第35話 七海のとある一日
~寝るか食べるか……気ままな旅は続いていく~
朝 ― 昼寝専用の木陰
森を歩いていると、七海は大きな木を見つけた。
枝葉がほどよく陽を遮り、根元にはふかふかの苔。
「ここ、昼寝ポイント確定」
宿を建てるまでもなく、道具箱から布を一枚取り出して根元に広げる。
ゴロンと横になり、冷たいアイスティーをひと口。
鳥の声と葉擦れに包まれて、いつのまにか夢の中へ。
そこでは木が枝を伸ばし、やさしく毛布をかけてくれたような感覚。
目が覚めると、すでに昼前。体がほんのりぽかぽかで、心まで軽かった。
昼 ― ジャムとパンと知らない草原
昼時、歩いていたらいつの間にか草原に出た。
「せっかくだし、ここでお昼にしよっと」
道具箱からパンとベリージャムを取り出す。
レジャーシートも忘れずに。
ちぎったパンにジャムをのせると、甘酸っぱい香りが広がる。
「ん〜……パンって、偉大だなぁ」
もぐもぐとひとりごちる七海。
遠くでヤギがのんびり草を食み、風がやさしく頬を撫でる。
誰と話すわけでもないけれど、それだけで満ち足りてしまう。
夕方 ― 雲と一緒に漂う日
午後、丘の上に宿を建て、屋根に寝転んだ。
空にはゆっくりと雲が流れている。
「さて、今日は雲しりとりでもしよ」
「あれは……アザラシ! 次は“シ”……シュークリーム!」
「お、あの丸い雲、ほんとにクリームっぽい!」
ひとり遊びなのに、声をあげて笑ってしまう。
くだらないけれど、それがたまらなく楽しい。
気がつけば、空は赤く染まり、雲は金色に輝いていた。
「……今日もいい日だったな」
そうつぶやいて、小屋へと戻る。
一日の終わりに残ったのは、特別な出来事ではなく、ただ心地よい余韻だった。




