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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
否融通社会軌条ノ機関者

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03

 これは見た目だけではなく、かつ基礎能力の話でもない。


「父親は家族としてどれだけあれでも、結果と成果さえ差し出せば、与えるものはしっかり与えてくれるわ。だから私はなんの憂いもなく、いい部屋に暮らせている。アルバイトもせず、美味しいご飯を毎日外で食べられているの」


 乾いた喉に、お酒を一口流し込む。


「同じ結果と成果を生み出しているはずなのに、奨学金という名の借金をしてなお、日々の生活にあえぐ苦学生がいるわ。そんな彼らを横目にしながら、私は生活は平凡だ、と言うほど無自覚じゃない。上にはいくらでも上はいるけれど、十分に私は、恵まれた環境を与えられている。まさに親様様ね」


「それはわたしも、大学に入ってから感じてるけど」


「私は自分のことを天才だなんて自惚れてない。でも社会に出てからの恵まれた環境。狭い席を自分の力で手に入れる。その自信くらいはあるわ。だから私の根っこは、全体主義じゃなくて個人主義。皆で小さなものを得ようと頑張るよりも、一人で動いたほうがよっぽど大きなものが手に入るわ。それが一番早いし楽だもの」


 学年全体の平均点、その底上げに興味がないのと同じ。皆で足並み揃えて対策するよりも、自分の点数さえ上がればそれでいいのだ。


 まどかはそんな私を見下げるような目では見ない。


「でも個人主義では、決して越えられない壁がある。それをなんとかするために、全体主義があるんじゃないの?」


 代わりに次の問題を与えてくる。ふと浮かんだ疑問を、私がどう答えるのか気になるだけだろう。


 平均点がある一定以上、達しなかった場合のペナルティ。いや、達した場合のご褒美か。教室にエアコンを設置する。そのために一丸となって頑張っている、と想定しよう。


「ええ、そうね。私も全体主義を蔑ろにしているつもりはないし、バカにしていいものだと思ってないわ。単純に、私が加わろうが加わるまいが、全体主義の力は変わらない。あのとき全体主義に身を費やしていれば、この壁を越えられたのに……なんて事態があるとは思ってないだけよ」


 自分の力はたかが知れている。全体主義にいてもいなくても結果は変わらない。これが私の答えである。


「だってそうでしょ? 妹一人変えようと頑張ってあの様だもの。社会でなにかを変えるために活動するなんて、私には荷が重すぎるわ」


 自らの無力さを嘲笑いながら肩をすくめた。


 楓。私のたった一人の妹。大切な家族。母さんが亡くなったのをキッカケに、引きこもりになってしまった。


 時間が経てば経つほど、学校へは戻りづらくなる。説得しようにも顔を俯けるだけで、なにも言葉は届かない。父さんから働きかけようにも無駄。楓が優秀すぎたゆえに、学校に通わなくても結果と成果を上げることに満足していた。楓が学校で心無い目にあったことを持ち出して、父親として理解者ぶる始末であった。


 楓は私と比べ非凡だ。一度学校に戻りさえすればなんとかなる。そう信じてあれこれとやってきたが、最後まで楓を変えられなかった。


 結局、父さんに無理やり楽な道を塞がれ、私の母校へと進学を果たしたのだ。最初は心配していたが、楓や父さんから連絡はない。ならばちゃんと通えているのだとホッとしながらも、自分の無力さに打ちひしがれた。


 あれだけ昔は、なんでも私の真似をして、ベッタリだったはずなのに。同じ屋根の下にいるにも関わらず、いつしか逃げ回られるようになってしまった。


 これで楓のためになにができた。その結果ならまだいいが、たんに疎まれただけで終わったのだから泣けてくる。


 その涙を飲み込むように、グラスを傾け喉を鳴らし、


「だから自分の幸せだけを追い求めることを、私は大切にしているの」


 耳触りの悪い言葉を吐き出すのだ。


「いいの? 弱者の味方のお仕事を目指している人が、そんなことを言って」


 まどかはおかしそうにからかってくる。


「残念ながら、それはただの建前。依頼人の立場に立ち、法律に則った対応で問題解決を図る。それが私の目指すお仕事。慈善事業じゃないのよ」


「椛は自分の幸せのためなら、弱者はどうでもいい。そんな血の通っていない人間だったとは……ガッカリね」


 わざとらしく大げさに、まどかは猫背になるまで肩を落とした。


 私は頬杖をつきながら、まどかに向かってこう告げる。


「ちなみに私の幸せは、親友が幸せであることも含まれてるから」


「はぁ……椛はなんで女に生まれちゃったかな。ほんと、ガッカリ」


 今後こそ本当に、まどかはガッカリと肩を落とすのだ。


 赤の他人の不幸を前にしたとき、モラルに則った義務くらいは果たすだろう。だが親身になって寄り添いたい、助けてあげたいとまでは考えない。地球の裏側の千人、万人のために割く時間があるのなら、身近な一人のために時間を費やすほうが有意義だ。


 こういった他人にドライなところは、よくも悪くも、あの人の血を引いているというところか。もしくは皆が建前の裏で抱いている、平均的な考えか。少なくとも少数派ということはないはずだ。


 そして常々思う。


「社会からなにかを勝ち取りたい。認めさせたい。そんな人たちと比べて、私はやっぱり恵まれてるわ。義務と規則を全うする(真面目に生きる)だけで報われる人生。今の時代、一体どれほどの人がたどり着けると思う? だから私にとって、正しい生き方に準ずるのは、幸せになるための一番楽な手段なのよ」


 真面目に生きているのは、不真面目な産物を必要としていないだけ。咎められる危険をこそこそと犯かしてまで、手にしたいものがないのだ。


 社会に出れば如実に男女の壁、不平等に相まみえるだろう。だが元より生まれた時点で、与えられたもの、環境によって、人生は壁や不平等だらけなのだ。上には上が沢山いる。向上心は大切だが、天へと続く階段が見当たらない内は、空を見上げ不平を述べても首が疲れるだけだ。


 大事なのはいざ壁と不平等に直面したとき、自分の頭で考え、どう動くのか。ずるいずるいと言っている内は、一歩も前に進まない。手に入らぬものを羨み、妬んでも自分が辛いだけ。人生、妥協はどこかで必要なのだ。


 なにより私は、人を羨み妬むほどの欲もない。衣食住に満足している。縁を紡いだ人たちと、楽しい時間を過ごせればそれで幸せなのだ。


 喉から手が出るほどに望むものがあるとすれば、楓と仲のいい姉妹に戻りたい。それくらいだろうか。


「それに長い人生だもの。障害はいくらでも立ちはだかるわ。でも胸が張れないものがそこになければ、社会を味方につけて戦える。清廉潔白な人生っていうのは、それほどまでに強い武器なのよ」


 世の中には線引きがある。それを越える真似をしなければ、社会が牙を剥くことはない。なにかあれば大手を振って支援要請を求められる。強力な武器でこそあるが、戦うのはあくまで自分。勝てるかどうか、後は己次第といったところか。


 私はそれを信じて、正しいに準じてきた。


 ……だから。


 それがあまりにも甘い考えであり、正しいだけではどうにもならないものがある。


 本当に大切なときに限って、自らの無力さを思い知ることになる。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[一言] お姉さんの言ってることは当然かな 無償では助けてやんない。 妹を前にして、自分のエゴのために闘うのか、妹のために父親と闘うのか、その判断力が問われますね。 しかし、まだ学生なのが残念。 …
[一言] 良くも悪くも普通の恵まれた人だな、このお姉さん。 だからこそ、妹との会話が成り立たない。
[良い点] でも妹さん冷静潔白って武器が使える世界からスリップダメージ受けてるんすよ そんでもって冷静潔白の武器使えない人と一緒に堕ちて行きたがってるんすよ
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