ハチⅤ
「蒼汰、桃谷。美羽、連れてきたで」
雅哉とともに髪を二つに結んだ女の子がこちらへ向かってきた。聖奈は雅哉も自分の名前を把握していたことに内心驚いていた。
「よかった~まともな人がいて」
美羽は聖奈と同じことを言った。やはり女子というものは自分と同じ状況の者がいると安心するのだろうか、とその場にいた蒼汰は思った。
「手短に自己紹介しておくね。私、木ノ下美羽。よろしくね」
「私は桃谷聖奈です。こちらこそよろしくね、木ノ下さん」
「そんな固くならないで美羽でいいよ」
「わかった。じゃあ美羽ちゃんで」
聖奈は気難しい子だったらどうしようと思っていたが全くそんな心配はいらなかった。美羽は明るい性格をしており気さくに話しかけてくれたのでとても助かった。何よりこの場に女の子がいてくれて嬉しかった。
「何が何やらわからんけど、とりあえずさっき話したことは道中で美羽に話しといた」
美羽と合流した聖奈たちはとりあえず自分たちの持っている情報を確認することにした。周りに聞かれると不味いかもしれないと、四人で空き教室に移動した。
「さっき、はるちゃんと話したとき、第二王宮で働いてるって言ってた。多分その王宮にいるのは王様じゃなくて熊野君が行ってた女王様のことなんだと思う。」
「蜂やから女なんか」
「うん。でも第二ってことはまだほかにもあるのかも。それにここ、女性が明らかに少ないよね」
「多分、ほとんどの女性があの城にいるからだと思う」
「なんで?」
雅哉が蒼汰に聞いた。蒼汰は自分もあまり詳しくは知らない、と言ったが蜂の特性について少し話した。女王蜂には多くの働き蜂がそばにいてその全員が雌である、と。
「なるほど。それやったら確かに辻褄が合うなあ」
雅哉は納得したように言った。
「そういえばこんなに花はあるのに、肝心の私たちが知ってる蜂は一匹もいないなんて絶対変だよね」
美羽が窓の外を見て言った。確かに普通ならこの季節に蜂は花粉を求めて花の周りを飛んでいる。この世界になってから一匹も見ていないのはなぜだろうか。
「蜂の魂が人間に乗り移った…とか?」
聖奈がそう言うと四人は顔を見合わせた。普通ならありえないが今は普通など通用しない世界にいる。
「じゃあ噛まれた人は?あれは蜂になるの?」
「さっき襲われてた人を見ると多分。でも人間を蜂にする目的って何?」
「わからへん、とりあえず元の世界に戻そう!」
そんな簡単に言うがどうすれば世界は元に戻るのか。それになぜ自分たちは人のままで存在出来ているのか。この場にいる全員が頭を抱えた。すると聖奈のスマホの通知音が鳴る。はるからのものだった。
「ごめん、もう行くね。これ以上みんなと一緒にいるとはるちゃんに怪しまれちゃう」
聖奈は三人にそう告げて急ぎ足ではるのもとへと向かった。その途中であることを思い出した。
(しまった、みんなの家族の状況について聞くの忘れてた)
聖奈は自分の母親を心配していた。きっと無事でいる、と心の中で祈ることしかできなかった。




