08 初仕事
宿屋の朝は早い。
日が上り始める頃、ドアを叩く音で勇気は目を覚ました。次いで、エミリアが声を掛けてきた。
「ユーキさん、起きてください」
「…ん」
起き抜けで頭がぼんやりとしているが、横になっている身体を無理やり起こす。今日から仕事だ。否が応でもテンションがあがり、自然と目が冴えてきた。
大きく伸びをして身体をほぐす。
「んんー…はあ。…おはよう、エミリア」
「おはようございます、ユーキさん。着替え終わったら1階の食堂まで来てください」
「わかった。すぐ行く」
「ええ、よろしくお願いしますね」
そう返事を返すと、エミリアはパタパタと足音をたてて廊下を歩き階下へと向かった。
まずは着替えのため、服を創りだすことにする。動きやすくかつ丈夫な物となるように、青いデニム生地を使った少しゆったりとしたパンツを創る。続いて綿のインナーシャツに、麻でできた白いボタンシャツを創りだした。
パジャマを脱いで、創りだしたものを手早く着込む。靴は昨日、街に来る前に創った物を履いて着替えは完了した。脱いだパジャマは簡単にたたんでベッドの上に置く。
机の引き出しに入れた鍵を取り出し、部屋を出て部屋の鍵を施錠して階段を降りた。
食堂には既にマリーとエミリアの姿があった。
「おはよう、ユーキさん」
「おはようございます、ユーキさん」
「おはよう、マリーさん、エミリア」
マリーと、改めて挨拶をしてくれたエミリアに挨拶を返す。
「じゃあ早速だけど、まずは簡単に仕事の説明をしようか」
「ああ。2人とも、よろしく頼むよ」
「任せてください。ユーキさんが慣れるまでサポートしますよ」
始めに1日の大体の流れを簡単に説明された。
まずは従業員が朝食を摂り、宿泊客の朝食の準備。宿泊客の朝食が終わったら、チェックアウト作業、共用部分と客室の清掃、シーツ等の交換と洗濯をして、大体午前が終わる。
正午、従業員は昼食を摂る。因みに春の草花亭ではランチはやっていないらしい。昼食後は、市場への買い出しや洗濯物の取りこみを行い、夕食の用意にとりかかる。従業員は早目の夕食を摂ることになる。客の夕食が終わり次第、食堂や厨房の清掃をする。
これが1日の流れらしい。これだけの仕事をエミリアが学校に出ていた1年間、マリーとクロードの2人だけでやっていたのかと勇気は驚いたが、孤児院から丁稚のような手伝いの者が来ていたらしかった。
基本的にクロードは厨房での仕込や調理、買出しを担当し、マリーは清掃や洗濯を担当しているとのこと。
朝食後は早速、宿泊客の朝食の準備を行った。テーブルを布巾で拭いて、客が来たら席への案内。メニューはないので、客の人数を確認したら厨房へ報告、出てきた料理を配膳する。食事が終わった客の食器を下げて洗った。客は二組で計4名しかいなかったため、早々に終わってしまった。
「配膳とか拭き掃除とか、結構手慣れてましたね」
「まあね。短期間とはいえ、こういった仕事もやったことあったから」
「そうでしたか。この調子ですぐに仕事に慣れるといいですね。さて、チェックアウトの作業はお母さんに任せて、私達は清掃と洗濯をしましょう。箒とちりとりと雑巾は、階段横の倉庫に入ってますので出してください。私は汚れたシーツ等を入れる籠を持ってきますので」
「了解」
言われ、倉庫から箒とちりとり、雑巾を取り出すと、少しして籠を持ったエミリアが戻ってきた。
「後は客室の鍵を持って…と。では参りましょう」
勇気はエミリアと連れ立ち、2階の清掃を開始した。
「ふ…わぁ。ってて」
2階に昇ってすぐの一人部屋の中、ミーシャは目を覚ますと伸びをしながら小さな欠伸を一つつく。革の鎧を着ながら寝てしまったために、身体をほんの少し痛めてしまったようだ。
痛みに顔を顰めつつ辺りを見回して、自分が今何処にいるのかを確認する。
(ここは…宿屋か? この部屋は春の草花亭だろうか)
春の草花亭は何度も利用したことがあり、今まで寝ていたこの部屋にも見覚えがあった。部屋の大きさ、ベッドやタンス等の家具やその配置は、記憶の中にある春の草花亭の一室と違いはなかった。
(…確か盗賊団に襲われて、エミリアが人質になっちまって、それで…そこからの記憶がないな)
記憶はなかったが、自分がここにいると言う状況から、恐らくは助かったのだろうと判断する。もちろん、自分だけではなくエミリアも。
ベッドから起き上がると、イスの上に置いてあった鞄の中を確認する。
(中身に異常は…ないな。ちゃんと手紙も入ってる)
鞄の中に入れていた物をサッと目視で確認する。持ち物が移動されたり、持ち去られた様子はなかった。
ここに居るだけでは、これ以上のことは判らないと判断し、部屋を出ることにした。今更だが、鎧を脱いで無造作に机の上に置いて。
ドアを開き部屋の外に出る。廊下、階段、部屋の配置からして、やはり春の草花亭に間違えはないようだと確信した。
「ん? おっすミーシャ、起きたのか」
自分の安全が確認でき、内心で安心していたら、隣の部屋から出てきた見知らぬ男にいきなり声を掛けられれ、ミーシャは大いに戸惑った。
「えっと…誰?」
そんなミーシャの問いは聞こえなかったのか、その男は客室内へと呼びかけた。ミーシャもよく知る人物の名前を。
「エミリア、ミーシャが起きたぞ」
「えっ!?」
驚きに満ちた聞き覚えのある声。ぱたぱたと駆け足の音と共に部屋から出てきたエミリアの顔を見て、心から安堵したのだった。
今回も短かめです、申し訳ありません。
20141116
大きく伸びをして身体をほぐす。。
一個多い句点を削除。
(ここは…宿屋か?
の後に全角スペース追加