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24.異世界で、第1回紋章試験内容発表

獣人の少年がカーディアックに逃げ込んだ頃、上部街の闇市場(ブラックマーケット)では、負傷を負った1人の獣人の青年が商人の男達から暴力を受けていた。


「おい、お前と一緒にいたガキはどこに行った!?オラッ、どこに行ったのか吐け!!!」


「…」


「チッ、コイツで躾けないと分からないのか!?」


商人の男はそう言って、何も答えない獣人の青年に向かって鞭を振り上げ、思いっきり青年の背中に叩き付ける。


バチンッ!!!


「ゔっ!!!」


「吐くまで鞭で叩き付けるからな、オラッ!!!」


「ガハッ!?」


髪の毛全体の毛先は黒く染まり、全体はグリーンーアッシュの襟足の長い髪、長い前髪の隙間から見える一重の切れ長の黒い瞳、鍛えられた筋肉に至る所には鞭で叩かれた痕があった。


叩かれた部分は赤く浮き上がってる部分もあれば、打撲痕や刃物のような物で切られた傷も体中に刻まれている。


商人の男達は数分間、獣人の青年を鞭で叩いた後、息を切らしながら言葉を吐く。


「お前はバトルロワイヤルで金を稼ぐ事しか出来ないんだよっ!!!おい。どこかに隠れてるかもしれねー、周囲をもう一度探すぞ」


「あのガキ、顔が良いから高値で出品する予定だったのによぉ。見つからなかったら、お得さんから大目玉喰らっちまうよ」


「ガキの獣人が好きなんだもんなぁ。あの人、本当に変態だよなぁ、ガハハハッ!!!」


獣人の青年を鞭で叩いた後、商人の男達は下品な笑い声を上げながら檻の鍵を閉めて、脱走した獣人の少年の捜索に向かって行く。


「糞人間共が…」


口の中に溜まった血を吐きながら、獣人の青年は吐き捨てるように呟き、地面に倒れ込む。


他にも獣人の女性や男女の子供達が檻の中に収監され、商人の男達が戻って来る事を恐れながら日常を送っている。


あちこちから聞こえる泣き声や悲鳴、殴られる音が聞こえてくるのは、上部街の闇市場(ブラックマーケット)では当たり前の事であった。


ズキンッ。


「クッ…」


獣人の青年は脇腹に鈍い痛みが走った事を感じ、苦痛の表情を浮かべるも、青年の頭の中には自分の為に出て行った少年の顔が浮かんでいる。


「アイツ、ちゃんと逃げ切れたか…。俺なんかの為に、逃げ出す事なんかなかったんだ」


消えそうな声で呟いた言葉は、獣人の青年以外の誰にも届いていなかった。


***


ブシャアアアッ!!!


ケロちゃんの目の前に立っていた悪魔の体に刻まれた深い傷口から、勢いよく緑色の血液が噴き出す。


ドサッ。


闇色の剣にもべっとりと緑色の血液が付着し、足元に悪魔は倒れる。


表情を変えず、魔法すらも使って戦っていないケロちゃんを見て、下位の悪魔達は後ろにのけぞっていく。


既にケロちゃんの足元には数人の下位の悪魔の死体が転がっており、溜息を吐きながらやる気のないベロちゃんに声をかけた。


「はぁ、ちょっと貴方。いつまで落ち込んでるんですか?」


「やる気なんか出ねーってぇ。俺の芣婭がぁ、あの男のモノになっちまったんなんてよぉ」


「もうその言葉は聞き飽きたんですけど、アスタロトの手下の悪魔達が来てるの見えません?」


ケロちゃんが目の前にいる悪魔達に視線を送りながら、ベロちゃんの事を一瞥(いちべつ)する。


ダンタリオンの読み通り、アスタロトは甘野芣婭の存在を勘付き、自分の軍団に所属している下位の悪魔達を向かわせていた。


ロールベルク家の周辺でケルベロスの2匹は、悪魔達を片付けていたのだが…。


甘野芣婭とギルベルトの2人が付き合いだした事を聞き、ベロちゃんは甘野芣婭の想像以上に気落ちしてしまっていたのだ。


「お前等だけに、魔性の女(エンチャトレス)を独り占めさせてたまるかよ!!!」


「アスタロト様の命令だ、お前等には死んでもら…、グアアアアアアッ!!!」


蛙の頭の悪魔が言葉を言い終える前に、目に見えない何か体を斬られて緑色の血を噴き出す。


ベロちゃんの指先から紫色の煙が纏われており、長い爪に蛙の頭の悪魔を斬った時の返り血が付いている。


「俺様は今、ものすっごく機嫌が悪りぃんだよ。さっさと死んどけ、自身否定(パーソナル・エラー)」


ボンッ!!!


呪文を詠唱した瞬間、ケルベロスの目の前にいた20人程の悪魔達の体が、風船のように膨らみ一気に破裂した衝撃で手足が弾け飛ぶ。


ブシャアアアッ!!!


ビチャビチャッ。


周りの木々や地面に悪魔達の血液は勿論、肉片や内臓らしき物を飛び散り、ケロちゃんとベロちゃんの顔や体に水を浴びたようにかかる。


*自身否定(パーソナル・エラー)とは、存在認識を消す魔法で、呪いとも呼ばれ何人かの使用者を消してきた事から禁呪として扱われている。

しかし、消された使用者達の共通点は魔力量のが少なく、自分の魔力を魔法で消費され、体までもが消滅してしまうのだ*


空間魔法を使いこなすベロちゃんとっては、禁呪と呼ばれている自身否定(パーソナル・エラー)を使う事は造作もない。


この魔法を使う時は、機嫌がかなり悪い時と1人ずつ相手をするのが面倒な時である。


「はぁ、体中がべとべとだ。これ使う時は言ってほしいんですけど」


「うるせーな、風呂に入れば良いだけだろ。それに、アスタロトの軍団の悪魔を殺せたし良くね?んな事よりも、お前が反対しなかった事に驚きだわ」


「気に入りませんよ?そんな事、当たり前じゃないですか」


ケロちゃんの言葉を聞いたベロちゃんは、口を開けたまま目が点になっていた。


「何ですか、その顔は。不細工過ぎませんか」


「あ⁉今、ものすっごい失礼な事言わなかったか!?」


「え?もしかして、自覚なかったんですか?ヤバ過ぎませんか?」


「お前、マジで殺したろうか!?」


ケルベロスの2人が言い合いをしている中、目の前に見慣れない魔法陣が現れ、中からバフォメットと鹿の顔をして高級スーツを着こなす悪魔が現れる。


「ボス、やはりアスタロトの軍団の下っ端が来ていたようです。ケルベロスの2匹が相手をした痕跡がありますね。血肉があちらこちらに飛び散っていますので」


「自身否定(パーソナル・エラー)を発動させて殺したんだろ?ケルベロス」


鹿の男と会話をしていたバフォメットは、ベロちゃんに視線を向けた。


「フルフルまで連れてきて、何の用だ?バフォメット」


ベロちゃんに名前を呼ばれた鹿の頭をした男は悪魔フルフル、『ゴエティア』によると、26の軍団を率いる序列34番の地獄の大伯爵で燃え立つ尾を持つ牡鹿の姿で現れると言われています。


「私はバフォメット様の配下の者ですので、同行するのは当然かと。貴方達こそ、放し飼い状態なんですか?」


「「あ?」」


フルフルとケルベロスの2人が喧嘩になりそうなのを見計らって、バフォメットが仲裁に入る。


「すまないね、フルフルの無礼は俺が詫びよう。お姫様とは別行動中かい?」


「チッ、最初から喧嘩腰で話してくんなよ。芣婭はいねーよ、雑魚悪魔の相手しなきゃいけなかったんだから。てか、何しに来たんだ」


「人間界で興味深い取引が行われているらしくてね?様子を伺いに来たと言う訳だ」


「興味深い取引だぁ?どうせ、胡散臭い取引だろ」


ベロちゃんの言葉を聞いたフルルは眉間に皺を寄せるが、バフォメットは気にしてもない様子で話を続けていく。


「どうやら、俺達悪魔の血が高値で取引されてるらしい。悪魔の血を買った奴等は、怪しい薬を作っているとか」


「はぁ?悪魔の血って、人間に耐性ありましたっけ?」


「いいや?飲んだら体が破裂するか、脳の血管が切れたりしたかな?奴隷商人達に間で、奴隷を従わせる為に使われているようでね。君のお姫様にも。同行してもらおうと思って」


バフォメットはそう言って、ケルベロスの2人に怪しげな笑みを浮かべた。


***


甘野芣婭 (17歳)


ギルベルト君に助けを求めて来た獣人の少年は、黒騎士団(ブラックナイト)の練習場にある医務室に運ばれて行った。


獣人の少年が目を覚ますまで芣婭が看病する中、ギルベルト君達は医務室を出て廊下で話をしている。


「あの子、上部街の闇市場(ブラックマーケット)から逃げ出した少年ですね。胸元に奴隷の印が焼印されていました。脱水と栄養失調が原因で、意識を失ったかと」


「ギルベルト様が摘発したばかりなのに、もう作られたって事だよな。商人コミュニティ事態を潰さないとダメって事か」


ミー君とローさんの会話を聞きながら、眠っている獣人の少年の顔を見つめた。


腕や足に殴られたような跡があり、体も子供なのにがりがりに痩せちゃってる…。


この子、奴隷って言ってたけど…、本当にこっちの世界では奴隷が存在しちゃってるんだ。


「ギルベルト様、さっき第3部隊から連絡鳥が来ました。明日には、こっちに戻って来れるそうですよ」


ヒューズからの報告を聞き、ギルベルト君は的確に指示を出す。


「少年が目が目が覚め次第、エリアと事情を聞く。体格の良い男達は外で待機だ、剣は見えないようにしろ」


「分かりました、ギルベルト様」


「コンラット、ローレンツの2人は|闇市場《ブラッ

クマーケット》に潜入準備を整え、馬の準備を」


ギルベルト君とコンラットの会話を聞きながら、芣婭は獣人の少年の顔に視線を向けた。


「よしよし、今まで辛かったね」


優しく獣人の少年の髪を撫でていると、少年の耳がピクッと反応した瞬間、勢いよく起き上がって芣婭から距離を取る。


あ、少年は芣婭が叩いてくるかもしれないって思ってるんだ。


芣婭もお母さんが手を少しでも上げるだけで、体がピクッて反応してたし、少年も同じだろう。


こう言う時は、無理に近付かないようにしないと。


「あっ、ごめんね?驚かしちゃったよね」


「お、お姉ちゃんは何者?僕の事を捕まえに来たのっ?」


「捕まえないよ?芣婭は君が起きるまで、看病してたの。そうだ、喉乾いてない?なんか、ミントみたいな葉っぱが入った水があるよ。あれ?これって、ミントじゃなくて薬草だっけ?何だと思う?少年」


ウォーターピッチャーの中に入ってるミントらしき葉っぱを見ながら、獣人の少年に声をかけてみた。


「え?」


「これこれ!このちっちゃい葉っぱのやつ」


獣人の少年に見えるように、ガラスのピッチャーを持ち上げて見せると少年の尻尾が横に始める。


お、このミントらしき葉っぱの事を知ってるっぽいな。


「そ、それはミントじゃなくって、セルヒフって言う薬草です…。回復薬の材料などに使われてて…」


「へー、物知りさんだね!芣婭、離れとくから水飲まない?コップに注いであげるね」


水事、セルヒフ水をコップに注いでから机に置き、ベットから離れると獣人の少年はゆっくり近付いてきて、芣婭が淹れた水を一気に飲み干す。


ふと視線を感じ、向けられている視線を辿って行くと、芣婭のスカルプで長い爪を見ている事が分かった。


「可愛い?このネイルお気に入りなの。だけど、そろそろ伸びてきたから変えたいなぁ」


「お姉ちゃんは、僕と同じ獣人なんですか?爪が長いから…」


「あー、芣婭は人間だよ。こっちの世界出身じゃないけどねぇ」


「そ、そうなんですねっ。あ、あのお姉ちゃんは叩いたりしない?」


そう言って、獣人の少年は芣婭の事を怯えながら見つめる。


ちっちゃい時の芣婭を見ているようで辛い、少しでも心を開いてくれようとしてるのは嬉しい。


「芣婭もね?お母さんに叩かれて来たから、叩かないよ」


「うん…」


芣婭の言葉を聞いた獣人の少年は、芣婭の手を恐る恐る握って甲に頬を摺り寄せてくる。


お、おおおおっ、可愛い!!!


心を開いてくれた獣人の少年の愛らしさ大爆発なんですけど!?


コンコンッと扉がのノックされると、少年は体をビクッと反応させてた後、大慌てで芣婭の背後に隠れてしまった。


「少年、ここには優しい人しかいないからね?大丈夫だよ」


「わ、分かった」


「芣婭、中に入っても大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよー」


ギルベルト君の呼び掛けに返事をすると、医務室の中に入って来たのはギルベルト君とエリっちの2人で、

コンラット達は部屋の中に入って来ないようだ。


「具合はどうだ、寝ていなくて平気か?」


「は、はい、お姉ちゃんに水を飲ませてもらいましたっ。ご、ごめんなさいっ、急に来て…」


「構わない、俺を頼ってここに来たんだろう?詳しく話が聞きたい、話せるか?」


「椅子を持ってきます」


ギルベルト君と獣人の少年の会話を聞きながら、エリっちは人数分の椅子を用意してくれて、座ろうと少年の手を離そうとした時。


ギュッと手に力を入れて芣婭の手を離さいようにしてきたので、先に椅子に座ってから繋がれていない方に手で太ももをポンポンッと軽く叩く。


「ここにおいで」


「え?い、良いの?」


「うんっ、芣婭は少年から離れたりしないよ。どこにも行ったりしないし」


獣人の少年は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに、芣婭の膝に座るとギルベルト君が気に入らなさそうな顔をしている。


ギルベルト君の表情を見たエリっちは、小さな声で「あー…」と呟く。


「お前、名前は?」


「ゼ、ゼパです、ギルベルト様」


「ゼパ、ここに来た時にガゼルと言う名を口にしていたが」


「ガゼルはっ、僕の事を売らせにように戦ってるんですっ。ほ、骨が折れてるのに、毎日戦わされてっ。このままだと、ガゼルが死んじゃうっ」


必死にギルベルト君に話をしている獣人の少年の話を聞き、エリっちの表情が険しくなっていた。


「戦わされてる?つまり、バトルロワイヤルに出ているって事ね。アイツ等、懲りずによくやるわ」


「バトルロワイヤル?」


「奴隷同士で戦わせたり、凶暴化した魔獣と戦わせて、客達は賭け事をして楽しんでんの。その客達の大体は貴族で。他国の貴族達も見に来たりしてる」


「漫画であるあるだね…、どうしたら助けられるかな?ゼパ君の大切な人」


「バトルロワイヤルが開催されてる時に摘発するか、すぐに助けるなら買うしか…」


芣婭の質問にエリっちが答えてくれたけど…、この国の皇帝様が奴隷賛成派なんだっけ。


「あの質問なんだけどさ?皇帝様は奴隷推進派じゃん?摘発したとしてもさ、帳消しにしそうじゃない?」


「初代皇帝が決めた法律は現皇帝にも覆せない、俺達が連れて来れは法律に従うしかなくなる。少し難しい話になるが、現皇帝は同盟国に入っていたファントムウルフを、再び同盟国に加えたがってる」


「ファントムウルフ?」


「獣人族しかいない国で、ルナ帝国の次に人口が多い国だ。ファントムウルフが同盟国から抜けたのは、ルナ帝国が獣人を奴隷化を始めてから。同盟国に戻ってほしいのも、邪(よこしま)な考えが見え見えだ」


「戻ってほしいのに奴隷にするの?それって、皇帝様の考えが矛盾してない?」


ギルベルト君は軽く笑いながら、「そこが現皇帝のおかしい所だ」と言葉を吐き捨てるように呟く。


「本当に皇帝様って、ギルベルト君が悪い事をした人達の事を罰(ばっ)してるの?そう言う考え方だったら、後で逃がしたりしてそうじゃない?」


「獣人族や他種族の奴隷売買していた商人達は、逃がさない為にファントムウルフに身柄を渡す手筈(てはず)が済んでる。芣婭が言ったような事にならないように、俺達が関与してるんだが…。商人達のコミュニティを潰さない限り、この問題は解決しないと売買は無くならない」


「ボスを潰さないとダメって事だね、じゃあ潰そう!」


芣婭がそう言うと、ギルベルト君とエリっちの2人が驚いた顔をする。


「アンタ、ギルベルト様の話を聞いてた?その親玉が見つかったら、こんな状況になってないの」


「エリっちさん、何も分かってないですねぇ」


「はい?エリっちさん?おい、口調どうした」


「犯人は必ず現場に戻るって言うんですよ、木を隠すなら森の中って言うし?」


「さっきから、何言ってんのよ」


「ボスは闇市場(ブラックマーケット)にいる!」


しばらく黙って聞いていたエリっちとギルベルト君だったが、見る見るうちに鳩豆状態になっていた。


2人共、そのまま喋らないから不安になって来たんですけど…。


そんな事を思っていると芣婭達の前に魔法陣が現れ、中から芣婭出てきたのはケロちゃんとベロちゃんの2人と…、まさかのバフォさんと鹿の頭の男の人?


「え!?バフォさん!?何故にここに!?」


「芣婭!!!何かあったのか!?」


芣婭の大声を聞いたコンラットは、ヒューズ達を率いて扉を乱暴に開けて入って来る。


バフォさんと鹿頭の男の人を見たコンラット達は、腰に下げている剣に触れるが、ゼパ君の事を見て抜こうとはしない。


「やぁ、お姫様。ご機嫌は如何(いかが)かな?」


「ご機嫌はよろしいけど…、なんでここに?」


「どうやら、人間界で興味深い取引が行われてると聞いてね?あ、隣にいる男はフルル」


「ご機嫌麗しゅう、お姫様。バフォメット様の忠実なる部下でございます」


鹿頭さん事、パルさんが芣婭に丁寧にお辞儀をする中、ケロちゃんとベロちゃんがゼパ君に注がれていた。


「ケロちゃん、ベロちゃん怒ったらダメだよ」


「わ、分かってるってっ」


怒り出しそうなベロちゃんを最初に宥め、バフォさんの事を怪訝な目で見てるギルベルト君に声をかける。


「あ、そうだ!ギルベルト君、この間さ?突然、芣婭がギルベルト君の家に落ちて来た時があったでしょ?魔界に行った時の事を話そうと思ってたの!」


芣婭は魔界での出来事と紋章試験の事を話していると、芣婭の背後に立ったバフォさんは肩に手を置いて、ギルベルト君に声をかける。


「そう睨むなよ、お姫様の王子。ここに来たのは、君の興味を引く話をしにきただけだ」


「俺の興味を引く前に、芣婭の肩から手を離せ。俺の機嫌が悪くなる前にな」


「今にも斬り掛かられそうな雰囲気だ」


ギルベルト君に睨まれながら、バフォさんは芣婭の肩から手を離し、ゼパ君が座る予定だった椅子に腰を下ろした。


ヤキモチ妬いてるギルベルト君キュンです♡


あー♡今すぐぼっぺにちゅーして、抱きつきたぁい!!!


だけど、今は真面目な話をしてるから、イチャイチャ始めるのは場違い過ぎる。


それにしても、バフォさんも座ってるだけでさまになるな。


「俺の興味を引く話ってなんだ」


「お姫様の膝の上に座っているのは奴隷の少年だね?君は魔法の薬は飲まされてないようだ」


「魔法の薬?」


「な、何で悪魔さんが魔法の薬の事を知ってるんですか!?」


ギルベルト君とバフォさんの会話を聞いていたゼパ君が、驚いた顔をして叫ぶ。


バフォさんが一瞬だけパルさんに視線を向けると、パルさんは黒革の鞄の中から可愛らしい見た目の瓶を取り出す。


骸骨の手がハートの瓶を掴んでいるデザインで、中身はビビットピンクとパープルの2色が綺麗な液体が入ってる。


瓶を見たゼパ君は驚いた顔をして、バフォさん尋ねた。


「それっ、魔法の薬っ。ど、どうして、ここにあるんですかっ?」


「ちょっとした伝手で、手に入れただけさ。この薬を魔獣や奴隷に飲ませて、バトルロワイヤルで戦わせるのが流行ってるようでね」


「可愛い見た目だけど、ヤバい?」


「この薬の成分は80%が悪魔の血液で、人間が悪魔の血を飲めば体が耐えきれなく破裂してしまう。獣人族の人達は普通の人間よりも丈夫だし、悪魔の血を飲んだとしても体が破裂する事はなかったそうだ」


芣婭とバフォさんの会話を聞いていたミー君が、ハッとした表情で呟く。


「最近、闇市場(ブラックマーケット)で変死体が発見されてましたよね?この悪魔が言ったように、体が破裂しているものもあれば、中毒傷害を起こしてる死体もありました。そうか、その薬が原因だったのか」


「そんなもんを商人達が作り出したってのか!?とんでもない奴等だな」


「ニックス、奴等に薬の知識のあるのはいなかったはずだよ。ポーションを作るにしても、それなりに知識がないと調合出来ない」


「お前が言うなら、そうかもしれねーけど。どうやって、悪魔の血なんか手に入れんだよ?召喚でもしない限り、悪魔から貰えないよな?」


ミー君とニックの会話の内容からして、ゼパ君がいた闇市場(ブラックマーケット)ではとんでもない事になってるみたいだ。


これ、異世界ものですよね?


あっちのダークな世界でないですいよね?


「バフォメットと言ったか?俺に取引を持ち掛けに来たって所か」


「俺としても、自分の目の届いてないと悪さをされるのは気に入らない。そこで、お姫様に闇市場(ブラックマーケット)潜入してもらおうと思ってね」


「芣婭を行かせる訳ないだろ」


「それだと困るなぁ、俺の紋章の試験になるんだから行ってもらわないと」


「へ?」


ギルベルト君と話していたバフォさんの口から、とんでもない言葉が出ていたような?


いやいや、芣婭の聞き間違いだね、うん。


「さて、お姫様、最初の試験だ、闇市場(ブラックマーケット)潜入して取引してる悪魔を捕まえてきて?」


どうやら、聞き間違いではなかったようです…。


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