表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ開始】織田家の悪役令嬢 ~今世はのんびり過ごすはずが幼くして『女孔明』と呼ばれてます~  作者: 小鳥遊真
第三部 東海争乱編②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/155

更新曜日変更のお知らせ

コミカライズ開始にともない、これまで隔週金曜日更新でしたが、

コミカライズ更新日に合わせ、しばらくはその周知のため隔週の水曜日にしたいと思います。

次回更新は4月1日(水)です。


これだけだとあれなので、2巻発売の時に諸々の理由で浮いたSSを上げておきます

信秀と信光のお話です

「おお、松平勢が退いていくぞ!」

「い、生き残ったのか!? うおおお!」


 守山城に高らかに勝鬨があがる。

 時は天文四年(一五三五年)、まだつやが生まれて間もない頃のことである。


「ふぃぃぃ、なんとか凌ぎ切ったか」


 守山城の主、織田信光は大きな嘆息とともにその場に座り込む。

 守山城は尾張領の東の守りの要である。

 そこに群雄割拠する三河をわずか六年で統一した希代の英傑、松平清康が八〇〇〇もの大軍を率いて乗り込んできたのだ。


「九死に一生を得たとはこのことよ。しかし、なぜ敵は退いたのだ?」


 守山城に詰める守兵はわずか五〇〇ほど。

 初戦こそ死力を尽くして敵を押し返したものの、もはや疲労困憊。

 守山城の命運はもはや風前の灯火ともいうべき状況だった。


 逆に言えば、松平勢は勝利目前であり、ここで退く理由が見当たらなかったのだ。

 だが、その疑問は、後詰め(救援)に駆け付けた兄信秀の言葉で氷解することとなる。


「清康めが、討ち取られたのよ。家臣の乱心で、な」

「家臣の乱心!? そ、そのようなことがあり得るのですか!?」

「儂としても一か八かの賭けじゃったが、なんとか上手くいったようで胸を撫で下ろしておるよ」

「ま、まさか兄者の差し金ですか!?」


 信光は思わず目を見開き兄に問うや、


「あまり大きな声では言えんがな」

「おおお……」


 否定しないことに、信光の口から感嘆の吐息が漏れる。

 正直、自分は絶体絶命の状況に、完全に絶望しきっていた。

 次、敵が攻めてきたら玉砕覚悟で撃って出て、武士らしく華々しく散ろう。

 もはやそれしかないと思い込んでいた。

 それをこの兄は、守山にいずして敵の総大将を討ってしまうとは……っ!


「さ、さすがは兄上ですな」


 もうそうとしか言えなかった。

 思えば先の那古野城も、謀を用いてほとんど兵を消耗することなく奪い取ってしまった。

 家督を継いでまだ一〇年足らずながら、すでに織田弾正忠家の領地は先代の父の数倍以上に膨れ上がり、主家である織田大和守家を上回るほどになっている。


「俺などとはやはり、おつむの出来が違いすぎます」


 自分では逆立ちしても、何度人生をやり直しても、達成できる気がしない。

 まったくとんでもない兄を持ったものだと思う。

 だが、不思議と嫉妬は湧かなかった。


「適材適所よ。逆に儂では到底、あの清康めの猛攻を凌ぎきれなんだであろう。おぬしの奮闘が稼いだ一日が、この大勝利を呼び込んだのじゃ」


 折に触れ、兄がこうして自分の武勇を立ててくれるからだろう。

 敵には情け容赦ない奸計を巡らす兄ではあるが、不思議と身内には裏表がないところがある。

 本音で言ってくれているのがわかるのだ。


 まんざらでもないどころか、自分が誇らしくて仕方なくなる。

 この世で一番尊敬している人間が、自分の武勇を認め、頼みにしてくれているのだから。


「正直、羨ましくて嫉妬を覚えるほどよ。おぬしの武の天稟にはな」

「っ!? あ、兄者が俺に嫉妬を!?」


 嫉妬するならば、普通は自分のほうだろうと思っていただけに、信秀のこの言葉は青天の霹靂もいいところであった。


「おうよ。真正面から堂々と強敵に立ち向かい、打ち勝つ。武士としてこれ以上の誉れはあるまい。今回の事も、那古野のことも、儂のやり方は卑怯者のそしりは受けても、決して褒められるものではないからのぅ」


 そう言う兄の顔には、自嘲と苦悩が滲んでいた。

 信光から見ればどちらも、とんでもない大戦果ではあるが、当の本人は誇らしさより、恥や罪悪感を覚えていたらしい。


「やはり兄者は格好いいですな」


 思わず口から漏れたのは、そんな言葉だった。


「あん? おぬし、耳と頭は確かか? どこをどう聞けばそうなる?」


 いぶかしげに信秀が眉をひそめる。


「俺の頭が悪いのは、兄者もよく知っているでしょう?」

「学問が苦手なのは知っているがな。地頭まで悪いと思ったことは一度もないぞ」

「兄者は相変わらず身内に甘いですな」

「これに関しては事実を述べているにすぎん」


 心外だとばかりに信秀は鼻を鳴らす。


「俺も事実を言ったまでですよ。兄者が格好いいのは紛れもない事実です」

「それは事実ではなく、お前が胸中に抱くものにすぎん」 


 きっぱりと切り捨てられる。

 まったく面倒臭い兄である。


「そうです? 皆の為に汚れ役を買って出るなど、なかなか出来ることではありますまい?」


 ここまで裏で思い悩んでいるぐらいだ。

 決して好きでしているわけがない。


 同腹の弟として、素の兄を信光は知っている。

 身内にはとかく優しく、面倒見の良い兄である。

 民に対しても、しっかり善政を敷いている。

 そんなまっとうな神経の持ち主が、陰謀術数を張り巡らせる事に何も思わないはずもないのだ。


 ただ織田弾正忠家の為、生き残る為に手段を選んでいられない。

 この戦国乱世では、強くならない限り、全て奪われるだけなのだから。

 だが、信光がこういう事を言うと、


「やれやれ、またそれか。おぬしは儂を美化しすぎじゃ。儂はそこまで聖人君子ではない。全て自分の野心を満たすためにやってるだけのことよ」


 いつも決まってこうして否定されるのが常だった。

 家族思いだったり、利他的なところもけっこうあるのに、この兄は絶対にそれを認めようとしない。

 自分は性格がひねくれ、ねじ曲がっていると思い込んでいるのだ。

 自分への厳しさがそうさせるのであろう。


「まあ、そういうことにしておきましょう」

「だから違うと言うておろうに」

「はいはい、わかっておりますよ」

「むぅ」


 昔は真正面から論破しようと抗弁していたものだが、自分は頭が悪く、弁も立たない。

 言葉を弄したところで、知恵者の兄を説得などできないことは思い知っている。

 ゆえに最近は、こうして柳に風で受け流すことにしていた。

 これならば勝てはせずとも、負けることはない。


 後は折に触れ、ちくちくちくちく言い続けるのだ。

 しつこく、しつこく、持久戦で。

 意固地な兄が根をあげるまで。

 そして、そんな信光のコケの一念が、口では否定しつつも、若き日の信秀の心の支えになっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コケの一念……「虚仮(お馬鹿)の一念(一途)」……なるほど!!!wお互いにちょっと歪んだ?誉めっこをしてたんですねw(*´艸`*)♪ 微笑ましい♡♡♡
・コケの一念…キノコの一念。一部の方しか理解できないネタ。 ・孫氏だったかな?曰く「戦わずして勝つのが最上」でしたか。
おぉ、コミカライズ開始おめでとうございます! 第一話が配信されたら見に行かねばな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ