15 王家の話とオスカー現る
ベルナール神学園の寮は、男子寮と女子寮に分かれている。まあ、当然ながら男子寮に向かった。
俺の部屋は4階で、王族も居る階だった。
とはいえ、その部屋は王族の侍従の部屋を無理やり奪ったんじゃないかって感じのこじんまりした部屋だった。
「ちなみに2~3階は、全部屋2人部屋だそうです」
「1階は?」
「1階には、食堂、談話室、浴室、洗濯場、4人部屋が少々あります」
「4人部屋……それよりは断然いいか。けど、この建物かなりデカいんだけど、4階って俺以外は王族だけ?」
「いえ、他には聖王国サーラの公爵子息と侯爵子息、グラントハイトの侯爵子息、オルトランの侯爵子息がおられます」
「それにしたって、王族どんだけスペース取ってんだよ!」
「1年耐えれば、ヴァレリウスの王族が2人抜けるので、少しは。──あ、他にまた王族が入学しなければですが」
「つまり、王族以外の他の高位貴族もこんな部屋なんだな……」
「そのようです」
まあ、高位貴族の侍従用だから、狭いと言っても6畳間くらいだが。──だが何故か、そこに応接セットが無理やり押し込まれるように据え置かれてて圧迫感がハンパない!
誰だこんなセッティングしたやつ!
「ちなみに、部屋を整えたのは公爵閣下のご指示だそうです。ソファーがないと、友達と喋れないだろうと」
「地べたで喋ってもいいだろう!!」
おそらく、マリオン公爵が入学した頃は部屋にも余裕があったんだろう。
こんな状況は……後で文句の手紙を書くか。
「──そういえば、第一王子のサイラスってどんなやつ?」
「普通、かと思います。拝見した事はないのですが、評判は可もなく不可もなくといった印象なので。むしろ、評判だけならアレン殿下の方が良いです」
「………それで王妃は焦っているのか?」
「それは──」
言いかけて、レックスが口元に指を立てた。
その後、部屋のドアがノックされた。
「──はい」
「アレンだ」
レックスが応対に出ると、アレンがドアから顔を覗かせた。
「テリュース、今大丈夫かい?」
「大丈夫大丈夫、入って」
入って直ぐに圧迫されるソファーにちょっと面食らったようだ。6畳あるかって部屋にベッドと応接セットを配置する奴の神経を疑うな。
アレンはソファーを跨ぐようにして部屋に入った。
レックスがドアを閉めたのを確認した後、アレンがポケットから魔導具らしきモノを出して起動した。
魔力が部屋に広がるのが分かる魔法的な感じ。
「──良し。勝手にごめんよ、テリュース。これは一定範囲の音を外部に漏らさない為の魔導具なんだ」
「なるほど、内緒話用か」
「そうそう、今外で私の侍従が聴き耳を立てている筈だから」
「……ああ、王妃の息が掛かってるやつだな」
「知ってたの?」
「マリオン公爵が調べたって、レックスから聞いた」
「そうか、さすが父上だな。──あ、テリュース!マリオン公爵じゃなくて、義父上だろ?」
「は?」
「君が養子に入ったって聞いて驚いたよ」
「ああ、学園に入るのに戸籍が必要だったから」
「なるほど、ははっ。でも、僕ら義兄弟だよね」
「そうか、まあいいや。んで、話はその侍従の事?」
「相変わらず、素っ気ないな。──まあ、話はそれもあるんだけど。テリュースは、王位継承の儀式って分かる?」
「いや、知らない」
「複数の継承権を持つ者を測る儀式……ですね」
「レックスよく知ってるね、その通り」
「………王妃の事を探った時に、耳にしました」
「そうか……うん、それでね。陛下がその儀式を行おうとしてるんだ」
「──それで王妃が……」
「ん?どういう事だ?王太子には第一王子がならないって事か?」
「陛下のお考えは私には分からないんだが、サイラス殿下を王太子にする意思はないように見える」
「それで……その儀式を行うのが何?」
「──翌年、私とサイラス殿下が16才の成人を迎えたら、テリュースも含めて儀式を行うと。陛下が私に仰った」
「──俺?」
「そうなんだ、テリュースも含めて3人で!」
「なんで俺?」
「今現在、王家は継承権を持つ者が少ないせいだとは思う。前王弟のお祖父さまは継承権を破棄されたし、父上も私の王族入りで破棄した。前王の子供は戦争でお一人亡くなってて、現在の陛下しかいない。フィーネ叔母様の息子のテリュース、君にも継承権があると陛下は決めたんだ」
「うーん、そもそもの話。なんでサイラス殿下を王太子にしないんだ?」
「そうなんだ、それが私も分からない。私は予備のつもりだったんだが。──それはともかく、テリュースも含まれる事はまだ王妃は知らない筈だけど……」
「その件が漏れると、テリュース様も危険になりますね」
「ああ、なるほど」
「そうなんだよ、それが心配で……」
はぁーっと大きな溜め息を吐き、アレンがソファーに深く腰かけた。
ここで、レックスが今更気が付いたのか茶の準備を始めた。
あ、そうか。爺様が3個もお守りくれた意味は。
今一番危険なのはアレンなのは間違いない訳だし。
俺は手持ちの荷物から、爺様から新たに貰ったお守りを取り出してアレンに手渡す。
「お守り?もしかして……」
「うん、爺様の新しいお守り。たぶんそれ、アレンの分だと思うし」
「いいのかい?嬉しいな、前にお祖父さまに貰ったのはもう壊れてしまったから。ありがとうテリュース」
「前より大きな魔石が付いてるから、強力だと思うよ」
レックスの入れた茶をアレンと二人で飲む。
「お前も飲めば?」
「そうだよ、気にせず飲めよレックス」
「……一応、侍従としましては」
と言っても無駄だと思ってか、レックスも自分の茶を入れて飲みだした。
「それで、サイラス殿下ってどんな感じ?」
「どんな……そうだな、良く言えば素直な人。言い方を変えれば少し幼い気がする。王妃に対しては反発してる印象があるな」
「要は子供っぽいのか」
「アレン殿下と同じ15才ですよね?」
「いや、サイラス殿下はまだ14才だね。確か秋生まれだったと思う。──ああ、でも子供っぽいってのはその通りかな。自尊心が高そうで、凄く上から目線なんだよ」
「うわぁ……」
「アレン殿下、容赦ないですね」
「まあ、今の所は私に対して何かしようとは思ってない感じなんだよ、だからサイラス殿下自体は問題ないと思うな」
魔導具の魔力残量が気になるのか、アレンが懐から懐中時計を取り出して見た。
「魔導具の方が限界かな」
「それは使い捨ての魔導具?」
「いや、魔力補充が可能ではあるんだけど──」
「じゃあ、俺が補充してやるよ」
「──いいのかい?有難う、助かるよ」
魔導具を受け取って、魔力を込めた。
思ったよりも魔力が必要なのだろう、コレは補充するのも大変そうだ。
「そろそろ夕飯が食べられる時間だけど、一緒に食べに行く?話はまた後でもできるし」
「あ、時間が決まってるのか?」
「夕食は夕方18時から21時までのようです」
「うん、そうだよ。食べ損ねたら朝まで辛いんだ」
「じゃあ、行くか」
「サイラス殿下を拝見できるかもしれませんね」
「今会ったら吹く自信があるがな」
アレンが魔導具をポケットに入れてから、揃って部屋を出ると、アレンの侍従は壁際に立って待っていた。
苛立たし気なその侍従も付いて来るようで、そのままみんなで食堂へ向かった。
寮の1階にある食堂は、カウンター入り口でその日のメニューから料理を選び、配膳カウンターで受け取って並んでいるテーブルへ自分で運ぶセルフっぽい仕組みだった。まんま学食って感じ。
食堂内に生徒はまばらで、始業式を明日に控えている事からか、制服を着た人は半分もいなかった。
「あ、居るよ。今、配膳カウンターでトレイを受け取った」
「ほうほう、あれか」
背中位まである銀髪を半ばで結んで、白い詰め襟の制服を着た赤い瞳の少年が、受け取ったトレイを侍従らしき少年に渡した。
注文だけして後は運ばせるのだろう。
アレンの言うように、雰囲気がちょっと幼い感じがする。まあ、あくまでも確認だ。
「なるほど。さて、俺達も注文しようか」
「口元が笑ってるよテリュース」
「吹かなくて良かったですね、テリュース様」
何が食えるのかと、カウンター入り口のメニューを見れば、そこには農業国家オルトランの陰謀を感じる料理名が並んでいた。
「ラーメンに餃子だとぉ?!」
「それ美味しかったよ、父上も学生時代に食べたらしい。炒飯も一緒におすすめだって」
「カツ丼に親子丼?!天津飯って中華多いだろっ?!」
「ぶふっ?!」
「どなたか盛大に吹いた方がいますね」
「……テリュース、ちょっと落ち着こうか」
大丈夫だ、俺は冷静だアレン。
オルトランのギルバートさんの戦略は半端ない。
学食で各国の王族や上級貴族の胃袋を狙うとか!
クソっ、なんだこのメニューは!酒が欲しい!
「よし!俺は天ぷらの盛り合わせと、握り寿司松でっ!!」
「ぶふふっっ!!……オヤジやんっ」
「え?」
「盛大に反応されたようですね」
「ちよっ、ぶふっ、そこのツッコミボケ笑かすな!!」
「誰?」
「最後はレックスにウケたみたいだよ」
「そうなんですか、で何方様でしょう?」
「なんやこの漫才トリオっ!!」
「ああ、なるほど。ギルバートさんの言ってた人か。どっかの王族」
「まんざいって何ですか?」
「え?王族?もしかして、グラントハイトの?」
「そうや、俺はオスカー・グラントハイト。──で、そこのオヤジ臭いのがテリュース?」
「テリュースは俺だけど、オヤジ臭いは余計だろ。先に飯を注文させろ!」
飯を食いっぱぐれるのは嫌なので、俺達は飯をカウンターで受け取って、食堂の隅のテーブルに付いてから改めて話をすることにした。もちろん食いながら。
そしてクセのある朱赤の髪をポニテにして、関西人ぽい喋りをする薄い緑の瞳でモテそうな美形。王族ってのは綺麗な顔しかいないのかと問いたい。──オスカー・グラントハイトと、顔を合わせた。
「ギルバートさんのお知り合いでいいのかな?」
「そうや、うちの国からは農具の売買なんかでオルトランとはええ付き合いさせてもろとってな」
「ああ、はい……」
「ほんでや、オルトランからは調味料やらなんやら買わせてもろた中に醤油とかあってな。なんや!醤油やら米やらあるんかこの世界っ!てなった訳。よくよく調べたらギルの旦那がめっちゃ怪しいやん。あ、こいつはアレで間違いないやろなぁって、そこからコンタクト取って知り合ったんやけど」
「──似たような経緯だな」
「まぁ、ギルの旦那自体が他にも居るやろうと、それで同類を釣ってたっちゅー事でな。お前も同類なんやろ?──ちなみに、ヒッキーのオタゲーマーって言うやつ分かる?」
それは、引きこもりのオタクゲーマーとか言う事ですね。分かります。
濃いキャラが来たな。
「えーと、一応?」
「何で疑問形なんや」
「引きこもりなのに何故死んだのかなと」
「なんや、分かっとるやん。まぁ、ヒッキーやオタクは例えや。インパクトあったやろ?俺は、ただのゲーマーやった!オタク言うんはあの女みたいなんを──あー、まあ、それはええんや。本題に入ろか。テリュース、お前は『世界の終焉を愛で救ってみせるわ!』コレに聞き覚えは無いか?」
なんだ、そのチャリティー番組みたいなの?
「それは《別の世界で新たな生を望みますか?》ってヤツに掛かるのかな?」
「あーあーっ、それな!──いや、それとはまたちゃうねん。そうかやっぱ知らんわな。『セカシュー』なんてそんなドマイナーなクソゲー、俺でも知らんし」
「ドマイナーなクソゲー?」
「──なんやらな、この世界はそのドマイナーなクソゲーの世界やって言うオタク女がおるんや」
会話に付いて来れず、生暖かい眼差しで俺を見ているアレンと微妙に冷えた眼差しのレックスを放置して。
オスカー・グラントハイトは不吉なワードを俺に聞かせた。
この世界は、ドマイナーなクソゲーの世界。と。
そして、詳しい話はそのオタク女を交えてと言う事で、オスカーとはその場は別れる事となった。
当然俺は、その意味不明なワードをとりあえず忘れる事にした。
いや、だって意味分からないんだが?
確かにここは異世界だが、ゲームの世界って……
「テリュース様、質問していいですか?」
「10文字以内なら許す」
「オスカー殿下は何者?」
「──それは、俺も知りたいかな」
「ねえ、テリュース。オスカー殿下の言ってた、ドマイナーなクソゲーって何かな?」
「ああ、──その言葉の意味は、恐ろしく周知されていない、稚拙な遊戯魔導具といった所だな」
「そんな魔導具があるのか……グラントハイトは侮れないね」
「いえ、製造はおそらく魔導具国家マキューリアでしょうね。グラントハイトは武具等の制作で有名ですが、魔導具制作ではマキューリアにかなわないと思います」
アレンとレックス!真面目に語るのやめて!
ブクマありがとうございます。
モチベ上がりました!




