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26.異世界で、大捜査編開幕しまーす②

上部街、闇市場(ブラックマーケット)内にある1軒の酒場の2階で、顔に深い傷がある体格のいい男の前に不気味な雰囲気のゴスロリの恰好をした女がほくそ笑む。


葡萄色の縦ロールは高い位置でツインテールに結び、白色のフリルのドレスヘッドが可愛らさを演出し、光を宿さない真っ黒な瞳、女の腰から生えた6本の蜘蛛の足が動く。


血管すらも浮き出させない陶器のような白い肌、細い指がテーブルの上をなぞる度に男の額から冷汗が流れる。


*悪魔バエルは、グリモワール や 悪魔学 における 悪魔 (精霊)の1人、 『レメゲトン』の第一書『ゴエティア』に記載された72人の悪魔の1人であり、同書によると、東方を支配し、66の軍団を率いる序列1番の大いなる王である*

 

「バ、バエル様っ、こんな早い時間にどうされたんですか?な、何かご、御用が?」


「僕への贈り物が逃げたって聞いたんだけど?それに、オークションに売り出そうとしてたらしいね」


「そっ、それはっ…、お得様からの要望が入ってしまってっ!!!すぐに、バエル様が気に入りそうな少年を何人か見繕ってきます!!!だから、どうかお許し下さいっ」


男はそう言って椅子から立ち上がり、バエルと呼んだ女の足元に勢いよく土下座した。


「僕は顔が可愛い男の子しか口にしないの、分かる?」


「それはっ、勿論知っています!バエル様が美食家ですからっ、ハハッ…」


「逃げ出した子は、あの中で1番顔が可愛かったの。他のガキは死にかけばかり、顔も可愛くない。僕の事を下に見てるでしょ」


「そんな事は決してありません!俺達は貴方が必要なんですよ!?」


「必要ねぇ?悪魔の血が必要なんだもんね?君達が今の生活を送れているのは、僕の血があってこそ。君等の最近の態度は目に余るんだよねぇ」


カタカタと尻尾を動かしながら、自身の指で毛先を遊ばせ、男の事をゴミを見るような冷たい視線を送る。


小規模で作られた現在の闇市場(ブラックマーケット)の稼ぎの大半は、バエルの血液と興奮作用と依存作用がある薬草を煎じて作られたLovePoison(ラブポイズン)だ。


この薬は1回の使用で強い依存効果を得て、奴隷を購入した客達は従わせる為にLovePoison(ラブポイズン)を使用している者達が多い。


商人達を束ねるリーダーの男とバエルの利害は一致し、2人は契約を交わす代わりに取引を交わしていた。


だが、バエルが気に入っていた獣人の子供は、ギルベルトの元に助けを求めて来たゼパであり、バエルは男建つの動きを怪しみ、この場に訪れていたのだ。


「俺達の態度?ど、どこが気に喰わなかったんですかっ!?アンタの為に、高値で売れる美形のガキ共をくれてやったんだぜ!?わがまま言われてもこま…、ひぃ!?」


バエルの腰から生えている蜘蛛の足が男を取り囲み、尻尾の先が鋭い刃となり一筋の光が走る。


「アスタロト様が人間と取引してみろって、言われてしてみたけど…。僕のおやつを用意するのも渋ってるし、そろそろ殺してもいいかな」


「は、は!?俺の事を殺すつもりか!?おいおい、話と違うじゃねーか!!!ふざけんじゃねーぞ、この化け物が!」


ブンッ、グサッ!!!


逆上した男は隠し持っていたナイフを取り出し、バエルの向けた瞬間、6本の蜘蛛の足が男の体に突き刺さり血が噴き出す。


ボタボタと血が床に垂れ落ち、蜘蛛の足は体に深く刺さり、コンッと体内の骨に当たる感覚が足から伝わり、バエルは男の叫び声と苦痛で歪む表情を見てほくそ笑む。


「グアアアアッ!!!な、なにしやが…るんだ」


「あははは!僕、調子乗ってる人間の事を傷めつけるのも大好きなんだぁ。僕に刃物を向けてきたんだから、当然の報いでしょ?次は、頭でも狙おうかな」


「ひぃっ⁉」


「バエル、お遊びは終わったか?」


バエルの背後から男の声が聞こえ、バエルは後ろに視線を向けなくても誰が背後に立っているのか分かっていた。


上半身裸で豪華な毛皮のコートを羽織ったアスタロトは男の横を通り過ぎ、ドカッと椅子に腰を下ろす。


「だ、誰だ?アンタは、どこから現れた?」


「そんな事はどうでも良いだろ?人間。聞いたとして、何になるんだ?お前が理解しようがしまいが関係ない。バエル、この男にもう用はないんだろう?してみたい事があるんだよねぇ」


「アスタロト様の好きにしていいですよ。この男、僕に意見するようになったし」


「なっ!?アンタ等、俺に何をする気だ!!!ハッ、やれるもんならやってみろ!俺に仲間がすぐに駆けつけるぞ」


アスタロトとバエルの会話を聞いていた男は、2人を馬鹿にするような笑い方をしながら言葉を吐く。


男のアスタロトに対する無礼な言葉を聞き、バエルは自身の尻尾を男の体に深く差し込む。


グサッ!!!


尻尾が深く刺さった事により、男の全身に鋭い痛みが走ったと同時に、体の中に異変が起きている事に気がついた。


耳と鼻から何か熱い物が流れ出ている感覚がし、不思議に思った男は鼻を拭うと血液が取れ、強い頭痛と眩暈(めまい)に襲われた男は床に倒れ込む。


ドサッ。


「ヴッ、ヴェ…ッ、オエッ」


「ほう、バエルの毒に耐えるか。体格の良い男は生命力も高い可能性があるか。なら、実験を行えるな」


アスタロトの足元に魔法陣が出現し中から、小さな体に大きな脳みそが特徴的な可愛らしい瞳を宿した謎の生物が現れる。


小さな体の背中から羽が生え、アスタロトの隣まで移動し、差し出された手のひらに乗った。


男の視界はぼやけ始め、アスタロトが何を召喚しのか分かっていない。


「脳虫(のうちゅう)?アスタロト様の虫園(むしえん)で飼われてる虫ですよね?お呼びになられたのですか?」


「あぁ、この脳虫を男に寄生させてみようかなって。動物でも寄生には成功したけど、人間相手にはした事がなかったからねぇ」


「あはは!アスタロト様は僕の予想を超えますね。人間に寄生させて行く気ですか?」


「この実験が成功したらだ、行け」


ブウンッと音を立てながら脳虫は男の元に飛んで行き、男の頭の前に止まった脳虫は大きな口を開ける。


ガブッ、ブシャッ!!!


「グアアアアッ!!!や、やめろおおおっ!!!」


「クチャクチャッ…」


「いだいっ、いだいだいいだい!!!」


鋭い牙が男の頭皮に食い込み、脳虫が食い散らかす咀嚼(そしゃく)の音、男の泣き叫ぶ声を聞いて、アスタロトとバエルは声を上げて笑った。


***


闇市場(ブラックマーケット)周辺にある森の中では、フード付きのマントを深く被り、顔を隠して客達の入りを黒騎士団(ブラックナイト)の団員達が監視していた。


続々と貴族の家門が彫られた馬車達が、闇市場(ブラックマーケット)の馬車置き場に停車され、ドレスアップした老若男女が商人達と話をしている。


「連絡鳥を頂いたが、夜にバトルロワイヤルが行われるそうじゃな?オークションはしないのか?」


「オークションも行いますが…。今回のバトルロワイヤルは、いつもよりも盛り上がるものになっていますよ」


「ほう、目付きの悪い獣人は出ているのか?」


「はい、アイツはうちのバトルロワイヤルの看板ですからねぇ。お客様、女エルフの捕まえられまして…」


商人と中年の男性の会話を聞いていたエリアは、舌打ちをしながら言葉を吐く。


「チッ、糞共が。気持ち悪い会話しやがって」


「アイツ等の性根は腐りきってる、それはお前がよく分かってるだろう?エリア」


「分かってるわよ、そんな事は」


「ギルベルト様が必ず、この国から奴隷達を失くしてくれる。俺達が動き出しているから、闇市場(ブラックマーケット)は激減している」


「分かってるけど、あたしはあの場所を心底嫌いよ」

エリアの言葉を聞いたローレンツは、優しくエリアの頭を撫でる。


「俺も、お前を苦しめた場所がなくなれば良いと思ってる。エリアの体にはいくつか古い傷があるだろ、許せねぇな」


「はっ、はぁ⁉ロ、ローレンツが怒る所はそこなの?」


「当たり前だろ、エリアは俺の大事な仲間だ。仲間が傷つけられたら許せないだろう?」


揺れていた尻尾は静かに落ち込み、ローレンツの悪意のない言葉はエリアの心を痛ませた。


淡い恋心を抱いているエリアにとっては、ローレンツが軽々しく触れてくる事も心を痛ませる行為でもある。


「おーい、イチャイチャすんなよなー。団内でも恋愛イベント発生かよ⁉男女のイチャイチャを見るのは、ギルベルト様と芣婭ちゃんだけで十分ですよーだ」


双眼鏡で闇市場(ブラックマーケット)の売り場を覗き込んでいたヒューズは、ローレンツとエリアの2人を冷ややかな目で見つめた。


「イチャイチャしてないだろ?ヒューズ、仲良くしているだけだが?」


「かー!!!そう言う言葉が、サラッと出てくんのは女慣れしてる男の台詞だー!!!」


「おいおい、本当にどうし…」


ガサガサッ。


「「…」」


カチャッ。


背後からこちらに近付いてくる足音が聞こえ、ローレンツとヒューズはすぐに会話を中断させ、腰に下げていた剣を抜く。


木の陰から出て来た2人組の男を見て、ニックは驚いた表情を浮かべて立ち上がる。


健康的な肌にアッシュベージュの髪はマンバヘアにアレンジされ、整えられた眉毛に開けられたピアスが光り、難いの良い体からは良い香りが漂い、ターコイズブルーの瞳が目立つ。


ダンテと呼ばれたこの男は黒騎士団(ブラックナイト)の第3部隊の隊長を務め、ニックスとレヴァリオの直属の隊長であり、隣にいる中性的な男性もまた第3部隊の副団長を務める男。


美しいシルバーの髪、右目が隠れる程の長い前髪や1本で束ねられた長い髪の毛先はセルリアンブルーに染められ、色白の肌に左目は青と赤色のグラデーションカラーの瞳はどこか人間離れしている。


「隊長、レヴァリオの姿が見えませんね、暑苦しいニックスは居ますけど」


「ク、孔雀(クジャ)…副団長、暑苦しいって失礼じゃないですかね?3カ月ぶりに顔を合わせたってのによぉ…」


「僕は君よりも立場は上だよ、敬語を使うべきじゃないのか?」



「喧嘩売って来てますよね?なら、買っても良いですよね…、隊長」


ニックスと孔雀の言い合いを聞いていたダンテは、煙草を咥えてマッチで火をつけながら仲裁に入った。


「おいおい、面倒事を起こすのだけはやめてくれ。ニック、孔雀、喧嘩を売るのも買うのも稽古中だけだ。良いな?」


「分かりました、隊長」


「あっ、テメェ!隊長にだけ態度を変えやがって!」


ダンテの言葉を聞いた孔雀はコロッと態度を変え、その変わりようを見たニックスは孔雀に食ってかかる。


2人が再び言い合いを始め出し、ダンテは手に負えない子供を見る眼差しを向けていると、ローレンツが声をかけてきた。


「東方ブラーンの復興は終わらせてこれたのか?」


「男手の必要な作業だけ済ませ、後は町の人達がやるってさ。オルタニア様とギルベルト様に感謝してたよ」


「お前等、派遣された場所は違ったよな?」


「あぁ、今回の闇市場(ブラックマーケット)が、どのくらいの規模なのか確認しておきたくてな。つい1ヶ月前に摘発したが、短期間で小規模の町が完成してるようだ」


ローレンツの話を聞いていたダンテの視界に、馬車置き場に停車した1台の馬車の中から1組の仮面を着けた男女が降りて来る。


貴族特有の金髪の髪を靡かせて他の客達よりも着飾り、商人の男達は男の方に深く頭を下げ、気を使っている言葉を投げかけているのも見て分かった。


「あの男が来てから商人達の対応が変わった。家門が刻印されていない馬車を乗って来たようだが…、遠くて顔は見えないが皇族だな」


「皇族が奴隷を買いに来るなんて珍しい話じゃない。商人達も皇族から買われる方が金の動きが良くなると考え、他の客よりも対応を良くする。おっと、あの馬車は…」


ダンテと話していたローレンツだが、1台の馬車を見て話を中断させ、ニックスと孔雀の2人にダンテが声をかける。


「ニックス、孔雀、言い合いはそこまでだ。持ち場に戻るぞ」


「分かりました隊長」


「あ、団長!リトルボーイは?顔見てないですけど、持ち場にいる感じですか?」


「あぁ、ギルベルト様に良い所を見せたいらしい。アイツの前で、その呼び方をするなよ?アイツが怒り散らかす姿が浮かぶ。ローレンツ、また後で」


ニックスの問いに答えたダンテは、ローレンツに一言声をかけてから孔雀と共に持ち場に戻って行く。


黒馬の家門が刻印されていない馬車が馬車置き場に停車し、中から先に出て来た人物を見て、潜入摘発作戦が始まった事が待機している団員達に伝わった。


***


数分前、甘野芣婭は揺れる馬車内の中で、数分前に起きた出来事についてシュバルトに尋ねていた。


「ねね、闇市場(ブラックマーケット)って上部街?にあるんだよね。いつもの門を通ると、皇帝様に気付かれないかな?なんか、通行書みたいなのを見せないといけなかったよね」


「今日はあの門は通らないよ」


「え、通らずに上部街に入れるの?」


「上部街の通行門は市民の目も、白騎士団(ホワイトナイト)に騎士の目もある。闇市場(ブラックマーケット)に訪れる客達は貴族ばかり、そんな貴族は人の目を気にするものだ」


シュバルトの話を聞いていた甘野芣婭は頭を悩ませて

いるのを、ギルベルトとコンラット、レヴァリオ3人は微笑ましそうに見つめる。


「じゃあ、人目につかない通り道があるって事?」


「巨大な壁と門を作られているから、他に通り道はないけど、見張りがいない時間帯があるんだ」


「見張りがいない⁉マジか、そんな事したら誰でも入れちゃうじゃん」


「そうだ、誰でも入れるようになっている。闇市場(ブラックマーケット)の客達の間では、この話は有名で30分以内に門を潜らないといけない」


「30分⁉間に合う?大丈夫そ?」


慌てる甘野芣婭を見て、ギルベルトは懐中時計を見ながら安心させる言葉を投げかけた。


「フッ、残り20分もある。まもなく通行門を通るな」


ギルベルトの言葉を聞きながら馬車の窓に視線を向

け、見張りがいない通行門は既に開かれ、甘野芣婭達を乗せている馬車の前に3台の馬車が走っているのが見える。


甘野芣婭はすぐに、前を知っている馬車達が闇市場(ブラックマーケット)の客達だと察し、思わず溜息が零れてしまう。


「前を走ってる馬車に乗ってる人達って、行き先は闇市場(ブラックマーケット)なんだよね。本当に奴隷を買う人がいるんだって、実感しちゃった」


「糞みたいな人間はいくらでもいる、残念な事にな。金を持ってる奴等の殆どは暇人で、欲を満たす事しか考えなくなっている奴が多い」


「人間ってのはそうだろ、悪魔を召喚する奴等も大抵は己の願いを叶えてほしいが故だ」


甘野芣婭とギルベルトの会話を聞いていたベロちゃんは、尻尾を揺らしながら呟く。


馬車は揺れながら見張りが経っていない通行門を潜りると、見張りの兵士達が通行門に集まり、開かれていた門を閉じる。


上部街に入ると馬車は表道を通らずに薄暗い裏道に入り、建物で出来た暗い影を通る事20分、テントが一面に建てられた出店がズラッと並んでいるのが見えた。


「もしかして、ここが闇市場(ブラックマーケット)?セパ君」


「そうだよ、おねえちゃん。ここにガゼルがいるんだっ」


膝の上に座っているゼパの頭を撫でながら、甘野芣婭はコンラットに尋ねる。


「ここに止まってる馬車は、お客さんって事か。これって多いの?少ないの?」


「少ない方だよ、ギルベルト様の抑制が効いてる事もあるんだろう。上部街の奴隷商人が少ないから、店も


小規模の物しか作れていないのが見て分かる」


「これで小さいの?前はもっと凄かったって事か」


「芣婭、もう一回だけ確認しておくよ。闇市場(ブラックマーケット)内では仮面を装着する事が義務になってるんだよ。僕はあ宝石商人をし、君は我儘を言う息子、ギルベルト様達は君の執事の設定だ」


シュバルトに説明を聞きながら、渡された仮面を装着し、闇市場(ブラックマーケット)内の潜入の準備

を完了させると、馬車の扉が叩かれた。


「旦那様、商人の方が挨拶したいとの事ですが」


馬車を運転していたシエサの声が聞こえ、ギルベルト達の表情がスッと変わり、甘野芣婭の気も引き締まる。


仮面を装着したシュバルトは、隣に座っている甘野芣婭と前に座るギルベルトに視線を向けてから、馬車の扉に手をかけた。


***


甘野芣婭 (17歳)


パパが馬車を降りると、いかにも悪者って感じのおじが作り笑いを浮かべて挨拶をしていた。


「ようこそ、闇市場(ブラックマーケット)へ。初めてのお客様ですよね?素敵な宝石を身に付けていらっしゃいますねぇ」


「思ったよりも小規模だな」


「はい、黒騎士団(ブラックナイト)達の目を欺く為、場所も変えさせていただきました。ですが、品揃えは豊富ですので、楽しんでいただけると思いますよぉ」


悪者おじ、貴方が警戒している黒騎士団(ブラックナイト)の騎士2名とボスがここに居ますけど。


パパと悪者おじの会話を聞きながら、ギルベルト君達に視線を向けると、コンラットが口元を押さえて笑いを堪えているのが見えた。


あー、芣婭と同じ事思ってたんだな、コンラット。


「そちらの坊ちゃんも、ここは初めてですよね?ぜひ、挨拶をさせて頂きたいのですが」


え、こういうのってパパにだけ挨拶するんじゃないの?


いや、挨拶するものかぁ?


ここはいっちょ、悪役息子を演じようではありませんか!


演技は学芸会以来だけど。


「この僕に挨拶?君如きが?この僕に?」


「「「えっ」」」


ちょっ、みんな!驚かないでよっ、演技なんだから!


「あ、あはははっ…、失礼しました」


「君に挨拶されても何の価値もないし、時間の無駄だ。父様、目的の物を買いに来ただけでしょ?そんな奴の相手しなくて良いよ」


そう言いながら馬車を降りようとすると、ギルベルト君が先に馬車を降りて手を差し出してくれた。


「坊ちゃま、お手を」


「あぁ」


短いを返事をしてから、ギルベルト君の手を取って馬車を降り、コンラットとレヴァさんの2人も後から降りて来る。


ケロちゃんとベロちゃんはいつの間にか大きな狼の姿に変身し、赤ちゃん狼の姿にゼパ君の背中に乗せてくれていた。


「まぁ、仮面越しからでも美しい顔立ちが分かるわ。私の使用人にしたいくらい」


「美形の使用人がいたら、夜の相手に困らないわよねぇ」


ギルベルト君達の事を色眼鏡で見てるご婦人の声が聞こえ、芣婭はこちらに視線を向けているご婦人に近付く。


後ろに首輪をした少年が、下を向いて立っているのが分かった。


「さっきから気色の悪い会話が聞こえてきてけど、うちの執事に欲情でも?はしたないな」


「はぁ!?あ、貴方っ、いきなり現れて無礼ではなくって!?」


「無礼なのはそちらだろ?ご婦人。男に欲情するのは構わないが、相手を見てからにした方が良い。気色の悪い視線を向けるのはやめてもらおうか」


「なっ!?このガキッ、調子に乗るんじゃないわよ!」


激おこのご婦人が芣婭に向かって手を振り下ろすが、コンラットが素早く手を掴み、レヴァさんが芣婭の前に立つ。


ケロちゃんとベロちゃんも牙を剥き出しにして唸り、ご婦人達は後退りする。


フンッと顔をツーンとさせながらご婦人達の前を通り過ぎると、驚いた顔をしたパパが声をかけてきた。


「ほ、本当に芣婭なんだよね?今の演技で間違いない?」


「結構、上手じゃなかった?アニや漫画を参考にしたんだけど」


「上手過ぎて驚いたよっ、そう思いますよね?ギルベルト様」


「俺も驚いた、まさか…」


「ギルのお姫様が演劇の才能まであるとはねぇ、面白いものを見せてもらったよ」


ギルベルト君と男の人の声が重なり、視線を前方に向けると見慣れた丸サングラスを掛けた男の人が立ってる。


この人、ギルベルト君のお家にいた人?


確か赤い髪だったような気がするけど、目の前にいる人は綺麗な黒髪で?


「「ゲッ」」


男の人を見たケロちゃんとベロちゃんの声が重なり、ギルベルト君の眉間に深い皺が入っていた。


「ランスロット、俺達が来る事が分かってたな」


「正解♡面白い情報を耳にしたからね?ギルの仕事の手伝いもかねて、ここに来た訳だよ」


「例の薬か、お前の耳にも入っていたのか」


「もっちろん、情報屋の間では有名だ。各国で、LovePoison(ラブポイズン)が売られ始めているしね」


「LovePoison(ラブポイズン)?例の薬の名前か。おい、何で芣婭に視線を向ける」


ランスロットさんはギルベルト君の言葉を無視して、芣婭に近付いてはニッコリと微笑む。


「もうすぐ、バトルロワイヤルが開催されるよ。今回

の戦いは今ままでの対戦相手とは違うようだ」


「その試合にガゼルって人は出てるの?」


「ガゼルは、このバトルロワイヤルには欠かせない選手さ」 


「なんと!会場に案内してください!芣婭達、そのガ

ゼルって人を助けにきたから!」


「あぁ、成る程ね。会場はこっちだよ、ギルベルトも睨まないでついてきて」


芣婭達はランスロットさんに、バトルロワイヤルの会場まで案内してもらう事になったんだけど、まさかあんな事になるなんて思ってもみなかった。



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