家族
「それじゃ、聖奈またね。私はこれからお仕事だから」
はるは意気揚々と聖奈に挨拶をしてそそくさと帰っていった。
(はるちゃん、あのお城に行くのかな)
聖奈はまだ何も知らない城のことをずっと気になっていた。いつかは中に入ってみたいと思いながらも今近づくのは危険だと警戒する。
(家に帰ろう、なんかどっと疲れた)
普段とは違う気の使い方をしたせいで一気に疲れが襲う。甘ったるい花の匂いに人の形をした蜂。この数日だけで全部が変わった。聖奈はいつまでこの世界が続くのか、もしかして死ぬまでずっとこのままなのかと頭の中で色々なことがよぎった。
家についた聖奈は今日も母がいないことを寂しく思った。何かを食べようと冷蔵庫を開けると二段目にみかんゼリーが置いてあった。ふたに付箋が貼ってあるに気づき、それを見た聖奈の目からはぽたぽたと涙があふれた。
『食べられそうなら食べて』
なんてことない文面だったが聖奈が泣くには十分だった。何日ぶりかの母のやさしさに触れて心が温かくなる。こんな狂った世界でも母の温もりがあればどんなに楽だったか。今はどこにいるかもわからない。聖奈は最悪の状況を思い浮かべたが、きっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせることしかできなかった。
「いただきます」
みかんゼリーがほんの少し酸っぱく感じたのは泣いたせいだ。
(お母さんに会いたい)
次の日、聖奈はいつも通り大学に向かった。残念ながら今日も異様な世界のままだ。
「おはよう、はるちゃん」
「おはよう。聞いて、昨日は姫様が寝返りを打ったんだよ!」
はるは来て早々に嬉しそうに言った。
「へ、へ~!それはよかったね」
自分が何者なのかをバレてはいけないと思い、聖奈は薄ぺっらい反応しかできない。また一つおかしな情報が入り、頭が混乱しそうだ。
「次の女王様が決まるのはまだ先だけど選ばれたらいいな~」
はるは目をキラキラさせた。
(選ばれるってことは姫様って一人じゃないのかな?)
「…はるちゃんは女王様に会ったことあるの?」
怯えながらも聞いてみた。何かこの世界を元に戻すヒントが欲しかったからだ。
「ん-、あんまりお目にかかることはないんだけど一応会ったことはあるよ。姫様の様子を見に来たりするからさ」
「そうなんだ…」
「ふふ、聖奈は女王様に会ったことある私がうらやましいんだね」
「…うん、もちろん!良いな~はるちゃんは。私も会ってみたい」
はるは聖奈が自分に嫉妬をしていると思い込んでいる。聖奈ははるが鈍感でよかった、と失礼ながらに思った。




