第49話 中二病の村
~闇の力に呆れる七海(右手がうずく)~
七海は道中、雨宿りのためにとある村へ立ち寄った。
だが門番らしき人が、腕を組んで言い放つ。
「ここは“漆黒の契約者”しか通せぬ!」
「……えっと、旅人なんですが」
「ならば闇の名を名乗れ!」
七海は首をかしげつつ、村の中へ入ることに。
広場では農作業中の人々がいたが、全員おかしい。
「我が畑に眠るは禁断の穀物……」
「太陽よ、我を試すな……!」
「闇に溶けよ、小麦!」
ただの畑仕事に妙なポーズと呪文が添えられている。
七海は額に手を当ててため息。
「これ、全員が中二病……?」
村長の家に行くと、立派な髭の老人がいた。
「よくぞ来た、異界を渡る者よ」
「え、異界? あ、はい。通りすがりです」
話を聞けば、どうやら数年前に旅の吟遊詩人が訪れ、格好いい“闇の詩”を披露したのがきっかけ。
以来、村全体がその雰囲気に染まってしまったらしい。
「……つまり、みんなで遊んでるだけなんですね」
「遊びではない! これは魂の契約……!」
「はいはい、わかりました」
七海は腰を下ろし、お茶をすすりながら言った。
「でも、作物の名前とか分かりにくいと困りますよ。 “禁断の穀物”じゃなくて“麦”って言ってくださいね。旅人混乱しますから」
村人たちはしばし沈黙し――
「……確かに!」
「分かりやすさも闇の力の一部!」
こうして、少し現実的な言葉を混ぜていくことになった。
村を出る時、門番が胸に手を当てて言った。
「さらばだ、『白き流浪の者』よ!」
七海は苦笑しながら手を振る。
「……ただの旅人ですから!」




