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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版3巻3/31発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
否融通社会軌条ノ機関者

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04

 大学生活二年目のゴールデンウィーク。


 約一年ぶりに地元へと戻ってきていた。


 快晴の東京から厚い曇りで覆われた札幌。


 二時間前は外で汗を流していたはずなのに、今は肌寒さにぶるりと震えている。そして我が家に戻るとそれら二つ、同時に見舞われるなど思いもしなかった。


 今回に帰省にいたって、父さんに連絡を入れた。返信はただ一言、『わかった』。


 なら家族で旅行とか、ご飯とか、忙しいなりに時間に都合をつけて会おうとか、そういうのは一切ない。父さんがわかったのは、お手伝いさんに伝えておく、だ。


 こうなることはわかっていたから、ガッカリはしていない。むしろ慣れない家族サービスはご遠慮願いたい。だってそうだろう? 勤め先の社長と私的な旅行と食事なんて、楽しくもなんともない。


 自慢の娘役として、外に連れ出される業務はない。なら今回のゴールデンウィークは丸々自由というわけだ。


 だから私は社長(とうさん)に会いたくて帰ってきたわけではない。


 たった一人のようなものである、家族に会いたくて帰ってきたのだ。


 正直、緊張している。


 部屋にこもって以来、楓にとって口うるさいだけの姉でしかなかった。


 特に身だしなみについては強い言葉を使って強要した。衣類についても強引に連れ出し見繕ってきた。


 人間見た目じゃない。これがただの綺麗事だと実感しているからこそ、疎かにさせるわけにはいかなかった。


 もし学校に通い始めたとき、見た目のよし悪しは周りの反応を変える。それだけで付けられる味方が変わってくる。敵を作らないとは言わないが、身なりを粗末にしているときの待遇よりはいいに決まっている。


 そうやって私は手を焼いてきた。それで嫌われることになっても、楓が社会(がっこう)に戻るとき、それが必ず役に立つと信じてきたから。その先で多くの味方を付けて、私という杖なしで歩き、幸せを手にしてくれたらそれでいいと。


 楓の進学先は、私の母校である私立の進学校。自由な校風でこそあるが、線引きはしっかりとしており、それを踏み越えた者には厳しく罰する。イジメなどはもっての他なので、治安と民度も高く、安心して通える学校だ。


 楓ほどの才色兼備であれば、クラスの中心人物たちはいい意味で放って置かないだろう。社交性の遅れからくる失敗くらいは、いくらでも目を瞑ってくれる。彼らの庇護下に入ってしまえば、後は楓のもの。のびのびと成長を果たせるはずだ。


 便りのないのはよい便り。連絡が誰からもないということは、そういった恵まれた環境を手に入れ、問題なく通えているということ。なら私が家を出たときと比べ、楓は大きな成長を果たしているだろう。


 それが楽しみである分、怖いのだ。


 うるさいだけの姉であった私を、今はどのように捉えているのか。


 私が無理矢理強いてきたことは、学校に通うに置いて楓のためになったはず。感謝をして貰いたいとは思わない。恩を感じてほしいとも考えていない。嫌々覚えさせた公式が、試験で役に立ったならそれだけで報われる。


 楓が幸せになれるのなら、最後には嫌われてもいい。そう感じていながらも、やはり嫌われたくないし、好かれたいのが人情である。


 幼い頃のようにベッタリしてほしいのではない。この一年あったこと。それを一緒にご飯でも食べながら、あれこれと話し合えればそれでいい。欲を言うのなら一緒に外出し、買い物などをして楽しい時間を過ごしたい。


 そんな素晴らしきゴールデンウィークを過ごせるか。その結果を前にして、不安と期待を胸にしている。


「……ふぅ」


 小さな深呼吸をした後、一年ぶりに楓の部屋を叩いた。


「楓。今帰ったわ」


 扉越しに呼びかける。しかしかつてのように、いくら待っても返事はない。


「入るわよ」


 こういうときはいつものように声をかけ、扉に手をかけてきた。内鍵がある部屋だ。鍵がかかっているならそれで、入ってきてほしくないということ。そこからいつも、次の要件を告げるのだ。


 返事がない中、鍵がかかっていたら傷心ものだ。それを覚悟で扉に手をかけたら、あっさりと開かれた。


 机に上がったノートパソコンと、パソコンモニターが一台。部屋主の嗜好を感じられるものはそれだけ。最低限の家具だけ揃えて余計なものはなにもない。これが女子高生の部屋だと一体誰が思おうか。


 一年前となに一つ変わらぬ光景。楓らしいと言えばいいのか。年頃の女の子がと心配したらいいのか、判断がつかぬところ。


 そんな先で、ふと違和感を感じた。


 もう昼間であるにも関わらず、室内はどこか薄暗い。カーテンが締め切られているのだ。


 ここは二階。外から見られる心配はない。だから楓が部屋にこもっているときは、昼間にカーテンを締め切ったままにはしなかった。


 室内は埃っぽさはなく綺麗なもの。ベッドも起き抜けの雑然さはなく、ホテルのようにベッドメイクがされている。


 楓は室内に人を入れたがらない。寝具の洗濯こそお手伝いさん任せだが、室内のことは全部自分でやる。


 だからこそ楓が手を入れたとは思えぬ光景に、しっくりこないのだ。この一年で身の回りをしっかりするようになった、といえばそれまでだが、ではなぜカーテンが閉まったままなのか。


 なにより室内の匂いがおかしい。異臭がするとかではない。同じ屋根の下でありながらも、個室は部屋主の匂いが染み付くもの。この部屋にはそれはなく、ただの家の匂いなのだ。


 まるで長らく部屋主が不在であるかのようだった。


「お帰りなさい、椛ちゃん」


 振り返った先にいたのは、我が家のお手伝いさん。


 今年で六十歳を迎えるとは思えないほどに若々しい彼女は、久しぶりに会う親戚に向けるよう、微笑みを浮かべていた。


「ただいま磯野(いその)さん」


 違和感から引き離されるかのように、私はその微笑みに釣られてしまった。


 母さんが亡くなってから、父さんに雇われた磯野さん。家事の一切を取り仕切る彼女は、いい意味で仕事と私事の区別をつけてくれる。必要以上に私や楓の私生活に踏み込まず、かといって私たち自身に無関心というわけではない。仕事で面倒をみてくれているとはいえ、困ったときに相談しやすい温かみもある。私たち姉妹にとって、この家で暮らすに置いて欠かせない人だ。


 なにせ磯野さんは、唯一楓とコミュニケーションを取れる。最低限の受け答えで、楓の要望を最大限に応えてきた。だから楓はあそこまで、引きこもるのに困らなかったと言える。


 磯野さんは階段から上がってきたのではない。私の部屋から顔を覗かせたのだ。それが示すことは、


「お休みの日にわざわざ、私のために来ていただいて。ありがとうございます」


 私が快適に休みを過ごせるよう、部屋周りをやってくれていたようだ。


「いいのよ。この一年、やることがほとんどなくなって、暇だったくらいだもの。頂く分は変わってないんだし、こういうときくらいは働かないとね」


 磯野さんは社交辞令ではなく、気にするなと告げてくれた。


 私一人いなくなるだけで、暇というほど手間がなくなるのか。そう疑問を抱きながらも納得しようとすると、


「それで……楓ちゃんは元気にやっているかしら?」


 磯野さんは私が口にしたいことを声にした。


 ここ数日、楓が体調を崩しており、今日の容態を聞いているのかと思ったが、それは違うと思い直した。磯野さんは私より早く、今日この家にいる。ならそれを問いかけるのはおかしい。


「え、と……」


「ほら、私が最後に楓ちゃんを見たのは、あれだったから……。便りのないのはよい便り。姉妹二人で上手く暮らせてるんだと思ってきたけど、五年も見てきた子だから――」


「ま、待って、ください」


「ん? なにかしら」


「二人で上手く、暮らせてる……?」


「え、ええ。……楓ちゃん、椛ちゃんのところへ行ったのでしょう?」


 狼狽えそうになるのを飲み込むような磯野さんの態度。その姿は私ではなく、自身に言い聞かせるようだった。


 脳裏によぎったそれは、あってはならない可能性だと。


「……なんのこと、ですか?」


 声を震わせながら、私はその可能性を肯定したのであった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版3巻が3月31日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 私の学生時代の経験では、 同級生であれば一緒に過ごす時間は長くなるので、見た目や1stインプレッションの重要性はちょっと薄れる印象です。今思えば。 逆に最初が大盤振る舞いだったのが、そう…
[一言] 改めて歪さが際立つなぁ…
[良い点] 便りがないのは良くない頼りなんだよなぁ…… さてさて、ここからどうなるのか…… ある程度は他視点で知ってるけど、それでもやはり楽しみだ……!
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