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14.異世界で、カーディアック家仲直り計画始動! 前編

魔界ー


コウモリ達を押し退けて、ダンタリオンが部屋を出ると甘野芣婭の事を妹と呼んでいた女性が廊下を歩いていた。


「レイラ!!!」


「ダンタリオン様、帰ったよー」


「お帰り、レイラ」


ダンタリオンはそう言いながら、レイラの体を優しく抱きしめ、怪我をしていないか確認していく。


体に怪我をしていない事の確認が取れたダンタリオンは、レイラの頬に触れながら尋ねる。


「お前の妹に使い方を教えられたか?」


「うん!バッチリ。私の我儘(わがまま)を聞いてくれてありがとう、すごく嬉しかった」


「お前の望みは何でも叶えると言っただろ?レイラに不憫(ふびん)な思いをさせる訳ないだろう?」


「嬉しいなぁ、私は幸せ者だね」


レイラの言葉を聞いたダンタリオンは、レイラの頬に手を添えては唇に口付けを落とす。


この光景を見けいたコウモリ達が赤面する中、悪魔の羽を生やした1人のメイドがダンタリオンに近付き声をかけた。


「ダンタリオン様、門の前に悪魔達が集まってきておりま

す」


「ごめんなさい、私の所為よね?悪魔他達が集まって来ちゃったのって…」


「レイラは何も悪い事はしていないだろ?悪魔の相手は俺に任せろ」


メイドの報告を聞いたレイラの頭を優しく撫で、ダンタリオンは顔付きを変えて長い廊下を歩き出す。


ダンタリオンが城の外に出ると、顔を赤面させた悪魔達の騒ぎ声が聞こえ、ダンタリオンの姿を見つけた1人の悪魔が声を上げる。


「おい、ダンタリオンが来たぞ!」


魔性の女(エンチャトレス)がもう1人現れたんだろ!?どこにいるんだ!!」


「姫がアンタの嫁になっちまったんだ、次の魔性の女(エンチャトレス)は俺のモノだ!!!」


「ギャアギャア騒ぎやがって、人の家の前で馬鹿みたいに騒ぐな。誰に向かって生意気な口をきいているのか、分かってんだろうな」


悪魔達はダンタリオンの目を見た瞬間、顔を青くさせながら口を閉じる。


強壮なる大公爵であるダンタリオンに、魔界の中でも逆らえる者は誰もいないのだが、ただ1人の悪魔だけはダンタリオンに異議を申し立てた。


「騒ぐのも無理ないだろう?我々、魔族が愛してやまない魔性の女(エンチャトレス)が、レイラ嬢以外にも現れたんだ。悪魔達が興奮するのも無理はない」


サファイア色のパーマが掛かった肩までの長さの髪は、両サイドにハーフツインにアレンジされ、切れ長の真っ黒な瞳、首には大きな十字架のタトゥーが彫られ、耳のには沢山のピアスが光る。


黒の毛皮のコートを肩に掛け、露出の多い服を着た男の事をダンタリオンは、キッと睨み付けながら口を開く。


「アスタロト、ここにいる悪魔達はお前の軍団の悪魔だろ。喧嘩を売りに来たのか、貴様」


ダンタリオンに呼ばれた男の名はアスタロト、ゴエティアにおいては29番目、悪魔の偽王国では28番目に記載されている地獄の40の軍団を従える大いなる公爵である。


「コイツ等が勝手に来たんだろ?僕は何事かと思って駈け寄ったまでさ。変な言いがかりはよしてくれないか?」


「若い易い嘘をつくな、お前が魔性の女(エンチャトレス)が発動されたのを見過ごす筈がねぇ。この中の誰よりも、魔性の女(エンチャトレス)に執着してんだろ」


「美しい女に美しい魔法の2つが融合している魔性の女(エンチャトレス)だぞ?愛さずにはいられない。君だってそうだろう?ダンタリオン」


アスタロトはそう言いながら、レイラがいる城に視線を向ける姿を見たダンタリオンは、乱暴な足取りでアスタロトに近付く。


「まだ、レイラの事が好きなのか。アイツはもう俺の女だ、余計な事すんなよ」


「しないよ、君に殺されたくないからね」


「コイツ等連れて帰ってくれ」


「ダンタリオン、城の護りは十分に固めておいた方が良いよ。お姫様を奪われたくなかったね、用心しておいた方が良い」


「お前に言われなくても分かってる」


ダンタリオンの言葉を聞いたアスタロトは含みな笑みを浮かべて、悪魔達を引き連れてダンタリオンの城を後にした。


コツコツとヒールの鳴る音が聞こえ、ダンタリオンは振り返らなくても相手が誰か分かっていた。


「ダンタリオン」


「どうした?レイラ」


「アスタロトが来てたの?」


レイラの言葉を聞いたダンタリオンは、彼女の口からアスタロトの名前が出た事が気に喰わない。


自分と同じようにレイラに惚れていた事をレイラ自身も知っていたし、恋のバトルに勝利したダンタリオンは穏やかではいられなかった。


「その顔だと来てたんだ、妹ちゃんの事を聞きに来た感じ見たいだね」


「俺は何も言っていないのに、分かるのか?」


「もう、貴方との夫婦生活長いし?ダンタリオンの表情を見たら、何を考えてるか分かるもん。当ててあげようか?アスタロトの名前を呼んだ事が気に入らなかった、そうじゃない?」


「…チッ、当たってるよ」


「ふふ、やっぱり。そんなに心配する事ないのに、私は貴方に永遠をあげたんだよ?」


ダンタリオンの背中に抱きつきながら、レイラは言葉を吐く。


「永遠と心だけじゃ足りなかった?」


「いや、十分過ぎる。お前は可愛いから、他の男が名前を呼ぶのも、視界に入れる事が気に入らないだけだ」


「貴方だって、女の子の視線を奪っているじゃない。私だって嫌なのに」


「レイラ、俺が愛した女はお前だけだ。これから先も変わる事ない思いだよ」


そう言って、ダンタリオンは振り返った後、レイラの事を強く抱きしめる。


ダンタリオンがレイラを抱き締めている姿を、アスタロトはジッと見つめていた。


***


ルナ帝国 中部街 カーディアック家の別邸


カーディアック家本邸のすぐ近くに、ギルベルトの弟であるジオンが住む別邸だ建っていた。


瑞々(みずみず)しいオレンジの実がなる木の下で、1人の6歳の少年と大柄の白豹が木の陰で涼んでいる。


サラサラとした艶やかな黒い髪、お餅にように膨らんだ桃色の頬、太陽の光に反射して輝くライムグリーンの瞳を宿した少年こそが、ギルベルトの歳の離れた弟のジオン。


ジオンはチラチラと本邸の方に視線を向けていると、白豹はジオンの小さな膝に顎を乗せ、欠伸をしながら声をかけた。


「ジオン、本邸の方が気になるのか」


「え、そ、そんな事ないよ」


「嘘をつくな、さっきから本邸の方を見ていただろ」


白豹に本音を突かれたジオンは、何も答えられずに視線を下に落とす。


ジオンを傷付けるつもりがなかった白豹は目を見開かせ、慌てて起き上がり弁解を始めた。


「怒ってるんじゃないぞ、ジオン!!兄の容態を気にしているんじゃないかと思っただけだ」


「うん、怒ってないのは分かってるよ。君はボクの事を怒らない、いつも優しくしてくれる。兄上の、その、のろいが早くなったって聞いたから…」


「お前の事を追い出した奴等の事を、俺は心配する必要はないと思っている。俺に大事な主人の事を傷つけたんだぞ」


「ボク産んだから、母上がしんじゃったんだ。ボクが母上をころしたんだから、おいだされてもしかたないよ」


「それは違う、違うよジオン」


泣き出しそうなジオンの肩を男の手が置かれ、さっきまでいた白豹の姿がない。


真っ白なふわふわした髪の毛が風に揺れ、長い前髪は左目を隠して白くて長い舞う下の間からレモンイエローの瞳が覗き、肌も髪も着ている服すらも白い。


男性の首にはチョーカーが着けられ、ジオンと同じ瞳の色の宝石が装飾されいる。


「ジオンは殺してない、殺してなんかないんだ。ジオンの母親は命がけで、お前を産んだんだ。お前に会いたかったからだ」


「ハウラス…」


ジオンにハウラスと呼ばれた男の正体は、白豹の悪魔ハウラスであった。


ハウラスは魔法書『ゴエティア』に記されたソロモン72柱の悪魔の1人、36個の軍団を率いる序列64番の地獄の大公爵であり、ジオンと主従契約を結んでいる。


「自分の事を責めないでくれ、産まれてこなければなんて思わないでくれ。お前が産まれてきてくれてから、俺達は出会う事が出来たんだ。俺はジオンの母上に感謝してるんだ、ジオンを産んでくれたんだから」


ハウラスと呼ばれた男はジオンを抱き上げ、ジオンの旋毛に口付けをした。


「ハウラス、ボクにはハウラスだけがいればいい。けど、兄上のおみまいにはいきたい。怒られたら、まもってくれる?」


「そんなの当たり前だろ?何からも、誰からでも守るよジオン」


「へへっ、そっか!へへ、嬉しいなぁ」


「ジオン様、お話し中に失礼します」


ジオンとハウラスが仲良く話していると、カーディアック家の執事長マーヴィンがジオンの元に訪れた。


「旦那様がジオン様の事をお呼びです、お迎えに上がりました」


「迎えだと?今まで放置していたくせに、迎えに来ただと?本人が出向く訳でもなく、執事に出迎えに来させるのか?」

「申し訳ございません、旦那様はギルベルト様の仕事も請け負っておりますゆえ…」


「ギルベルト、ギルベルトってそればかりだ。ジオン、どうする?」


マーヴィンとの話を切り上げ、ハウラスは抱きかかえているジオンに視線を向ける。


ジオンはハウラスのレモンイエローの瞳をじっくりと見つめ、恐る恐る口を開く。


「ハウラス、ボク行くよ。兄上にもあえますか?」


「勿論でございます、ジオン様」


「あの、ハウラスもいっしょがいい…んですけど」


「旦那様も既に了承しております、ハウラス様も是非」


「やったハウラス、いっしょにいこ?」


マーヴィンの事を睨みつけていたハウラスだったが、ジオンに可愛らしい視線を向けられて機嫌が良くなっていた。


「お前がどこへ行こうとも、俺はついて行くよ。ジオンを1人にしないって約束しただろ?」


「うん、やくそくしてくれたけどね?うれしいんだ。ハウラス、だいすき」


「俺もだ」


ジオンの言葉を聞いたハウラスは、ジオンの体を優しく抱きしめた。


***

 

甘野芣婭 (17歳)


ギルベルト君の呪い騒動から2日後、芣婭はケロちゃんとベロちゃん、シーちゃんの3人でギルベルト君の家にお邪魔していた。


なんとなく、エロおねがギルベルト君にした魔法の一部始終をなんとなくだけど覚えてる。


ざっくりだけど、芣婭が魔法を使うには血を出さないといけないって事だけど…。


少し酷すぎではありやせん?


え、みんなは普通に呪文を言って魔法を使えてるのに、芣婭だけ痛い事しないといけないって!


確かに?芣婭の血がアゲハ蝶になったのは綺麗だったし、変な化け物が出て来た時に鎖で捕まえたのもカッコ良かったけどもさ。


痛いのを感じない魔法とかないのかな、麻酔的なやつ。


あ、今日のコーデは白のノースリーブのバルーンドレス、丈は膝までの長さで、同じ色のショートブーツを履き、髪型はハーフツインテールですの。


パパは芣婭がギルベルト君の家に行く事に反対だったけど、ママがパパを説得してくれたおかげで、芣婭達は来れたんだけど…。


「芣婭様、お荷物をお持ちしますよ」


「芣婭!あ、あの僕、カーディアック家の庭師なんですがっ。良かったら、これ受け取って下さい!」


「貴方がギルベルト様の…、お会いしたかったです芣婭様!」


「えぇ…?何事?」


ギルベルト君の家の執事のお兄さんに荷物を持たれ、庭師の若者にはコスモスの花束を渡され、メイドのお姉さん達には囲まれて…。


これはどーゆー感じ?


「貴方達、芣婭様が困っているでしょう?はやく持ち場に戻りなさい」


「メ、メイド長!?し、失礼しますっ!!!」


メイド長と呼ばれた女性の言葉を聞いたメイドさんと執事さん、庭師の若者がそそくさに去って行った。


あれ?この人、シーちゃんと話してたよね?確か。


「シエサの主の芣婭様ですね?初めまして、カーディアック家のメイド長を務めています。タバサと申します」


「あ、シーちゃんとお話ししてましたよね?はじめましてー」


「シーちゃん?あぁ、シエサの事ですね?いつもシエサがお世話になっております」


「いつも?ハッ!もしや、シーちゃんのママですか?シーちゃんにはお世話してもらってます、沢山」


芣婭の言葉を聞いたシーちゃんママが、シーちゃんに視線を向けながら口を開く。


「シエサがまた昔のように、男の子のような恰好に戻った事を問い詰めたんです。私、シエサには女の子として生きてほしかったので」


「あ、それはっ、芣婭が騎士だった頃のシーちゃんを見たいって言ったからで!!ごめんなさい、シーちゃんママ…。シーちゃんの事を怒らないで?怒られるのは、芣婭の方だから」


「芣婭様が謝る所は一つもありません。シエサが、貴方を守る為に昔に戻ったと言ったんです。あの子は本当に芣婭様の事が住好きでして、手紙でも貴方の事ばかり書いていたんですよ?」


「そうなの?シーちゃん」


そう言って、シーちゃんに視線を向けると顔が真っ赤になっていた。


どうやら、シーちゃんママの言っている事は本当のようで、何て言い訳をしようか考えている様子だ。


「シーちゃんが芣婭の事を書いてくれて嬉しいよ?それもめちゃくちゃ!」


「ふ、芣婭様、ありがとうございます」


「今度は、芣婭のママとシーちゃんのママの4人で女子会しようよ!あ、女子会は男子禁制だからね?ケロちゃん、ベロちゃん」


「「え!?」」


ケロちゃんとベロちゃんは凄くびっくりしていて、芣婭達の事を見ていたシーちゃんママが微笑ましそうにして見ている。


ズカズカと大きな足音を立てながら、芣婭達の元にエリっちが歩いてくるのが見えた。


「あ、エリっち!」


「…」


芣婭の呼び掛けに答えずに、エリっちは芣婭の右腕に抱きついてくる。


「エリっち?どした?」


「べ、べつに?アンタが来るの待ってた訳じゃないし」


エリっちはそう言うが、エリっちの尻尾が勢いよく振られてるんだけど…、これは言わない方が良いね」


それに、ツンデレのエリっちが芣婭に抱きついてきてくれてるのは嬉しいし、可愛いしね!


「ちょっと、エリア。芣婭様と距離が近過ぎる、適切な距離を…」


「良いのよ、シーちゃん!エリっちにこうされるのは嬉しいよ。エリっち、ギルベルト君は部屋にいるかな」


何故か不服そうな顔をして、シーちゃんはエリっちの事を睨みつけ、エリっちはシーちゃんの視線を無視している。

ん?なんだ?


「うん、案内するように頼まれてる」


「そうなんだ!迎えに来てくれたんだ、ありがと、エリっち!」


「行こ、芣婭」


エリっちはそう言って芣婭の手を引き、階段を上り始め、後ろからシーちゃんだけがついてきている事に気付く。


振り返ると、ケロちゃんとベロちゃんの2人が玄関の方に視線を向けていた。


「ケロちゃん、ベロちゃん?何してるのー?」


「いやー、俺達と同類の気配が近くですんだよ。一応、見てくるから部屋に行ってて良いぞ」


「2人で行くの?」


ベロちゃんを置いてケロちゃんが芣婭の方に向かって歩き出すと、ベロちゃんが力強くケロちゃんの腕を掴む。


「は?」


「は?じゃねーだろ。テメェもついてくんだよ、行くぞ」


「貴方1人で十分でしょ?何で、俺も行かないといけないんですか」


ケロちゃんの言い分を無視して、ベロちゃんは力づくでケロちゃんの事を連れて行く。


2人の事を見送りつつ、レヴァさんとニックが芣婭の護衛をしに来ていない事を思い出す。


そう言えば、2日前から会議?か何かに参加しないといけないからって言ったきり、芣婭の所に来てないな。


「シーちゃん、レヴァさんとニックの2人ってさ来てないけど、お仕事でも入った?」


「アイツ等なら、訓練場にいるよ」


芣婭はシーちゃんに尋ねたのだが、シーちゃんの代わりにエリっちが答える。


「くんれんじょー訓練場?って、あの訓練場?なんか、訓練する場所?」


「それ以外に何があるのよ、オルタニア様の命令でね。騎士団全体の強化するべく、主を持ってる騎士達が招集されてね。レヴァリオとニックスの主は、芣婭でしょ?2日前には招集がかかって、団員寮に寝泊まりしてるの」


「オルタニア様って、イケおじの事?」


「そう言って怒られないの芣婭だけね」


そうか、レヴァさんとニックはレベルアップの為に訓練してるって事か。


コンコンッとエリっちが軽く扉をノックをしてから、中にいるギルベルト君に声をかける。


「ギルベルト様、お連れしました」


「入ってくれ」


ギルベルト君の返事を聞いてからエリっちが扉を開けると、部屋着姿のギルベルト君がベットの上で書類を見ていた。

 

なんの書類かは分からないけど、仕事の途中なの分かる。


「芣婭!」


「ギルベルト君、体調はどう?」


「あぁ、平気だ。芣婭が進行を止めてくれたおかげで、痛みも手の痺れもなくなった」


「本当!?良かったぁ」


「近くに来てくれ、顔が見たい」


ギルベルト君に呼ばれ、緊張しながらベットサイドに置かれた椅子に腰を下ろすと、ギルベルト君が芣婭の手を優しく握る。


シャツの隙間から芣婭の瞳と同じ色の薔薇が見え、呪いの黒い棘はこの薔薇の為の棘に変わった。


「ギルベルト君、薔薇の色さ…、気持ち悪くない?」


「そんな事思った事ないよ、芣婭と初めて会った時から綺麗な瞳だと思ってた。この薔薇だって、美しい色をしている」


「本当?そい思ってくれるなら嬉しいよ」


「俺が芣婭のモノになったみたいで、ずっと眺めたくなる薔薇だよ」


ギルベルト君の言葉を聞き、体温が一気に上がり顔が赤くなって行くのが分かる。


好きピにも彼ピにも、こんな事を言われた事がなかったからびっくりしちゃった。


「ギルベルト君って、女の子慣れしてるでしょ」


「ん?どうしてそう思うんだ?」


「だって、女の子が喜ぶ事を言ってくれるし…、やってくれるから」


「俺はお前にしかしないし、他の女にする必要がないだろ」


ギルベルト君から返って来た言葉は、芣婭の度肝を打ち抜き、一瞬で芣婭の不安を取り除く。


この人はきっと、芣婭が本心であんな事を言ったなんて思ってないし分かってる。


「本当に?」、「芣婭にだけ?」、目に見えない感情の確かめ方なんて、信じるしかないのに、信じれない自分がいるのは家庭環境の所為?


お母さんの言葉が頭の中で繰り返し再生され、怒られて、叩かれて、思い出さないようにしてるのに。


彼ピが出来ると何故か思い出されてしまう、お母さんにされた事が呪いになっているのかもしれない。


「芣婭 」


「え?」


ギルベルト君の長い指が頬に触れて、頬に何か柔らかいものが触れられた。


一瞬、何が起きたのか分からなかったけど、ギルベルト君が芣婭の頬に…、キスされたよね?


「え!?ギ、ギルベルト君!?い、今、キスした…?」


芣婭の言葉を聞いたギルベルト君は、顔を真っ赤にして自分がされたみたいに恥ずかしがっている。


え?ギルベルト君が芣婭にちゅーしたんじゃ…?


「か…」


「か?鴉の鳴きまね?」


「いや、鴉じゃなくて…。完全に無意識だった、 芣婭が可愛かったから。すまない、失礼すぎる行動を取った」


エリっちもシーちゃんシーちゃんママも、ギルベルト君の行動と言葉を聞いてかなり驚いていた。


芣婭自身もめちゃくちゃ驚いてるんだけど、男の人がこれだけ照れてるんだから本心なんだよね。


「ギルベルト君、芣婭にちゅーしたくなっちゃった?」


「答えないとダメか?」


「うん、だめ」


芣婭の言葉を聞いたギルベルト君は答えにくそうにし、頭を掻きながら答える。


「…したくなった、これで許してくれ…」


ギルベルト君は顔を更に真っ赤にさせて、芣婭の要望に応えてくれた事だけでも嬉しい。


男の人ってこんなに可愛いの?今まで生きてきて知らなかった。


自分の体を前のめりにさせて、ギルベルト君の肩に手をおいてほっぺにキスすると、ギルベルト君の顔が茹蛸(ゆでだこ)状態になる。


「ふ、芣婭!?な、なにを」


「芣婭もちゅーしたくなっちゃった。だってギルベルト君、可愛いんだもん」


「可愛いのは芣婭だろ?俺のどこが可愛いんだ?可愛い要素があったか?」


「顔を真っ赤にさせてるところとか?ふふ、きっと芣婭にしか見せてくれない表情だよね」


「お前が俺をこうさせてるんだから、芣婭にしか見せた事がないよ」


この人は今まで出会ってきた男の人とは全く違う、芣婭の事を言葉と行動で安心させてくれる人だ。


「ギルベルト様って、今まで女の気配がなかったけど、本当は面食いだったんですね」


エリっちがそう言いながら芣婭に抱きつくと、扉がノックされたと同時に誰かが入って来た。 

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