味じゃねえしな」

「……え?」

「お前の提案を呑もうって言ってんだよ。私は奴らを止める。助けた男どもは勿論、マーメイド隊の連中にも、妥当な裁きと救いを与える」

「ほ、本当ですかっ? あ、有り難うございます……有り難うございますっ!」

「礼には及ばねえよ。それが当然の事だしなぁ……さて、と」

 そう言って清木場さんは、何故か辺りを物色し始める。

「え……あの、清木場さん? 一体何を?」

「ああ、いや何。ちょっと探し物をな……」

「探し物?」

「ああそうだ。下手すっと外出なきゃいけなくなるんだが……ん、これはどうだ……装填数は……ちっと足りないが、まあ数さえありゃ何とか……よし、こんなもんだろう」

 そう言って清木場さんが手に持っていたのは、結構な数の鉄砲だった。ピストルやライフルなど色々な種類があるけれど、どれも元々ここの兵士たちが持っていたものだ。

 僕の脳裏に、ある最悪の展開が浮かぶ。まさかこの人は、そうするつもりなのだろうか。だとしたら何としても止めなければ。

「き、清木場、さん……? そんなもの、何に使うつもりですか?」

「何ってお前……奴らを止めるんだよ。そして妥当な裁きと救いを与えてやるのさ」

 僕は清木場さんを止めようとする。だが彼はそれを見越していたかのように左手で僕を制し、しっかりと睨み付けてくる。行かなければ。頭では理解しているのに、なぜだか身体が動かない。どうしてだ。この不思議な威圧感は何なんだ。

「おっと、止めてくれるな? ……大丈夫だ、安心しろ。お前は殺さねえし、これが終わったらすぐ上司に連絡取って脱出用のアシを手配してやる」

 などと言いながら、清木場さんは手にした鉄砲で次々と目の前の男女を撃ち殺していく。

 目の前で繰り広げられる、一方的な虐殺。僕はそれを、黙って見ていることしかできない。

 止めなきゃいけないのに、何もできない。今ここで止めに入っちゃいけないと、内側から何かに押さえつけられているような感覚に陥る。

 何だこの感覚は。消えてくれ、頼む。消えるんだ。消えろ。僕は彼を止めなきゃいけないんだ。こんなの間違ってるんだ。ちっとも正しくなんかない。

(そうだ……止めるんだ……!)

 けれど僕の身体は結局何故だかピクリとも動かず、結局清木場さんはその場に居た大勢の男女を手に持っていた鉄砲で皆殺しにしてしまったのだった。



「今うちの上司に連絡を入れた。もう15分もすれば迎えに来てくれるそうだ」

 全ての鉄砲を空にし終えた清木場さんは、それまで虐殺に手を染めていたとは思えない程爽やかだった。

「ここを出てすぐの階段を上った一番上の非常口から船の甲板に出られる。そこに飛んでくる有翼人やドラゴニュートの数人がお前の関係者だ。運んでもらえ」

「……わかりました。有り難うございます。……ならまだ時間、ありますよね。

 清木場さん。質問、いいですか?」

「お前の望む答えを返せる確証はねえぞ」

「構いませんよ……じゃあ、単刀直入に。何で彼らを殺したんですか?」

「……何であいつらを殺したか、だと? ……殺すつもりだったからだよ」


 思いがけない言葉に、僕は絶句する。

 よりによって、殺すつもりだったとはどういうことだ。

 まるで、自分がただ人を殺したいだけの快楽殺人者であるかのような言い方じゃないか。


「より厳密に言うなら、最初っから殺すつもりだったのはマーメイド隊の連中だけだ。お前と一緒に助けた男どもについては、全員生還させてやるのが筋だろうし、実際最初の内はそう思ってた。こいつらは元の生活に戻してやんなきゃ、ってな」

「なっ!? だ、だったら、どうしt――

「けどなぁ」


 その『けどなぁ』は、一見気だるげでありながら凄まじい怒気や憎悪のようなものを孕んでいるようだった。


「なんか、駄目だったよ……こう、幻滅しちまったんだわ」

「幻、滅……?」

「おう。さっき、こいつらが報復させろって騒ぎ出した時は大して何も考えずOK出しちまったんだがよ、実際報復だ何だって好き勝手ボコってるとこ見たら、やけに汚く見えちまってなぁ。

 協力持ちかけた時はみんなマトモそうで、早い所元の生活に戻りてぇとか言ってて、報復の理由でも無念晴らすだの正義示すだのと言ってて……言ってた癖に、あんなんだったからよ」

「……」

「見たかよ、死ぬ前のあいつらのツラをよ。揃いも揃ってその場限りのノリ任せって感じで、怒りや憎しみがきったねぇ欲望に塗り潰されてて、見るに耐えねぇ惨状だったんだわ。しかも、どいつもこいつもてめえが悪だという自覚がねえ。

『自分達は被害者なんだから、こいつら加害者には何やったって許される』ってなクソ理屈が顔にデカデカと書いてあるような……つまりはあんだけやっときながら、てめえが無罪だと信じて疑ってねえという、そういう内面を奴らに感じた。これでもちっと長生きでな、自慢する程でもねぇが、ツラや声から内面を読み取るなんてのはわりと得意でよ。読めねえ奴はとことん読めねえが、読める奴なら頭ん中を透視するみてぇに内容が伝わってくるんだ。

 それでまあ、奴らは読みやすかったもんで全員分色々読んでみてだな、ああ、こいつらダメだ救いようがねえな、と」

「……だとしても、殺す必要はなかった筈です。彼らは救われるべきだった。なのに彼らを殺すだなんて間違ってる。正義に反する悪行ですよ、こんなことっ」

「……」

 清木場さんは黙り込み、少しばかりわざとらしく頭を抱えるフリをし、やがて気だるげに口を開く。

「……何をどっからどう突っ込みゃいいんだか迷うが、まあその、何だ。

 私は悪党であって、正義の味方じゃねぇんだよ。さっきも言っただろうが。それが答えだよ」

「……それが答え、って……何言ってるんですか! なら僕だって言いますよ! 貴方は正義の味方だ! 普段がどうでも、自分でどう思っていようとも結果として正義の味方なんだ! さっきも言ったでしょう!?」

「ああ、うん。まあ、さっきも言われたな。

 けどな、それでもやっぱり私は結局の所、根本的に悪党なんだよ。それも、明らかに何かしらやらかしてんのに証拠不十分で不起訴処分んなってのうのうとカタギぶって生きてるような、クソ忌々しい半端もんの偽善者カスだ。私自身がそう在ろうと意識してんだから間違いねえ」

「……自分自身がそう在ろうと意識してる、って……どうしてそんなことを……」

「どうして、ってか? そっちの方が楽だからに決まってんだろ。正義ってのは他人が掲げたヤツに従ってその庇護下で適当やって生きる分には気楽だが、てめえで貫徹するとなると面倒ったらねぇ。

 無駄な制約は多いわ、その所為で自由に動けねぇわ、粗探しや揚げ足取りに熱心なカスどもは多いわ、挙句同業者までもが言い掛かりつけちゃ殴りかかってくるわ、そんな連中とも仲良くしなきゃならねぇわ……もうめんどくせぇのよ。だがこれがカタギぶってる半端もんの偽善者ならどうだ。取り敢えず社会のルールに従って、適当に上手くやっときゃあとはそれなりに自由だ、好き勝手できる。愛しいヤツを抱きしめて、気に食わねえヤツを殺せばいい。助けるも見捨てるも、生かすも殺すも己の意のまま、実に気楽なもんだよ。常日頃からそれ相応の危険は伴うがな」

「……」

 何だ、この男は。明らかに頭のおかしいことを言っている。自分では青臭いガキの感情論を理路整然と論破して見せたつもりなんだろうが、冷静に考えるまでも無く矛盾だらけで全く筋が通っていない。

(……ああ、こいつダメだ。救いようがない)

 なんてことを思う。

 それは嘗て、彼が自ら殺した男たちを指して発したのと同じ言葉で、早い話がブーメラン。

 ああつまり、細かなベクトルは違うけれど、彼もまた自分が殺した大勢と同じ、いやそれ以下のろくでなしだったというわけだ。

「……確かに貴方の言う通りだよ」

「だろ?」

「ああ。確かに貴方は悪党だ。そして貴方の発言にも一理ある。正義は制約が多く、一方で悪は気楽だ。

 けれどそれでも、僕は貴方を認めない。勿論助け出してくれたことは有り難く思っているが、それとこれとは話が別だ」

「ほう……」

「僕は正義を信じる。僕自身の正義を。貴方のような悪を力の限り否定し矯正できる力を得てみせる」

「……面白え。いいぜ、やってみろ。幸いと言うべきか、こっちも恐らく先の長い身だ。幾らでも待ってやる。

 十年後でも五十年後でも百年後でも、好きな時に殺しに来い」

「それは確かに好都合。ゆっくり己を鍛えるとしよう……だが一つ、訂正させてくれ」

「何だ」

「確かに僕は貴方を認めない。そしてきっと将来、貴方と戦うことになるだろう。だが僕は、決して貴方を殺さない。僕の正義とは悪を正すことだ、殺すことじゃない。悪を倒し、罪を償わせ、正しい道を歩ませる……それが僕の進むべき道さ」

「そうかよ」

「ああ、そうだ」

 ただ一言だけ言い残し、僕はその場を後にした。

 言われた通りに甲板に出て、迎えの人たちに送ってもらう。空の風を感じながら、僕は胸中で誓う。


(待ってろ清木場、必ずお前を救って見せる)

次にお前らは『こいつら何言ってるんだバカじゃねーの』と言う……!

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