執行人八
久々に更新。あけましておめでとう。後少しでこの話は終わる予定。多分。きっと。メイビー。
「お、おい!!どうなっている!!連絡は、まだ来ないのか!?」
屋敷の一番奥にあり、かつ、一番分厚く守りの硬い構造となっているその部屋で、そう盛大に怒鳴り散らすのは、大きなデスクに座る一人の男。それは、殺されるのを恐れて引きこもっている、破落戸であった。
いつもであれば、横柄で不遜な男である彼であるが、やはり命を狙われている状況であれば、かなり不安なのであろう。その上、組員たちからの定期連絡…いつも、決まった時間に来るはずのそれが来なかれば、精神が不安定になるのも無理もない。
一番厳重なセキュリティーがあり、尚且つ、信用が置ける上にかなりの腕利きである、数名の組員に部屋中を守られているという万全な状況にありながらも、その声色には恐怖の色がこれでもかとあらわれていたのであった。
「落ち着いて下せぇ。親父。どうやら、通信機器の故障みたいです。直に、直接報告がきまさぁ」
「そうですよ!なんなら、俺達の内の一人が、様子見に行ってもいいですし。ここならん安全なんですから、落ち着いて下せぇ」
見ていられないとばかりに、破落戸をなだめる組員達であったが、その声に、破落戸は過敏に反応してみせた。
「!?や、ヤメロ!!誰も通すな!!誰も行くな!!そういう時を、殺し屋は狙ってるんだ!!俺は詳しいんだ!!俺を守る事に専念しろ!!」
「っ!…わ、分かりやした。そうします…」
ヒステリックに怒鳴り散らす破落戸の物凄い剣幕に、部屋の中にいる組員たちは、反対する事はできない。
ヤクザとは、親が絶対。子は従うのみ。そういう、厳格な上下関係が物を言う世界である。それに加えて、ここまで恐怖で追い詰められている破落戸に、反対意見などいう物ならば、即座に『お前が敵か!!』と、その片手にずっと持っている『サブマシンガン』で、ハチの巣にされる可能性が高い。
だからこそ、彼らは敢えて、虎の尾を踏む愚行はしないようにと、破落戸の言葉に何も言わず、只々、機嫌を取るように徹していたのである。ただし…。
(っち!まさか、こんな事になるとはな。破落戸の親父なら、天辺取れると思っていたが…くそ。とんだババ引いちまったらしい。親父自身も、ここらが限界だな。こいつは、もう駄目だ。大成する器じゃなかったって事だろう。なら、生き残る方法、身の振り方、考えないとな…)
内心では既に、破落戸に見切りをつけていた模様。まあ、命は狙われてるし、ヤクザ世界での出世も閉ざされている現状ならば、当然かもしれない。破落戸本人に惚れこんでいるならばまだしも、そうでないならば、沈みゆく泥船からはさっさと避難したい。そう考えても無理はないだろう。
故に、『もういっそのこと、破落戸の死体を手土産に詫び入れようかな?もしかしたら、許してくれるかも』という、反逆フラグが俄かに立ち始めた…その時!!
『あーあー。テステス。ただ今、通信復帰のテスト中。聞こえますか~?どうぞー』
彼らの耳に付けた、屋敷内での警備に使用している通信機器。さっきまで、何も音沙汰が無かったそれから、男の声が流れてきたのであった。
「!ああ。聞こえるぞ。やっと直ったのか。で、そっちはどうだ?」
通信が回復したことで少し落ち着いたのか、大人しくなった様子の破落戸を見ながら、組員の一人がそう返す。必要な事でもあったし、これで何事もないと分かれば、破落戸も、もっと落ち着いてくれるだろう。そうすれば、部屋に充満している嫌な空気も、少しはましになるかもしれない。そう思っての返答だった。
そして、組員の言葉に、男は、ゆっくりと、聞きやすい声で。
『ああ。大丈夫だ。こっちは全員『片付いた所だ』。だから…』
『首洗って待ってろ。直ぐ、行くからよ♡』
「…何?」
組員の予想とは異なり、そして、彼らにとっては意味が分からない内容を返し、どういう事だ!?と、聞いていた彼らが聞き返そうと、言葉を続けようとした…。
その、刹那だった。
ドンッッッ!!!という、重い音と同時。この部屋を侵入者から守っている、分厚くて重い、唯一の出入り口である『扉』。セキュリティ満載で、下手な金庫よりも遥かに頑丈なそれが、『宙を舞い』。
部屋にいた、『組員たちに』!!容赦なく襲い掛かったのは!!!
「!?がはっ?!」
「?!ぐぅ?!」
「ッごっほお!?!?」
何が起きたかも理解する暇もなく、反応の遅れた三人が、その大きな扉の餌食となった。重厚な扉に押しつ潰され、辺りに鮮血と骨の音がこれでもかと盛大に撒かれるという悲惨な現状。その惨状は、殺しに拷問、処刑、等々。一般人よりも遥かに『えぐい』事の経験があるヤクザの組員たちですら、思わず、驚愕と恐怖、そして、吐き気に蝕まれる程に、壮絶な光景であった。
そう。今が、襲撃を受けた際中である。そんな、死の危険を忘れる程に、それは、強烈な光景であったのである。だからこそ、彼らは『気づくのが遅れてしまった』のだ。
その組員たちを圧殺した扉…それが、もはや『無くなり』、ぽっかりと開いている『入り口』。そこから、音もなく、しかし、かなりの速度で突っ込んできた、一人の『黒づくめの男』の存在に!!!
「!?ッッ!!!」
「!?なッがあ!!」
部屋に堂々と突撃してきた男は、まだ彼の存在に気付かず、惨状に目を奪われている組員達。その中で、一番入り口の近くにいた一人に無音で近づいた。そして、流れるように無駄のない動きで、その右手にもった銀色に輝く、短い、けれども、見た目以上に丈夫な武器『特殊警棒』。それを、思いっきり頭へと振り下ろしたのである!!
まさに、『奇襲』。背後から後頭部への、殺しの一撃。そんなものを、まともに、しかも、急所に受けてしまった男は、悲鳴すらも上げる暇もなく。その代わりに、重く、響く打撃音と、血の噴水を頭から放ちつつ、そのまま倒れるしかできなかった。
その様子を無視した黒づくめの殺し屋は、そのまま、警棒を横に走らせる。そこには、殺された男の姿を、目の端ででもとらえたのだろう。扉の惨状から視線を移し、何か言葉を発して動こうとしていた、隣にいたもう一人の組員へとぶち当たる。もっと言えば、何か言おうとしたのか、開いていたその口。それに、警棒が流れるように飛び込んで、組員の歯と一緒に、首の骨を砕き折ったのだ。
首をあらぬ方向に曲げて、倒れ逝く組員。それに対し、男が更に動いた。力を失った組員の手から滑り落ちていく、銃…弾がフルに入り、銃弾の雨を降らせることができる、ヤクザでも愛用される一品『マシンガン』。それを、殺し屋は即座に、空いている左手に持ち…。
そのまま、部屋中にいる組員達、彼ら全員に、風穴をプレゼントしたのである!!!
「!?!?ぐああああ?!!?」
「!!ちくしょう!死ねッがあああ!!!」
「な、何だコイツ!!あ、あたらねっぎゃあああああ!!!」
「何なんだ?!なんなんだぁ!!こいつっああああああ!!!」
黒づくめの彼の銃撃は、まさに『映画の中の主人公』。そうとしか言えないレベルであった。
『視えなければ大丈夫だろう』と、組員がテーブルやソファーに隠れようとも、それら事『貫通』させて、撃ち殺す。
『硬い柱の陰なら大丈夫だろう』と隠れれば、その後ろや横にある壁や柱に撃った『跳弾』で、撃ち殺す。
『殺される前に殺せ!!』と、組員達がマシンガンや拳銃、ショットガンで一斉射撃しようとすれば、全員が引き金を引くよりも前に、彼らの眉間に風穴を空かせて、撃ち殺す。
それらを、遮蔽物に隠れるまでもなく、しゃがんで打たれる可能性を減らすわけでもなく、ほぼ棒立ちと言って良い状況で、彼はやってのけたのだ。まさに、『映画の中の主人公』。そのものであったのだ。
こうして、彼は複数のヤクザとの銃撃戦を『無傷』で終わらせたのである。そして、空となったマシンガンを、その場に放り投げると、星の数ほどの銃痕と、尽きない川のように流れる夥しい血で溢れる部屋の中を、悠々と歩き、『それ』に近づいたのである。
それは、大きなデスクだった。銃弾で、全体に穴が空き、一部は破壊されつつも、それでもなお、形を保っている、堂々とした黒塗りのデスクだった。
そうして、そのデスクに近づいた男は、そのデスクの下を、上からのぞきこむように見る。すると、そこには…。
「は、は、はぁ…ッ!!っ!!た、頼む!!こ、こ、殺さないでくれ!!か、金なら!金ならいくらでも払う!!だからぁ!!!」
濡れ鼠の様に、全身を汗だくにさせ、そう命乞いをする。そんな、破落戸がそこにいたのである。
けれども、そんな話が、破落戸以外を殺した男に通じるはずもなく、それに気づいた汗だくの破落戸は、目に恐怖と狂気を混じらせ。
「し、しィねぇぇぇぇええええええ!!!」
咄嗟に、座ったままの状態から、その手にまだ持っていたマシンガンの銃口を、下から上に掲げるように、男へと向けたのだ。そして、その顔に『勝った!!』という、勝利の確信の笑みと、未だに晴れぬ恐怖を浮かべ、考えるよりも先に、引き金に掛けた指が動き、鉛弾を発射しようとしたのである!!!そして、それに対し、位置から逃げるのも避けるのも難しくなった男は…!!!
ガンッッッ!!!という、大きな轟音を響かせ!!破落戸がまだ、バリケードの様に、身を守るために使っていた『黒いデスク』!それを、思いっきり『破落戸へと蹴り飛ばし』!!破落戸を、『部屋の壁とデスク』に『挟ませた』のである!!
そう!!『指が完全に動き切る前に』!!銃事破落戸の身体を、デスクで吹っ飛ばしたのである!!!それにより、銃口は他に向きながら、そのままデスクと部屋の壁に挟まれ、身動きを取れなくさせる、そんな状態に追い込んだのだ!!!
「ッ!??ぐえ!?!?」
思いデスクの突撃と言う、いきなりの衝撃に、破落戸の口から空気が漏れる。そして、全身を走る痛みに顔をしかめ、声を上げようとしたところで…。
彼の目に、それは映った。
思いっきり、頭上から振りかぶられ、威力をこれでもかと上げた銀の棒。それが、一切の迷いなしに、自らの頭に目掛け、振り下ろされる。
怖い以上に、美しい。そう思うほどの一振り。それが、勢いよく、真っ直ぐと迫り…。
破落戸の世界は、銀色一色へと、染め上げられたのであった。
* * *
「ふぅ…終わったぞぉ」
デスクと壁に挟まれ、動けない破落戸。その、頭を砕き殺した男…『リーダー』は、少し気の抜けた声を、入り口に向けた。
「…流石ですね。ええ。人間性はともかく、やはり腕は確かですね。ホントに」
「いやァ、すっげえっすねェ~。まさカ、扉ぶち破っての突撃で勝てるとハ…驚きっス!!」
「…ああ。そうだな。流石はリーダーだ…。ふざけていても、ちゃんとやる…流石だ…」
「…毎度のことながら、恐れ入るよ。あんたが味方でよかった。本当に…」
その声を聞き、デニスを初め、珍田、柳、クライドと、彼の仲間たちが部屋へと入ってきた。
先ほどまで、この屋敷の中で一番のセキュリティーと、武装した腕利きの組員達に守られていたハズの部屋。それが、5分もたたずに銃痕と血、そして、死体まみれと化している。
その事実に、それを行ったリーダー…自己中心的で、自由奔放過ぎ、周りに迷惑をかけまくる。そんな、いつものリーダーからは想像できない『強さ』が、しかし。現実であると、これでもかと感じ取れ、戦慄していたのであった。
「はは!まあな。これが俺の実力ってやつさ!…さて。じゃ、ターゲットも殺ったし、そろそろ退くか。長居は無用だろう」
と、そんな仲間に、彼は気さくに声をかけつつ、この地域からの脱出を提案する。その言葉に、デニス達は、頷いて肯定の意志を示し。
「ええ。そうですね。そのとおりだ。ここは…」
「さっさと、やってしまった方が良いでしょうね」
デニスが、そう言った直後だった。
リーダーの身体が、いきなり、『止められた』のは!!!
「?!なッ!?」
歩いていたら、突然動けなくなった。その事に、驚いて声をリーダーは、しかし。直ぐに、その理由が何かを理解していた。
それは、己の身体に巻き付いている『極細の糸』…いや、正確には、『特殊ワイヤー』と言った方が正しいか。
ともかく、それが彼の身体に巻き付いており、彼の動きを止めていたのである!!そして、その犯人も、直ぐに分かったのである。そう…。
「…何の真似だ。柳、珍田、デニス、クライド」
リーダーの身体を縛り、動きを止めている柳。特製のダーツを構えて、リーダーを警戒している珍田と、同じく、ナイフを構えて敵意を飛ばしているクライド。そして。
「見れば分かるでしょう。そのままです。『あなたを殺す』。そう言う事ですよ。リーダー」
歪んだ笑みを一切隠そうともせず、指一本動かせない彼に、銃口を向ける。デニスがそこにいたのであった。