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リンテ視点「協力」

 レコス様の友人であるストナン様という方が訪れ、私に告げた事は、私の身体をほとんど反射的に突き動かしました。尋ねたい事も、確認しなければならない事も沢山ありましたがそれでも、私はとにかく隠れ家を出ようとしました。ちょうど夜ご飯を運んできてくださったラル様とそこでぶつかり、私はひっくり返り、食事は部屋の中に散らばりました。


「ど、どうしたリンテ。顔が真っ青だぞ」

 私は完全に動揺し、ぶつかった事に対する謝罪すら出来ませんでした。

「あ、兄が……兄のアッシュが……」

「落ち着け、リンテ」

 レコス様が私に優しく声をかけます。


 ストナン様から私への知らせ。それは私の兄であるアッシュが、海底にある違法ダンジョンに足を踏み入れ、帰って来れなくなったという物でした。そこは特殊な祝福を用いなければ辿りつけない場所であり、兄にはコスト5の呪縛がかかってしまったそうです。


 どうしたら良い分からず、私は泣きそうになりました。


「解決方法は1つだけだ」

 そう仰ったのはレコス様でした。

「お前が海底ダンジョンまで行ってアッシュの呪縛を引き受ける。これしかないだろう」

 そうしたいのは山々です。しかし私の身体は呪われているのです。

「祝福アレルギーの件は当然分かってる。ここにいるストナンがそれを解決出来る」


「あ……ああ。方法はある」

「方法……? 私の祝福アレルギーを治せるのですか?」

「……いや、違う。私は『福音』のように任意の呪縛を与える事が出来るのだ。それでお前に海底まで潜る事の出来る呪縛を与えればお前を海底ダンジョンまで連れて行く事が出来る」

「ほ、本当ですか!? しかしお言葉ですが、呪縛を与える祝福など聞いた事がありません。その祝福の名前は何と言うのですか?」

 ストナン様はややぎこちなく、緊張した面持ちでしたので、私は少し不安に思ってそう尋ねてみました。疑う訳ではないのですが、何せ兄の命がかかっていますから、確認を怠る事は出来ません。


 ストナン様は言葉に詰まり、何やら少しレコス様と相談していました。それから私に向き直り、咳払いを1つしてこう告げました。


「名前は、無い。教会に認められていない祝福だからな。だがそんな事を気にしている場合ではないだろう。リンテ、お前は兄を助けたいのか? それとも見捨てるのか?」

 もちろん、答えは決まっています。

「助けたいです! 何としてでも、私は、命をかけて兄を助けます!」


 そして私達はレコス様の隠れ家を出ました。

 道中は、人目に触れないように御者さんを使わず、レコス様が操る馬車を使って移動しました。更に顔も布で隠し、準備は入念でした。籠に入れられたステラは少し不機嫌そうでしたが、我慢して貰います。


 港町ポラスト。


 結局、私はここに辿りつく運命だったのかもしれません。


 初めて訪れる街でしたが、観光などしている暇はありません。ストナン様の紹介で地元の漁師の方と会い、海底ダンジョンまでの案内をお願いしました。その頃には既に日はすっかり落ちており、夜に船を出す事は出来ないという事で、翌日の朝まで待つ事に。レコス様が貸し切りにしてくださった宿で一泊です。


 しかし私は、兄の事が気になってなかなか眠りにつけませんでした。

 そんな私の様子をみかねたのか、レコス様が『強制睡眠』の祝福を使ってくださいました。明日は忙しくなるとの事で、眠っておく必要があるというのは私も分かっていました。


 翌日の朝起きると、部屋の中には処刑船の船長であるドロフ様がいました。無言のまま、物凄い形相で私の事を睨んでいます。絶体絶命です。私は指名手配されていますし、ドロフ様は王宮に忠実な処刑人だと聞いています。ここで私が捕まってしまえば、処刑が執行されるのは間違いありません。


 ずっと前から死は覚悟していますが、兄を助けられないまま死ぬ事だけは受け入れられません。ステラの件もありますし、何とかこのピンチを切り抜けなければ。


 解決方法を模索する私に、レコス様はあっさり言いました。


「リンテ、ドロフが協力してくれる事になった」

「え?」

「お前の身の上を話したら、同情してくれたんだ。力になりたいと言っている。だよな? ドロフ」


 レコス様に促されるように、ドロフ様が頷きました。血が滲むくらいに奥歯を噛み締めているのが少し不思議でしたが、ドロフ様は海にも詳しいですし、何より私の死刑執行を止めてくださるだけで十分な助けになります。


「ドロフ様、ありがとうございます。兄を助け、それからドラゴンが独り立ち出来るようになったら、海の底に沈めてもらって構いません。協力の申し出、謹んでお受け致します」

「……ああ」

 いまいち納得のいかない様子のドロフ様に、レコス様が声をかけます。


「そんな返事で大丈夫か? リンテが機嫌を損ねても平気か?」

「ぐ……」

 命の恩人に対して機嫌を損ねるなど、そんな事有り得ませんよ、と言おうと思いましたが、その前にドロフ様が頭を下げました。

「リ、リンテ様、横柄な態度を取ってすいませんでした。あなたの野望に協力させて下さい。……お願いします」


 海の男らしくたくましい顔つき体つきで私のような娘にへりくだった態度を取るドロフ様を見て、私は少し変な気分になりました。それを表現するのは難しいかったのですが、言いたい事があるとすれば1つです。


 あの、私に野望なんて無いんですけど……。

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