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第19話 夜の灯りと古本屋

~静かな街角で、小さな発見~


夜。街はすっかり静かになって、石畳の小道には街灯のオレンジ色の光だけがぽつぽつと揺れている。


「……ふぅ、今日も歩き疲れたなぁ」


と、七海は小さくため息をつきながら、ふと目に入った古本屋の窓に立ち止まった。

ガラス越しに漏れる明かりが、まるで小さな灯台みたいに暖かい。


「……あ、いい匂い……本の匂いって落ち着くよね」


思わず吸い込むように息をつくと、店の扉の小さな鈴がかすかに鳴った。


「いらっしゃいませ」


店主の老夫婦が、静かに笑いながら本を整えている。

店内は天井まで届きそうな本棚で埋め尽くされ、まるで小さな迷宮みたいだ。


「こんばんは、ちょっと見ていいですか?」


七海はにこりと挨拶して、扉を押した。

奥の棚の間をゆっくり歩きながら、気になる背表紙に手を伸ばす。

紙の手触りと、少し埃の混じった匂い。


「ああ、これだけで今日の疲れがふわっと和むなぁ」


ふと、店主の奥さんが困った顔で本の山を見ている。


「今日はお客さんが少なくてねえ……整理もままならなくて」


七海はすぐにひらめいた。

道具箱から小さな布袋と紙袋を取り出し、ちょっとした整理用の箱として渡す。


「こうすると、棚の空間も作れるし、並べやすいかも」


老夫婦は目を丸くして、「まぁ、助かるわ!」と笑った。

七海もにこにこしながら、すぐに手元の本を整えていく。

難しいことは何もしていないのに、店内が少しすっきりした気がした。


作業が一段落すると、七海は棚の隅に見つけた古い絵本を手に取る。

柔らかい紙と色あせた挿絵に、思わずくすりと笑う。


「……うん、この時間、記憶に残しておきたいな」


店を出ると、外の夜風が頬をくすぐる。

石畳に映る街灯の光は、やわらかく揺れている。


「さて、次はどこに行こうかな……小さな発見を探して歩くのも悪くないかも」


七海はふわりと肩の力を抜き、静かな街角をそろりそろりと歩き出した。

夜の灯りと古本の匂いを胸に、今日もゆるゆると旅は続く。

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